ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:オリオン大星雲

CP+のセミナー、いかがでしたでしょうか?細かい操作も多かったので、その場では少し見にくいところなどもあったかもしれません。すでに動画配信が用意されているので、わかりにくかったところは繰り返しチェックしてみてください。

 

今回の記事は、動画配信を元に、わかりにくかったところの補足をしようと思います。


処理画像の準備

セミナーの中で話した、撮影までの状況と、SharpCapでの再ライブスタックは、これまでの記事で書かれています。







今回の記事は、セミナーで示した中でも、特に画像処理の部分について補足していきたいと思います。「なぜ」この操作をするべきなのかという意味を伝えることができればと思います。

セミナーは
  1. (23:50) 入門用にMacの「プレビュー」を使って、その場で処理
  2. (27:05) 初心者用にPhotoshopを使って、その場で処理
  3. (32:40) 中級者用に「GraXpert」とPhotoshopを使って、その場で処理
  4. (41:50) 上級者用に「PixInsight」をあらかじめ使った処理の結果を流れだけ
という内容 (括弧内の時間は配信動画での位置) でした。

使用した画像は、SharpCapで1分露光で撮影したオリオン大星雲を60枚したものです。これを、上の1と2はオートストレッチしたものをPNGフォーマットで8ビットで保存されてもの、3と4はRAW画像のfitsフォーマットで16ビットで保存されたものです。

オートストレッチで保存できるのは2種類あって
  1. 「Save with Adjustments」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチのみかかったもの
  2. 「Save exactlly as seen」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチに、さらに右パネルのオートストレッチが重ねてかけられてもの
です。今回は後者の2の保存画像を元に画像処理を始めます。いかが、SharpCapで保存されたライブスタック済み、オートストレッチ済みの初期画像です。

ここでオートストレッチについては少し注意が必要で、何度か試したのですが、ホワイトバランスや輝度が必ずしも一定にならないことがわかりました。全く同じRAWファイルをスタックした場合は同じ結果になるのですが、スタック枚数が変わったり、別のファイルをスタックしたりすると、見た目に色や明るさが変わることがあります。どうも比較的暗いファイルでこれが起こるようで、ノイズの入り具合で左右されるようです。明るさはまだ自分でヒストグラムの黄色の点線を移動することで調整できるのですが、RGBのバランスは大まかにはできますが、極端に暗い画像をストレッチするときの微妙な調整はSharpCap上ではできないようです。Photoshopでは背景と星雲本体を個別に色合わせできるのでいいのですが、WindowsのフォトやMacのプレビューでは背景も星雲本体も同じように色バランスを変えてしまいます。このことを念頭においてください。


Windowsのフォトでの簡易画像処理

まず、入門用のOSに付いている簡易なアプリを使っての画像処理です。

セミナー当日はMacとWindowsの接続が不調で、SharpCapのライブスタックとWindowsのフォトでの加工をお見せすることができませんでした。手持ちの携帯Wi-FiルーターでMacからWindowsにリモートデスクトップで接続しようとしたのですが、2.4GHzの信号が飛び交い過ぎていたようで、遅すぎで使い物になりませんでした。あらかじめテストはしていたのですが、本番でこんなに変わるとは思ってませんでした。

お詫びではないですが、Windowsのフォトについては、配信動画の代わりに、ここでパラメータと結果画面を追加しておきます。画像処理前の、SharpCapのオートストレッチで保存された画像は以下のものとします。

Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

これをWindowsのフォトで処理します。
  1. WindowsではPNGファイルをダブルクリックすると、フォトが立ち上がります。画像処理をするには、上部真ん中にあるアイコン群のうち、左端の「画像の編集」アイコンをクリックします。
  2. 上部に出てくるメニューの「調整」を押します。
  3. フォトの弱点は、背景を暗くするのがしにくいことでしょうか。今回は「コントラスト」を右に寄せることで背景を暗くします。
  4. 星雲中心部が明るくなりすぎてます。トラペジウムを残したいので「強調表示」を左にして明るい部分を暗くします。
  5. 色バランスは「暖かさ」と「濃淡」で整えます。「暖かさ」左に寄せて青を出し。「濃淡」を右に移動しバランスを整えます。
  6. 「彩度」をあげて、鮮やかにします。
setting

画面が暗い場合は「露出」を少し上げるといいかもしれません。「明るさ」は変化が大きすぎるので使いにくいです。

上のパラメータを適用すると、結果は以下のようになります。
photo

たったこれだけの画像処理でも、見栄えは大きく変わることがわかると思います。


Macのプレビューでの簡易画像処理

Macのプレビューでの画像処理過程はセミナー中に見せることができました。でも今動画を見直していたら、どうも本来処理すべき初期画像を間違えていたようです。

Windowsとの接続がうまくいかなくて、内心かなり焦っていたようで、本来は上のフォトで示した初期画像にすべきだったのですが、間違えて出してしまったのがすでに加工済みの下の画像で、これを元に画像処理を進めてしまいました。焦っていたとはいえ、これは完全に私のミスです。本当に申し訳ありませんでした。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch 2

ここでは、改めて本来加工するはずの下の画像で進めようと思います。フォトで使ったものと同じものです。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

最終的なパラメータはこれくらいでしょうか。一つづつ説明してきます。
setting
  1. オートストレッチで星雲本体を炙り出た状態だと、星雲中心部が明るくなりすぎます。トラペジウムを残したいので「ハイライト」を下げます。
  2. 背景が明るすぎるので、上のヒストグラムの左のマークを右に動かします。星雲本体を炙り出すために、真ん中のマークを左に少し寄せます。これは後のPhotoshopの「レベル補正」に相当します。
  3. 色バランスは「色温度」と「色合い」で揃えるしかないようです。「色濃度」は左に動かすと青っぽくなります。「色合い」は右に動かすとバランスが整います。最後は画面を見ながら微調整します。
  4. 「シャープネス」を右に寄せると、細部を少し出すことができますが、今回はノイズがより目立ってしまうので、ほとんどいじっていません。

結果は以下のようになりました。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch
これをみると、セミナー本番中にプレビューで処理を開始したものとよく似ているかと思います。要するに、練習でプレビューで処理をしたものを間違えて開いてしまったと言うわけです。こんなことも気づかないとは、やはりその時はかなり焦っていたんですね。それでも次のPhotoshopの処理はそれに気づいて、SharpCapから直接保存されたものを処理に使っています。


Windowsのフォトも、Macのプレビューも、いじることができるパラメータはそう多くはないので、解はある程度一意に決まります。むしろパラメータは画像処理を始めるときの初期のホワイトバランスと、初期の背景の明るさに依りますでしょうか?これはSharpCapの保存時に決まるのですが、保存時に細かい調整ができないのが問題です。それでも、方針さえしっかりしていれば、パラメータに関してはここら辺しかありえないというのがわかるかと思います。繰り返して試してみるといいかと思います。


Photoshopを使った画像処理

次はPhotoshopです。こちらはできることが一気に増えるので、パラメータ決定の際に迷うかもしれません。それでも方針をしっかり立てることで、かなり絞り込むことができるはずです。

初期画像は上と同じもので、SharpCapでストレッチされたPNGファイルです。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch
  1. (27:10) まず、背景の色バランスの調整です。これはPhotoshopのメニューから「イメージ」「色調補正」「レベル補正」を使うと楽でしょう。RGBの各色をそれぞれ個別に調整して、まずは各色の山のピーク位置と、各色の山の幅を調整します。調整の様子は動画で確認してみてください。山の位置が揃うと、背景の色バランスがとれたことになります。
  2. (27:40) 次に動画では、同じ「レベル補正」を使って背景を暗くしています。左の三角を少し右に移動します。暗くしすぎると、後から分子雲が出にくくなるので、これはもしかしたら必要無かったかもしれません。
  3. (27:55) 次に、青を少し強調します。一般的に星雲本体の青は出にくかったりします。特に今回は光害防止フィルターでQBP IIIを使っているので、そのまま処理すると、赤でのっぺりした星雲になりがちです。「イメージ」「色調補正」「トーンカーブ」と行って、「ブルー」を選び、ここは慎重に真ん中ら辺を少しだけ上げます。トーンカーブは左の方が暗い背景に相当し、真ん中ら辺が星雲の淡いところ、右が星雲の明るいところや、恒星に相当します。
  4. ただし真ん中を上げると、せっかくバランスをとった背景も青くなってしまうので、トーンカーブの線上の左の方をクリックしてアンカーを打ち、暗い背景部分があまり変わらないようにします。アンカーの部分だけが動かなくなるので、アンカーの右の方の線を動かすと、アンカーの左側も変わってしまって背景のバランスが崩れることがあります。そんな時は、左の方にアンカーを複数打って、背景バランスが崩れないようにしてください。
  5. (28:20) 少し地味なので、彩度を上げて各色の諧調が豊かな、見栄えがする画像にします。「イメージ」「色調補正」「自然な彩度」と選びます。その中に2つ触れるパラメータがありますが、「彩度」の方はかなり大きく変わってしまうので、私は「自然な彩度」の方を触ることが多いです。
  6. 補足ですが、色を出そうとしてよくあることなのですが、彩度を単体であげるとくすんだような俗にいう「眠い」画像になります。そんな時はまずは輝度を上げるようにしてください。輝度に関しては、画面に集中してしまうと、暗い状態でもいいと思ってしまうことがよくあります。一度ネットなどで自分が一番いいと思う画像をブラウザ上で見て、そのすぐ横に今編集している画像を並べてみてください。思ったより明るさも色も出ていないことに気づくかもしれません。客観的になるのは難しいですよね。並べて比べながら、まずは一番いいと思う画像くらいになるように明るさや彩度を出してみるのがいいのかと思います。
  7. (28:40) Photoshopで便利な機能が、「フィルター」の中の「CameraRawフィルター」です。まずは「ライト」の中の「ハイライト」を下げることでトラペジウムを守ってやります。
  8. (29:10) 次に、背景に含まれる分子雲を引き出すために「ブラック」を右に振り、「シャドウ」を左に振ります。ブラックとシャドウはよく似ていますが、逆にブラックを左にシャドウを右に振ってやると、似て非なるものだとわかるでしょう。この分子雲の炙り出しは、「効果」の「明瞭度」も効き目があります。セミナーでは説明しませんでしたが、「コントラスト」も同じような効果がありますが、こちらは強すぎる感があるので、使うとしても微妙に調整します。
  9. セミナーでは説明しませんでしたが、細部は「効果」の「テクスチャ」である程度出すことができます。同時に背景のノイズや不自然な大きな構造も出すことになるので、かけすぎには注意が必要です。
  10. (29:35) ここまで分子雲をかなりあぶり出してきたことになるので、かなりノイズが目立っていると思います。Photoshopでも簡単なノイズ処理ができます。その一つが「CameraRawフィルター」の「ディテール」の「ノイズ軽減」です。ノイズの具合に応じて、50とか、最大の100とかに振ってやります。同時に「カラーノイズ」も除去してしまいましょう。カラーノイズは画像を拡大すると、RGBの細かい色違いのノイズがあるのがわかると思います。拡大しながらカラーノイズが除去されるのを確認してみるといいかと思います。
  11. (30:45) ノイズを除去すると、どうしても細部が鈍ってしまいます。これは同じところの「シャープ」を上げてある程度回避できますが、完全に戻すことはPhotoshop単体ではできないかと思います。ノイズ処理に関してはここら辺がPhotoshopの限界でしょうか。
  12. (31:15) 最後に仕上げで再びトーンカーブをいじっています。ここら辺は好みでいいと思いますが、今回はまだ青が足りないのでBのを少し上げました。派手さは赤色で決まるので、Rも少し上げます。緑は自然さを調整します。赤とか青が強くて、全体に紫っぽくて人工的な気がする場合は、Gをトーンカーブで気持ち上げると自然に見えたりします。セミナーでは説明しませんでしたが、必要ならばトーンカーブの右側にも適時アンカーを打って、明るい部分が明るすぎにならないようにします。特にせっかく撮影時に残ったトラペジウムを、明るくしすぎて消さないようにします。
Photoshop

こんなところで完成としましたが、いずれにせよここでは、背景と星雲本体を個別に色バランスをとりつつ、背景を炙り出し、コントラストを上げることが重要です。背景はそもそも暗いためにノイズが多く、分子雲を炙り出すとどうしてもノイズが目立つようになるので、何らかのノイズ処理が必要になってきます。

WindowsのフォトやMacのプレビューだけで処理したものと比べると、背景と本体のバランスがとれていて、それらしい画像になってきたのかと思います。


GraXpert

ただし、Photoshopでの処理だけだと、背景の分子雲はまだあまり見えていないですね。この淡いところを出すにはどうしたらいいでしょうか?基本は、星雲本体と背景の輝度差をなくすことです。特に、画面全体に広がるような大きな構造(「空間周波数が低い」などと言います)での輝度差をなくすことが重要です。ここでは「GraXpert」という無料のアプリを使います。WindowsにもMacにも対応しています。

GraXpertは操作がそれほど多くないので複雑ではないのですが、少しクセがあります。

1. (32:35) GraXpertにストレッチ機能があるので、今回はすでにストレッチされたPNGではなく、暗いままのRAWフォーマットのFITSファイルを使いましょう。ストレッチされてない画像なので。最初にGraXpertの「1」の「Load Image」で開くとこんなふうに真っ暗に見えるかと思います。
Stack_16bits_60frames_3600s_20_21_42_fits_nostretch

2. (33:05) GraXpertの「2」の「Stretch Options」で何か選ぶと、明るい画像になるかと思います。ここでは見やすくするために「30% Bg」を選びます。

3. (33:15) 画像の周りに黒いスジなどある場合はフラット化がうまくいきません。ライブスタックの時にディザリングなどで少しづつ画像がずれていくと、黒い筋になったりするので、まずはそれを左メニュー一番上の「Crop」の横の「+」を押して、出てきた「Crop mode on/off」を押します。黒い筋を省くように選択して、クロップして取り除きます。クロップ機能がGraXpertにあるのは、画像周辺の情報の欠落に敏感だからなのでしょうね。実際の取り除きの様子は配信動画を参考にしてください。

4. 「Saturation」は彩度のことなので、少し上げておくと後から彩度を出すのが楽になるかもしれません。今回は1.5を選びました。

5. (33:48) 「3」の「Points per row」と「Grid Tolerance」は画像によって適時調整してください。「Create Grid」を押します。目安は星雲本体が黄色の枠で選択されないくらいです。ここであまり神経質にならなくてもいいのがGraXpertのいいところでしょうか。

6. (34:00) 「Interporation Method」ですが、これは4種類ありますが、各自試してみてください。場合によって適不適があります。私はKriging>RBF>AI>Splineくらいの印象でしょうか?セミナーでは時間のかからないRBFを選びました。Methodによっては差が出る場合もありますが、ほとんど差が出ない場合もあります。

7. (34:25) しばらく待って結果が出たら、画面真ん中上の「Processed」と「Original」で比較してみるといいでしょう。その差が「Background」で見ることができます。
bg
こうやってみると、左が緑に寄っていて、右が赤に寄っていたことがわかります。

8. (35:28)できた画像をこのまま保存すると、ストレッチがかかりすぎているので、「Stretch Options」で「10% Bg」程度を再度選びます。その後「5」の「Saving」で「16bit TIFF」を選択し、「Save Stretched & Processed」を押して、ファイルを保存します。

TIFFファイルはサイズが大きくなるので、ここではTIFFファイルをjpgに変換したものを表示しておきます。
Stack_16bits_60frames_3600s_20_34_59_stretched_GraXpert

9. (36:14) 保存されたTIFFファイルをPhotoshopで開き、あとは上でPhotoshopで処理したものとほぼ同様に進めます。

10. (36:20) 今回の場合、ヒストグラムで全ての山がそろっています。GraXpertで背景のホワイトバランスも合わせてくれています。

11. (36:28) 背景が暗いのですが、中心部は明るいので、Camera RAWフィルターで、ハイライトを下げ、黒レベルを上げ、さらに露光を少し上げると、背景の分子雲がPhotoshop単体で出したものよりも、すでに黙々しているのがわかります。これがGraXpertのフラット化の効果です。

12. (37:17) あとは同様にトーンカーブで青を少し出します。

13. (37:35) GraXpertのフラット化の弊害として、色が出にくいというのがあります。彩度を少し強調するといいでしょう。

14. (38:15) Camera RAWフィルターの「ディテール」の「ノイズ軽減」でノイズが目立ちにくくなります。ここまでの完成画像を示します。

Stack_16bits_60frames_3600s_20_34_59_stretched_GraXpert_final

明らかにPhotoshop単体より、GraXpertでフラット化することにより、背景の分子雲が出たのかと思います。

よりあぶり出せたのはいいのですが、その分ノイズが目立つと思います。そのため、動画では (40:13)あたりで DeNoise AIを紹介しています。これはAIを利用したノイズ除去ツールで、非常に強力なのですが、恒星の処理が苦手で、星が崩れたりしてしまいます。今回は中心が抜けたような星になってしまいました。

これは次に話すように、星と背景を分離するなどして、背景のみに実行することでうまく使うことができますが、ここまで来ると今回の範囲を超えてくるので、参考までにノイズツールはこのようなものもあるということだけ認識しておいてください。


PixInsight

セミナーでは最後にPixInsightでの処理を紹介しましたが、これは今回の目的の範囲を超えていると思いますので、参考程度に処理したものを順に示すだけにしました。なのでここでも詳細な解説は控えておきます。というか、これを解説し出すとこの一記事では到底収まりきりません。

ポイントは
  1. (42:40) BlurXTerminatorで収差を改善し星を小さくシャープにすること
  2. (44:47) 星と背景を分離すること
でしょうか。これらはPhotoshopでの処理とは全く異なり、天体画像処理専用ソフトの強いところです。最初からここまで手を出す必要は全くないと思いますが、いつか自分の処理が不満になった時に、こんな手法もあるということくらいを頭の片隅に入れておけばいいでしょう。


比較

最後に、今回それぞれで画像処理をした
  1. Macのプレビュー
  2. Photoshotp
  3. Graxpert
  4. PixInsight
の4枚を並べて比べてみます。左上からZの字を書くように、上の1、2、3、4と配置しています。

all

Macのプレビューだと、背景と星雲本体を別々に色合わせできなかったことがよくわかります。Photoshopになると、色がある程度バランスよくなっています。分子雲のモクモクはGraXpertが一番出ているでしょうか?

セミナー当日見せるのを忘れてしまいましたが、同じ4枚を拡大したものも比較してみます。
all_magnified

Macのプレビューはノイズ処理がないので、やはりノイジーです。拡大すると、PhotoshopのみとGraXpertが入った時の違いもよくわかります。モクモクのあぶり出しと同時に、細部もでています。それでも細部はPixInsightがBXTのおかげで圧倒的でしょうか。

セミナーの最後でも言いましたが、4枚目でも情報を引き出し切ったかというと、かなりいいところまで入っていると思いますが、まだ少し余地が残っていると思います。マスクを使ったりすることで、ノイズ処理やあぶり出しをもう少し改善することはできるかと思います。


まとめ

さて、今回のセミナーと合わせての一連のブログ記事いかがだったでしょうか?電視観望から始まり、撮影に発展し、画像処理までを解説してきました。セミナー本番は少し詰め込みすぎたかもしれませんが、後の配信を前提に動作を示すことを中心としたので、よろしければ動画を繰り返し見ながら確認して頂ければと思います。皆さんの画像処理の何かのヒントになるのなら、今回のセミナーを引き受けた甲斐が十分にあるというものです。

画像処理はとても奥深いところがあり、今回示したBlurXterminatorもそうですが、まだまだ今後ソフトや技術も進化していくはずです。大切なことは、ここまで説明したことの繰り返しになるかもしれませんが、闇雲に処理を進めるのではなく、何が問題で、どうすれば解決するかの方針を立てて、手持ちの技術で実際に進めていくことかと思います。画像処理といっても、いわゆる普通の問題解決プロセスと同じですね。

今回色々な手法を示しましたが、これが唯一の方法だなんてことは口が裂けても言えませんし、正しい方法かどうかもわかりません。あくまで一例で、他の方法もそれぞれ皆さんで、試行錯誤もあるかと思いますが、いろいろ編み出して頂ければと思います。











CP+連動企画、「電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう」ですが、前回は撮影方法についていくつか検討しました。


結論としては、
  • 電視観望利用で画像処理が楽になるとしても、やはり撮影時に解決できることは、撮影時にやってしまおう
ということです。
  • 経緯台でも赤道儀でもディザーはあった方がいい、
  • 露光時間を伸ばしたいならオートガイドも必須
といったところでしょうか。

今回は、実際に長時間撮影撮影した画像について議論します。具体的な処理方法はCP+で説明するとして、その直前くらいのところまでです。


その前に一つ、SharpCapのちょっと便利な、多分あまり知られていない機能の説明をします。


「フォルダーモニターカメラ」で撮影した画像の救いだし

これまで撮影中に突然車のヘッドライトが当たるとか、ものすごい明るい人工衛星が通ってせっかく貯めたライブスタック画像がダメになり、最初からライブスタックをやり直したとかいうことはないでしょうか?

そんなときに、もし下部のライブスタック画面の「Controls」の「Raw Frames」で「SAVE all」を選んであると、保存されたRAWファイルから、ライブスタック画像を復元させることができます。
  1. まず、メニューの「カメラ」から「フォルダーモニターカメラ」を選びます。
  2. 次にフォルダを選択しますが、これは復活させたいRAWファイルが保存された場所を選んでください。以前すでにフォルダを選択しているときは、撮影画像が表示された状態になっているかもしれませんが、右パネルの「カメラコントロール」からフォルダを選択し直すことなどもできます。
  3. フォルダの中にあるファイルをどれか1枚選びます。例えば1枚「.fits」ファイルを選びます。
  4. fits形式を選んだ場合は、次に下部に出てくる「All .fits Files」ボタンを選ぶと、フォルダが選択できます。
  5. フォルダにある最初のファイルが画像としてSharpCap上で表示されます。ストレッチなども後掛けすることができます。
  6. 右パネルの「カメラコントロール」をさわることで、ファイルの連続表示を進めたり、途中でスタックが進んでいくのを止めたいとか、進行をコントロールすることができます。
  7. この状態でライブスタックをオンにして、カメラコントロールの三角マークの再生ボタンを押すと、自動的にフォルダ内のファイルを連続して読み込み、ライブ(?)スタックされていきます。ディザー時に保存された短時間露光のファイルは条件が違うせいか、(ラッキーなことに)うまくスタックできないことが多く、たいていはまともに露光したものだけがスタックされていきます。
  8. ここでこれまでほとんど役に立たなかった「フレームレート」が役に立ちます。適当に1秒とか、2秒とかすると、その時間間隔でファイルを更新してくれます。
  9. この時のライブ(?)スタック結果などは、通常のライブスタックのように、実行した時の日付や時間ごとのフォルダが改めて作成され、設定してある形式でファイルが改めて保存されます。

これを応用することで、
  • これまで溜め込んだファイルを全部あるフォルダにコピーして、超長時間で再スタックするなども可能になります。
  • 途中で車のライトや人工衛星の軌跡など、失敗したファイルを除いて再スタックすることも可能です。
  • SharpCapで撮影した画像に限らず読み込めるので、PI、SI、Siril、DSSなどに代わって、簡易スタックアプリとして使うのもいいかもしれません。
いろんな応用方法を考えることができると思うので、各自いろいろ試してみるといいでしょう。


ライブスタックでの長時間撮影

今回のCP+のセミナーに使うために、何度か長時間撮影を試しました。まとめがてら、少し検討してみます。

撮影時の共通項目としては
  • 赤道儀がSA-GTi
  • 三脚はSA-GTiに付属のもの、但しハーフピラーは外しました
  • 鏡筒はEVOLUX 62EDに専用レデューサーをつけて、焦点距離360mm
  • カメラがUranus-C Pro
  • 撮影はSharpCapでライブスタックを使用。
くらいでしょうか。

いくつか変えた撮影条件ですが、
  1. 1分露光、ゲイン220+CBP
  2. 1分露光、ゲイン220+CBP+UV/IRカットフィルター
  3. 1分露光、ゲイン0+QBP III
となります。順に見ていきます。


撮影1日目

まず最初にテストしたのは、ここまでの記事で示していた
  • 1分露光、ゲイン220+CBP
です。下はスタックなしの1枚のみの画像です。

frame_00001_60s

トータルで1分露光の短時間画像となりますが、この時点で構成周りの青ハロが見えています。CBPは青の波長域をかなり通すのですが、
  • 鏡筒が持つ青ハロをCBPではカットしきれない
ということになります。そこで、少し青側をカットしてやる目的で、UV/IRカットフィルターを入れることにしました。UV/IRフィルターは1.25インチのものを使い、下の写真のようにカメラのT2ねじのところに、薄型のT2->Cマウントのアダプターで固定しました。
IMG_8994

固定といっても、ネジをはめ込みすぎるとセンサー側に落ちてしまうので、教頭に固定するまではカタカタ揺れています。またネジの途中で止めるので、教頭にはめるときのねじ込みが浅くなり、落下の危険性も出るので、あくまで自己責任でお願いします。

注) : 「電視撮影 (その1): 機材の準備」編の時に初出で紹介したフィルター取り付け方法ですが、おそらくこのレデューサーと鏡筒の間に48mmのものを取り付ける方が正式だと思います。ただ、訂正記事で書いたように、ネジが緩んで鏡筒側から外れて、その際にレデューサ側にはまりこんでしまうと、取り外すのにかなりの苦労をします。なので、今回の上の写真のように1.25インチサイズを使用する方法を取りましたが、これはきちんとした固定法ではないはずです。48mmで外せなくなった時の大変さと、1.25インチで落下などの危険性を認識した上で、どちらか取り付け方法を選ぶ必要があると思います。もしくは、私が勘違いをしていて、もっと正しい方法がある可能性もあるので、他にいい方法があればコメントなどで教えていただけるとありがたいです。


さて、1日目の撮影は雲が出てきてしまったので、短時間撮影でおしまいです。


撮影2日目

とうわけで、撮影2日目、長時間露光は
  • 1分露光、ゲイン220+CBP+UV/IRフィルター
という構成で開始しました。この状態で60フレーム、合計1時間ライブスタックで撮影したものが以下になります。強目のストレッチにしています。

Stack_60frames_3600s_19_43_27_WithDisplayStretch

撮影は一通り終えて、その後に画像を仕上げる過程で、5つ問題点が見つかりました。
  1. 青ハロが全然改善していないこと
  2. UV/IRカットフィルターによる、緑色の大きなハロが右の明るい恒星周りに、新たに出てしまっている
  3. 明るすぎることによる極度に飽和した恒星周りに白いハロが出ている
  4. 明るすぎることによる一部の恒星中心部の飽和
  5. 明るすぎることによる星雲中心部の飽和

背景の淡いところはそこそこ出ているのですが、恒星部が明るすぎます。恒星の多少の飽和は許容しても、画像処理である程度はなんとかなるのですが、これは許容範囲を超えていました。

Uranus-CでHCGがオンになるの220としたのですが、これだと感度が高すぎるようです。かといって、中途半端にゲインを下げると、ダイナミックレンジで損をします。露光時間を短くしてもいいのですが、読み出しノイズの観点からは、トータル撮影時間が同じならば、1枚あたりの露光時間を伸ばした方が得をしますし、あまり撮影枚数が多くなっても、ディスク容量を食いますし、再処理の時とかに負担になるかもしれません。

これらのことから、次の撮影は以下のようすることにしました。
  • 露光時間は60秒のまま、アナログゲインを220から0とする
  • CBPでは一部青ハロが残ったので、青領域をもう少し制限したQBP IIIとする
  • 余分なハロを防ぐために、UV/IRフィルターも外す

QBP IIIフィルターは1.25インチのものを、上で示したようにカメラ側に取り付けます。

実はこの撮影2日目は珍しく晴れたと思って結構焦っていて、上記のような検討がまだ十分にできていない状態で長時間撮影に臨みました。この設定で実際2時間以上の撮影をしたのですが、上記問題により結局お蔵入りです。2時間は結構長いので、今後は画像処理においては1時間撮影画像をデフォルトとします。


撮影3日目

撮影3日目は、前回の記事に使った、色々な設定での撮影方法を試しました。ブログに載せたのは6+1で7通りですが、実際には17通りの設定を試して、記事として意味のある7通りを選んでいます。

記述しなかったことの一つはシグマクリッピング機能についてですが、先に説明した「フォルダーモニターカメラ」で再ライブスタックすることができるなら、撮影時にオンにしてもオフにしても後からどうとでもなります。実際には長時間撮影で枚数を重ねるので、1枚のみに載った人工衛星の軌跡などは、シグマクリッピング機能がオフでもほとんど目立たなくなります。それでもオンとオフで少し差は出るので、オンにしておいた方が無難でしょう。

もう一つは「Hot and Cold Pixel Remove」機能のオンオフでどう違うかです。このカメラでは結局「Hot and Cold Pixel Remove」も「Hot Pixel Remove」も「なし」もほとんど違いがわかりませんでした。ただしカメラによっては、特にホットピクセルを多く持つカメラを使う場合にはこの機能が効くと思われます。別途RAWファイルを一からスタックするなど、その際にダーク補正をする場合はこの機能はオフの方がいいのですが、ライブスタックで簡単にスタックする場合はこの機能はオンにしておいた方が楽な場合が多いかと思われます。


撮影4日目

天気が悪くて少し間を置いたのですが、運よく晴れた撮影4日目、前述の通り
  • 1分露光、ゲイン0+QBP III
という設定で、60枚ぶん1時間の撮影をします。撮影後のSharpCapのオートストレッチした画像です。ここでのオートストレッチは具体的には以下のようになります。
  1. ライブスタック画面の「Histgram」タブの右下にある「Stretch Mode」を「6」にして
  2. ライブスタック画面のカラーバー下の雷マークのホワイトバランスアイコンを押し
  3. さらに右側パネルのヒストグラムでオートストレッチをして
  4. ライブスタック画面の左側の「Action」の「Save」ボタンで、4つ目の「Save exactly as seen」で画面で見たままの状態を保存しています。
Stack_60frames_3600s_21_00_44_WithDisplayStretch

2日目の撮影時に比べて、1枚当たりの露光時間は同じですが、ゲインが220から0になっているので、220[0.1dB] = 22 [dB] = 20 +2 [dB] = 10x1.26 = 12.6倍と、明るさが1/12.6 ~ 0.08で約8%程と、2日目の画像に比べて結構暗くなっています。

2日目のところで挙げた5つの問題点がどうなったかを見てみます。
  1. 青ハロはほとんど目立たなくなりました。CBPからQBPへの変更が効いているようです。
  2. 緑色の大きなハロも無くなりました。UV/IRカットフィルターを外したことが効いていると思われます。
  3. 恒星の飽和による白ハロはなくなりました。
  4. 恒星の飽和は一見なくなっているかに見えますが、実は明るい星の極中心はまだ飽和しています。ゲインは0なのでもう下げられないです。露光時間を下げることはできますが、後述するように、読み出しノイズが見えてきてしまっているので、これ以上露光時間を短くするのは危険です。
  5. 見た目をかなり明るくしているのでわかりにくいですが、ストレッチした状態でも星雲中心のトラペジウムも十分生き残っています。
trapegium

と、恒星の中心部のわずかな飽和以外はほとんど改善されていることがわかります。


淡い分子雲部分の検討

心配なのは、ゲインを0にして暗くしたことで背景の分子雲がどこまで読み出しノイズに埋もれるかです。最淡の部分を見るために、別途RAWファイルから別ソフト(PixInsight)でさらに強あぶり出しをした画像です。
more_Stack_16bits_60frames_3600s_21_00_44
3日目撮影のアナログゲイン0の画像。

この画像と、2日目に撮ったアナログゲインが220の場合の画像(下)と比べます。
more_Stack_16bits_60frames_3600s_19_43_27
2日目撮影のアナログゲイン220の画像。

2枚の淡い部分を注意して比べてみると、アナログゲインが0の時は読み出しノイズの横縞っぽい模様が見えているのがわかります。最淡の部分は、明らかにアナログゲイン220の時の方がよく出ていることがわかります。画像処理の最後の最後の淡いところのあぶり出しの時に、この差2枚のは効いてくるかもしれません。

ただし、飽和に関してはゲイン220の時だと(実際に画像処理をしてみた後の感想ですが)画像処理に困るくらいのレベルなので、やはり明るすぎです。こう考えると、アナログゲインを220にして、30秒とか、20秒という露光時間が最適解なのかもしれません。もしくは、今回撮影したアナログゲインが220と0の場合で、HDR合成というのが一つの解なのかもしれません。いずれにせよ、オリオン大星雲は明るい中心部からから暗い分子雲まで、広いダイナミックレンジが必要な対象で、初心者からベテランまで広範囲にわたって楽しめる、天体写真撮影にとって冬の代表的な「大」星雲といえるでしょう。


まとめとセミナー当日に向けて

ブログ記事としての今回のCP+のためのテスト撮影はこんなところです。撮影に際して露光時間とゲインの十分な吟味が必要なことが伝わってくれたのなら、私としてはとても嬉しいです。

実際の画像処理まで進めると、撮影時のパラメータ次第で困難な状況にぶち当たり、次回はこんなパラメータで撮影してみようなどと実感するはずです。最初から最適パラメータを選ぶことができればいいのですが、やってみないとわからないことも多いのでなかなか難しい現実もあり、このような試行錯誤は仕上がり具合にかなり効いてくるはずです。

もう新月期もすぎてしまい、これ以上の撮影も難しくなってきました。今日までにすでになん度も試していますが、あとは画像処理を繰り返し試すのみです。40分という時間内にいかにうまく実演ができるか、まだかなり練習が必要そうです。その結果はセミナー当日の2月24日(土)の13時20分から、実際の画像処理の様子でお見せできればと思います。



後日オンラインでも配信される予定ですので、後から拝見されてもいいのですが、お近くの方はよろしければ当日横浜アリーナまでお越しいただければと思います。その際は、CP+2024の事前登録(無料)をお忘れなく。

会場ではぜひ直接お話などできればと思います。私は金曜午後くらいには会場入りし、土曜は夕方くらいまでいる予定です。サイトロンブース周りでうろうろしていると思います。一応「Sam」と書いたネームプレートを首から下げるようにしますので、もし顔を見たらお気軽にお声かけしていただければと思います。


CP+セミナー事前打ち合わせ

最後にですが、なんでこんなことをしようと思ったのかについて書いておこうと思います。

今回CP+のセミナーを引き受けるにあたって、内容を決める際にサイトロンのスタッフさんとまず話したことは「入門者や初心者で画像処理に困っている人は思った以上に多いのではないか」ということです。

以前小海で開催された「星と自然のフェスタ」サイトロンさんブースでお手伝いしたときの経験が元なのですが、電視観望で撮影して、その場でできるくらいの画像処理をした時のことです。一番最初の本当に簡単な炙り出し(オートストレッチ)の段階で「オォー!」という声があがりました。これは私にとって結構意外なことでした。だって、まだ最初の最初のあぶり出し段階です。もっと後から細かいところが見えてきたりするのが待っているのに、最初からこんなに声が上がったら、あとはどうなるのか??? でもその後は、もっと複雑な画像処理プロセスでも、最初のときほど声が上がることはなかったのです...。

星まつりなので、天体画像の処理なんてことを見たこともない一般の方もいらっしゃったと思います。電視観望に興味がある入門者が多かったこともあるでしょう。ブワッと星雲が出てくる様子は、かなりインパクトがあったのかと思います。それで考えたのが、
  • もしかしたら初心者で画像処理のことを知りたい人はかなり多いのではないか?
  • 電視観望から初めて撮影に手を伸ばしたとしても、撮影した画像処理の敷居もまた高いのではないか?
  • 例としてある程度の画像処理の一連の方向性を示すのは、初心者にとっては指標になるのではないか?
などです。

望遠鏡で星を見始めると、誰もが見たものを記録しておきたいと思うはずです。リストを作るのも、手でスケッチするのもいいでしょうし、本格的に写真撮影でもいいでしょう。せっかく記録するのなら、後から綺麗に見えたほうがいいと思うのも、ごく自然な流れでしょう。これは眼視でも、電視観望でも、本格撮影でも、ごく自然な欲求なのかと思います。それならば、天体写真の敷居を下げるべく、電視観望の技術をうまく使い、天体写真を残す方向を探ってみようと思ったのが、今回のセミナーを引き受ける際に考えたことです。

でもセミナー時間は高々40分です。撮影技術を全部話すことは難しいので、今回は画像処理をメインにしてみようと思います。画像処理は実際のやり取りを動きで見てもらったほうがいいと思ったからです。その代わり、撮影の細かい技術は事前に試して、ブログに書いておこうと。

ブログには今回を含めて5回の記事で、天体写真に興味を持った人が始めるところから、実際に撮影が終わるくらいまでをまとめることができました。あとはセミナー本番、うまくいくといいのですが...。

セミナー終了後、画像処理についてまとめました。










CP+連動企画、「電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう」ですが、前回までにオリオン大星雲の導入が済んだところまで進みました。今回は、実際に撮影してみます。いくつかコツがあるので、順次説明していきます。


撮影はとりあえずフルオプションで、やれることはやるという方針で進めます。今回はフルオプションで撮影が完了するところまで、次回の記事で簡略化した撮影方法を示しどんな影響があるかを検証したいと思います。

それでは、前回記事の終了時の、SharpCapの画面にオリオン大星雲が入っているところからスタートです。


カメラの回転角

まず、鏡筒に対してカメラをどのような角度で取り付けるかの、カメラの回転角を決めます。これはレデューサと鏡筒の間にある3つのネジがついたアダプターの、ネジを一つか、せいぜい二つ少し緩めるだけで、カメラを回転させられるようになります。カメラの回転角は適当でもいいのですが、一旦カメラを外して設定を変えた時とか、画角が回転方向に大きくずれる可能性があるので、できるなら毎回同じ向きにしておいたほうが無難です。

方法はこのブログの昔の記事に詳しく書いてありますが、

簡単におさらいしていきましょう。
  1. SharpCapで、右上アイコン群の中から、「ズーム」の一つ左にある、赤線のクロスのようなアイコンを何度か押し、同心円のレチクルを画面上に出しておきます。
  2. SynScan Proの方向矢印か、ASCOMで赤道儀とつながっているSharpCapの右パネルの「望遠鏡制御」の矢印で、見ている方向を少し変え、目立つ星を中心に入れる。
  3. 矢印の一方向をしばらく押し続け、星がレチクルの十字線に沿って垂直、もしくは水平方向に真っ直ぐ動くかどうか確認する。
  4. もし水平、垂直にピッタリ動かないなら、レデューサのところのネジを緩めてカメラを回転させ中心にあった星が、垂直線か水平線の上に来るように合わせる。その際、ネジをきちんと締めなおしてから位置を確認する。
  5. 再び矢印ボタンを押し続けて、星がレチクルの十字線に沿って垂直、もしくは水平方向に真っ直ぐ動くかどうか確認する。
  6. きちんと星が垂直、もしくは水平方向に真っ直ぐ動くまで4-5を繰り返す。

こうやって回転角をあわせます。参照記事にも書いていますが、この回転角調整は夜を待たなくても、昼間でもできます。目立つ星の代わりに、遠くの何か目印になる点を使えばいいだけです。例えば遠くにある鉄塔のてっぺんとかでもいいでしょう。もし余裕があるなら、昼間のうちに済ませておくといいでしょう。

この回転角調整で、ピントがズレる可能性があります。レデューサのところの回転固定ネジを締める時にきちんと締めていなかった場合です。ネジを閉めるときは毎回少し手で持ち上げて、下に落ち込まない状態で毎回きちんと最後までネジを締めると、安定してピントずれなどはなくなります。


位置決め

回転角調整で位置がずれてしまったので、再びオリオン大星雲を中心位置に入れます。SynScan ProでM42を再自動導入してもいいですし、SynScan Proか、SharpCapの「望遠鏡制御」の矢印ボタンで、自分がいいと思う位置に入れてもいいでしょう。私は以下のような位置にしました。

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これだと、右上方向に向かうオリオン大星雲の広がりが十分に入り、左のランニングマンもいい位置に来るはずです。


オートガイド

位置が決まったら、次はオートガイドです。ここではガイド鏡とガイドカメラ、ソフトはPHD2を使います。

繰り返しになりますが、PHD2で PlayerOneのカメラを使うときは、PlayerOneカメラのドライバーだけではだめです。前回のソフトの説明のところで書いたように、ASCOMプラットフォームとASCOMカメラドライバーをインストールしてください。ASCOMプラットフォームはここまででSharpCapと赤道儀がつながっていれば、すでにインストールされきちんと動いているはずです。詳しくは

を参照してください。

PHD2の使い方はマニュアルなどを読んでいただければいいのですが、接続方法などごく簡単に書いておきます。
  1. Windows PC上で、ソフトの準備の時にインストールしておいたPHD2を立ち上げます。
  2. 初めてPHD2を立ち上げる場合は、ウィザードが出てきて、カメラなどの設定が始まるはずです。ほとんどは指示通り進めればいいのですが、カメラの選択は迷う可能性があります。特に同じメーカーのカメラが複数台接続されていると、Player One Camera (ASCOM)の1から3のどちらを繋いでいるかわかりにくい場合があります。もしどうしても分かりにくい場合は、メインカメラを一度ケーブルを抜いて切断してからPHD2のセットアップを開始して、Player One Camera 1(ASCOM)を選ぶのが確実です。もしここでPlayer One Camera 1(ASCOM)が出てこない場合は、Player One Camera用のASCOMドライバーがインストールされていない可能性があるので、上の説明を見て今一度確認してみてください。
  3. カメラを選択する際、ガイド鏡の焦点距離は手持ちのものをきちんと入れるようにしてください。ピクセルサイズはカメラがきちんと繋がれていれば、選択時に自動的に入力されるはずです。
  4. 赤道儀の接続はすでにすんでいるので、そのまま進んでしまえば自動的に適したパラメータが選択されるはずです。
  5. カメラや赤道儀の設定ごとにプロファイル名をつけることができます。後から認識できる適当な名前をつけておきましょう。
  6. ウィザードが終了すると、ダーク撮影に入ります。ガイド鏡にキャップを被せるなどして、光が入らないようにして、ダーク撮影を開始します。結構時間がかかるので、しばらく待ちます。慣れてくれば、必要な時間のみ選択すればいいでしょう。私は0.5秒から2秒くらいまでだけ撮影しています。
これで準備は完了です。2度目以降の立ち上げからはウィザードは自動で起動しません。カメラを変えた場合など、必要な場合はメイン画面の左下にあるUSB端子の絵が描いてあるアイコンをクリックすると、接続設定になるので、そこで再びウィザードを開始することができます。ウィーザードが終わった直後は下の2から始まるはずです。
  1. メイン画面の左下にあるUSB端子の絵が描いてあるアイコン「接続ボタン」をクリックします。
  2. カメラとマウント(赤道儀)を選択します。この際、カメラが複数台接続されていて、どのカメラが接続されるかわかない場合は矢印が二つに分かれるマークが書いてあるボタンを押すと、どちらのカメラか確認できます。カメラと赤道儀それぞれ「接続」ボタンを押します。赤道儀は接続されるまでに10秒くらいかかる可能性がありますので、少し待ちます。全て接続されたら下の「クローズ」ボタンを押します。
  3. メイン画面左下の左から二つ目の矢印が回転しているようなアイコン「露光開始ボタン」をクリックします。ここで画面にカメラからの映像がメイン画面上に表示されます。ガイド鏡のピントが合っていなかったら、ここで合わせてください。
  4. メイン画面左下の左から三つ目の星形のマークのアイコン「ガイド星選択ボタン」が黄色の星になっていることを確認してクリックします。黄色の星にならずに灰色のままの場合は、上記までのカメラの露光が開始されていないということです。いまいちどカメラの接続などを確認して、左から二つ目の矢印が回転しているようなアイコンをクリックしてください。うまくいくと、ガイドに必要な星が緑色の四角で選択されているのが、撮影画像で確認できます。
  5. メイン画面左下の左から四つ目の十字マークのアイコン「ガイド開始ボタン」が緑色になっていることを確認して、クリックします。緑色になっていない場合は、上のガイド星の選択が完了していないので、今一度確認してみてください。うまくいくとガイドに必要な星が緑色の四角で選択されます。
  6. 初回はここでキャリブレーションが始まります。キャリブレーションとはPHD2が動かそうと思った方向と、実際の画像でどちらの方向に動くかを確認し、方向合わせをするような機能です。
  7. キャリブレーションは数分から10分程度かかることもあります。気長に待ちましょう。その際、緑色の四角が、きちんと動いているか画面を見ているといいでしょう。うまく動かないとエラーが出てキャリブレーションが中断されます。赤道儀とのケーブルが断線しているなど、何らかの理由で赤道儀に送っている信号に対して反応がない場合などです。改めてケーブルの接続など、何かおかしいことがないかチェックしてみましょう。ガイド鏡のカメラに接続されずに、メインの撮影カメラに接続されてしまった場合なども、動かなさすぎたり、動きすぎたりして、エラーになる場合があります。
  8. キャリブレーションに成功すると、そのままガイドが始まります。下のグラフで、赤と青の線が時間と共にだんだんと伸びていくのがわかります。キャリブレーション情報を残すかどうかと言う質問が出ることがあると思いますが、「はい」としておくと、次回以降に赤道儀の向きを変えても初回にとってキャリブレーション情報を使い回してくれるので便利です。キャリブレーションが以前実行された場合は、すぐにガイドが始まりますが、あえてキャリブレーションをしたい場合には、「シフトキーを押しながら」ガイド開始ボタンを押してください。ガイドがうまくいかない場合、キャリブレーション情報が古くなっている可能性があります。そんな場合は今一度キャリブレーションを実行してください。
もしここで、ある程度の数の星が見えているのに、画面所の緑色の四角が一つしか見えなくて、選択されている星が一つの場合は、画面下の脳みそマークのアイコンを押して、「ガイド」タブから「Use multiple stars」を選ぶといいでしょう。複数の星をガイド星としてみなすので、精度が格段に上がります。


SharpCapの設定

あとは撮影に際してのSharpCapの設定を残すのみです。

まず最初にメインカメラの冷却機能をオンにします。
  1. SharpCap右側の「温度制御」パネルを開き、「設定温度」を「-10」程度にします。冬場だともっと冷えますが、ダークノイズの影響を考えるとこの程度で十分でしょう。
  2. さらに「冷却」を「オン」にします。
  3. 「温度」のところが徐々に下がっていって、設定温度に向かっていきます。

細かい設定です
  • 「フォーマット」パネルの「出力形式」は「FITSファイル(*.fits)」を選択。
  • 「フォーマット」パネルの「モード」はRAW16
  • 「カメラコントロール」パネルの「露出時間」はとりあえずテストなのですぐに画面が更新されるように1000msとしましょうか。あとで実際の撮影時には「長秒モード」オプションをオンにして「60s」とかにして長時間露光に変更します。
  • 「カメラコントロール」パネルの「アナログゲイン」はとりあえずUranus-C ProのHCG(High Conversioin Gain)モードがオンになる220とかにしておきましょう。これで、ゲインが高い状態で、「読み出しノイズが小さく」「ダイナミックレンジが大きく取れる」ようになります。明るすぎる場合はアナログゲインは0にします。実際の撮影ではアナログゲインは220か0のほぼ2択のみに限られ、それ以外ではダイナミックレンジの観点から不利になってしまいます。
  • 「カメラコントロール」パネルの「オフセット」は小さな値を入れておきます。0だと暗い部分がうまく表現されずに階調がガタガタになる可能性があります。今回はとりあえず「40」とします
  • 「前処理」パネルの「ダーク補正」のところで「Hot and Cold Pixel Remove」を選んでおきます。これはあくまで簡易処理ですが、今回のように電視観望技術を利用した簡単な撮影では、別途ダーク補正をする手間を省いているので、これを選んでおくと仕上がりに有利になると思われます。ただし、有効かどうかはカメラに依ます。実際試したところ今回のUranus-C Proではそもそもカメラに搭載されているDPS (Dead Pixes Suppression)機能が優秀なせいか、このオプション有無でほとんど差は見られませんでした。
  • 「前処理」パネルの「背景減算」は電視観望の時にはよく使うのですが、撮影に際しては1枚1枚で効果が違ってしまっておかしくなるようなので、オフにしました。今回はカブリが少ない状態で撮影したのですが、カブリが多い場合は試してみてもいいかもしれません。

一旦ここで、どのような画像になるか確認します。「ヒストグラムストレッチ」パネルの右側アイコン群の左列上から2番目の雷マークの「オートストレッチ」ボタンを押します。すると、ヒストグラムの左の山のピークを、3本ある黄色の点線の左と真ん中の2本の線で挟むような形になり、画面にオリオン大星雲がバッと明るく出てくると思います。ただし、このオートストレッチ機能は有料版のみ使うことができます。無料版の場合は、マニュアルで黄色の2本の点線を動かして、山のピークを挟むようにしてください。

もしこの時点でオリオン大星雲の位置がおかしい場合は、ガイドを一旦中断して位置調整をしましょう。
  1. PHD2のメイン画面の左下の「STOP」アイコンを押してください。
  2. その後に、SynScan ProやSharpCapの望遠鏡制御の矢印ボタンで位置合わせをします。
  3. PHD2の「露出開始ボタン」「ガイド星選択ボタン」「ガイド開始ボタン」を順に押して、ガイドを再開します。
このように、ガイドを一旦中止してから位置合わせをしないと、ガイドが元の位置に戻そうとしてしまうので、位置を変えることができないことに注意です。

ガイドとディザーの設定をします。
  1. SharpCapメニューの「ファイル」から設定を選び、「ガイディング」タブを開きます。
  2. 「ガイディングアプリケーション」をPHD2に選びます。ホスト名やポートは特に変更したりしてなければデフォルトのままでいいでしょう。
  3. 最大ステップは大きくしすぎると、画面が大きくずれてしまうので、ここでは最小の2としてありますが、もし縞ノイズが目立つようなら増やしてください。また、ライブスタックするたびに星がずれて伸びて見える場合は、個々の値が大きすぎて揺れが収束しきれない場合です。その場合はこの値を小さくしてください。この揺れは次の最小整定時間とも関係があります。
  4. 「最小整定時間」はSA-GTiが多少暴れることがあるので、少し長めに取っておくといいでしょう。ここでは30秒としました。
  5. 最後に下の「OK」を押します。
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ライブスタックで撮影開始

いよいよ撮影のための最終設定です。電視観望の技術を利用すると言うことで、今回の撮影はSharpCapのライブスタックを使います。

1. 「カメラコントロール」パネルの「露出時間」の「長秒モード」オプションをオンにして、露出時間を「60s(秒)」くらいにします。
2. アナログゲインは最初220で試しましたが、明るすぎたので、のちに0としました。CP+で見せる最終画像に至るまでにフィルターの種類や、いくつかの設定パラメータについては何種類か試していて、これまでの説明から変わったところもあります。パラメータの変更については、次回以降の記事で詳しく解説します。
3. LiveStackを開始します。SharpCapのメニューの下のアイコン群の「ライブスタック」と書いてあるボタンを押します。
4. 下のライブスタック画面の「Guiding」タブを選び、「Setting」の中のオプションを全部オンにします。「Dither every」のところは、枚数区切りでディザーをかけたいので「Frames」します。枚数は数分から10分おきくらいで十分なので、今回は「6」としました。「Only stack...」をオンにしておくと、雲などが出てPHD2が星を見失った時はライブスタックで画像を重ねることをしなくなるので、不慮の天候悪化時の出来上がり画像の劣化を防ぐことができます。
01_SharpCap_ok_06_guiding_cut

5. 下のライブスタック画面の「Controls」の「Stacking」で「Sigma Clipping」を選んでおくと、人工衛星の軌跡などが目立たなくなります。
6. 同じ「Controls」の「Raw Frames」で「SAVE all」を選んでおくと、LiveStackが途中で失敗した時に、後から救い出せるかもしれません。ただし、ディスク容量をかなり消費することと、さらにディザーの際の短い露出時間のファイルも全て残されるので、もしこれらのRAWファイルを使う際は、ディーザーの際の余分なファイルは後から手で削除する必要があります。
7. 撮影終了時間が決まっているなら、「Save and Reset every...」をオンにしておくといいでしょう。例えば「60」minutes total exposureとしておくと、60分経ったときに、素のままのRAWファイルと画面で見えているままの画像をファイルとして自動的に保存してくれます。ただし、その時点でライブスタックがクリアされてしまうので、できるだけ長い時間撮りたい場合はオフにしておいた方がいいでしょう。

あと撮影ファイルの出力場所を設定しておきましょう。
  1. SharpCapメニューの「ファイル」から設定画面を開きます。
  2. 「ファイル名」タブを開いて、「フォルダー」のところに保存したい場所を指定します。 
  3. 下の「OK」を押します。

これで全部の準備が完了でしょうか。長かったですが、ここまでうまくできていますでしょうか?さあ、撮影開始です。
  1. 下のライブスタック設定画面の、左側の「Actions」の「Clear」ボタンを押してください。画面が一旦クリアされ、これまで溜まっていた画像が一新され、新しくライブスタックが始まり、撮影が開始されます。
  2. 露出時間で設定した「60秒」待つと、画面に撮影した画像が出てきます。
  3. ここで、ライブスタック画面の「Histogram」タブを開き、右の上の雷マークアイコンを押し、オートストレッチします。その際はSharpCapの右パネルの「ヒストグラムストレッチ」はぐるっと回転する矢印の「リセット」アイコンを押して、ストレッチがない状態にすると見えやすくなるでしょう。もしくは、新たに右パネル「ヒストグラムストレッチ」の方の雷マークを押すと、さらに炙り出した画像が出てきます。二つのストレッチの関係ですが、ライブスタックのヒストグラム画像であぶり出した際の状態が、右側パネルのヒストグラムに受け渡されます。右のヒストグラムでは、さらに重ねてあるり出しをすることができます。撮影画面には両方のヒストグラムのあぶり出しが重ね掛けされた結果が表示されます。
  4. 撮影中に、上で指定した保存フォルダーの中身をエクスプローラーで確認してみましょう。フォルダの中の「RAWFILES」フォルダを確認して、60秒ごとにfitsファイルができていくか確認してみてください。
  5. (RAWファイル以外の) ライブスタックの結果画像の保存は、ライブスタック終了時に自動的にされますが、任意の時間にあらわに保存したい場合は、ライブスタック画面の左の「Action」から「SAVE」を押します。いくつか選べるのですが、「Save as 16 Bit Stack」と「Save with Adjustments」と「Save exactlly as seen」の3つをそれぞれ保存しておくのがいいでしょう。「Save as 16 Bit Stack」はRAWフォーマットでfitsファイル形式で保村されます。これが最も情報を持っていますが、ストレッチされていないので最初は扱いにくいと思います。「Save with Adjustments」はライブスタックのヒストグラムでストレッチされた分までがpngフォーマット(8bit)で、「Save exactlly as seen」はさらに右パネルのヒストグラムでストレッチされた分までの画像がpngフォーマット(8bit)保存されます。
保存されたRAWファイルや、スタックされたfitsファイルを見るには、ASIStudioの中にあるASIFitsViewが便利です。ASIStudioはWindowsだけではなく、Mac版やLinux版もあるので、ある意味貴重なアプリです。ここからダウンロードできます。


保存されたfitsファイルはストレッチされていないので、通常開いただけでは真っ暗にしか見えません。ASIFitsViewは自動でオートストレッチもしてくれるので、オリオン大星雲があぶり出された状態で見えるはずです。下にあるアイコン群の中の、「ヒストグラム」マークをクリックして、「リセット」ボタンを押すと、ストレッチされる前の真っ暗な画像を確認することもできます。また、ストレッチ後のファイルを保存することもできます。

撮影がうまくいくと、SharpCapではこんな画面になっているはずです。
01_SharpCap_ok_03

今回はここまでとして、ここからの画像処理についてはCP+当日に実演として公開することにしましょう。

CP+まではまだ少し時間がありますので、撮影方法に関してもう1回か2回ブログ更新する予定です。今回までは主に初心者を対象に、かなり基礎から説明しましたが、次回からは少し突っ込んだ記事になります。









天文ファン、カメラファンの皆様、いかがお過ごしでしょうか?いよいよCP+の時期が近づいてきましたが、

今年もサイトロンさんに講演依頼を頂き、
CP+2024で話すことになりました!

タイムテーブルなど、詳しくはこちらのCP+のオンラインプログラム一覧の2.24(SAT)のタブをご覧ください。



今年はなんと、現地であぷらなーとさんとの連続講演になります。


セミナー情報


2024年2月24日(土) 13:20-14:00

パシフィコ横浜 CP+2024
「サイトロンジャパンブース」
(オンライン配信あり)


「画像処理でオリオン大星雲の分子雲を
あぶり出してみよう」

元々、リアルタイムで星雲星団を見ることを目指して開発されてきた電視観望ですが、近年はその延長で天体写真撮影へと手を伸ばすことも盛んになっています。本来とても手間のかかかった天体写真撮影ですが、電視観望のライブスタックなどの技術をそのまま使うことで、かなり敷居の低いものになってきています。

今回の講演では撮影方法について少し紹介し、実際事前にライブスタックで撮影したオリオン大星雲を例に、セミナー会場で画像処理をしてみたいと思います。

まず最初にお見せしたいのは、星雲本体を鮮やかに出してみること。暗い中から星雲がブワッとあぶり出される様子は、天体写真をまだ扱ったことがない方には圧巻かと思います。

次は、特に初心者がつまづきやすい星雲周りの淡い分子雲をあぶり出すことです。画像に隠れている情報をいかに引き出すか、実際に操作を見せながら、なぜその操作が必要なのか、その理由をわかりやすく説明しようと思います。こちらは画像処理を始めたくらいの方から、背景までこだわった天体写真を目指そうとする方などに参考になるかと思います。

普段私はブログ記事の文章がメインで、あまり動画など 配信しないので、私自身にとっても動作そのものを見せることができる貴重な機会になりそうです。オンライン配信されるとのことなので、後日繰り返し見ることができればより理解も進むかと思います。その中で何か得て頂くものがあればと思います。

私の会場入りは前日の金曜日午後くらいからです。土曜日は講演終了後もしばらくCP+会場にいますので、私の姿を見つけた方はお気軽にお声掛けください。一応いつものネームプレーをとぶら下げておくことにします。

私のセミナーの後に、同じくサイトロンブースにて14:35から15:15まであぷらなーとさんのセミナーがあります。タイトルは「リーズナブルな天体望遠鏡で星雲撮影を楽しむ方法」とのことです。あれ?もしかして少し内容が被るかな?とも思いましたが、独自路線のあぷらなーとさんなので、そんな心配は杞憂ですね (笑)。


現地パシフィコ横浜会場にいらっしゃる方は、来場登録をお忘れなく。
 


先月8月の定例観望会は雨で中止となってしまったため、7月の観望会以来2ヶ月ぶりの定例観望会になります。ただし、8月はペルセウス流星群の観望会が飛騨コスモスであったので、毎月行っていることにはなります。


機材準備と車への詰め込み

2022年9月24日(土)は3連休の中日で台風が来る予想でしたが、途中から予報が変わり午後から晴れるとのことです。しかも次の日曜も晴れということなので、新月期なこともあり撮影の準備もすることに。

朝から撮影対象を考えていました。暗い北の空を利用することと、観望会後なので最長でも6時間くらいで、そこまで長時間では撮れないこと。ナローバンドは自宅でもできるので、できればRGBで撮影できることなど、いろいろ考えてアイリス星雲のリベンジにしました。SCA260で撮影をしようと、CGX-Lも載せたのでもう車の中はこれでもかというくらい荷物で一杯です。他に持って行ったのは来てくれたお客さんが自分で触れるようにSCOPTECHの屈折、惑星用にC8とCGEM II、電視観望用にFMA135+Uranus-Cと50mmと35mmにASI294MC、予備でFS60CB、あとは星景用に18mmレンズと6Dです。

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座席も運転席以外は全て埋まってしまい、もう一箱も荷物を詰め込めません。本当はさらにTSA120を持っていきたかったのですが、流石に全く入りません。

この日は14時過ぎに自宅を出ました。実は8月に「天文ドームが不調で動かなくなってしまった」と聞いていて、調子を見て欲しいと言われていたため、早めに到着して様子を見ることにしたからです。

途中コンビニでサンドイッチとおにぎりなど買い込みました。昼食はしっかり取ったのでこの時点でお腹は空いていませんでしたが、夕食の時間に簡単に食べられるようにという目的です。


ドーム修理

15時過ぎに飛騨コスモスに到着。富山を出た時にはまだ雨が降っていましたが、天気は途中から徐々に良くなり、到着時には7割方青空が見えていました。

早速ドームの様子を見ます。どうやらドーム屋根の回転が全くできないようです。窓部分の上下開閉は特に問題ないので、電気系が全滅とかではなさそうです。

回転周りの電源から順に見ていきますが、モーターのところまできちんと電圧が入っていることが分かりました。それでもモーターはピクリともしないので、結論としてはモーターの故障です。

ただしモーターを外すのが結構大変で、型番を確認するのにも一苦労でした。やっとモーターとローラー部がどうドームに固定されているかと、ドーム側へローラーを圧着する方法まで理解して、うまく取り外すことができました。

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型番から確認すると、モーターとギヤボックスからなっているようで、おそらくギヤボックスはそのまま使えるはずなので、モーター部だけ発注し次回の観望会の前に交換してみます。

修理の途中でかんたろうさんが到着。私もちょうど終わるところだったので、後片付けだけして外に出ます。到着時より曇ってますが、下層の雲で流れも速いためまたすぐに晴れるでしょう。


機材セットアップ

この時点でまだ17時くらいなので、のんびり機材を出し始めます。最初に撮影用のSCA260とCGX-Lをセットし、ついでC8とCGEM IIもセット。その頃には北極星も見え始めていたので、そのまま両方ともSharpCapで極軸調整です。

星も見えてきたので、ここで星座ビノの比較テストをしました。先週の「星をもとめて」で手に入れたSuper  WideBino36がどれくらい見えるか知りたかったためです。豪華5機種での比較ですが、かなりハイレベルで、驚きの結果でした。詳細は別の記事で書きます。


やっとお客さんが

暗くなりかけてるのに、スタッフもお客さんも全然来なくて心配になりましたが、19時前くらいでしょうか、やっとスタッフのSDKさんとSTさんが到着。どうも高山方面が全面曇りでお客さんが来ないかもということでした。でもここ数河高原は晴れているので、SDKが何人かに電話してしばらくするとやっと何組かのお客さんが到着しました。

飛騨コスモス天文台では、来てくれた子供に天体写真を印刷したものを配っています。私の拙い写真なのですが、子供はとても喜んでくれます。20種類くらいある中から選んでもらうのですが、アンドロメダ銀河と土星が大人気のようです。ちょうどアンドロメダ銀河を選んでくれた子がいたので、その子の一家と星座ビノでアンドロメダ銀河探しです。

お父さんはすぐに見つけることができましたが、お母さんがかなり苦労をしていました。裸眼では見えるのに、星座ビノだと見えないというかなり特殊な例です。おそらく目がかなりいいのと、星座ビノのピントが合わせられないのが問題なのかと思いますが、その後もずっと星座ビノと格闘していました。

子供が7歳と5歳の男の子で、二人とも星座ビノが少し難しそうだったので、SCOPTECHでお父さんに木星を入れてもらうことにしました。私も少し手伝いましたが、無事に木星が導入され、子供たちも見ることができていたみたいです。お母さんはその時もずっと星座ビノと格闘中。「焦らずじっくり試してください」と声をかけておきました。星座ビノで星の数は増えているそうなので、ピントは合ったようです。

その後、SCOPTECHで土星も導入したり、C8でも木星や土星を導入したりして楽しんでもらいましたが、この頃になるとお母さんが「やっと見えたかもしれない」とボヤーっとしたアンドロメダ銀河をわかってもらえたようです。


前回のクイズの答え合わせ

この日はお客さんは4−5組だったでしょうか。その中に8月のペルセウス座流星群の観望会の時に「惑星はなぜ惑う(まどう)という漢字が当てられているのでしょうか?」というクイズを出し、宿題にするので考えてきてくださいと話した家族が、今かも再び参加してくれていました。

答えは恒星と違い、年周運動から差が出るからなのですが、家族みんなで調べてくれたようで、自分の言葉で子供もお父さんも説明してくれました。色々調べるためんみ星の本とかも増えたとのことで、とてもいい傾向です。このまま星の世界にどっぷりとハマってくれるとさらに嬉しいのですが(笑)。

せっかく惑星のことに興味を持ってくれたので「チ。」をオススメしておきました。少し前に完結したばかりで、全巻通して楽しむことができます。お父さんが「大人買いする」と言っていました。


今月のクイズ

他の家族にですが、今回もクイズを出しました。ちょうど「すばる」が東の地平線あたりのまだフェンスにかかるくらいのところに昇ってきたときです。

今回のクイズは「あのすばるは、1時間に何度動くでしょう?」です。みんななかなか答えは出てきません。最初のヒントです、「あのすばるが空の真上まで登るのに何時間かかるでしょう?」と聞くと、お父さんは少しピンときたようです。さらにヒント「あの東の地平線にあるスバルが、西の地平線に行くのに何時間かかるでしょうか?」これでお父さんからすぐに答えがでました。半日、すわなち12時間で180度回るので、180割る12で、1時間あたり15度ですね。2時間で30度もすぐに分かりますし、6時間経つと90度で天頂まで行くこともお母さんもすぐに理解してくれました。

では第2問です。「今月の観望会ですばるが地平線近くに見えました。来月の観望会で全く同じ時間にみたら、すばるはどこにあるでしょうか?」というものです。これも一年間で元の位置にもどることから、360度を12ヶ月で割ってひと月で30度進むことがすぐに理解してもらえました。

お母さんが「昔に習ったことだけと忘れていた」と言っていましたが、「覚えていなくても、考えればすぐに出てきます。地球が一日一周することは子供でも毎日実感していることですよね。」と言ったら妙に納得しているようでした。

さて今回のクイズのネタのすばるですが、星座ビノと、三脚に固定した双眼鏡でもみてもらいました。ついでに双眼鏡でアンドロメダ銀河も。手持ちで見てもらうと導入がかなり難しく、どうしても揺れてしまうのですが、固定していると誰でも見ることができます。すばるやアンドロメダ銀河は双眼鏡だとかなり迫力が出ますね。


電視観望

かんたろうさんが45cmドブソニアンでお客さんにいろいろ見せているので、私も電視観望で同じ天体を見てもらうことに。最初はM27亜鈴状星雲星雲です。

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すでに眼視で見ている方が多かったために、ものすごく反応がいいです。色がついて見えることにも驚いていました。さらにFMA135の小ささにもみなさん一様に驚いていました。カメラはUranus-Cで「高性能カメラのおかげでこんな小さな望遠鏡、と言ってももう望遠鏡と言っていいのかも分かりませんが、星雲や星団をここまで綺麗に見えることができます」と説明します。

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他にもM8干潟星雲とM20三裂星雲、網状星雲などを見ました。でもその後小雨がぱらついてきたので電視観望機材を中心に一部撤収となりました。


終盤

その後、星座ビノを片付け、C8に蓋をして、SCA-260を片付け、CGX-Lのウェイトまで下ろした時点で天気がある程度回復してきました。CGX-Lは極軸を取ってあるのでもう少しキープです。

ScopetechでスタッフのSTさんが惑星の導入を試みていたのですが、2つ穴での導入に手間取っていたので、光学ファインダーをセットし直して木星、土星を入れやすくしたり、C8で火星やアルビレオを火星、アルビレオを導入して見てもらったりしたのですが、もう22時過ぎです。ここら辺でほとんどのお客さんは帰っていきました。
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いつのまにか最近は毎回参加の富山の中1にMちゃん親子と、うちの奥さんの知り合いのU一家4人も来ていました。かんたろうさんは相変わらずいろいろお客さんにみせてくれているようで、私もいくつか見せてもらいました。


撮影はどうなったか?

この日は基本的に南と東がよく晴れていたのですが、23時半頃からでしょうか、やっと北の空が晴れてきてこの日の目的のアイリス星雲のあたりも星が見えてきました。再びSCA260を赤道儀に載せてセットアップです。極軸だけは残してあったので、セットアップはまだ楽でした。撮影を始めたのですが、B(ブルー)を5枚撮ったところでまた北側だけ雲が出てきました。この時点で撮影は諦め、撤収を始めます。


オリオン大星雲にも眼視で色がついた!

その途中でM42オリオン大星雲が登ってきて45cmドブで見せてもらいます。するとトラペジウムあたりに明らかに色がついて見えます! かんたろうさんは緑と言っていましたが、私には青みがかって見えます。その上の羽のところが色がついているかどうか、いまいち確証がありませんが、私にはオレンジっぽい色がついているような気がしましました。ちょっとハッブルパレットに似たような感じでた。

青っぽいのは少なくとも色がついていたのは確実でしょう。羽の部分はまだ確証がないです。でも少なくとも前回のM57に引き続いてM42にも色がつくことは納得しました。

色としてはM57の方がはっきりしていたと思います。M42の羽の部分のオレンジっぽいのより、M57の周りのオレンジの方が一瞬でしたがはっきりしていたと思います。


帰宅と次の日

午前1時半頃でしょうか、もう残っているのはかんたろうさんと私のみです。ここで前日の朝11時頃に朝昼ごはんを食べてから何も食べていないことを思い出し、ものすごくお腹が空いていることに気づきました。かんたろうさんも食事をはじめたので、私もコンビニで買っておいたサンドイッチとおにぎりとおやつを一気に食べました。その後、午前2時少し前に帰路につきました。3時頃に自宅に着き、そのまま何も片付けにベットに入りバタンキュー。

次の日曜日は朝9時半頃に起きて車の中の機材を片付け、休日の楽しみコメダ珈琲に行ってブログ書きです。
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実は朝郵便ポストを見たらかんたろうさんから封筒が。そういえば星もとで財布を車に置いてきたというので夕食代を立て替えておいたのでした。でもそんなことすっかり忘れていて、思い出したかんたろうさんが帰り道にポストに入れておいてくれたようです。この軍資金をもとに、少し贅沢して初めての「ミニ」でない方のシロノワールを注文しました。流石にフルムーンバーガーとシロノワールでもうお腹いっぱい。昨日の夕食がコンビニの簡易食だったので、まあよしとしましょう。

そういえば、観望会のお客さんの何人かにこの「ほしぞloveログ」のことを話しました。見つけてくれたでしょうか?右の「場所」の中から「数河高原」を選ぶと、過去の飛騨コスモスでの観望会の記事が出てきますので、よかったら読んでください。観望会の感想など、よろしければコメントもお待ちしています。

ここしばらくシリーズ化しているメジャー天体撮り直しシリーズ、M31アンドロメダ銀河M45プレアデス星団に続き今回はM42オリオン座大星雲です。







これまでのオリオン大星雲

M42は初期の頃からのFS-60Qでの撮影も含めて、


QBPのテスト
の時や、


AZ-GTiの赤道儀化のとき


ラッキーイメージングなど細部出しに特化したもの、


また明るい天体のため、電視観望でもよく見ることができ、見ている画面を保存して簡易的に画像処理してもそこそこ見栄えのするものができてしいます。


電視観望の応用でAZ-GTiの経緯台モードでの撮影も試したりしました。


TSA-120を手に入れてからも、フラットナーがない状態でも解像度ベンチマークなどでトラペジウムの撮影を中心に何度も撮影してきました。分解能に関して言えば、この時が最高でしょう。


その後、昨シーズン終わりにやっとTSA-120用に35フラットナーを手に入れてから一度テストしていますが、四隅の星像の流れはもちろん改善していますが、中心像に関してはフラットナーなしの方が良かったというのが以前の結論でした。



でもテスト撮影も多く、なかなか満足のいく露光時間はかけていませんし、仕上がりに関してもまだまだ細部を出すことができるはずです。今回はそれを踏まえての、初めてのまともな長時間かけての撮影になります。


撮影開始

撮影日は平日でしたが冬シーズンにしてはたまたま晴れていた(次の日からはまたずっと天気が悪い予報)のと、月が出るの午前1時過ぎと、多少の撮影時間が確保できそうでした。平日なので自宅での庭撮りになります。夕食後準備を始めました。このシーズンオリオン座は夜の始めはまだ低い高度にいるので、焦らずに準備できます。

鏡筒はTSA-120。これに35フラットナーをつけて、前回M45の撮影の時に準備したCA-35とカメラワイドアダプターをつけます。カメラはEOS 6D。フィルターはここのところ光害地では定番のCBPです。青を少し出したいことと、赤外での星像肥大を避けることが目的です。赤道儀はいつものCGEM IIです。撮影環境はStick PCにBackYardEOSを入れて、PHD2で二軸ガイド。

一つ気をつけたことが、Stick PCの電源を最初から大容量バッテリーのAC電源出力からとったことです。これは、これまでSharpCapでの極軸合わせなど計算量が多くなった時に何度か落ちたことからの反省です。前回のM45の撮影時の画像連続チェックで落ちてからAC電源に交換して、それ以降落ちなかったので、その経験から今回は最初からAC電源です。効果はテキメンで、SharpCapでの極軸合わせの時も全く問題ありませんでした。ダメな時はネットワークが不安定になるところから始まるのですが、そんな兆候も全然なく、やはりネットワークがダメだったのも計算負荷にで電力がネットワークアダプターのほうに回っていなかった可能性が限りなく高かったと言う結論になりそうです。


オリオン大星雲の撮影目標

せっかくの明るい星雲なので、
  • 階調と分解能をできるだけ出すこと。
  • 長時間露光でノイズを抑えること。
  • 星雲周りの分子雲を出すこと。
  • トラペジウム周りで飛ばないこと。
などを目標とします。

露光時間は淡いところを出したいので300秒とします。自宅庭撮りでこれだけ長くできるのはCBPなどの光害カットフィルターがあるからです。長時間露光の代わりに、ダイナミックレンジを稼ぎたいのでISOは少し低めの800としました。これでヒストグラムのピークが1/5くらいのところになりました。それでもトラペジウム周りは完全にサチってしまうので、別途同じISOで1秒露光のものを20枚、最初に撮影しておきました。同じISOにしたのはバイアスとフラットが使いまわせると目論んだからです。でも、後で書きますが、この目論見は失敗に終わります。


露光時間とISO

ISO800にした理由ですが、このページを見るとISO100の時のダイナミックレンジが12bit=4096、ISO800で11.5bit=2896とそこまで落ちないからです。さらに300分の1の露光時間の1秒露光で20枚ほど撮影してあるので、うまくつなぐとさらに300倍のダイナミックレンジ(2896x300= ~869000)を稼ぐことができることになります。

でもまあ、画像に写っている中で一番明るいオリオン座のι(イオタ)星のHatysa(ハチサ)が2.75等級なので、それより例えば15等級下の17.75等級を見ようとすると100万のダイナミックレンジが必要になり、既に不足となります。300秒露光の画像は既に背景のヒストグラムで最大値の1/5位のところにあるので、ということは背景の5倍の明るさで既にサチることになってしまいます。こうやって考えると恒星に割り当てることのできるダイナミックレンジはものすごい小さいことになってしまいますが、これでいいのでしょうか?何十枚もスタックして背景のランダムなノイズを下げ、オフセットは引くことができるので、もちろん1枚の時よりダイナミックレンジは増えます。画像処理のストレッチ過程で暗い恒星を炙り出すので、RAW画像の見た目の5倍というよりは実際にはもっと広いダイナミックレンジを扱うことができます。それでもサチっているところはサチったままです。

逆に言うと、背景に近い暗黒帯などは(低い方の)ダイナミックレンジが十分にあるところで情報としてRAW画像の中に残しておかないと、きちんとした諧調で表現することができなくなります。例えばPhotoshopでRAW画像を見たときに背景ピーク位置が256段階の3くらいのところにあったとします。ピークの幅が3くらいで、この中に暗い部分の背景の情報が入っているとします(実際には欲しい部分は背景のピークより少し値が大きいところにありますが、幅は同程度と仮定しています)。16bit=65536で処理するとすると1段回で65536/256=16階調あることになるので、3段階だとわずか48階調で背景の暗黒帯や対象天体の淡い部分などを表現することになります。ところが、背景ピークが10倍の30あたりにあり、その幅が30程度あるとすると、16階調をかけて480階調で表現できるようになります。ADCの量子化ノイズなどと言われたりしますが、一番見たいところをADCのどこの位置に持ってくるかを露光時間はゲインで調整するというわけです。でも実際にはたとえ階調不足でも、今のソフトはよくできていて、飛び飛びになっている階調を自動で補完してくれるので、見かけ上は階段状に見えるようなことがあまりなかったりします。

とりあえず今回は明るすぎる恒星は主に画像処理で回復し、トラペジウム周りの白飛びのみを1秒露光の画像で補完することにします。

セットアップ後は自宅からぬくぬくリモートモニターです。月が出る午前1時過ぎまで仮眠でも取ろうと思いましたが、結局そのまま起きていて、片付けが終わって寝たのが2時過ぎだったので少し寝不足になってしまいました。


6Dのセンサー面の清掃とフラット画像

後日、画像処理のためにフラットなどを撮影します。まずはカメラを外せないフラットからです。本当は太陽が出ている明るい時に撮影したかったのですが、北陸はしばらく冬型の気圧配置で、今後天気は期待できそうにないので、曇りの日に撮影することに。そういえば今回はM42の撮影前にカメラのセンサー面の掃除をしたので、フラットフレーム最近いつもあるゴミの後はほぼ一掃されていました。清掃といってお、カメラの清掃モードを利用してセンサー面を露出し、エアーで吹き飛ばしただけです。これだけでかなりの効果がありました。

フラットダークとバイアスに関しては同じISOの以前使ったマスターファイルがあるので、それを再利用できます。

ダークは冷蔵庫と冷凍庫にカメラを入れて冷却状態で撮影します。温度がばらつくので、多少多めに撮影しておきます。それでも枚数が稼げないこともあるので、その場合はダーク補正なしでCosmetic Correctionのみにする時もありますが、今回はそこそこの枚数を稼げたので撮影時の温度に合わせて選択して使うことにしました。


画像処理

撮影したファイルをPIのWBPPで処理します。できたファイルをPCCにかけます。背景に分子雲が大量にあるのでカブリとの見分けがつかず、ABEやDBEは使わないことにしました。ノイズ処理とDecombolutionもPIで試しましたが、やはりまだDeNoiseの方が有利な気がして、今回も使いませんでした。いずれ移行したいですが、もう少し検討してからにしてみたいです。

恒星中心の回復はRepaired HSV Separation Scriptを使い、Masked Stretchで恒星を保ちながら炙り出しました。

問題はStarNetの適用のタイミングです。今回はPhotoshopでも炙り出す余地を残したために背景と恒星の分離を少し早い段階で済ませました。そのため、PSでの処理時に恒星をさ散らすことになってしまったので、あまりMasked Stretchの意味がなかったかもしれません。でもその一方、恒星を全くサチらせずに処理すると、恒星が野暮ったい感じになりインパクトに欠けることにもなります。今回はサチらせる方向を取りましたが、ここはもう少し検討したいところです。もしかしたら再処理するかもしれません。

1秒露光の画像の処理も同様にPIでやったのですが、WBPPが全くうまくいきませんでした。仕方ないので、マニュアルでCosmeticCorrectionから順番に確認していくと、ImageCaibrationのバイアスやフラット補正が全くうまくいきません。バイアスファイルやフラット補正ファイルは、ISOを合わせた300秒露光の補正で使ったものの使い回しなので問題ないはずです。ファイルが問題と言うよりは、補正すること自体がダメなようです。簡単に言うと暗かったライトフレームが補正で明るくなってしまうような状態です。どうやってもうまくいかなかったので、補正は諦め、撮影した21枚、21秒分を位置合わせしてスタックしただけにして、トラベジウム周りだけを使うことにしました。

300秒画像のトラペジウム周りはサチっているので、境目が滑らかになるように輝度を落とし、そこに1秒露光の画像をPhotoshop側で合成しました。

結果は以下のようになります。
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2020/12/14追記: 次の日少し見直して1から処理し直しました。StarNetを使わずにマスク処理で恒星部を調整し不自然さと幸理をできるだけ無くしています。あと、まだ赤寄りだったのでもう少し青寄りにして色調豊かにしました。まだ不満はいくつか残っていいます。
  • 分子雲の中の微恒星周りが不自然です。これはマスクの領域を拡大しすぎたからかと思います。明るい領域の微恒星と暗い領域の微恒星では多分マスクの扱いが違うのかと思います。最後に気づいたので力尽きて諦めました。またそのうちに解決策を手段を考えます。
  • 分子雲と背景のノイズ処理が甘くてボコボコしているようなところがあります。DeNoiseの効果なのですが、他のノイズ除去フィルターでも同じようになってしまいます。Dfine2で大まかなノイズを除いてからDeNoiseで解決できる可能性もありますが、根本的には露光不足なのでさらに長い時間撮影するのが一番です。
  • かなり炙り出しているので、人工衛星の軌跡が目立ち始めています。軌跡が残っている画像は全て捨てるのが解決策なのですが、今回もかなりの枚数に軌跡が映り込んでいます。これだけ衛星が多いとオリオン座はもう難しいのかもしれません。
それ以外のところは、「今のところ」不満はありません。でも気づいてないことがまだたくさんあると思うので、あくまで今のところです。

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  • 撮影日: 2020年12月9日20時57分-12月10日1時10分
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 鏡筒: タカハシ TSA-120 (口径120mm, 焦点距離900mm) + 35フラットナー + CBPフィルター
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • センサー: Canon EOS 6D HKIR改造
  • ガイド: PHD2 + 120mmガイド鏡 + ASI178MCによるディザリング
  • 撮影: BackYard EOS, ISO1600,  露光時間: 300秒 x 50枚 = 4時間10分 + 1秒 x 21枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC, DeNoise
分子雲については十分に出ていて、星雲本体の階調も分解能も満足できます。トラペジウム周りもそこそこ自然に出ています。

その一方、恒星部にはまだ少し不満もあります。露光時間が300秒と長いために星像がガイド揺れやシンチレーションでボテっとなるのは仕方ないです。でも1秒露光の方でトラペジウム部分を見てもあまり分離できていません。ピントがずれている可能性もありますが、おそらくこの日はシンチレーションが酷かった可能性が高そうです。

トラペジウムもピシッと見えていて、背景もきちんと出ているようなものを多露出露光合成なしで撮れるような、タイミングと機器とパラメーターが揃った時に、いつかまた気合を入れて撮影してみたいものです。でもまだ今の機材でももう少し攻めることができる(ラッキーイメージングでしょうか?)はずなので、今後も継続して挑戦していきたいと思います。オリオン大星雲は深いです。


まとめ

メジャー天体際撮影シリーズはこれで終わりかと思います。4年半前に星を始めて、最初の頃に挑戦したものでしたが、機器も技術も4年半の間に随分進歩したことがわかります。ソフト的な進歩も大きいです。

特にPixInsightでのDBEやストレッチの技術と種類の多さ、StarNetでの分離、Nik CollectionやDeNoiseなどの細部だしやノイズ除去など、自分の腕の不足を明らかに助けてくれます。今後はこういった便利なソフトから少し離れて、自分の腕で画像処理を極めたいと思っていますが、実際この楽な状況から本当に脱却できるのか?まあ、当分はそのままかもしれません。


おまけ

Annotationです。

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恒例の以前FS-60Qで撮影したものです。約4年前と

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1年半前です。

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今回の撮影もまだ不満はありますが、自己ベストは明らかに更新です。何年か経つととりあえず進歩の跡が見られるのはいいものです。オリオン大星雲は楽しいので、また条件を変えて挑戦します。



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