一連のε130Dテスト撮影で、北アメリカ星雲とペリカン星雲、網状星雲と撮ってきました。
今回は3例目で、光軸調整前にもう一つ撮っておいたものです。といっても網状星雲が昇ってくる前の夜の前半で撮るものがないので、春の残りのおとめ座銀河団をお遊びで撮ったというだけです。でも結果だけ見たら流石にすごいことになってたので、記事にまとめておきます。
おとめ座銀河団に関しては、2年前の2021年3月にFS-60CBとEOS 6Dで結構な広角で撮影しています。
さて今回は、2年前の結果をどこまで超えられるでしょうか?
今回の撮影でのポイントの一つは、カメラがASI6200MMで高解像度になったこと。頑張ってbin1で撮影したので、ピクセルサイズは3.74μmとなり、前回の6Dのピクセルサイズは6.5μmで、6.5/3.75=1.75倍。さらにカラーからモノクロになっているので単純に2倍をかけると一辺3.5倍の解像度になります。面積で見ると14倍なので、ピクセルを14ピクセルで表すことになります。もちろん光学性能の限界やシンチレーションなどから、ここまで差がつくことはないかと思いますが、どこまで光分解のに迫れるのか、少し楽しみです。
撮影画角ですが、前回のFS-60CBの焦点距離370mmに比べて、今回のε130Dは430mmなので、少し画角が小さくなります。前回は南北はM100からM87まで、東西はM90からNGC4216まで入れたのですが、今回はそこまで欲張れません。少し迷ったのですが、今回はM100とNGC4216は諦めました。その代わりにマルカリアンの鎖が画面真ん中に近くなるように、M87のさらに南側を少し入れています。
あ、そういえば初のε130DでのLRGB撮影になります。LRGBフィルターはZWOのものです。高くなく、性能もいいという評判でしたが、実際はどうでしょうか?
ε130Dの撮影に関しては、これまで問題点として
迷光についてですが、L画像の1枚撮りを見てみます。ABEの4次をかけて、その後オートストレッチをかけたものです。
背景が何もない銀河団の撮影なのでよく分かりますが、かなりひどい変なムラがあります。
試しに、今回の処理のために撮影したフラットフレームの1枚撮りの画像を、同様にABEの4次をかけ、オートストレッチをしたものがこれです。
はい、ものの見事に再現できています。フラットは明るい部屋の中で壁に向かって撮影したものです。
最初は撮影時の自宅部屋の電気の明るさがカメラに漏れていったのかと思っていましたが、時間も状況も違うのに出るということは、鏡筒由来でしょうか?これは次の記事で検証しようと思います。
上の画像の背景ムラは共に1枚撮りです。画像処理の際に、多少の背景ムラはフラット補正で消えてくれるのですが、ここまでひどいと完全には消えてくれないようです。例えば、WBPPの後にスタックされたmaster L画像にABEの4次をかけ、オートストレッチしてみてみると、以下のようにどうしても補正しきれない残差成分が残ってしまいます。
この取りきれない背景のムラを誤魔化すのに、かなり苦労をしました。今回は小さな銀河がメインで、背景に星雲に相当するようなものは(たとえあったとしても)無視するので、DBEをしつこく適用することにします。
一例ですが、以下のようなパラメータで自動でサンプルポイントを割り振り、さらに手動で銀河付近や恒星付近にかかっているものを削除又は移動して除きます。ポイントはsmoothing factorでデフォルトの0.25を0.05にしています。これは2次元のスプライン補完をどこまでスムーズにするかというパラメータで、0にすると最もスムーズに補完してくれるようです。
実際の打点がこれくらいです。
例えばRGB画像はスタックしてRGB合成した直後は以下のような画像でした。
補正された背景はこのようになります。かなりスムーズな除去になっているのがわかると思います。
出来上がった画像ですが、これくらいまで補正することができました。
まだ少しリング状のムラが残っていますが、今回は銀河の画像なので後の画像処理で背景を暗くすることで、目立たなくすることができます。
でも分子雲が背景にもくもくしているような画像ではそう簡単にはいかず、前回の網状星雲では同様の形が残ってしまっているのが分かります。
まだ光軸調整をしていない状態で撮影しているので、今回もこれまで同様に四隅で星像が歪んでしまっています。
下方向、もしくは右下方向に伸びてしまっています。これまでと同様な伸びなので、再現性はあるようです。
これらの歪みはBlurXTerminator(BXT)のおかげでかなりのレベルで改善されますが、残念ながら一部の伸びてしまった星は二重星のようになってしまいます。
これは流石に許容範囲外なので、やはり光軸をきちんと直す必要があります。
bin1画像だからでしょうか、BXTによる恒星の縮小がちょっと効きすぎてしまい、星が全体に小さくなりすぎるので、今回は0.05と軽くだけかけました。一部を拡大して見た時に自然な大きさになる程度の大きさです。星雲部の細部出しも効きすぎるので、PSFはオート(数値を大きくするより機器が小さくなる)として、「Sharpen Nonsteller」も0.7と少し抑えました。これで十分な効果がありました。
最後にNoiseXTerminatorをかけ、背景のノイズを落としました。
テスト撮影ですが、せっかくなので仕上げてみます。bin1のままだと画像サイズが大きすぎてアップロードできないので、一辺を50%に縮小してbin2相当にしています。
ただし、仕上げたというには問題があることもわかっています。一つは、既に上で説明しましたが、一部の星がBXTで二重星のようになってしまうことです。もう一つは上下でピントにずれがあるため、明るい恒星の光条線が二重になってしまっていることです。
これもみっともないので許容範囲外です。どう光軸調整するか、最優先事項でやらないと、今後撮影が進まなくなりそうです。
LRGBフィルターに関しては、特にハロなども出なくて、今のところ特に不満は感じません。2インチフィルターは根が張るので、安価なものが使えると助かります。ZWOのLRGBフィルターは見ている限り十分な性能を持っているようです。
恒例のアノテーションですが、やはり銀河団はこれをやらないと気が済まないですね。すごいことになります。
一体幾つの銀河があるのか...。宇宙はすごいですね。
でもこれだと流石にちょっと分かりにくいので、PCGを除いたものです。メシエ、NGC、ICまでなのでずいぶんシンプルになるとはいえ、それでも結構な数の銀河です。
このままの大きさで見るだけだと細かすぎて面白くないので、ここから拡大していきます。まずはマルカリアンの鎖。
過去画像と比較します。上から2017年3月: FS-60Q+EOS 60D、2021年3月: FS-60CB+EOS 6D、同画角で切り出した今回のものとなります。
こうやってみると、分解能、恒星、色など格段に進歩しているのがわかると思います。
もっと変わりやすい比較をしてみます。2021年の時には完全にアラが見えていた、拡大しすぎた画像になります。まずはM99付近です。上が2021年、下が今回です。
流石に雲泥の差ですね。銀河の分解能もそうですが、特に肥大していない恒星、恒星の色など、前回の拡大画像はは出すのを憚られましたが、今回は十分に見ることができます。ここまで拡大しても破綻しないのはε130DとASI6200MM Proの分解の、さらにBXTの効果もあるかと思います。というか、ここまで出ていいのでしょうか?すごいです。
ついでにですが、前回はどうしてもできなかったAnnotationが今回は素直に通りました。恒星の写りが良くなったからでしょうか?これだけ見てても楽しいです。
最後、M88とM91回りの拡大です。同じく上が2021年で、下が今回です。こちらも分解能が格段に上がっているのがよく分かります。
Annotationです。
まだまだ光軸調整など問題も残っていますが、ε130Dのポテンシャルを十分に感じることのできる結果でした。BXTの効果もありますが、それでもここまで拡大しても恒星が十分鋭く写っているのはすごいと思います。
とりあえず、今回でテスト撮影は終わりです。とにかく早く光軸問題と、背景ムラ問題をなんとかして、早く本番撮影を迎えたいです。
今回は3例目で、光軸調整前にもう一つ撮っておいたものです。といっても網状星雲が昇ってくる前の夜の前半で撮るものがないので、春の残りのおとめ座銀河団をお遊びで撮ったというだけです。でも結果だけ見たら流石にすごいことになってたので、記事にまとめておきます。
おとめ座銀河団に関しては、2年前の2021年3月にFS-60CBとEOS 6Dで結構な広角で撮影しています。
さて今回は、2年前の結果をどこまで超えられるでしょうか?
撮影
今回の撮影でのポイントの一つは、カメラがASI6200MMで高解像度になったこと。頑張ってbin1で撮影したので、ピクセルサイズは3.74μmとなり、前回の6Dのピクセルサイズは6.5μmで、6.5/3.75=1.75倍。さらにカラーからモノクロになっているので単純に2倍をかけると一辺3.5倍の解像度になります。面積で見ると14倍なので、ピクセルを14ピクセルで表すことになります。もちろん光学性能の限界やシンチレーションなどから、ここまで差がつくことはないかと思いますが、どこまで光分解のに迫れるのか、少し楽しみです。
撮影画角ですが、前回のFS-60CBの焦点距離370mmに比べて、今回のε130Dは430mmなので、少し画角が小さくなります。前回は南北はM100からM87まで、東西はM90からNGC4216まで入れたのですが、今回はそこまで欲張れません。少し迷ったのですが、今回はM100とNGC4216は諦めました。その代わりにマルカリアンの鎖が画面真ん中に近くなるように、M87のさらに南側を少し入れています。
あ、そういえば初のε130DでのLRGB撮影になります。LRGBフィルターはZWOのものです。高くなく、性能もいいという評判でしたが、実際はどうでしょうか?
これまでの問題点
ε130Dの撮影に関しては、これまで問題点として
- 北アメリカ星雲では四隅の星像が流れること、BlurXTerminator(BXT)でかなり補正できること
- 網状星雲で迷光による明暗が残ってしまうこと
背景ムラの確認
迷光についてですが、L画像の1枚撮りを見てみます。ABEの4次をかけて、その後オートストレッチをかけたものです。
背景が何もない銀河団の撮影なのでよく分かりますが、かなりひどい変なムラがあります。
試しに、今回の処理のために撮影したフラットフレームの1枚撮りの画像を、同様にABEの4次をかけ、オートストレッチをしたものがこれです。
はい、ものの見事に再現できています。フラットは明るい部屋の中で壁に向かって撮影したものです。
最初は撮影時の自宅部屋の電気の明るさがカメラに漏れていったのかと思っていましたが、時間も状況も違うのに出るということは、鏡筒由来でしょうか?これは次の記事で検証しようと思います。
画像処理: 背景ムラ対策
上の画像の背景ムラは共に1枚撮りです。画像処理の際に、多少の背景ムラはフラット補正で消えてくれるのですが、ここまでひどいと完全には消えてくれないようです。例えば、WBPPの後にスタックされたmaster L画像にABEの4次をかけ、オートストレッチしてみてみると、以下のようにどうしても補正しきれない残差成分が残ってしまいます。
この取りきれない背景のムラを誤魔化すのに、かなり苦労をしました。今回は小さな銀河がメインで、背景に星雲に相当するようなものは(たとえあったとしても)無視するので、DBEをしつこく適用することにします。
一例ですが、以下のようなパラメータで自動でサンプルポイントを割り振り、さらに手動で銀河付近や恒星付近にかかっているものを削除又は移動して除きます。ポイントはsmoothing factorでデフォルトの0.25を0.05にしています。これは2次元のスプライン補完をどこまでスムーズにするかというパラメータで、0にすると最もスムーズに補完してくれるようです。
実際の打点がこれくらいです。
例えばRGB画像はスタックしてRGB合成した直後は以下のような画像でした。
補正された背景はこのようになります。かなりスムーズな除去になっているのがわかると思います。
出来上がった画像ですが、これくらいまで補正することができました。
まだ少しリング状のムラが残っていますが、今回は銀河の画像なので後の画像処理で背景を暗くすることで、目立たなくすることができます。
でも分子雲が背景にもくもくしているような画像ではそう簡単にはいかず、前回の網状星雲では同様の形が残ってしまっているのが分かります。
BXTによる星像ひずみの改善
まだ光軸調整をしていない状態で撮影しているので、今回もこれまで同様に四隅で星像が歪んでしまっています。
下方向、もしくは右下方向に伸びてしまっています。これまでと同様な伸びなので、再現性はあるようです。
これらの歪みはBlurXTerminator(BXT)のおかげでかなりのレベルで改善されますが、残念ながら一部の伸びてしまった星は二重星のようになってしまいます。
これは流石に許容範囲外なので、やはり光軸をきちんと直す必要があります。
bin1画像だからでしょうか、BXTによる恒星の縮小がちょっと効きすぎてしまい、星が全体に小さくなりすぎるので、今回は0.05と軽くだけかけました。一部を拡大して見た時に自然な大きさになる程度の大きさです。星雲部の細部出しも効きすぎるので、PSFはオート(数値を大きくするより機器が小さくなる)として、「Sharpen Nonsteller」も0.7と少し抑えました。これで十分な効果がありました。
最後にNoiseXTerminatorをかけ、背景のノイズを落としました。
画像処理結果
テスト撮影ですが、せっかくなので仕上げてみます。bin1のままだと画像サイズが大きすぎてアップロードできないので、一辺を50%に縮小してbin2相当にしています。
「おとめ座銀河団」
- 撮影日: 2023年5月15日21時1分-16日0時7分、5月16日21時2分-23時23分、5月17日21時0分-23時6分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
- フィルター: ZWO LRGB
- 赤道儀: Celestron CGEM II
- カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
- ガイド: f50mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: NINA、bin1、Gain 100、露光時間5分、L: 55枚、R: 11枚、G: 8枚、B: 11枚の計85枚で総露光時間7時間5分
- Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、37枚
- Flat, Gain100、L: 0.01秒、128枚、RGB: 0.01秒、64枚
- Flat, Darkflat: Gain100、0.01秒、256枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
ただし、仕上げたというには問題があることもわかっています。一つは、既に上で説明しましたが、一部の星がBXTで二重星のようになってしまうことです。もう一つは上下でピントにずれがあるため、明るい恒星の光条線が二重になってしまっていることです。
これもみっともないので許容範囲外です。どう光軸調整するか、最優先事項でやらないと、今後撮影が進まなくなりそうです。
LRGBフィルターに関しては、特にハロなども出なくて、今のところ特に不満は感じません。2インチフィルターは根が張るので、安価なものが使えると助かります。ZWOのLRGBフィルターは見ている限り十分な性能を持っているようです。
Annotation画像
恒例のアノテーションですが、やはり銀河団はこれをやらないと気が済まないですね。すごいことになります。
一体幾つの銀河があるのか...。宇宙はすごいですね。
でもこれだと流石にちょっと分かりにくいので、PCGを除いたものです。メシエ、NGC、ICまでなのでずいぶんシンプルになるとはいえ、それでも結構な数の銀河です。
マルカリアンの鎖
このままの大きさで見るだけだと細かすぎて面白くないので、ここから拡大していきます。まずはマルカリアンの鎖。
過去画像と比較します。上から2017年3月: FS-60Q+EOS 60D、2021年3月: FS-60CB+EOS 6D、同画角で切り出した今回のものとなります。
こうやってみると、分解能、恒星、色など格段に進歩しているのがわかると思います。
更なる拡大
もっと変わりやすい比較をしてみます。2021年の時には完全にアラが見えていた、拡大しすぎた画像になります。まずはM99付近です。上が2021年、下が今回です。
流石に雲泥の差ですね。銀河の分解能もそうですが、特に肥大していない恒星、恒星の色など、前回の拡大画像はは出すのを憚られましたが、今回は十分に見ることができます。ここまで拡大しても破綻しないのはε130DとASI6200MM Proの分解の、さらにBXTの効果もあるかと思います。というか、ここまで出ていいのでしょうか?すごいです。
ついでにですが、前回はどうしてもできなかったAnnotationが今回は素直に通りました。恒星の写りが良くなったからでしょうか?これだけ見てても楽しいです。
最後、M88とM91回りの拡大です。同じく上が2021年で、下が今回です。こちらも分解能が格段に上がっているのがよく分かります。
Annotationです。
まとめ
まだまだ光軸調整など問題も残っていますが、ε130Dのポテンシャルを十分に感じることのできる結果でした。BXTの効果もありますが、それでもここまで拡大しても恒星が十分鋭く写っているのはすごいと思います。
とりあえず、今回でテスト撮影は終わりです。とにかく早く光軸問題と、背景ムラ問題をなんとかして、早く本番撮影を迎えたいです。