ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ:調整・改造 > 評価

この記事は「実画像のノイズ評価(その3): 信号について」の続きになります。



久しぶりのブログ更新になってしまいました。実は小海の星フェスからコロナになってしまいました。4−5日で平熱に戻ったのですが、その後体力が全然戻らず、仕事から帰っても疲れ果ててすぐに寝てしまうことをずっと続けていました。新月期で晴れた平日もあったのですが、全く機材を出す気力がありませんでした。細々と今回の計算だけは続けていて、発症から3週間たってやっとブログを新たに書くくらいの気力がもどってきました。

というわけで前回の記事から結構経ってしまいましたが、今回の記事ではこれまでのノイズ評価がどこまで通用するか、具体例を検証してみたいと思います。だいこもんさんと、Niwaさんの協力もありましたので、いくつかの撮影条件を比べてノイズ評価が正しいかどうか検証してみることにします。


開田高原で撮影したファイルの検証

まずはこれまで通り、開田高原のものから。使っているカメラはASI294MM Proです。


1. Read noise


最初はRead noiseを検証してみましょう。比較すべきは、
  1. ASI294MM ProのRead noiseのグラフから読み取ったノイズ
  2. 自分で撮影したBiasファイルから実測したノイズ
の2つです。

  1. 今回の撮影ではゲインを120としたので、その時のRead noiseの値をグラフから読み取ると、1.8 [e]程度でしょうか。
  2. その一方、Baisファイルはゲインを120として、最初露光時間(0.032ms)で撮影し、RAW16のfits形式で保存します。実測はPixInsightのStatisticsツールをつかいました。撮影されたファイルは実際には14bit階調なので、Statisticsツールで「14bit [0,16383]」を選びます。その時のavgDevの値を読むと2 [ADU]となります。この場合単位はADUなので、比較できるようにeに変換するため、コンバージョンファクターを使います。コンバージョンファクターはグラフの縦軸「Gain(e/ADU)」から読み取ります。横軸の「Gain(0.1dB)」の120のところでは0.95 [e/ADU] 程度となります。これを使うと、Baisファイルのノイズは1.9 [e]となり、グラフから読み取った値にほぼ一致します。
結論としては、Read noiseに関しては、メーカーの示すグラフから読み取った値と、実測の値が10%以下の精度でかなり一致していると言えます。実はこのことは、2019年に既に確認していて、その時もよく一致していることがわかっています。


2. Dark noise

次にDark noiseを検証します。こちらも比較すべきは、
  1. ASI294MM Proの Dark currentのグラフから読み取った暗電流値から計算したdark noise
  2. 自分で撮影したDarkファイルから実測したノイズ
の2つです。

  1. 今回の撮影時の温度は-10℃、1枚あたりの露光時間は300秒です。グラフから安電流は0.006 [e/s/pix]程度、露光時間の300 [s]をかけて1.86 [e/pix]。単位がeなので、ノイズはそのルートをとればよく、ピクセルあたりでは1.3 [e]となります。
  2. 一方、自分で撮影したダークファイルから、Biasファイルの時と同様にノイズをPixInsightで実測すると2.5 [ADU]となりました。これをコンバージョンファクター0.95[e/ADU]で単位をeに変換してやり、2.38 [e]となります。ここからRead noise 1.8 [e]を引いたものが実測のDark noiseとなります。ただし引く際には、互いに相関のないランダムなノイズなので、実測値の2乗とRead noiseの2乗の差を取り、ルートを取ることになります。出てきた値は1.4 [e]となりました。
結果としては、Dark noiseに関してもメーカーのグラフから求めた値と、実測の値が10%以下の精度で一致していることがわかります。


3. トータルノイズ

さらに、開田高原で撮影したライトフレームの輝度から推測したノイズと、ライトフレームのノイズの実測値を視覚します。
  1. 天体や分子雲が支配的でない暗い部分の輝度をPixInsightのStatisticsで実測すると、920 [ADU]程度となりました。ここから撮影時のオフセット40x16=640を引き、実際の輝度が280[ADU]であることがわかります。これをコンバージョンファクターで[e]にすると266 [e]。単位が[e]なので、ノイズは輝度のルートをとると直接出てきて、16.3 [e]となります。
  2. その一方、ライトフレームからPixInsightのStatisticsでノイズを直接測定すると、16.9 [e]となりました。
撮影したライトフレームの輝度から計算したノイズと、実測のノイズが10%以下の精度でかなり一致していることがわかります。


4. Sky noise

輝度から推測したノイズと直接測ったノイズから、トータルノイズがかなり一致することがわかったということと、Read noiseもDark noiseも推測値と実測値がかなり一致していることがわかるので、残り(今は天体が写っていない部分を考えているので、天体からのショットノイズはないと考える)のSky noiseもそこそこ一致すると推測できます。Sky  noiseは、トータルノイズからRead noiseとDark noiseを引いたものと考えることができます。ただしこの場合も、それぞれのノイズを2乗して、トータルからRead noiseとDark noiseを引く必要があることに注意です。その結果、Sky noiseは16.2[e]程度となりました。トータルノイズが16.3 [e]なので、Read noiseとDark noiseはほとんど効いていなくて、ほぼSky  noiseに支配されていることがわかります。


開田高原撮影のまとめ


まとめると、

グラフから読み取ったRead noise1.8 [e]
実測のRead noise1.9 [e]

グラフから読み取ったDark noise
1.3 [e]
実測のDark noise [e]1.4 [e]

背景光の輝度から推測したトータルノイズ

16.3 

[e]
実測のトータルノイズ [e]16.9 [e]

Sky noise
16.2 [e]

となります。

開田高原の暗い空であっても、L画像であること、口径260mmでF5のかなり光を集める鏡筒であることなどから、Sky noiseが支配的になってしまうのかと思われます。これが小さい口径で暗い鏡筒を使った場合や、明るい鏡筒でもナローバンドフィルターを使い入射する光を小さくした場合には、Read noiseとDark noiseが効いてくる可能性が高くなることに注意です。


条件を変えた場合

少なくとも、これまで検証してきた開田高原で撮影したライトフレームでは、メーカーグラフからの読み取り値と実測などがかなり一致することがわかりました。他の例とも比べてみましょう。

ここでは4つを比較します。鏡筒、カメラ、露光時間、ゲイン、温度、背景光の明るさなどがそれぞれ違います。
  1. 開田高原: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
  2. 自宅: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
  3. チリ1: RS200SS (d200mm、f760mm)、ASI294MM Pro、露光時間120秒、gain120、-20℃
  4. チリ2: FSQ106N (d200mm、f760mm)、ASI1600MM Pro、露光時間300秒、gain0、-20℃
協力: だいこもんさん(チリ1)、Niwaさん(チリ2)

個々の計算過程は省略しますが、結果は

1. 開田高原2. 自宅3. チリ14. チリ2
グラフからのRead noise [e]1.8 1.8 1.8 3.6 
実測のRead noise [e]1.9 1.9 1.9 3.6 

グラフからのDark noise [e]
1.3 1.3 0.9 1.4 
実測のDark noise [e]1.4 1.4 0.9 1.3 

背景光輝度からのトータルノイズ [e]
16.3 49.3 12.0 7.0 
実測のトータルノイズ [e]16.9 51.3 12.5 8.3 

Sky noise [e]
16.2 49.3 11.8 5.8 

となりました。各種条件はかなり違っていますが、どれも推測値と実測値がかなりの精度で一致しています。これまでの検証が大きく間違ってはいないことがわかるのかと思います。言い換えると、グラフからの推測値だけである程度正しいことがわかるので、今後の計算では実測値を用いなくともグラフから計算した値を用いて話を進めても、ほぼ問題ないと言えるのかと思います。

「背景光輝度からのトータルノイズ」と「Sky noise」を比較すると、やはりSky noiseが支配的なのがよくわかり、それでもチリ2のように暗いところで小口径の場合は、Sky  noiseの貢献度が小さくなり、Read noiseやdark noiseの貢献度があるていど大きくなることがわかります。

逆に言うと、Read noiseやdark noiseが効かない範囲でうまく撮影されているとも言えます。Read noiseやdark noiseが支配的と言うことはある意味暗すぎるわけです。暗い鏡筒を使っていたり、1枚あたりの露光時間が足りなかったり、ゲインが小さすぎるなどの状況や、ナローバンドフィルターやかなりきつい光害防止フィルターを使った場合などは暗すぎる状況になることがあります。

Read noiseやdark noiseが効かない状態の撮影ができているなら、あとはどこまで淡いところが出るかは背景がどこまで暗くできるかに依ります。より暗い空が有利となってきます。この状態ではもう1枚あたりの露光時間を伸ばしても意味はなくなり、トータルの露光時間を伸ばすことでSky noiseの影響を小さくしていくしか手はありません。

今回の記事でははまだ1枚撮影のみをこと議論しているのですが、本当は多数枚撮影してスタックした時のことを考えて判断するべきですね。次回以降に議論できればと思います。


撮影時の背景光の輝度推測

実は、鏡筒とカメラのパラメータがわかっている(口径、焦点距離、量子効率、ピクセルサイズ、コンバージョンファクターなど)ので、画像から撮影時の背景光の輝度が推測できるはずです。それぞれの場所でのSQMがわかっていれば、推測値と比較して画像として得られた背景光がある程度正しいのかどうか検証できるはずです。

結果としては、開田高原とだいこもんさんが撮影したチリの画像は、1.4倍くらい開田高原の方が明るかったです。開田高原はPolution Mapで見た場合、SQM21.8程度、チリはだいこもんさんによるとSQM22.1程度のことなので、10^((22.1-21.8)/2.5)=1.32倍なので、比較ではそこそこ正しいです。ただ、開田高原の当日の現地でiPhoneのアプリで簡易測定したSQMだと20.9が最高だったので、開田高原の実際はもっと(2.5倍くらい)明るかった可能性もあります。

でもNiwaさんが撮影したチリの画像からの推測値の輝度はだいこもんさんが撮影したものより1.8倍くらい明るく出てしまい、どうしても合いません。新月期ではないのではと思いましたが、撮影日から調べてみると新月期です。方向など何か別の明るい理由があったのか、まだ計算がどこかおかしいのかよくかっていません。Niwaさんのだけカメラが違うので、何か取り込めていないパラメータがある可能性もあります。

また、富山の自宅での撮影では開田高原より10倍以上明るく、Polution Mapで見たSQM20.6とかけ離れています。一つの可能性は、北の空なので街明かりが効いていたというのはあり得るかもしれません。と考えると、チリも方向によって明るさが結構違うのか?昔方個別の光害マップ「ふくろう」というのがあったのですが、残念ながらもう稼働していないようです。

いずれにせよ、画像ファイルからの背景光の輝度の測定はまだあまり正確ではないようなので、具体的な値は割愛します。だいこもんさんにも言われましたが、輝度は既知の恒星の明るさから求めるべきなのかもしれません。でも今回の範囲は越えるので、輝度の推測は諦めることにします。 


まとめ

これまでのノイズの検証が正しいかどうか、簡単にですが検証してみました。条件を変えてもそこそこ正確に見積もれているのかと思います。

といっても、メーカーが示しているグラフからの計算値との比較なので、ある意味そのグラフが実際の測定と正しいかどうかの検証とも言えます。少なくともメーカーが示しているグラフは、今回の測定で自己矛盾のような現象は見られず、実際にユーザーが手にしているカメラでの実測とかなり近い値となっていると思われます。

これ以降の記事では「グラフから推測したノイズはそこそこ正しい」と考えて進めていけばいいと言うことが言えるのかと思います。








カバンからおもむろに取り出して「実はこれ望遠鏡なんですよ」とか言いたいわけです。小ささにびっくりして欲しいわけです。星雲を見て感動してもらいたいのです。そう、たとえ変な人とか、マニアだと思われようとも。

今回はそんな切なる思い(?)を実現してくれる機器「トラバース」の詳細レビュー記事です。

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見よこの極小組み合わせセット!


祝!トラバース正式発売

サイトロンからとうとう発表されましたACUTERの「トラバース」!!! 2023年7月4日に日本で発売開始、

発売記念キャンペーン価格で7月31日(月)23:59まで27,182円 (税込 29,900円)

とのことです。最小、最安の自動導入経緯台。これまで最小だったAZ-GTiよりもさらに小さいです。

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一昨年前、2021年の小海の星フェスでトラバースのサンプルを見て、そのときから惚れ込んでいました。2022年の小海の星フェスでフリマスペースのブラックパンダさんのところでとうとうサンプルを手に入れ、周参見で初お披露目。まだ正式版になる前のもので少し不安定でしたが、先日とうとう正式版ができたので是非テストしてみてくださいと連絡が入りました。すでにこれまでにテストで何度か使っていて、ブログにも少し登場してきましたが、今回は満を辞しての詳細レポートです。

箱の中身ですが、以下の様なものが入っています。特にバッグが以前の試用版から大きく変わっていて、以前はペラペラのものだったのですが、クッション性のある素材になり、しかもトップが膨らんだ形なので、上に大きなものがくるのにピッタリ合ってます。トラバースは三脚を変更してちいさくしてつかいたいので、このバッグはSWAT+AZ-GTi+Gitzo三脚の方を入れるのに使おうと思ってます。バッグに肩掛けベルトをつけるフックがついていますが、ベルトは入っていませんでした。もしかしたら福島で箱を開けた時とかに落としてしまったのかもしれません。

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箱の中にはトラバース本体が三脚に取り付けられていて、
付属品とマニュアル、専用のバッグが入っていました。


トラバースを選ぶ理由

そもそも、なんでそこまでトラバースに惚れ込んているかです。

これまでずっと電視観望を試してきました。その中で、小口径鏡筒でも電視観望を十分に楽しむことができるとわかってきて、最近は口径わずか3cmのFMA135が主力機となっています。これを最小最軽量「だった」 AZ-GTiに載せて運用していました。最軽量のはずのAZ-GTiですが、370gのFMA135と比べると圧倒的に重いんですよね。今使っているノートPCでさえ900gです。カメラがUranus-Cで180g、三脚も250gくらいの小型のものが使えるので、カバンの中に入れるともう1.3kgのAZ-GTiの重量が目立って重くなってしまい、しかもそこそこの体積なのでカバンの中で大きなスペースをとってしまうのです。

この1.3kgのAZ-GTiがトラバースの650gまで小さくなるのは、カバン(リュクタイプ)に入れて持ち運ぶのに劇的な違いが生じます。というか、これでやっとリュックタイプのカバンに入れようとする気になります。冒頭のようにおもむろにカバンから出す!これがトラバースを待ち望んでいた理由です。

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バラすとカバンの中にコンパクトに収まります。


三脚の交換

さて、トラーバースセットを順に見ていきましょう。まず、今回発売のセットには三脚が標準で付いてきます。あとは望遠鏡を載せるだけでつかうことができるので便利です。でもここは、トラバース本体の小ささを生かすために、三脚を取り替ることにします。付属三脚とトラバース本体は、1本のネジで固定されています。

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「あれ?3本のネジが見える」と思う人もいるかもしれません。本体下面に見えている3本のネジは、どうも水平調整ネジに相当するようで、イモネジタイプで本体に当たって止まっているだけです。3本とも少しだけ緩めて、あとは本体を回転させると三脚から外すことができます。

今回使用した三脚は、Amazonで何年か前に買ったものですが、80kgの荷重まで耐えられるという「本当か」と突っ込みたくなるものです。実際かなりの荷重をかけることができるのは確かですが、上に重いものを載せると先にバランスの方が崩れてくるので、倒れないかが心配になります。転倒防止として、使うときは赤いリングを回して足が180度開くようにします。リングが固いので、どう回るのかがちょっと分かりにくいのですが、力を入れるときちんと回ります。

この三脚ですが、今でも現行であるみたいです。でもよく見ると2種類合って、違いは上部の接続ネジのところです。私が持っているのは、1/4インチと3/8のどちらでも使える便利なもので、外側の3/8インチのネジはバネじかけになっていて、押し込めることができ、中の1/4インチネジでも固定できる仕様です。

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もう一種類のは普通に1/4インチネジがあって、外側にアダプター的に3/8インチをつけるよくあるやつです。バネ式の方が実用上は圧倒的に便利なので、もしこの三脚に興味がある場合はバネ式のものをおススメします。




私のオリジナルアイデアなのですが、この三脚、足にインチネジ用の穴がいくつか空けてあって、端の穴にちょっと長めのネジをはめると、水平出しの微調ができるようになります。TRAVERSEに水準器がついているので、それを見ながらネジを締めたり緩めたりして水平を合わせることができます。ネジは3本つけてもいいですが、2本でも十分実用的です。

一見M6ネジが合うように見えますが、途中ですぐに入って行かなくなります。インチネジが必要なことにだけ注意です。

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トラバース本体

トラバース本体は、単3電池4本で動きます。AZ-GTiでは単3が8本必要だったので、ここだけでも軽量化になりますし、8本用意するのはちょっと大変だったので、4本だと大分楽になります。みなさん興味があるのが、充電式の電池で使えるかどうかなのですが、エネループで試したところ、特に問題なく使えています。どのくらいの時間持つかなどはもう少し検証が必要ですが、2−3時間の使用ではまだまだ全然余裕でした。

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裏側にも電池を入れるところがあり、合計4本で稼働します。

さらに、電池横の電源確認用LEDのすぐ上にUSB-C端子があり、ここを利用してモバイルバッテリーなどから電源を取ることもできます。

積載可能重量は2.5kgということで、AZ-GTiの半分になります。そのため大きな鏡筒は載せることはできません。自分の手持ちだと、FMA135、EVOGUIDE 50ED、FS-60CBくらいでしょうか。FS-60Qだと2.4kgなのでギリギリで、カメラなどをつけると厳しくなってくるかもしれません。しかもバランスウェイトをつけることができないので、重い鏡筒になってくると倒れないように注意が必要になってきます。付属の三脚を一番短く使ったとしても、倒れてしまうとダメージは避けられないので、積載重量には従分な余裕を持って運用した方が良さそうです。

Vixen規格のアリガタを固定するネジと、すぐ横にもう一つネジがついています。こちらは垂直方向の回転を固定するためのネジです。その一方、水平方向の回転はネジなどはなく固定されていてフリーで動かすことはできず、モーターを動かして回転するしかないようです。

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垂直回転台の下に、黒い大きめのギヤが見えます。2021年の小海で初めて見たときはこのギヤが付いていたのですが、2022年のテストモデルではこのギヤの部分は外されていました。製品版では復活したようです。これはタイムラプス用のアダプターを取り付けるときに使うギヤで、平行移動のために使われるのかと思われます。日本では夏に発売されるとのことです。


SynScan系アプリでの接続

操作するためのアプリはSynScan系のものが使えます。SynScan、SynScan Pro、SynScan用ASCOMドライバーなどです。SynScanは動作に制限も多いので、最初からSynScan Proの方を使うこととお勧めします。電視観望で使う際は、SharpCapを使うことが多く、ASCOMでSynScan Proに接続して、プレートソルブなどを使用することが可能になります。



上のリンクのように、SynScan Proを使っての操作などはこれまで何度もこのブログで書いてきたので、ここでは詳しくは書きませんが、一つだけ注意です。

今回SynScan ProとASCOMを使い電視観望を試しましたが、最初は何の問題もなく動きました。しかし次の日、観望会で使おうとしたらプレートソルブまで全然辿り着きませんでした。最初トラバースのトラブルかと思ったのですが、これまで安定に動いていたAZ-GTiに戻してもうまく動きません。どうやらASCOMとSynScan Proの間の接続の不安定性からきていたようで、複数台をつなぐとトリガー的に不安定になるようです。

何度か接続をし直したり、ASCOMドライバーやSynScan Proのバージョンを変えることで最終的にはトラバースでもAZ-GTiでもうまく動いたのですが、どうもSynScan Proの方が複数からの接続にうまく対応できるように設計されていないという情報を聞きました。私自身はまだ未確認なのですが、ASCOMのDeviceHubを使うことで複数台にうまく対応できるという話を聞きましたので、もし新たにトラバースを接続して不安定になるような現象に見舞われた時は、DeviceHubを使うといいかもしれません。私の方でも、梅雨が明けて天気が回復したら試してみたいと思います。


新アプリ「Acuter SKY」

トラバース専用で、Acuter SKYというアプリが開発されています。iOS用Android用があるようです。眼視が前提のアプリのようなのですが、なかなか面白いです。

まず、Wi-FiだけでなくBluetoothでもつながります。これは何を意味するかというと、スマホの場合インターネットに繋ぎながら操作ができることになります。SynScan ProのようにWi-Fiで繋いでしまうと、スマホで携帯電波につながっていたとしてもインターネットはWi-Fiが優先されてしまうために、実際にはインターネットにつなげなくなります。これが改善されているのは大きいです。

その一方、SynScan Proでインターネット接続と併用させるには、別途ルーターなどが必要で、「ステーションモード」で接続するなどの工夫が必要になります。詳しくはここを見てもらうとして、少なくともAcuter SKYでBluetoothで接続できる様になったために、単独でインターネット接続までできる様になることは大きいです。

また、Acuter SKYでは接続までのヘルプが充実していることも特徴でしょう。以下のような項目があり、それぞれ選ぶと、絵のみで一切文字のないヘルプ画面が現れます。

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例えば一例が以下の画像です。これは「望遠鏡の取り付け」を選ぶと出てくる絵の一部で、取付だけで10枚の絵で説明されています。三脚の設置から望遠鏡の取り付けまで、一切の文章なく絵だけで説明しているのはとても分かりやすいです。

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本体に添付されている紙のマニュアルにも同じような絵が掲載されているので、まずはマニュアルを見てみるのも良いでしょう。ただし、アプリは日本語対応ですが、添付されていたマニュアルは英語版でした。

ヘルプの後にある、特に最後の「素調整又はやり直し」はかなり特徴ある調整方法になっています。スマホを鏡筒に載せて、スマホの上側が鏡筒が向いている方向と同じようにします。この時にスマホの角度センサーを使って、今どちらの方角とどの位の高度を望遠鏡が向いているかを測定し、その情報をトラバース本体に送って初期アラインメントをするのです。精度はせいぜい数度程度と思われますが、これまでにない新しい試みで、面白いアイデアだと思います。


簡易StarSense Explorer?

初期アラインメント機能と同じような原理なのですが、もう一つ「スカイビュー」という機能が一番面白かったです。眼視の導入補助としてスマホの方向センサーを利用して、ターゲット天体までの方向のずれを示してくれます。言ってみればStarSense Explorerの簡易版みたいなものでしょうか?

Acuter SKYを立ち上げてから「空の探索」を押して、次に何か天体を選び、その後「確認」を押すとその「スカイビュー」モードになります。矢印の長さと方向で、天体までどれくらいずれているかが分かります。天体の方向に向くと画面に大きな丸がでます。

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実際使ってみての精度は、これもせいぜい数度くらいかと思うので、ファインダー導入支援といったレベルくらいかもしれません。重要なことは、ACUTER製品に接続とかしなくてもこの機能は使うことができるようなので、任意の赤道儀や経緯台に載った望遠鏡にくっつけたり上手く固定すれば、画面の矢印に従ってラフな天体導入ができるのかと思います。興味がある方はぜひ試して見てください。

このACUTER SKY、惜しむらくはスマホだけのアプリで、PC用ではないので、当然ASCOMには対応していないために、SharpCapからプレートソルブして同期などはできないところでしょうか。
 

トラバースを使った電視観望

今回の目的、実際に電視観望で稼働してみた様子をレポートします。既に福島星まつりでも試していますが、改めて自宅で試したのが2023年6月16日で半月ほど前になります。

設置ですが、三脚もトラバース自身も小さいことから、置き場所に困ることがあります。小さすぎて暗いところでは目立たないので、間違えて蹴飛ばしてしまう可能性があるからです。

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机の下に置くとか、ライトを横に置いて目立つようにするなどの工夫が必要でした。テーブルの上に置いてもいいのですが、PCを操作するたびに揺れてしまい、星像がブレてしまいます。石やブロックの上など、これ位されたものの上におく方がいいでしょう。

まず、SynScan  Proとは何の問題もなく接続できました。ただし、接続後ネットワーク設定の画面にたどり着けなかったので、ネットワーク設定はデフォルトのままです。観望会などで複数台で使うと混乱する可能性があるので、今後の改善を待ちたいと思います。今のところはネットワーク設定はAcuter SKYを使うことで可能になるようです。

SynScan Proから初期アラインメントをすると、トラバース本体が回転し出しますが、AZ-GTiに比べると全然静かで、これならば夜中にマンションのベランダなどで駆動してもほとんど迷惑にならないレベルかと思います。

初期アラインメントでの最初の導入の位置合わせがすでに面倒だったので、ここですでにSharpCapから ASCOM経由で、PC上で立ち上げたSynScan Proに接続し、プレートソルブを実行しました。

一つ注意は、PCで立ち上げたSynScan Proでトラバースに接続するためには、当然PCをトラバースのWi-Fiに繋げる必要があることと、もう一つこれは忘れがちなのですが、初めてPC上のSynScan Proでトラバースに繋いだときには緯度経度情報が正しく設定されていません。デフォルトでは「位置情報を使用する」がオンになっていてGPSからの緯度経度を自動的に取得するようになっていますが、ほとんどのPCにはGPSユニットが付いていないので、そのままでは緯度経度情報が何も入っていないことになります。これをオフにして、きちんとマニュアルで入力するようにしてください。その際の自分のいる位置の緯度経度ですが、スマホのコンパスアプリなどを利用すると、値を知ることができます。

プレートソルブがうまくいくと、画面中心近くに指定した天体が入ってきます。もちろん、プレートソルブなどしなくても、SynScan Proの方向ボタンを押して指定天体を真ん中に持ってきても構いません。

初期アラインメントがうまくいったら、次は見てみたい目標天体を自動導入します。最初はM27: 亜鈴状星雲です。

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全く問題なく導入できます。もしうまく導入されない場合は、トラバースの水平度が出ていない可能性があります。その場合でも再度プレートソルブを実行すれば導入されると思いますが、水平度が大きくずれていると毎回プレートソルブをする必要があるかもしれません。その際は、水平度を見直した方が効率が良いかと思います。

次は北アメリカ星雲です。
スクリーンショット 2023-06-17 000312

続いて、少し離れたところのM8: 干潟星雲です。
スクリーンショット 2023-06-17 001353

さて、トラバースの導入精度はどれくらいかというと、電視観望程度ならもう十分で、AZ-GTiとほとんど変わらないような実感です。

少し気になったのは、トラバース本体の水平方向を力を入れて揺らすと少しガタがありました。それでも稼働中にずれるようなゆるいガタではないので、実用上問題になることはないでしょう。基本的には精度は十分満足です。

最後、三日月星雲です。
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電視観望2台体制

さてこの後、長時間露光でどこまで点像が保てるか試してみました。上と同じ三日月星雲ですが、30秒露光で以下の画像のようになってしまい、既に星が流れてしまっているのがわかります。
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経緯台モードとはいえ、わずか30秒で流れてしまうとすると、流石に本格撮影とはいかず、電視観望的な短時間露光で枚数を稼ぐ撮影しかできないのがわかります。トラバースではなくAZ-GTiを使い、赤道儀モードにすればもう少し状況は改善されるかと思いますが、実はこのことがSWATとAZ-GTiを使っての長時間露光のアイデアにつながっていきました。



SWAT+AZ-GTiでもFMA135とUranus-Cを使いましたが、もう少し長焦点でもノータッチガイドで点像が保てそうなので、こちらはFS-60などを使った撮影になるかと思います。もちろん電視観望でも使えますので、
  1. トラバースでFM135
  2. SWAT+AZ-GTiでFS-60
など、電視観望で2台体制、そのうち一台は撮影も兼ねてという体制になるのかなと思っています。


まとめ

福島の星まつりで今話題のZWOのSeestarを見てきました。かなり積極的な値段設定なので、特に電視観望入門機として相当売れるのではないかと思います。それでも意外に大きいなとも思ったのも事実で、流石にリュックに入れて簡単に持ち運びというほどではなかったです。コンパクトさだけでいうなら今回のトラバース+FMA135に軍配が上がると思いました。値段は太刀打ちできませんが...。

それでもこのトラバースは、自動導入できる架台としては最安値で、実際かなりのコストパフォーマンスだと思います。

今回のトラバース、積載荷重、値段、なによりコンパクトさが必要かどうかが購入の決め手になるかと思います。電車やバスを使って移動しての街中での電視観望、車を使わないキャンプでの電視観望など、荷物量に制限がある場合は相当大きなメリットになるかと思います。

さて、この最小電視観望セットをカバンの中に入れて出かけ、夜におもむろに取り出して、見ている人に驚いてもらうことにしましょうか(笑)。


先日シュミットさんに立ち寄った際に、ラッキーなことに生ブラック☆パンダさんにお会いすることができました。その際なんと「面白いものを作ったので是非試してみてください」とNEWTONYの接眼部に取り付けるヘリコイド方のピント調整装置を手渡されてしまいました!


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休日前の月が出ている日で、雲もありましたが、夜中から晴れてきたので、手持ちのNEWTONYで少し試してみました。


テスト機材しょ

機材ですが、まずは教育用ニュートン反射望遠鏡の「NEWTONY」。これにCMOSカメラとしてCeres-Cに取り付け、架台のAZ-GTiに載せます。
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そもそもNEWTONYは接眼部の中奥深くにカメラを入れ込まなければならないために、通常のCMOSカメラにノーズアダプターを付けただけではピントが出ません。Ceres-Cは1.25インチの円筒型のカメラのためにアイピース口の奥に入れ込むことができるために、NEWTONYにとっては数少ないピントが出るカラーカメラとなっています。円筒タイプのCMOSカメラですが、

モノクロタイプはPlayer Oneでもいくつか


ZWOでもいくつか


カラータイプは他にQHYCCDからいくつか出ています。


Ceres-Cも含めてほとんどのものがガイド用カメラとか、惑星用カメラとか謳われているもので、センサー面積が小さいものが多いですが、電視観望に利用することが可能です。実際にはカラーの方が楽しいかと思いますが、Hαフィルターなどを利用して、モノクロでコントラストよく見るという手法なども考えれられると思います。


そもそもの問題点

これらのカメラをNEWTONYで使うときに問題となるのが、接眼部の固定方法です。コストを抑えるためだと思いますが、接眼部はねじ込み式になっていて、そのねじ込み具合でピントを調整します。問題は二つあります。
  1. ねじ込む際にカメラが回転してしまうこと。
  2. ねじが緩いので、途中のねじ込み状態ではカメラがグラグラしてまうこと。
これらの問題のために、NEWTONYでの電視観望ではピントを合わせるのがなかなか大変で、その回避策として私はネジのところに輪ゴムを巻いたりしてぐらつき具合を軽減して使用していました。
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今回、この部分を新しいヘリコイド型のピント調節アダプターで置き換えてみます。
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星を見てみる

その後、CMOSカメラを取り付けて、実際に星を見てみます。まず、ピント合わせ時に視野が回転しないのが圧倒的に楽です。というか、さすがヘリコイドです。ガタつきがほぼ何もないので、PCの画面を見ながらかなり微妙な調整が効き、ピント合わせがこれまでより遥かに遥かに楽になりました。

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画面を見ながら調整すると、これくらいはすぐに出ます。
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その後、電視観望のためにフィルターをつけて試してみたくなりました。ただしブラックパンダさんによると

作った後から気づいたのだが、フィルターをつけるとピントが出ないかもしれない。

とのことです。え!、本当なのか?もしそうならとても惜しい!?これは実際に自分で試さなくては。

と言うわけで、実際にCBPを取り付けてみます。
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カメラ先端が5mmほど長くなります。ヘリコイド内部の径が先端で小さくなっているところがあり、そこでつっかえてしまうので、やはりその分カメラが接眼部の外側に出てきてしまいます。

さて結果はというと、やはりフィルターアダプターの厚みのためにカメラが奥まで入り切らずに、ピントが出ません。下の写真くらいが限界でした。かなりずれたのがわかります。
06_Orion_helicoid_filter

Ceres-Cはセンサーの前にねじ込み式の保護ガラスがついているのですが、それを外してCBPフィルターを取り付けてみました。
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ただし穴のねじ径の方が大きいため、ねじ込みで固定は出来なくて、セロテープで貼り付けて固定して試しました。テープですが、最初マスキングテープでフィルターアダプターの両側を留めましたが、テープが厚すぎて接眼部の中に入って行きませんでした。セロテープも両側で止めると多分厚すぎなので、片側だけの固定で試しました。

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さて結果はというと
06_Orion_helicoid_filter_no_cover

少しマシになりましたが、やはりピントが合うところまでいきません。

その後、CBPをアダプターから外して、フィルターのみテープで固定しようとか思ったのですが、流石にここまでくると初心者に薦めることはしない方がいいと、この時点で思いとどまり、今回は泣く泣く諦めることにしました...。


ついでに電視観望

ちょっと悔しいので、上記セットアップでフィルター無しで少しだけ電視観望をしました。

M42: オリオン大星雲、約3分40秒
08_orion

馬頭星雲と燃える木、約3分
07_horse

ウルトラの星がある(笑)M78星雲、約7分
10_M78


コーン星雲ですが、30分かけてかろうじて形が見えるくらいでしょうか。
13_corn

フィルターなしでもこれくらいは見ることができます。でもやはり、QBPやCBPなどのフィルターを入れるともっと見えるようになるかと思います。改良版に期待です。でもブラックパンダさん確か「100個くらい作ってしまった。」とか言っていたのでどうなることやら...。アイピースで見る分には影響ないので、眼視ユーザーに売れてくれればいいのですが。


まとめ

NEWTONYの接眼部をヘリコイドタイプに変えて電視観望を試してみました。ピント合わせはこれまでよりはるかに楽になりました。ただ、電視観望目的だとやはり光害防止フィルターを入れたいのですが、ブラックパンダさんが言っていた通り、今のままだとカメラが入り込まずにピントが出ません。ここら辺を改良していただけると、NEWTONYユーザーで電視観望をしている方には相当な朗報だと思います。

いつもユーザー目線で独自商品を開発してくれるサイトロンさんは素晴らしいと思います。今後もどうしても期待してしまいます。







先週の「星もと」でSuper WideBino36を購入しました。販売開始はかなり前でずっと気になっていたのですが、でもなかなか購入に踏み切れなかった星座ビノです。今回は、Super WideBino36を含んだいくつかの星座ビノの見栄えを比較してみようと思います。

以前の比較記事などは




になります。ご参考に。


エントリー機種

今回の比較のエントリーです。

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購入順に
  1. Nikon TC-E2を利用した星座ビノ(2019/4/12 ヤフオクで上板2丁目さんから落札) 
  2. 笠井CS-BINO 3x50(2020/1/4 Amazonで購入
  3. SIGHTRON Stella Scan 3x48(2021/1/17 SCOPIOで購入
  4. Canon TC-DC10を利用した星座ビノ(2021/11/13 小海「星と自然のフェスタ」で上板2丁目さんから購入
  5. Super WideBino36(2022/9/18 「星をもとめて」でUCトレードから購入
となります。前回比較以降に手に入れた星座ビノは全て入れてあります。


比較の基準

比較は飛騨コスモス天文台の観望会の際に行いました。ただしここは、暗くなると星が見えすぎてしまい裸眼と星座ビノの差があまり出ない可能性があるので、今回は星座ビノの効果が最も現れる、少し明るめの薄明終了前くらいの空で行いました。

まず基準となる星座ビノを、今回のエントリーの中では一番古くからあるNikonのTC-E2にします。星座ビノの最高峰と言われるTC-E2を基準にするのは少々酷かもしれませんが、今回はそれくらいハイレベルの戦いになります。


Nikon TC-E2

まずはNikon TC-E2です。これは市販品ではなく、以前ビデオカメラ用に使われていた、像を拡大するためのテレコンビノというものを2つ利用した、基本自作品になります。上板2丁目さんという方が数多く制作されていて、星まつりやヤフオクなどで販売されています。現在は入手が困難になりつつありますが、突き詰めていくとこのTC-E2に行き着くという方も多く、テレコンビノの最高峰と呼ばれることもあります。

はい、というわけで、これを見ている限り不満はありません。収差、像の閉まり具合、コントラスト、どれも素晴らしいです。これで不満があるというなら、もう星座ビノというもの自身の不満になるかと思います。でもですねー、今回Super WideBino36を見てこの評価が変わったんですよ...。詳しくはSuper WideBino36の項で。


CS-BINO 3x50

次は笠井のCS-BINO 3x50です。笠井は星座ビノを2系統販売しています。一つは市販の星座ビノとしては最初期からあるWideBinoシリーズで、実視野で28度を誇るWideBino28と今回比較する実視野なんと36度のSuper WideBino36の2種類です。もう一つが安価なCSシリーズで、2倍のCS-BINO 2x40と3倍のCS-BINO 3x50です。CSシリーズには2倍の単眼バージョンもあります。

とにかくCS-BINO 3x50の特徴は3倍であるということ。これまでも何度か説明していますが、見える星の数は原理的には倍率のみで決まります。口径などは関係ありません。3倍の星座ビノはこれまでの2倍のものよりも圧倒的に見える星の数が増えます。

そういった意味ではNikonのTC-E2よりはるかに見えていいはずなのですが、実際の星の数はあまり違いがありません。厳密にいうと3倍のこのCS-BINO 3x50の方が暗い星まで見えますし、星の色の違いもCS-BINO 3x50のほうがよくわかります。でもNikonは十分それに迫っています。これはCS-BINO 3x50が悪いのではなく、Nikonの方が良すぎると言った方がいいでしょう。

それよりもNikonと決定的に違うのは、CS-BINO 3x50は倍率が3倍なので「大きく見えてしまい」、「見える範囲が小さくなる」ことです。なので、星座によっては全部一度に視野に入らなくなることも多々あり、星座の形をよく知っている人にはオススメですが、星座の形をあまり思い浮かべることができな初心者の方にはやはり2倍のものがオススメかと思います。

このCS-BINO 3x50の利点は圧倒的に安価なことです。CS-BINOの2倍と3倍両方買っても税込みで約2万3千円。見比べ等もできることから、2つ一度に買ってしまった方が遥かに楽しめると思います。


Stella Scan 3x48

こちらも3倍のもので、サイトロンから販売されています。笠井の3倍の後に出たもので、昼間に比べてみると明らかに周辺像が改善しているのがわかります。

ですが夜に星を見ながらだと、その違いは全く分かりませんでした。人工的な直線などで比較すると分かる違いですが、そういった比較物がない夜の星だけだと、少なくとも私の目では違いを見出すことができませんでした。なので見え味としては笠井のCS-BINO 3x50と感想はほとんど同じで、普通の2倍の星座ビノより見える星の数は圧倒的に増え、その一方で見える範囲は減ります。最高峰のNikonのTC-E2と比べてしまうと見える星の数はそこまでは変わらず、見える範囲はTC-E2より狭いというものです。

Stella Scanも2倍のものが出ているので、こちらも一度に2倍と3倍を両方買ってしまって、比較などして楽しむのも一つの手です。


Canon TC-DC10

こちらも高性能と評判のCanon製のテレコンビノを利用した星座ビノです。NikonのTC-E2よりはマイナーなので星座ビノとしてはそれほど作られていないと思われます。TC-E2と比較したくて、2021年の小海の星まつりで上板2丁目さんから譲っていただきました。

TC-DC10だけで見ている限り、とてもよく見えると言うのが最初の印象でした。それでもTC-E2と直で比べるとその差がわかってしまいます。TC-E2や3倍で見ると見える星が、TC-DC10だと見えないことがあります。例えば今回夕暮れの明るいうちにこと座を見比べて見たのですが、TC-E2と3倍で見えたこと座の平行四辺形の4つの星のうちの一番暗い三角よりの星が、TC-DC10だと見えませんでした。

かといって、TC-DC10が悪いのかというと全くそんなことはなく、普通の2倍の星座ビノと比べると見える星の数に見劣りはなく、シャープさではかなり優秀な部類です。2倍のものを3倍と比べることなどが本来無理があるというわけです。そう考えるとTC-E2の性能の良さを改めて実感でき、比較目的で手に入れたこのTC-DC10は私的にはそれだけで価値のあるものです。他の2倍の星座びの同様、観望会で活躍してもらいます。


Super WideBino36

最後は今回の目玉のSuper WideBino36です。改めて確認しておきますが、倍率は2倍です。それでも見える星の数はTC-E2や3倍のビノとに比べて全然遜色ありません。明らかに通常の2倍ビノとは差があり、最高峰と言われているTC-E2に迫っています。

しかもパンフォーカスでピントを合わせることができないTC-E2と違って、Super WideBino36は当たり前ですがピント調整が普通にできます。これは私個人のことなのですが、眼鏡の度数があまり合っていなくて普段あまり星をきちんと見ることができていません。とくに右目がだいぶ悪くなってしまっているために、右だけを比べると明らかにSuper WideBino36のほうがよく見えています。

私はTC-E2の唯一の欠点がピントを合わせることができないことだと思っていたので、Super WideBino36はこの欠点を完全に解決しています。かつ見え味はTC-E2に相当するので、個人的な評価としては目の悪い人でも最高クラスの星座ビノを味わうことができると言う意味で、Super WideBino36のほうが上という判断です。

Super WideBino36があまりに素晴らしいので、頑張って欠点を探してみました。唯一気づいたのが、木星クラスの明るい星を見た時で、ジャスピン位置が合わせきれないように見えたことでしょうか。ピントを内外にずらすと、点像が縦方向横方向にそれぞれ伸びるのですが、注意してピントを合わせても完全に縦横のずれが消えることがないことがわかります。ただしこれ、飛び抜けて明るい星以外では全くわからないです。なので欠点というには至らなく、シャープさ、コントラストなど、私としては満足の逸品です。

NikonのTC-E2の入手性がかなり悪くなってきている現在、それを置き換えることのできる、今のところ唯一の星座ビノがSuper WideBino36だと思います。TC-E2を持っていて目がいい人はあえて買わなくてもいいかと思いますが、TC-E2を持っていても目が悪い人、TC-E2を手に入れるのが難しい人は迷わずSuper WideBino36でいいかと思います。3倍の星の数と、2倍の視野の広さを兼ね備えていると言ってしまってよく、少し値段は高くなりますが、一台選ぶとしたらこれをお勧めします。

その一方、2倍と3倍を2台もつ楽しさ(比較や二人で見る場合など)もあるので、Super WideBino36を1台だけにするのと迷います。いや、いっそのこと3台買ってしまうのが一番幸せかもしれません。ちなみに私は手持ちで11台の星座ビノがあるので、3台くらいなら全然アリだと思います。


まとめ

今回はハイレベルな星座ビノの比較となりました。星座ビノに一般的な2倍という倍率でも、機種によっては性能差があることがわかり、一部は3倍相当の星の数が見えることがわかりました。市販されている星座ビノの種類もかなり増えてきていますが、今回満を辞して手に入れたSuper WideBino36は、現行モデルでその可能性を味わうことができます。まだまだ星座ビノも発展する余地があるのかもしれません。



Vesperaを借りることができました

電視観望関連の評価で一体型のものを一度触っておく必要があり、今回サイトロンさんにVesperaかStellinaをお借りできないかお願いしました。「Vesperaならすぐに手配できます」ということですぐに送ってきて下さいました!ものすごく素早い対応、本当にありがとうございました。その後なかなか晴れなかったのですが、やっと少し晴れた日があり、試用してみました。

今回の目的は、一体型の電視観望機器を触って感触を得ること、これまでの電視観望とどう違いがあるのか比較することです。そういった意味では今回十分なインパクトを味わうことができました。アマチュア天文の視点になりますが、レポートしてみようと思います。


Vesperaについて

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実際の送付は、さらにこの外側の段ボール箱に上記の箱が入っています。

Vesperaはフランスのvaonis社が開発している一体型の電視観望望遠鏡です。本国フランスではすでに発売されているようで、おそらくUS$だと思いますが、2022年9月現在$2499となっています。日本ではサイトロンが取り扱う予定になっていて、発売開始は以前は今夏とのことでしたが少し遅れているようで、現在は発売時期、価格ともに未定になっているようです。

日本ではまだ未発売ですので、今回はVesperaの導入を考えている方や、純粋にVesperaに興味がある方を念頭に、使用感、使い勝手、ファーストインプレッションなどを中心に書いていきたいと思います。


開封

箱を開けると、本体(鏡筒、経緯台含む)、専用のコンパクトな三脚、電源関連、専用の水準器が入っています。
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本体以外の中身はこんな感じ。

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マニュアルの類は何も入っていません。とりあえず見た目ですぐにわかる三脚を組み立て、本体を載せてみます。本体の形を見てもわかるとおり、とてもスタイリッシュでシンプル、かなりかっこいいです。重さも5kg程度と、子供でも十分運べるくらいの重さです。


組み立てはとても簡単

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ぱっと見LEDがあるくらいで、押しボタンとかもなく、それ以上はよくわからないのでマニュアルを「vespera manual」で検索して探してみます。

すぐにここからリンクが見つかります。どうもヘルプページも充実しているようです。こちらはそのリンク先でマニュアル直リンクになります。

但し、マニュアルといっても本体機械の説明マニュアルで、操作そのもののことはほとんど書いていません。それでも重要な、電源の入れ方とアプリのことが書いてありました。電源ボタンは本体横にあるリング状のLEDのところの真ん中で、押すタイプのボタンではなく、タッチするタイプのボタンでした。

電源オン 

実際に電源を入れてみます。本当にこの部分を触るだけです。

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アプリで操作

アプリは「Singularity」という名前で、App SgtoreやGoogle PLAYで手に入れられるということもわかりました。「Singularity」という名で検索すると他にもいろいろ出てきたので、「Singularity vespera」と検索するとすぐに出てきました。

私は最初大きい画面がいいのかと思い、iPad Proにダウンロードしましたが、WiFiをVesperaに繋ぐ必要があり、インターネットに繋げなくなってしまい、天気など一部情報が見えなくなってしまうので、途中からiPhoneにして、Vesperaとインターネット接続を併用しました。

最初ユーザー登録をする必要があります。その後WiFi経由でVesperaと接続し、Initializationをします。本体マニュアルに
  • Initialzation
  • Object choice
  • Pointing and settings
  • Observation
  • Saving and sharing pictures
の5つのステップを踏むと書いてあったので、見通しがたちました。


設置

Vesperaを外に設置する際には、空が広くひらけている場所を選ぶべきです。初期アラインメントの時に、適当な方向を向くのですが、向いている方向に山や建物など障害となるものがあり星が見えないと初期化が完了しません。

さらに、水平を取る必要があります。付属の水準器を本体のバッテリーケーブルを指すところに取り付け、本体が水平になるように三脚の端部のネジを回して脚の長さを調整します。これは電源を入れる前にやっておいた方がよくて、うまく水平出しが終わってから電源を入れて、次のInitializationに進みます。


いよいよ操作、最初は初期化

Initializationはボタンを押すだけで基本何もしなくていいです。
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Vespera本体が動き出し、鏡筒部が上を向きます。
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その過程で、ピントもフォートフォーカス機能で自動で出してくれます。
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数分も待っていると準備完了。これで天体を導入してみることができます。拍子抜けするくらい簡単です。
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初トライはM13を見てみる 

次は見たい天体の選択です。今見えるお勧めの天体がズラーっと表示されるのはいいですね。とりあえず一番最初に出ていたM13を選んでみました。右隣にはM27が出ています。天体の左上に出ている15minとかいう時間は、15分間ライブスタックしていると綺麗な画像になりますよとかいう意味です。
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M13を選ぶと、その時間の意味や高度や方角も出てきます。
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ここでOberveを選んぶと自動導入の開始です。導入の間に英語ですが、目標までの角度と共に解説が出るなど、かなりの親切設計です。
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ターゲットの方向へと向き終わり、最初の露光の間はこんな画面が出て、
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準備ができると目的の天体(この時はM13)の画像が現れます。
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上の画像は10秒露光で1ショットです。しばらく待っているとどんどんライブスタックされていきます。下は6枚ライブスタック時点です。右下の数字が6になっているのがわかります。
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ここからさらにスタックして、10分ほどしてから画像ファイルとしてスマホ上(iPhoneだと「写真」アプリに取り込まれ、普通の写真画像のように保存されるようです。)に取り出したものが下になります。そのまま取り出しただけで、手元で画像処理などは一切していません。
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これをみる限り、電視観望ついでの簡易的な撮影としては十分な画質だと思います。何も処理せずにこれだけの画像になるのなら、初心者にはかなり楽しめるのではないでしょうか。

ちなみに上の画像はjpeg撮って出しなのですが、以下のようなオプションをオンにすることで16bit TIFFで保存することもでき、後で自分で画像処理するための画像として保存することもできるようです。
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これ以降は、以下のように設定しました。
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次はM27亜鈴状星雲

次はM27亜鈴状星雲を試してみます。1ショットと
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35スタックでトータル5分50秒露光。
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保存された画像は以下のようになります。
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輝度の高いM27はかなり綺麗に見え、画像も十分鑑賞に堪えるものが得られることがわかります。


網状星雲

それでは、もっと淡い星雲、例えば網状星雲はどうでしょうか?推薦画面を見ると、60分露光すると良いと出ます。
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とりあえず今回は60スタック、トータル10分露光です。
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やはりちょっと淡いですね。自宅でノーフィルターでの画像なので、これくらいで十分納得です。

フィルターに関しては、Vesperaの場合は専用フィルターがオプションで提供されるようです。せっかくサイトロンから発売される予定なので、QBPやCBPを取り付けられるように開発などしてもらえると、日本向け製品としてかなりのアピールになるかと思います。


M57惑星状星雲

では逆に、小さいけれども輝度の高いM57惑星状星雲ではどうでしょうか?

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鏡筒が焦点距離200mmなのでかなり小さく写りますが、解像度としては十分そうです。画面上で拡大してみます。

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かなり拡大しているので、恒星も少し大きくなってしまっています。問題はM57自身が少し明るすぎることです。なんとかできないかと、マニュアルを読んでみるとエキスパートモードというのがあり、露光時間を調整できるようです
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ただしエキスパートモードでターゲットの天体を導入するのには、天体の名前ではなく、下の画面のように赤経、赤緯を直接打ち込まなくてはならないので、少し手間で、通常使用するような想定ではないようです。
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それでも試しにエキスパートモードでM57を導入し、現在の露光時間の10秒を半分の5秒とかに短くして再度M57を見てみます。50ショットのライブスタックでトータル2分10秒です。
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他のもっと短い露光時間も試してみたのですが、基本的には1ショットの露光時間を短くしてもノイジーになる方向で、SharpCapなどで言うブラックレベルを調整できるわけではないようです。ここら辺は簡単さと自由度のトレードオフで、最初のうちは不満ないかもしれませんが、Vesperaに慣れてもっと色々やってみたくなった際には、もう少し調整できるパラメータを増やしてもいい気がしました。

具体的にいうと、エキスパートモードでも天体を指定しての自動導入を可能にして、ヒストグラムを表示しながらブラックレベルとミッドレベルを調整できるようになると、ハードに手を加えることなくソフトだけで一気に見える範囲が広がるはずです。くれぐれも初心者に対する簡単さを壊すことなく、エキスパートユーザーのための拡張機能として、アプリ側をもう少し充実させていけば、息の長い製品になると思います。


その他の天体

他に見た天体を載せておきます。時間も限られていたのであと3天体です。

まず北アメリカ星雲。カリフォルニカらメキシコ部分ですね。網状星雲と同じで、大きくて多少淡いので、一部しか見えません。光害防止フィルターを入れることが可能になれば、見栄えが全然変わると思います。
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次はM17オメガ星雲です。大きさ的にも明るさ的にもちょうどいいくらいで、見応えがあります。わずか2分露光でこれくらいです。
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最後はらせん星雲です。1-2ショットでは全然出ませんが
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スタックを重ねると出てくる星雲の典型で、10分露光でも見栄えは全然変わります。
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もう少し長い時間露光すれば、かなり見応えが出てくると思われます。


一体型の操作性

この日、Vesperaを使って7つの天体を見ました。操作を進める過程はとにかく親切で、ほとんど何も迷うことがなかったです。実際のSingularityの操作も、天体を見るまでマニュアルなど見る必要もなく、箱を開けてから小一時間で観望まで辿り着けました。

これだけ親切なのは、既存の電視観望とは全く違います。これなら全くの天文初心者でもほとんど問題なく天体までたどり着けるのかと思いました。実はここら辺が味わいたかったところで、普段のSharpCapでの電視観望とどれくらい違うかと比較したかったのです。簡単だろうとはある程度予想していましたが、ここまで親切だとは。気をつけるのは水平に置くことと、ある程度空が開けたところで試すことでしょうか。空が狭いと、初期アラインメントの時に向いた方向に星がないことがあります。ホントそれくらいです。ピントも自動で合わせてくれるし、見頃な天体も紹介してくれるし、天体の解説も詳しいし、想像していたより遥かに楽でした。これなら本当に初心者でも簡単にDSOが楽しめると思います。

逆に、あまりに簡単で何も調べなかったりすることもあり得そうなので、せっかく天体を見たら、別途色々調べてみることを頭に入れておいた方がいいくらいかもしれません。そうすることでより興味が湧き、長期で楽しむことにつながるかと思います。


まとめ

初めての一体型の電視観望でしたが、想像より遥かに親切にきめ細かく作り込まれていることがわかりました。これなら天文初心者にも十分に勧めることができます。あとは販売時期と値段でしょうか。ドルでの価格を見てみると、日本での販売価格は個人で初めて買うには少し高価になるのかもしれません。それでもコンパクトかつスタイリッシュで、鏡筒やカメラ、アプリまで含めて一体設計で、全くの初心者が確実に星雲星団など見えると考えると、それだけの価値は十分にあるのかと思います。また、科学館など公共の観望会で使うために、安定した電視観望を提供するという意味では十分な効果が見込まれると思います。

今回、一体型電視観望機器の様子を実際に操作してみて、どのようなものなのかかなり細かく知ることができました。突然の申し出にもかかわらず、快くVesperaをお貸しいただいたサイトロンさんに感謝いたします。どうもありがとうございました。
 

前回の撮影時の記事から少し間が空いてしまいましたが、前回FS-60CBでSV405CCとASI294MC Proで撮影した画像を処理してみました。

 

この撮影後、6月13日付の新しいドライバーが発表されましたが、今回の記事はその前の6月11日にメールで送られてきたものを使っています。そのため(おそらくゲイン120以上で)HGCモードに入りますが、さらにゲインが200プラスされた状態で撮影されています。今回はゲイン120としましたが、実質は320と同等と推測され、ダイナミックレンジが犠牲になっていますので、その点ご注意ください。


共通条件

撮影日の透明度がかなり悪かったため、ここでは比較することを主目的とし、仕上げはさらっと軽めに処理するだけにしました。撮影については、後日透明度のいい日にリベンジしたので、最終画像は後で示します。

ASI294MC ProとSV405CCで共通の事情は、
  • 鏡筒はタカハシのFS-60CB。赤道儀はCelestronのCGEM II。
  • マルチフラットナーをつけていますが、1.1.25インチのノーズアダプターをつけているので、バックフォーカスが合ってなくて、四隅が流れてしまっています。
  • 冷却温度は0℃。
  • 光害防止フィルターとしてCBPの1.25インチをノーズアダプターの先に付けています。
  • 120mmのサイトロンのガイド鏡にASI120MMをつけて、PHD2でガイド。
  • 1枚あたりの露光時間は3分で、10枚に制限し、トータル30分の露光時間。
  • ゲインは120ですが、SV405CCはドライバーがまだ改良途中で実質ゲインが320になっていると思われます。
  • 公平を記すために同日の撮影にして、SV405CCで15分、ASO294MC Proで30分、さらにSV405CCで15分撮影した画像を使用しています。
  • 画像処理はPixInsightでWBPPを使いインテグレートまでしたのを、オートストレッチしています。
となります。


ASI294MC Proの画像(参照)

まずはASI294MC Proです。最初の画像処理でフラット画像に問題があることがわかり、フラットを後日再撮影しました。そのためライトフレーム撮影時についていたゴミが、フラット撮影時に取れてしまったようで、ペリカンの目の下あたりと、下辺中央あたりに丸い大きなスポットが残ってしまいました。カメラの評価にはあまり関係ないのでそのままにしておきます。

下の画像がPixInsightでスタックしてSTFとHTでオートストレッチストレッチだけした画像です。あまり主観的な操作が入っていない段階のこれで比較します。

ASI294MCPro_autostretch_180.00s_FILTER-NoFilter_RGB

この時のヒストグラムは、再掲載になりますが

histgram_ASI294MCPro

となります。至極真っ当そうに見えます。


SV405CCの画像

一方今回の評価対象のSV405CCの画像です。同じく、PixInsightでスタックしてSTFとHTでオートストレッチストレッチだけした画像です。

SV405CC _-180.00s_FILTER-NoFilter_RGB

ヒストグラムは

histgram_SV405CC

となります。まだドライバーでおかしなところがあるため、ゲインを120と設定しても実質のゲインが320
となっていると思われ、同じゲイン設定のASI294MC Proのヒストグラムに比べて全体に右にシフトしていています。120と320で10倍違うはずなのですが、平均は4186から7385と2倍にもなっていないので一見おかしいと思うかもしれません。でもオフセットの値込みの平均値なので10倍になっていないのは問題ないです。

おかしなところは2点、
  • 赤のノイズの広がり方が大きすぎること
  • 60000(最大値の65536でないところが不思議)くらいの値のところに大きなピークがあること
です。その後、ドライバーをアップデートすることで、前者の赤のノイズのおかしいところは解決されることがわかっています。ですが、60000のところのピークは最新ドライバー1.7.3でも解決しないことまでは確かめました。

後もう一つ気になるところは、120秒以上の露光でアンプグローがなくなるというSVBONYの説明です。ですが、マスターダークフレームを見る限り、アンプグローは残っているようです。

masterDark_EXPOSURE-180.00s

それでも撮影時に気になることがあって、ほぼ毎回ですが、長時間露光の場合、一連の露光を開始する最初の1枚だけ、画面全体が暗いです。SharpCapでの撮影もNINAでの撮影も同じです。もしかしたら何かしようとはしているのかもしれませんが、ダークフレームでみて上の様になっているので、少なくともまだうまくいっていないようです。次の最新のドライバーでも注目したいと思います。


比較

両画像を比較してみましょう。オートストレッチ後なので一見どちらもよく似ていて、両者それほど変わらないように見えます。両方とも左が明るく、右が暗いような、1次のカブリがあります。これは左が北側に近く、富山の街の明かりが効いているものと思われます。

あえて言うなら、SV405CCの方が少し赤や緑が濃いでしょうか。でも誤差の範囲の気もします。

大きく違う点は、恒星です。中央下の二つの並んだ星を見るとわかりやすいでしょうか。

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左がASI294MC Pro、右がSV405CC

一見SV405CCの方が彩度が出てると思うかもしれませんが、よくみると明らかな右上方向への青ズレのようなものが出ています。

実はこれ最初は見逃していて、ここまで拡大することなく、遠目で単に色が出てる恒星だなと思っていたくらいでした。SV405CCで北アメリカ星雲をさらに1時間30分撮影したのですが、その画像処理の時に青ズレが出ているのが気になって、最後までどうしても残るので元を辿っていくと、一枚一枚のライトフレームに載っていることがわかりました。

最初、CBPでのゴーストかとも思ったのですが、ASI294MC Proでこれまでも今回もそんなことに困ったことはないのでおそらく関係ないです。FS-60CBの収差かとも思いましたが、それならやはりASI294MC Proでも出てもいいはずです。この青ずれの方向が常に一定なのも気になります。

とりあえず比較はここまでにして、これ以降は透明度の悪い日の高々30分露光の画像で処理を進めても、あまり意味はなさそうなので、次はこれ以降にSV405CCで撮影した1時間半の画像での処理を進めます。


画像処理

次に気になったのが、SV405CCの画像にPCCをかけた時、同パラメータをいじっても背景が青や緑に寄ってしまうことです。。BackgroundNeutralizationでパラメータをかなりいじって試しても同様だったので、画像の方に何か問題がありそうです。いろいろ探っていって、どうやらRのノイズ幅がおかしいことが原因という結論にたどり着きました。上で見せたSV405のRGBのヒストグラムで赤の幅が大きく、山の高さが低いことです。このグラフの縦軸はlogスケールなので、あまり差がないように見えるかもしれませんが、実際にはGBと比べて1/3から1/4ほどです。

histgram_SV405CC

PCCやBackgroundNeutralizationは幅の方は補正してくれますが、高さの補正はしてくれないようです。そのため、今回はLineaFitで高さを合わせました。しかも1回ではまだ合わせきれなかったので2回LineaFitをかけ、その後PCCをかけると、やっと背景もまともな色になりました。この変な赤の振る舞いは、6月13日付のドライバーをインストールした後は出ていません。もし古いドライバーを使って撮影している方は、最新ドライバーにアップデートしたほうがいいでしょう。

PCC後はストレッチなどした後に、Photoshopに受け渡しました。上で述べた青ズレは仕方ないものとして画像処理を進めました。なので、恒星がいまいちなのは気にしないでください。また、透明度が悪かったためにノイズ処理などもしているので、カメラの性能をそのまま見ると言うよりは、SV405CCで少なくともこのくらいまでは出せるという目安くらいに考えてください。

Image94_clone2

透明度がかなり悪い日の撮影にしては、そこそこ色も出ているのではないでしょうか。この後、透明度のいいに日再度同じ画角で撮影しているので、随時画像処理していきます。


まとめ

今回の記事を書くのにものすごく時間がかかりました。理由は青ズレの解明でかなりの時間を使ったからです。

SVBONYさんとも連絡を取りながら、欠点もブログで正直に書いていくということ、そして開発側にフィードバックしてさらに改善していくことを互いに確認しました。ここらへんはメーカーとしての基本方針のようで、かなり好感の持てるところです。SVBONY初の冷却カメラです。ユーザーとしても新たなカメラメーカーが選択肢として出てくるのは大歓迎です。今後の成長も含め、できるだけ協力し、期待したいと思います。

まだ青ズレの原因は完全にはわかっていませんが、今回の一連の記事の中でできるだけ理由に迫ってみたいと思います。

次回の記事から新型ドライバーを適用します。さて、どこまで改善されているのでしょうか?


  1. SV405CCの評価(その1): センサー編 
  2. SV405CCの評価(その2): 撮影編 
  3. SV405CCの評価(その3): 画像比較
  4. SV405CCの評価(その4): 新ドライバーでの画像比較
  5. SV405CCの評価(その5): 青ズレの調査と作例
  6. 番外編1: 階調が出ない時のPedestalの効果
  7. 番外編2: ASI294MC Proでの結露


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