この記事は「実画像のノイズ評価(その3): 信号について」の続きになります。
久しぶりのブログ更新になってしまいました。実は小海の星フェスからコロナになってしまいました。4−5日で平熱に戻ったのですが、その後体力が全然戻らず、仕事から帰っても疲れ果ててすぐに寝てしまうことをずっと続けていました。新月期で晴れた平日もあったのですが、全く機材を出す気力がありませんでした。細々と今回の計算だけは続けていて、発症から3週間たってやっとブログを新たに書くくらいの気力がもどってきました。
というわけで前回の記事から結構経ってしまいましたが、今回の記事ではこれまでのノイズ評価がどこまで通用するか、具体例を検証してみたいと思います。だいこもんさんと、Niwaさんの協力もありましたので、いくつかの撮影条件を比べてノイズ評価が正しいかどうか検証してみることにします。
まずはこれまで通り、開田高原のものから。使っているカメラはASI294MM Proです。
1. Read noise
最初はRead noiseを検証してみましょう。比較すべきは、
2. Dark noise
次にDark noiseを検証します。こちらも比較すべきは、
3. トータルノイズ
さらに、開田高原で撮影したライトフレームの輝度から推測したノイズと、ライトフレームのノイズの実測値を視覚します。
4. Sky noise
輝度から推測したノイズと直接測ったノイズから、トータルノイズがかなり一致することがわかったということと、Read noiseもDark noiseも推測値と実測値がかなり一致していることがわかるので、残り(今は天体が写っていない部分を考えているので、天体からのショットノイズはないと考える)のSky noiseもそこそこ一致すると推測できます。Sky noiseは、トータルノイズからRead noiseとDark noiseを引いたものと考えることができます。ただしこの場合も、それぞれのノイズを2乗して、トータルからRead noiseとDark noiseを引く必要があることに注意です。その結果、Sky noiseは16.2[e]程度となりました。トータルノイズが16.3 [e]なので、Read noiseとDark noiseはほとんど効いていなくて、ほぼSky noiseに支配されていることがわかります。
開田高原撮影のまとめ
まとめると、
となります。
開田高原の暗い空であっても、L画像であること、口径260mmでF5のかなり光を集める鏡筒であることなどから、Sky noiseが支配的になってしまうのかと思われます。これが小さい口径で暗い鏡筒を使った場合や、明るい鏡筒でもナローバンドフィルターを使い入射する光を小さくした場合には、Read noiseとDark noiseが効いてくる可能性が高くなることに注意です。
少なくとも、これまで検証してきた開田高原で撮影したライトフレームでは、メーカーグラフからの読み取り値と実測などがかなり一致することがわかりました。他の例とも比べてみましょう。
ここでは4つを比較します。鏡筒、カメラ、露光時間、ゲイン、温度、背景光の明るさなどがそれぞれ違います。
個々の計算過程は省略しますが、結果は
となりました。各種条件はかなり違っていますが、どれも推測値と実測値がかなりの精度で一致しています。これまでの検証が大きく間違ってはいないことがわかるのかと思います。言い換えると、グラフからの推測値だけである程度正しいことがわかるので、今後の計算では実測値を用いなくともグラフから計算した値を用いて話を進めても、ほぼ問題ないと言えるのかと思います。
「背景光輝度からのトータルノイズ」と「Sky noise」を比較すると、やはりSky noiseが支配的なのがよくわかり、それでもチリ2のように暗いところで小口径の場合は、Sky noiseの貢献度が小さくなり、Read noiseやdark noiseの貢献度があるていど大きくなることがわかります。
逆に言うと、Read noiseやdark noiseが効かない範囲でうまく撮影されているとも言えます。Read noiseやdark noiseが支配的と言うことはある意味暗すぎるわけです。暗い鏡筒を使っていたり、1枚あたりの露光時間が足りなかったり、ゲインが小さすぎるなどの状況や、ナローバンドフィルターやかなりきつい光害防止フィルターを使った場合などは暗すぎる状況になることがあります。
Read noiseやdark noiseが効かない状態の撮影ができているなら、あとはどこまで淡いところが出るかは背景がどこまで暗くできるかに依ります。より暗い空が有利となってきます。この状態ではもう1枚あたりの露光時間を伸ばしても意味はなくなり、トータルの露光時間を伸ばすことでSky noiseの影響を小さくしていくしか手はありません。
今回の記事でははまだ1枚撮影のみをこと議論しているのですが、本当は多数枚撮影してスタックした時のことを考えて判断するべきですね。次回以降に議論できればと思います。
実は、鏡筒とカメラのパラメータがわかっている(口径、焦点距離、量子効率、ピクセルサイズ、コンバージョンファクターなど)ので、画像から撮影時の背景光の輝度が推測できるはずです。それぞれの場所でのSQMがわかっていれば、推測値と比較して画像として得られた背景光がある程度正しいのかどうか検証できるはずです。
結果としては、開田高原とだいこもんさんが撮影したチリの画像は、1.4倍くらい開田高原の方が明るかったです。開田高原はPolution Mapで見た場合、SQM21.8程度、チリはだいこもんさんによるとSQM22.1程度のことなので、10^((22.1-21.8)/2.5)=1.32倍なので、比較ではそこそこ正しいです。ただ、開田高原の当日の現地でiPhoneのアプリで簡易測定したSQMだと20.9が最高だったので、開田高原の実際はもっと(2.5倍くらい)明るかった可能性もあります。
でもNiwaさんが撮影したチリの画像からの推測値の輝度はだいこもんさんが撮影したものより1.8倍くらい明るく出てしまい、どうしても合いません。新月期ではないのではと思いましたが、撮影日から調べてみると新月期です。方向など何か別の明るい理由があったのか、まだ計算がどこかおかしいのかよくかっていません。Niwaさんのだけカメラが違うので、何か取り込めていないパラメータがある可能性もあります。
また、富山の自宅での撮影では開田高原より10倍以上明るく、Polution Mapで見たSQM20.6とかけ離れています。一つの可能性は、北の空なので街明かりが効いていたというのはあり得るかもしれません。と考えると、チリも方向によって明るさが結構違うのか?昔方個別の光害マップ「ふくろう」というのがあったのですが、残念ながらもう稼働していないようです。
いずれにせよ、画像ファイルからの背景光の輝度の測定はまだあまり正確ではないようなので、具体的な値は割愛します。だいこもんさんにも言われましたが、輝度は既知の恒星の明るさから求めるべきなのかもしれません。でも今回の範囲は越えるので、輝度の推測は諦めることにします。
これまでのノイズの検証が正しいかどうか、簡単にですが検証してみました。条件を変えてもそこそこ正確に見積もれているのかと思います。
といっても、メーカーが示しているグラフからの計算値との比較なので、ある意味そのグラフが実際の測定と正しいかどうかの検証とも言えます。少なくともメーカーが示しているグラフは、今回の測定で自己矛盾のような現象は見られず、実際にユーザーが手にしているカメラでの実測とかなり近い値となっていると思われます。
これ以降の記事では「グラフから推測したノイズはそこそこ正しい」と考えて進めていけばいいと言うことが言えるのかと思います。
久しぶりのブログ更新になってしまいました。実は小海の星フェスからコロナになってしまいました。4−5日で平熱に戻ったのですが、その後体力が全然戻らず、仕事から帰っても疲れ果ててすぐに寝てしまうことをずっと続けていました。新月期で晴れた平日もあったのですが、全く機材を出す気力がありませんでした。細々と今回の計算だけは続けていて、発症から3週間たってやっとブログを新たに書くくらいの気力がもどってきました。
というわけで前回の記事から結構経ってしまいましたが、今回の記事ではこれまでのノイズ評価がどこまで通用するか、具体例を検証してみたいと思います。だいこもんさんと、Niwaさんの協力もありましたので、いくつかの撮影条件を比べてノイズ評価が正しいかどうか検証してみることにします。
開田高原で撮影したファイルの検証
まずはこれまで通り、開田高原のものから。使っているカメラはASI294MM Proです。
1. Read noise
最初はRead noiseを検証してみましょう。比較すべきは、
- ASI294MM ProのRead noiseのグラフから読み取ったノイズ
- 自分で撮影したBiasファイルから実測したノイズ
- 今回の撮影ではゲインを120としたので、その時のRead noiseの値をグラフから読み取ると、1.8 [e]程度でしょうか。
- その一方、Baisファイルはゲインを120として、最初露光時間(0.032ms)で撮影し、RAW16のfits形式で保存します。実測はPixInsightのStatisticsツールをつかいました。撮影されたファイルは実際には14bit階調なので、Statisticsツールで「14bit [0,16383]」を選びます。その時のavgDevの値を読むと2 [ADU]となります。この場合単位はADUなので、比較できるようにeに変換するため、コンバージョンファクターを使います。コンバージョンファクターはグラフの縦軸「Gain(e/ADU)」から読み取ります。横軸の「Gain(0.1dB)」の120のところでは0.95 [e/ADU] 程度となります。これを使うと、Baisファイルのノイズは1.9 [e]となり、グラフから読み取った値にほぼ一致します。
2. Dark noise
次にDark noiseを検証します。こちらも比較すべきは、
- ASI294MM Proの Dark currentのグラフから読み取った暗電流値から計算したdark noise
- 自分で撮影したDarkファイルから実測したノイズ
- 今回の撮影時の温度は-10℃、1枚あたりの露光時間は300秒です。グラフから安電流は0.006 [e/s/pix]程度、露光時間の300 [s]をかけて1.86 [e/pix]。単位がeなので、ノイズはそのルートをとればよく、ピクセルあたりでは1.3 [e]となります。
- 一方、自分で撮影したダークファイルから、Biasファイルの時と同様にノイズをPixInsightで実測すると2.5 [ADU]となりました。これをコンバージョンファクター0.95[e/ADU]で単位をeに変換してやり、2.38 [e]となります。ここからRead noise 1.8 [e]を引いたものが実測のDark noiseとなります。ただし引く際には、互いに相関のないランダムなノイズなので、実測値の2乗とRead noiseの2乗の差を取り、ルートを取ることになります。出てきた値は1.4 [e]となりました。
3. トータルノイズ
さらに、開田高原で撮影したライトフレームの輝度から推測したノイズと、ライトフレームのノイズの実測値を視覚します。
- 天体や分子雲が支配的でない暗い部分の輝度をPixInsightのStatisticsで実測すると、920 [ADU]程度となりました。ここから撮影時のオフセット40x16=640を引き、実際の輝度が280[ADU]であることがわかります。これをコンバージョンファクターで[e]にすると266 [e]。単位が[e]なので、ノイズは輝度のルートをとると直接出てきて、16.3 [e]となります。
- その一方、ライトフレームからPixInsightのStatisticsでノイズを直接測定すると、16.9 [e]となりました。
4. Sky noise
輝度から推測したノイズと直接測ったノイズから、トータルノイズがかなり一致することがわかったということと、Read noiseもDark noiseも推測値と実測値がかなり一致していることがわかるので、残り(今は天体が写っていない部分を考えているので、天体からのショットノイズはないと考える)のSky noiseもそこそこ一致すると推測できます。Sky noiseは、トータルノイズからRead noiseとDark noiseを引いたものと考えることができます。ただしこの場合も、それぞれのノイズを2乗して、トータルからRead noiseとDark noiseを引く必要があることに注意です。その結果、Sky noiseは16.2[e]程度となりました。トータルノイズが16.3 [e]なので、Read noiseとDark noiseはほとんど効いていなくて、ほぼSky noiseに支配されていることがわかります。
開田高原撮影のまとめ
まとめると、
グラフから読み取ったRead noise | 1.8 | [e] |
実測のRead noise | 1.9 | [e] |
グラフから読み取ったDark noise | 1.3 | [e] |
実測のDark noise [e] | 1.4 | [e] |
背景光の輝度から推測したトータルノイズ | 16.3 | [e] |
実測のトータルノイズ [e] | 16.9 | [e] |
Sky noise | 16.2 | [e] |
となります。
開田高原の暗い空であっても、L画像であること、口径260mmでF5のかなり光を集める鏡筒であることなどから、Sky noiseが支配的になってしまうのかと思われます。これが小さい口径で暗い鏡筒を使った場合や、明るい鏡筒でもナローバンドフィルターを使い入射する光を小さくした場合には、Read noiseとDark noiseが効いてくる可能性が高くなることに注意です。
条件を変えた場合
少なくとも、これまで検証してきた開田高原で撮影したライトフレームでは、メーカーグラフからの読み取り値と実測などがかなり一致することがわかりました。他の例とも比べてみましょう。
ここでは4つを比較します。鏡筒、カメラ、露光時間、ゲイン、温度、背景光の明るさなどがそれぞれ違います。
- 開田高原: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
- 自宅: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
- チリ1: RS200SS (d200mm、f760mm)、ASI294MM Pro、露光時間120秒、gain120、-20℃
- チリ2: FSQ106N (d200mm、f760mm)、ASI1600MM Pro、露光時間300秒、gain0、-20℃
個々の計算過程は省略しますが、結果は
1. 開田高原 | 2. 自宅 | 3. チリ1 | 4. チリ2 | |
グラフからのRead noise [e] | 1.8 | 1.8 | 1.8 | 3.6 |
実測のRead noise [e] | 1.9 | 1.9 | 1.9 | 3.6 |
グラフからのDark noise [e] | 1.3 | 1.3 | 0.9 | 1.4 |
実測のDark noise [e] | 1.4 | 1.4 | 0.9 | 1.3 |
背景光輝度からのトータルノイズ [e] | 16.3 | 49.3 | 12.0 | 7.0 |
実測のトータルノイズ [e] | 16.9 | 51.3 | 12.5 | 8.3 |
Sky noise [e] | 16.2 | 49.3 | 11.8 | 5.8 |
となりました。各種条件はかなり違っていますが、どれも推測値と実測値がかなりの精度で一致しています。これまでの検証が大きく間違ってはいないことがわかるのかと思います。言い換えると、グラフからの推測値だけである程度正しいことがわかるので、今後の計算では実測値を用いなくともグラフから計算した値を用いて話を進めても、ほぼ問題ないと言えるのかと思います。
「背景光輝度からのトータルノイズ」と「Sky noise」を比較すると、やはりSky noiseが支配的なのがよくわかり、それでもチリ2のように暗いところで小口径の場合は、Sky noiseの貢献度が小さくなり、Read noiseやdark noiseの貢献度があるていど大きくなることがわかります。
逆に言うと、Read noiseやdark noiseが効かない範囲でうまく撮影されているとも言えます。Read noiseやdark noiseが支配的と言うことはある意味暗すぎるわけです。暗い鏡筒を使っていたり、1枚あたりの露光時間が足りなかったり、ゲインが小さすぎるなどの状況や、ナローバンドフィルターやかなりきつい光害防止フィルターを使った場合などは暗すぎる状況になることがあります。
Read noiseやdark noiseが効かない状態の撮影ができているなら、あとはどこまで淡いところが出るかは背景がどこまで暗くできるかに依ります。より暗い空が有利となってきます。この状態ではもう1枚あたりの露光時間を伸ばしても意味はなくなり、トータルの露光時間を伸ばすことでSky noiseの影響を小さくしていくしか手はありません。
今回の記事でははまだ1枚撮影のみをこと議論しているのですが、本当は多数枚撮影してスタックした時のことを考えて判断するべきですね。次回以降に議論できればと思います。
撮影時の背景光の輝度推測
実は、鏡筒とカメラのパラメータがわかっている(口径、焦点距離、量子効率、ピクセルサイズ、コンバージョンファクターなど)ので、画像から撮影時の背景光の輝度が推測できるはずです。それぞれの場所でのSQMがわかっていれば、推測値と比較して画像として得られた背景光がある程度正しいのかどうか検証できるはずです。
結果としては、開田高原とだいこもんさんが撮影したチリの画像は、1.4倍くらい開田高原の方が明るかったです。開田高原はPolution Mapで見た場合、SQM21.8程度、チリはだいこもんさんによるとSQM22.1程度のことなので、10^((22.1-21.8)/2.5)=1.32倍なので、比較ではそこそこ正しいです。ただ、開田高原の当日の現地でiPhoneのアプリで簡易測定したSQMだと20.9が最高だったので、開田高原の実際はもっと(2.5倍くらい)明るかった可能性もあります。
でもNiwaさんが撮影したチリの画像からの推測値の輝度はだいこもんさんが撮影したものより1.8倍くらい明るく出てしまい、どうしても合いません。新月期ではないのではと思いましたが、撮影日から調べてみると新月期です。方向など何か別の明るい理由があったのか、まだ計算がどこかおかしいのかよくかっていません。Niwaさんのだけカメラが違うので、何か取り込めていないパラメータがある可能性もあります。
また、富山の自宅での撮影では開田高原より10倍以上明るく、Polution Mapで見たSQM20.6とかけ離れています。一つの可能性は、北の空なので街明かりが効いていたというのはあり得るかもしれません。と考えると、チリも方向によって明るさが結構違うのか?昔方個別の光害マップ「ふくろう」というのがあったのですが、残念ながらもう稼働していないようです。
いずれにせよ、画像ファイルからの背景光の輝度の測定はまだあまり正確ではないようなので、具体的な値は割愛します。だいこもんさんにも言われましたが、輝度は既知の恒星の明るさから求めるべきなのかもしれません。でも今回の範囲は越えるので、輝度の推測は諦めることにします。
まとめ
これまでのノイズの検証が正しいかどうか、簡単にですが検証してみました。条件を変えてもそこそこ正確に見積もれているのかと思います。
といっても、メーカーが示しているグラフからの計算値との比較なので、ある意味そのグラフが実際の測定と正しいかどうかの検証とも言えます。少なくともメーカーが示しているグラフは、今回の測定で自己矛盾のような現象は見られず、実際にユーザーが手にしているカメラでの実測とかなり近い値となっていると思われます。
これ以降の記事では「グラフから推測したノイズはそこそこ正しい」と考えて進めていけばいいと言うことが言えるのかと思います。