ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ: アイデア、理論など

Twitterでおののきさんももやすがガイド鏡に言及されていて、タカsiさんが0.5秒ガイドに助けられているとコメント、更におののきさんがCGXが暴れることがある時に(速いガイドが)効果があると言っています。



私もCGX-Lでの赤経側で発振のように周期的に揺れが出る傾向があり、ガイド鏡のサンプリングレートを0.2秒にすると軽減したことがあります。



原因はある程度推測していたのですが、いまいち自信がなくそのときはブログ記事を一旦書いて、削除した覚えがあります。でもおののきさんも同じように、ガイドを速くしたら暴れを抑えられると書いているので、同じ現象かはわかりませんが、可能性の一つとして書いておこうと思います。


発振のメカニズム

今回の周期的に揺れが大きくなる現象が、推測する「発振」だとして話を進めると、制御の言葉で言う「位相遅れ」というのを理解しなくてはいけません。制御に詳しい方や、回路などに詳しい方はこの時点ですでにピンときているかもしれません。

まず何か揺れているもの、例えば振り子を考えてみましょう。紐にぶら下げた質量、何でもいいですがここではすぐ横にあるMacのバッテリーで代用しましょう(本来は振り子ではありません(笑)。もし同じように試す場合は目的外使用ですので自己責任でお願いします。)

ケーブルにつられたバッテリーは、持っている根本の揺れに依存して、常に揺れています。特に振り子の長さだけによって決まる共振周波数あたりでは、揺れは増幅され大きく揺れます。

A2E3BC2F-66C0-4808-9AC5-199C9549EEC6

その揺れを抑えるために、あるセンサー(ここでは「目」)を用いてその揺れを観測し、揺れを抑えるようにアクチュエーター(ここでは空いている方の手の「指」)を用いてバッテリー本体に力を加えます。バッテリーが大きく揺れている時、目でその揺れを見て、その揺れが収まるように指で突いて力を加えてやり、それを何度かすることで徐々に揺れの振幅を小さくすることが可能です。

7964D119-25B6-46D1-ACC2-82B50B0FEB25

力を加えるタイミングに注目してみましょう。揺れを抑えるためには、「振り子が指に迫ってくる」時に力を加えているはずです。もしこのタイミングが遅れて「振り子が指から離れていく」時に力を加えると、揺れは収まるどころかどんどん大きくなっていくはずです。これが「発振」です。


位相余裕と発振

もう少し考えます。この振り子の大きな共振周波数あたりでの揺れは、ある振幅と位相をもって揺れています。位相というのは1周期で360度となるような時間的なタイミングを表します。振り子が指から最も離れて、方向が反転する瞬間の位相を0度とします。振り子が指に迫ってきて、最も近づいて方向がさらに反転する瞬間が位相180度です。振り子の揺れを止めるためには、位相が180度になる手前で力を加える必要があります。位相が180度を超えて力を加えると「発振」するということです。この時の「180度になるどれくらい前」に力を加えているかというのを「位相余裕」と呼びます。通常位相余裕は数10度は欲しくて、0度に近づくほど発振に近くなります。

ここまでは共振周波数付近のみでの説明でしたが、実際は大きな揺れではないですが、振り子は共振周波数以上でも以下でも揺れています。常に速い細かい揺れがあるとかを想像してください。目でこの揺れを見るのは難しいかもしれませんが、それこそ望遠鏡などで拡大して見てやれば小さな揺れも見えますね。これらの速い揺れもやはり抑えてやりたいわけです。でも速い揺れに対しては反応も早くなくてはダメで、その反応が遅れると「位相余裕」がなくなっていきます。速い揺れに対して遅い力で抑えようとしても、反応が遅いために「位相余裕」がなくなり揺れが増幅される、これが「発振」です。


赤道儀のガイド制御ループでの遅延

さて、これらのことを今回の赤道儀の周期的な揺れに置き換えてみましょう。まず、センサーはガイド鏡のCMOSカメラで、対象はガイド鏡で見たガイド星の位置になります。アクチュエーターは赤道儀についているモーターです。位相を遅らせる原因はさまざまなものがあります。
  1. まず、カメラで星を見てPCに取り込むまでに時間がかかります。時間の遅延になるので位相余裕を食います。
  2. カメラの画像から星の位置を計算をするのに時間がかかります。ここでも位相余裕を食います。
  3. その位置をもとに、どうフィードバックフィルターを設計して赤道儀に返すか(PHD2のパラメータ調整に相当)ですが、フィルターの設定度合いによって遅延が起きます。
  4. モーターは信号が来て初めて動くので、そこでも当然遅延が発生します。
  5. モーターが動いても、実際の赤道儀が反応するまでには有限の時間が必要なので、ここでも遅延が発生します。
これら遅延の全てが位相を食っていき、位相余裕が0度より多く残っていれば発進を防ぐことができ、揺れを抑えるという制御は成立します。


では何が原因か?

こうやってみると遅延だらけですが、この中で今回重要なのは、センサーから星の位置を特定するまでの遅延と、赤道儀のメカ的な遅延です。

まず、PHD2でのガイドのタイミングを0.5秒とか、0.2秒とか速くしたということは、カメラからの読み取りのサンプリングレート速くし、情報を速く取り入れるということに相当します。遅延が少なくなるので、位相余裕が食われにくくなります。

ではなぜCGXやCGX-L特有で揺れが問題になるのか?一つは大きくて重い赤道儀だからというのがあると思います。赤緯体よりは赤経体の方が(赤緯体自身も含むので)重いはずです。揺れなので慣性モーメントで議論すべきですが、当然赤経体の慣性モーメントも大きいです。慣性モーメントが大きいということは、外力に対して反応が遅いということを意味しているため、ガイド信号に対する応答も遅く、遅延の原因になり、位相余裕を食います。その他にCGXやCGX-L特有でメカ的に何かロスなどがあり、遅延を発生しているという可能性もあるかもしれません。

いずれにせよ、大きく重い赤道儀を駆動する場合、発振は起きやすいということは定性的にはそれほど間違ってはいないでしょう。


解決策の例

では解決策はというと、
  1. 応答を速くすることができる場所でできるだけ速くする。今回はカメラの取り込みのレートを、1秒とかから0.5秒や0.2秒と、2倍から5倍くらい速くしたこと。
  2. もう一つは、制御全体のゲインを下げることです。これはPHD2の「Agressiveness」を下げるとかでしょうか?結局トータルのゲインは赤道儀自身の応答(周波数で測った伝達関数)を含むので、PHD2の一つのパラメータだけで調整できるものでもありません。いずれにせよ、制御が効いている周波数帯域で位相余裕が残っていればいいわけですから、制御帯域を狭め位相余裕が残っている遅い周波数帯だけで制御するというセンスです
こう考えると、CGXやCGX-Lは高周波の応答が悪い何らかの理由があるのではという推測も出てきます。

とまあ、対処療法的にはいくつか解決策も考えることができるので、他にもアイデアがあれば試していきたいと思います。ただし、あくまでこの揺れが「発振」によるものだとしてですが。


少し冷静に、発振でない可能性も

あと、ここまで書いたことは古典制御の範囲で「線形性」を仮定しています。モーターを使った制御の場合は線形性は保証されません。モーター制御の話は詳しくないので、もしかしたら全然勘違いしたことを書いている可能性もあります。その場合はゴメンなさい。

今回議論した、「制御の位相余裕がないことによる発振」ではない可能性としては、何か周期的な機械的な歪みがあることが考えられますが、調べてみるとCGX-Lによくある現象の様です。系統的に何かCGX、CGX-Lにメカ的に問題がある可能性はありますが、状況によって大きく変わるというのはメカものというよりは、制御系と考えた方がスッキリします。


まとめ

制御についてこのブログで扱ったことは今回が初めてかと思います。

ガイド制御ループの位相遅れが原因の、位相余裕の無さによる発振と考えるとかなりすっきりすると思いますが、まだ他のCGX系特有の別の理由の可能性もあり得ます。私のところでもすでに何度か再現していて、そこそこ再現性はありそうなので、もう少しじっくり見ていきたいと思います。

今回の話は古典制御のさわりみたいなものですが、理解しておくと望遠鏡にも色々役立つことは多いと思います。もし興味がある人がたくさんいるなろ、Zoomとかで勉強会を開くとかもいいのかもしれません。結構マニアックな話になると思いますが、そんな人いますかね?



 

 



せっかくの素晴らしい画像なのに回転角がずれてる!?

Masa@MasaAstroPhotoさんの超長時間露光の北アメリカ画像を開いたときに、何度かカメラの回転角を合わせた形跡がありました。

masterLight_BIN-1_EXPOSURE-180.00s_462

スタックされた画像を解析してみると、約9.5度南北からズレていることがわかりました。Annotationで赤経、赤緯の線を入れるとはっきりしますね。

masterLight_clone_Annotated

私は「天体写真は必ず北を上にしなければならない」とか言う暗黙のルールは特にこだわる必要がないと思っていて、例えどの方向が上でも、さらに東西南北以外の任意の角度が上でも全然構わないと思っています。ただし、今回のように露光ごとに角度が変わっているのは、場所によって露光時間が変わってしまい、均等な画像処理がしにくくなり、出来上がり精度も変わってくるので、もったいないと思います。

今回もあえて10度位ずらしたというなら全然問題ないのですが、途中でずれているところを見るときちんと合わせきれなくてずれてしまったのではないかと推測します。もし本当にそうだとしたら、ここまで丁寧に撮影した画像から言ったらちょっとした悲劇です。

なので今回の記事では、カメラの回転角を簡単に合わせる方法を記しておきたいと思います。


カメラ回転角を合わせる方法

私がこれまで処理した画像はよくAnnotationで赤経赤緯度の線を入れるのですが、画像処理の時に回転で合わせているのではなく、撮影時に合わせてしまっています。ほとんど1度以下くらいの精度であっていると思います。これくらいの精度では簡単に合わせることができます。

といっても新しい方法ではなく、やっている人は普通にやっていると思います。私はFacebookでSさんの書き込みから学びました。

カメラの回転角を合わせるのはいろんな方法があると思います。カメラに水準器を貼り付けているのも一つの方法ですね。鏡筒のスパイダーがきちんと縦横に向いているのなら、それが縦横に向くように合わせるのも一つの方法ですが、これは屈折だと使えないですね。

今回示す方法は至って簡単です。
  1. 赤道儀、鏡筒をセットし、カメラを取り付けその映像を見える状態にする。
  2. 赤道儀を適当に動かして目立つ星を導入して、画面に映す。
  3. 赤緯を一方向に動かして、その時の星の動きをPCの画面などで見る。
  4. この時、星がぴったり水平、もしくはぴったり垂直に動くならカメラの回転角は合っています。SharpCapなら同心円のレチクルを画面上に出しておくと縦横の線が出るのでわかりやすいでしょう。
  5. もし赤緯をモーターなどで動かして、星がこの線に沿って動かないなら、カメラの回転角を調整してください。
これだけです。私の場合さらに具体的には、
  1. SharpCapで縦横の線を出し、
  2. ターゲットの星がその交点に来るように赤道儀で導入して、
  3. そこから赤緯を一方向に星が画面の端に来るまで動かし、
  4. カメラの回転角を動かしてその星が十字線の上に来るように
調整します。

この方法はCMOSカメラとPCを前提としていますが、一眼レフカメラでもライブビュー画像を見ることができるなら十分可能です。私はEOS 6DをBackYardEOSでPC上にライブビューを映して合わせたりして同様の方法で調整しています。


星を使わなくても、昼間でも調整できる!

基本はこれだけなのですが、ここからはちょっとオリジナルなアイデアです。といっても同じような考えを思いついた方もたくさんいらっしゃると思いますが。

この方法をよく考えると色々応用が効きます。例えば目印にするのは星にこだわる必要はないのです。要するに、赤緯の動きに対してカメラで映した画像が斜めに動かないようにすればいいので、星以外、例えば何か目立つライトとかでもいいのです。

もっと言うと、わざわざ夜を待って合わせる必要もありません。明るいうちに何か遠くの目立つものにピントを合わせて、それが赤緯モーターの動きに合わせて、垂直か水平に動けばいいので、なんと昼間のうちにカメラ回転角が調整できてしまうのです。

以前Twitterでこの方法に言及したときに一番敏感に反応してくれたのがあぷらなーとさんでした。みなさんご存知の通り、何本もの鏡筒を同時に赤道儀に載せて撮影しているあのあぷらなーとさんです。「複数鏡筒のカメラの回転角を、昼間のうちに正確に合わせることができるのでかなり時間を短縮できる」というようなことをおっしゃっていたかと思います。


まとめ

私は毎回このような方法でカメラの回転角を合わせています。極軸を合わせたついでとかでしょうか。短時間でできて、画像処理で角度を合わせ直す必要がないくらいの精度で合わせることができるので、かなり便利です。

新しい方法というわけではないですが、これまで知らなかった方はぜひ一度試してみて頂けたらと思います。

SharpCap(有料版のみ)やASILiveには、リアルタイムでダーク補正をしてくれる機能がついています。これがどこまで有効なのか、常にオンにしておいた方がいいのか?色々やり方はあると思います。今回は私Samが普段どうしているかSharpCapを使って解説したいと思います。


ホットピクセルがはいずった痕

SharpCapでの電視観望中Live stackをしていると、よく赤、青、緑の単色のミミズみたいなノイズが入ることがあります。「ホットピクセル」とか言われているもので、長時間露光時やセンサー温度が高い時に出てくるダークノイズの言われるもの一種です(下の画像をクリックして拡大して見て下さい)。
hot

この画像は、自動追尾さえしてなくて、Livestackのみで星像を重ねています。なのでこんな短時間で長いミミズさんがでてますが、自動追尾している場合は同じ時間ならこれより遥かに短くなります。

いずれにせよ電視観望でも見栄えが良くないので、これを取り除きたくなるかと思います。こんな時はリアルタイムでダーク補正ができる機能があります。


ダーク補正機能の注意点1

SharpCapでのダーク補正は簡単で便利なのですが、いくつか注意があります。まず一つ目、これはSharpCapに限らず一般的なことなのですが、

撮影したダークフレームは、
同じ露光時間、同じゲインでしか
使用できない

ということです。見たいものが安定していて、露光時間とゲインが確定していれば問題ないのですが、電視観望みたいに露光時間やゲインをちょこちょこ変えて見ていると、ダークフレームをどの設定で撮影すればいいか決まりません。もちろん厳密に合わせなくてもダーク補正の効果はあります。ただし、設定がズレればずれるほど、その補正効果も小さくなっていくので、やはりできるだけ合わせておいた方がいいでしょう。

実際の電視観望では、導入時(移動する動きを見たいので、露光時間は例えば400ms程度)、観察時(止まっているので長い露光時間、例えば1.6秒とか、3.2秒、長くても12.8秒程度まで)の露光時間をあらかじめ決めておきます。ゲインは最大から一段階下げるくらいで、高い位置のままいじりません。このようにして、ダークフレームは観察時の設定に合わせるように一種類だけ撮影しておけば、基本的には事足りるはずです。何種類もとって切り替えてもいいですが、観望会でお客さんがいる時などは、時間のロスになってしまうかもしれません。


ダーク補正機能の使い方

SharpCapでの実際のダーク補正のやり方です。

1. まずはメニューの「キャプチャ」から「ダークフレームキャプチャ」を選びます。
2. 撮影前に、必ず鏡筒に蓋をするのを忘れないで下さい。
3. 枚数は多くなくていいです。8枚とか、16枚で十分でしょう。ただし、撮影のようなことをしたくて数十分以上とかの超長時間ライブスタックを掛ける場合はそれなりの枚数にして下さい。
darkcapture

4. ダークフレームの撮影を開始し、スタックし終わるのを待ちます。
darkcapturing

5. ダークファイルができたら、右の「前処理」タブの「ダーク補正」で「参照」を押し、ダークファイルを選択します。自動的にできたファイルのフォルダに移動さるはずなので、そこにあるファイルを選べばいいでしょう。

これでLive stackをしてみると、目立っていたミミズさんはすっかり消えているはずです。ただ、細かいたくさんの縞が残るかもしれません。それでもダーク補正しないよりはマシになるかと思います。

LS_80


ダーク補正機能の注意点2

さて、ここから少しテクニックです。この状態で鏡筒にカバーをしてヒストグラムを見てみましょう。
nohot

ここでの問題は、ヒストグラムの山の左端が切れてしまっていることです。SharpCapでは輝度が負の値になるようなことはなく、0以下は全て0になるようなので、ものすごくおかしなことは発生しません。でもこれは読み出しノイズがガウス分布に従わずに、不自然な状態になってしまっていることになります。言い換えると、
リードノイズの暗い部分はバッサリ斬られていて、
階調がとれなくなります
これが2つ目の注意点です。

階調がとれないとはどういうことでしょうか?例えば、先ほどの北アメリカ星雲を見ている時に輝度をあえて下げてやって、ヒストグラムの山の左端を欠いてやります。

LS_bad

ライブスタックのヒストグラムの左が欠けていますね。すると色バランスが損なわれ、どういじってもこの画像のように見た目にもおかしいものしか出てきません。

これは極端な場合なので、普通に電視観望している範囲では基本的にはこんなことは発生しません。でも、もし画像を見て階調が取れないような時は変にヒストグラムがカットされていないかを疑った方がいいこともあるので、心に留めておきましょう。


ヒストグラムの山を回復する

さて、リードノイズに関して、このような階調不足を避ける方法を考えます。まず、ダークフレームを撮影する前に、右の「画像情報」タブの「輝度」のところを、最初から少しあげておきます

withhot

私は最大値(ASI294MCの場合80)の半分くらい(40)にします。ポイントは右パネルのの「ヒストグラムストレッチ」で見て、まずはダークフレーム取得時点で山の左が欠けていないことを保証すること。山の左すそが、一番下まで言っていればいいです。山が左に行きすぎて左すそが途中で無くなっているような状況は避けてください。

ここまではいいのですが、この状態でダークフレームを撮影してダーク補正を適用すると、オフセットも消そうとするためヒストグラムの山の左が欠けた状態になります。
nohot

ここで、さらに「画像情報」タブの「輝度」の値を上げて、ヒストグラムに山の左側に欠けがないように再び設定します。

nohot_withoffset
山が回復したのがわかるかと思います。

ちなみに、電視観望をやっているだけなら、上記の補正は特にしなくても、特におかしいことはないと思います。補正の有無で以下のようになります。

LS_80
輝度補正なし(40のまま)。

LS_80real
輝度補正あり(80に増加)。

補正有無で比べても特にどちらかが悪いということはないと思います。ただこれを画像処理とかして、撮影画像とかして扱うときは補正なしだと少し気をつけた方がいいかもしれません。リードノイズに相当する部分が既に破綻しているので、もしかしたら何か影響があるかもしれません。


リアルタイムダーク補正は必要か?

ちなみに、私は電視観望の際は大原則としてリアルタイムダーク補正はしません。理由は、露光時間、ゲインを頻繁に変えることが多いからです。また、月や惑星などの明るい天体を見ていて、ライブスタックに入らないような場合には、ホットピクセルは点のままで線にはならないので、そこまで問題にならないはずです。

ホットピクセルが多い場合(カメラの機種に依りますし、気温にも依ります。)で、ライブスタックに入り、かつ露光時間とゲインの設定をあまりいじらなくていいくらいになると、リアルタイムダーク補正をすることがあります。特に、ライブスタックで数分以上の長さでしばらく放っておくような時です。

リアルタイムダーク補正を行う際は、上で説明したリードノイズの山の形の補正は必ずやるようにしています。といっても、炙り出しがキワキワになった時にもしかしたら効くかもしれないと思ってしまうからという程度です。

あとよく似たことで、リアルタイムフラット補正は使ったことがないです。これは鏡筒の方向を変えるとカブリなどの状況がガラッと変わるからです。かなり昔に一度だけリアルタイムフラット補正を試したことがありますが、あまりうまくいかなくてそれ以来使っていません。その頃から大分状況は変わっているので、もしかしたら今試してみたらもう少しいい方法があるのかもしれません。


まとめ

いつかこのリアルタイムダーク補正の話を書こうと思って、途中書きになっていたのですが、前回の記事のコメントでちょうどカトーさんからダーク補正についての質問がありました。これが答えになってくれるといいのですが。


sanpojinさんのSharpCapでの極軸測定がうまくいかないという記事を見て、どうもたわみが原因な気がしました。三脚の足を伸ばし切って極軸測定しているため、足元が弱くて、赤経体を90度回転させるとたわんで正確な測定ができていないのではと思ったのです。

逆に、もしたわみによって極軸調整の精度がずれするなら、そのSharpCapでのズレの値評価することでたわみ自身が定量的に測定できるのではと思い、今回考えてみました。

IMG_0829


たわみの測定原理

簡単なところから考えます。

まず、赤道儀が完全に天の北極を向いていて、極軸に誤差がない状態を考えます。もしこの状態でSharpCapで極軸調整をしたら、誤差は0と出ます。この誤差がなく、赤経体が最初上を向いている状態を初期状態としてはじめます。
  1. 最初極軸に誤差がない状態から、SharpCapの極軸測定中に90度赤経体を西側に回転させたときにたわみが発生したとします。簡単のために、鉛直方向に鏡筒が傾き、視野が1度角下を向いたとします。
  2. このときSharpCapは極軸が元々1度ずれていたのか、それともたわんだ結果1度角ずれて見えているのか分からないため、とにかく極軸が1度ずれていると表示してしまいます。
  3. そこで人間が赤道儀の仰角を1度(間違えて)上げることでSharpCapは正しく極軸が設定されたと勘違いをします。でも現実にはこの時点ではSharpCapも人間も本当は極軸が間違っていたのか、たわみでずれたのか知る由はありません。
さて、この90度回転している状態で、再度極軸調整を最初からやり直します。
  1. 鏡筒はまだ下に1度角ずれたところを見ていますが、SharpCapはそんなことは知りませんし、お構いなしです。
  2. 再び赤経体を90度戻す方向に回転させると、今度は鏡筒のたわみが解消され元の位置に戻ります。
  3. そのとき、西側に倒していたものを戻したので、鏡筒は東側にたわみが1度角戻る方向に動きます。
  4. SharpCapは最初の鏡筒の位置のズレなどお構いなしなので、最初から見て視野が1度東にずれたことのみを認識します。すなわち極軸が東1度ずれていると表示するわけです。
  5. と、同時に1回目の調整で勘違いして赤道儀を上に1度角ずらしてしまっているので、そのズレも検出されます。そのため、SharpCapは東と上方向に極軸が1度角ずれていると認識します。
2度目の測定で出た結果のズレは元々たわみから来ているので、たわみのずれの量そのものと比例しているというわけです。

最初極軸が理想的にあっている状態から考えましたが、もし1度目の極軸調整の前にもともと極軸がずれていたとしたらどうなるでしょうか?それでも1度目の調整を終えた後は「極軸があった状態+たわみでずれた位置」になるので、2度目の調整時のはじめには同じ状態になりますね。


イメージしにくい場合

上の説明を読んでもなかなかわかりにくいと思います。まずはSharpCapでの極軸調整(ちょっと古い記事ですがリンクを張っておきます。)を一度試してみて下さい。これをやらないと何を言っているのかよく分からないと思います。

その上で、90度赤経体を回転させたときに、たわみの代わりに赤緯体をコントローラーで例えば1度角落とす方向に回転させることを考えてみて下さい。その赤緯体の回転を補正するように、赤道儀全体の向きを変えるというようにイメージするとよくわかるかもしれません。

赤経体を90度戻すときも、先ほど赤緯体を1度角落としたのをコントローラーで戻してやると考えるとわかりやすいと思います。


他の方向のたわみの例

他のたわみの方向も同様に考えてみます。
  • もし最初に赤経体を90度西側に傾けたときに、たわみが西側(外側)に1度でるなら、それを補正するように東に赤道儀を1度間違って調整し、2度目の極軸調整で90度戻すときに上に1度角たわみが戻るのを下向きに補正するので、東の下向き方向に極軸がずれていると表示されるはずです。
  • 赤経体を西に回転させたときに、たわみが東側に起きることもあるでしょう。
  • 視野を考えているので、もしかしたらたわみ(見ている方向が)が上向きに動くことも可能性としてはあるでしょう。

全部の場合を書き出してみる

全部の場合をまとめて書いておきます。

赤経体を西に回転させたとき
  • たわみが下向き -> 東上向きのズレになる
  • たわみが西向き -> 東下向きのズレになる
  • たわみが東向き -> 西上向きのズレになる
  • たわみが上向き -> 西下向きのズレになる

赤経体を東に回転させたとき
  • たわみが下向き -> 西上向きのズレになる
  • たわみが西向き -> 東上向きのズレになる
  • たわみが東向き -> 西下向きのズレになる
  • たわみが上向き -> 東下向きのズレになる
となります。


一般化

簡単な数学で考えてみます。今、東のズレと西のズレをそれぞれ右のズレと左のズレと考えると、赤経体を西に回転させたときは、「たわみからSharpCapでのずれ」の変換が+135度の回転写像、赤経体を東に回転させたときは「たわみからSharpCapでのずれ」の変換が-135度の回転写像と考えることができます。

一般化すると、SharpCapで最初の極軸調整で90度赤経体を進めて、2度目に90度戻してたときの誤差を(x2, y2)とすると、たわみによってずれた角度(x1,y1)は

x1 = x2 cosθ - y2 sinθ
y1 = x2 sinθ + y2 cosθ

となる。θは赤経体を西に回転させたときは+135度、赤経体を東に回転させたときは-135度である。ただし、赤経体を元の位置に戻したらたわみは戻るものと仮定する。

ということが言えます。

ちなみにsin135°=1/√2、cos135°=-1/√2なので、

x1 = -1/√2 (x2 + y2)
y1 = 1/√2 (x2 - y2)

となります。


現実的には

でもこのままだとちょっと計算が面倒なので、簡単のためにもっと現実的な場合を考えましょう。基本的にたわみはほぼ垂直方向にのみ起こると考えってしまって差し支えないと思います。なので、x2とy2の絶対値はほぼ同じような値になると期待できます。SharpCapの2度目の極軸調整で出てきた誤差のx2かy2のどちらかの値を√2 = 1.4倍くらいしてやった値が実際のたわみと考えてほぼ差し支えないと思います。

もしx2とy2の絶対値に結構な差があるならば、たわみに横向きの成分があることになります。

まじめに計算してもいいのですが、もし更なる測定を厭わないならば、最初に西向きに赤経体を回転させて2度測定したならば、次は東向きに赤経体を回転させてさらに2度測定します。東向きの誤差の結果をx4、y4とすると、(もし横向きのたわみが西に回転させたら西に、東に回転させたら東に出るならば)
  • x2とx4は逆符号で、絶対値は似たような値
  • y2とy4はどう符号で絶対値は似たような値
になるはずです。なので、x2+x4は0で、
  • (x2-x4)/2が横方向のたわみを表し
  • (y2+y4)/2が縦方向のたわみを表します。
一番厄介なのが、もし横向きのたわみが西に回転させたら西に、東に回転させても西に出る(多分レアな)場合で、これはどうしようもないです。向きだけでなく、たわみの大きさも違う可能性があり、東向きと西向きを測定し、真面目に計算する方が早いです。まあ、そもそも横方向のたわみを相手にすること自身稀だと思うので、こんなのはホントにレアなケースだと思いますが。


任意の回転角のたわみ量

今回の結果は赤経体を90度傾けた時のたわみ量です。90度以下の場合はφにたわみを知りたい赤経体の角度を入れてcosφを上の結果にかけてやればいいいと思います。


赤緯体の場合

でも今回求めたのは、今回は赤経体の角度が変わった時のたわみ量だけなんですよね。赤緯体が回転した時のたわみ量はSharpCapを使う今回の方法では全く太刀打ちできません。赤緯体の方でまたいいアイデアがあったらブログに書きます。


まとめ

とりあえず頭の中でざっくり考えただけなので、もしかしたら何か勘違いしてるかもです。一度実際のSharpCapを使って、夜に赤緯体の回転をたわみとして試してみようと思います。

これまでラッキーイメージで分解能を出そうと、露光時間を300秒と10秒で比較してきました。確かに星像を見ると、ほんの少し良くなってはいますが、30分の1の露光時間にしては、改善度合いがあまりに小さすぎる気がします。




なぜこれほど改善度が小さいのか、少し考えて見たいと思います。


目的

ラッキーイメージのような短時間露光でシンチレーションの影響を除きたいが、どれくらいの露光時間にすれば十分な効果があるのかを見積もる。


仮定

最初に簡単化のためにある仮定を置きます。

仮定: 恒星を見た時に、光学性能で決まるような最小の径が動くことで最大径になるとする。
1_cut
言い換えると、下の図の左のような最小径自身が、シンチレーションの速い成分で右のように歪んで大きくなるようなことはないとする。
2_cut
星像の線をぼやかして描いてあるのは、星像自身が正規分布に従うような輝度分布を持っているからです。


モデル化

この仮定をもとに、以下のように考えました。
  1. ものすごい短い時間で露光した場合には、シンチレーションの影響を無視できるので、光学性能のみで決まるような径に収束していく。
  2. ものすごい長い時間で露光した場合には、シンチレーションで支配されるような最大径に収束していく。
  3. シンチレーションは、ランダムウォークのような過程で、ある中心値を持った正規分布のような振る舞いをする。
  4. シンチレーションの動きはある点を中心に、典型的な中心周波数を持って揺れているとする。この周波数も中心周波数周りに正規分布に従い揺らいでいるとする。
  5. 中心周波数の1周期以上では、シンチレーションで決まるような最大径に近くなっていく。
  6. 中心周波数の1周期以下では、周期に1次で反比例して小さくなる。例えば、半分の周期なら約半分の径。10分の1の周期なら最大径の10分の1となる。

言葉だとわかりにくいので、図とともにもう少しわかりやすく書き下します。

恒星は時間とともに、水平方向及び垂直方向には以下のように動きます。
3_cut
典型的な周期に対して、長いか短いかが効いてきて、この周期より短い時間で露光することにより劇的に径が小さくなる。光学性能で決まるような最小径以下になることはない。

4_cut
以上のようなモデルを考えると、そこそこ定式化できるのではないかと思ったわけです。


定式化

さてここで考えやすい径としてFWHMを考えます。FWHMとは、Full Width Half Maximumの略で、例えば横軸を水平方向、縦軸を輝度として恒星を見てみると、輝度が最大値の半分の幅という意味です。その幅をその恒星の水平の径と定義します。垂直の径も同様に定義できます。

星の径は、鏡筒の光学性能や、シンチレーションで決まります。大事なことは撮影した1枚の画像の中に写っているたくさんの星は、原理的には明るい星でも暗い星でもFWHMは同じということです。明るい星は見かけの径が大きく、暗い星は見かけの径が小さいですが、その明るさと見かけの径の比はいつも同じなので、FWHMは同じ条件で写して1枚の画像の中ではどの星でも全て同じということです。

露光時間を変えて撮影した場合に、FWHMがどう変わるかを考えます。上で考えたように、
  • ものすごい短い時間で露光した場合には、シンチレーションの影響を無視できるので、光学性能のみで決まるような径に収束していく。
  • ものすごい長い時間で露光した場合には、シンチレーションで支配されるような最大径に収束していく。
  • 中心周波数の1周期以下では、周期に1次で反比例して小さくなる。
ということから、FWHMと露光時間は以下のようなグラフで関係づけられると考えれらます。

5_cut
  • 横軸は周波数で、一回の露光時間の逆数。対数で表示してあります。左に行くほど長い露光時間、右に行くほど短い露光時間です。1秒露光なら1Hz、10秒露光なら0.1Hz、300秒露光なら0.033Hzです。0.1秒くらいの短い露光時間で10Hzになります。
  • 縦軸はFWHMなどの、典型的な恒星の径です。
  • グラフの左側、ものすごく長い時間をかけて露光すると、シンチレーションが効いてある一定の径 dmaxになる。典型的には3~10秒角程度か。
  • グラフの右側、ものすごく短時間で露光すると、シンチレーションの影響が無視できるために、回折や収差などで決まる光学的に決まる径 dminになる。典型的には~1秒角程度か。
  • シンチレーションの典型的な揺れの周波数 f0を測定から決める。典型的には~1Hz程度か。
ここからわかることは、
  1. シンチレーションの影響が効かなくなるような周波数をfsとすると、f0からfsの間では周波数の-1次で径が小さくなる。言い換えると、この領域では露光時間を短くすることで効果的にシンチレーションの影響をなくすことができ、結果として分解能を上げることができる。
  2. 逆にいうと、この領域外で露光時間を変えても、分解能向上に対する効果は小さく限定的である。
もともと露光時間を30分の1と相対的に短くしたことが効くと思っていたのですが、実際にはシンチレーションの揺れの速度に対してどのような露光時間を設定するかということが大事だと、今回やっと理解することができました。

これらの結果をライブスタックを使ったラッキーイメージに適用すると
  • ライブスタックの場合には、例えば1回を10秒露光にした場合、毎回恒星の中心値を合わせるように画像を重ね合わせて平均化していくので、10秒露光の時の径がそのまま保たれます。
  • 普通の長時間露光の場合には、例えば300秒だった場合、1/300Hzのところの径になるとも言えますし、10秒露光の径の中心値がばらついて1/300Hzの径になるとも言えます。
ということが言えるのかと思います。

ただし注意ですが、最初に恒星像自身はシンチレーションで歪まないと仮定したので、実際にはここで考えているような最小径まではいかないはずです。また、最大径も恒星像の歪みの影響は当然受けるので、今回の見積もりよりわずかに大きくなると考えられます。しかしながら、改善の比率が知りたいと考えると、0次ではそこまで大きな誤差にはならないと思います。ここらへんの歪みのモデル化も入れることができるといいのですが、複雑になりそうなのでこのブログではここまでの範囲とします。

また、今回のモデルがそもそも根本的におかしくないか、実際の測定と照らし合わせたり、議論していただけると嬉しいです。

さて、次に具体的な例を少し考えてみましょう。


パラメータの測定

実際の測定は、
  1. 恒星が写る範囲でできるだけ短い露光時間で動画を撮影し、その時のFWHMを測定(dmin)し、その揺れの動きの典型的な周波数を求める(f0)。この周波数は、各コマでの恒星の位置(最も明るいピクセル)を測定し、FFTで周波数分布を見てピーク周波数を取り出せばいい。簡単には10秒程度動きを見て、左右に何回位動くか見ればいい。
  2. 分単位の十分長い露光時間で1枚撮影し、そのFWHMを測定する(dmax)。

揺れの典型的な周波数あたりではFWHMは最大径から -3dB ~ 1/1.4 = 0.71 倍と小さくなるので、限定的とはいえ無視できない量の改善となります。



では、例としてNGC4216の撮影で300秒露光から10秒露光にした場合、どれくらいの分解能の改善となるのでしょうか?

どれくらいの割合で改善するかを知りたいだけなら、最大径や最小径を測定する必要もなく、揺れの典型的な周波数のみ分かればいいわけです。例えばその典型的な揺れを1Hzとしてみましょう。回路などをやっている人にとっては、「ゲイン1で1Hzの1次のローパスフィルターがある時に、3.3mHzと0.1Hzの振幅の違いは」といった方がわかりやすいかも知れません。3.3mHzも面倒なので、十分低い周波数としましょう。

その場合、このページなどによるとゲインGはG = 1/(sqrt(1+(/ f0)^2))と表すことができるので、f=0.1Hz、f=1Hzを入れるとGは0.995となります。

これは簡単に暗算でも計算できます。f0が0.1なのでその2乗が0.01。sqrt(1+a)はaが1より十分小さいなら 1+a/2と近似できるので分母は1.005。1/(1+a)もaが1より十分小さいなら近似でき、1-aとなり、答えは0.995となります。

わずか0.5%ですか!ずいぶん小さい改善です。ちょっとこれだと見た目ではわからないかもしれないですね。

それでは、揺れの典型的な周波数f0を3Hzとしてみましょう。そうすると今度も暗算でG = 1-(0.1)/2 =0.95で約5%の改善です。これくらい違いがあれば目で見てわかる範囲になるでしょう。

前回比較した画像を見ると、まあなんとか有意に違いがわかるかどうかというところです。なので、この見積もりもそこまでおかしくもないかと思います。


どうすればいいか?

今回の結果からわかるように10秒露光はまだ少し長すぎたと言えます。例えば露光時間を3秒にしたら急激にもっと違いがわかるようになるかもしれません。1秒なら相当な違いになるでしょう。

当然かなり暗くなるので、あとは露光時間を短くしたときに、ノイズに負けずにどこまで写すことができるかでしょうか。感度勝負になっているので、少しでも感度の良いカメラを使うとか、少しでも口径の大きい鏡筒を使うかが大きな違いを生みそうです。


まとめ

さて、ラッキーイメージでの改善の見積もり、いかがだったでしょうか?大体感覚と合ってるとか、全然実際と違うとか、いろいろ当てはめてみると面白いと思います。

今回の話は、VISACでのラッキーイメージを始めたくらいから考え始めて、1週間ほどで大体のアイデアはまとまりました。本当はここまでに至るまでに相当考えたんですよ。
  • 10秒露光と300秒露光の恒星の中心値の振る舞いをどうやってシンプルに表せばいいか?
  • シンチレーションはランダムに動くし、中心値もランダムに動く。
  • 中心値は長い時間が経てば収束する。
  • でも短い時間だと、中心値は収束せず、いろんな値を取る。
  • でも中心値の代わりにFWHMみたいな径」で考えてやれば、短い時間でも収束する。
と、最後のところをある朝のベッドの中で閃いて、その後は10分くらいで定式化まで行きました。そこから記事にするまでに時間がかかってしまったのは、図を書くのが面倒だったからです(笑)。でもできるだけわかりやすくと思い、ちょっと頑張ってみました。


さて、3秒露光とか、1秒露光、実際にやってみますか。
 
やっぱり暗いかな?
 
結局は素直にシンチレーションが小さい日を狙った方がいいのかもしれません。


前回撮影したカリフォルニア星雲ですが、1時間半ほどの露光とそこまで長くないので、それ相応のあぶり出しはできていて、そこまで不満はないです。それでも淡い部分、例えば画面の右下あたりに分子雲があるようなのですが、少なくとも前回の画像を見る限りノイズとほとんど見分けがつかなくて、はっきりしません。




ISOを増やしてみる

今回の目的は、露光時間は同じでISOだけを上げた場合に淡い部分が出てくるかどうかです。ISOを4倍の3200にして、同じ露光時間の3分で、他の部分は出来る限り同じようなセットアップで撮影します。例え恒星がサチっても気にしないとします。さすがに4倍もISOを変えてやれば、淡いところならば何か違いが見えるのではないかという狙いです。

撮影は2021年3月10日。まだ前回のセットアップをほとんど崩していなかったので、準備も楽なものです。撮影できた枚数は33枚、合計1時間39分なので、前回の1時間48分と大体同じです。光害地で高ISO、長時間露光で撮影しているので、画像は相当明るくなってしまいます。撮影時はこんな感じで、ヒストグラムも相当右側に行ってしまっています。

BYE01

通常はここからスタックをして画像処理に進むわけですが、前回からの違いを比較しやすいように、前回の画像と今回の画像を、Photoshopに渡す直前(PixInsightでABEとDBEをかけて、PCCで色合わせ、ArcsinhStretchまで終えた状態)まで持っていきます。Stretchの欠け具合で見え方が変わってくるので、最後に直接比較ができるようにSTFでAutoStretchをかけた状態にします。


実際の比較

前回のISO800のときと
masterLight_integration_DBE_DBE_rot_PCC

今回のISO3200のとき
masterLight_integration_ABE_ABE_cut_DBE_RGB_PCC

まず大きく違うのは、恒星の周りのにじみです。前回はかすみがあったのでしょうか?それとも黄砂?いまだに理由はわかっていません。特に、真ん中の一番明るい星の左にある明るいにじみは謎です。前回のスタック前の各画像を改めて見てみると、ditherで恒星の位置が動いても、このにじみは動いていなかったので、たまたまにじみの真ん中にあるように見える恒星はおそらく関係ありません。一番明るい恒星の何処かでの反射でしょうか?

と思って調べていたら、もう一つ決定的なミスに気づきました。なんと前回と今回の撮影、ノーフィルターかと思っていましたが、実はCBPフィルターが取り付けてありました。Sh2-240を撮影した時にCBPを入れたのをすっかり忘れてしまっていて、フィルターが入ってないと思い込んでいました。というわけで、フィルターでの反射で起きたゴーストの可能性もあるかと思ったのですが、それでも前回も今回もフィルターは入っていて、前回のみ出て、今回消えた理由にはならない気がしています。

ISOの違いがこのにじみに関係しているのか?これもよくわかりませんが、おそらく関係ないだろうと思っています。

さてにじみはとりあえず置いておいて、ここからが重要です。一見わかりにくいですが、右下のほうに恒星が見えにくい暗黒体のような部分があります。ここが今回一番比較したかったところです。わかりやすいように拡大してみました。

左がISO800、右がISO3200です。
comp

ここはISOの違いで思ったよりも差が出たところでした。画像処理の違いも多少聞いているかもしれませんが、同じパラーメータのABE、DBEを適用しています。右のISOが高い方が明らかに暗黒体を分離できていて、左のISOの低い方は暗黒体と思われるところがノイズときちんと分離できていません。もちろん(時間帯はほぼ同じですが)日にちを変えて撮影しているので天気の条件は違います。左の方が天気から来るかすみか何かが効いている可能性も否定しきれません。

ですが、この暗黒体のような淡い天体に関しては、スタックによって軽減するスカイノイズ、ショットノイズなどは関係なくなっていき、最後はシャッター枚に必ず加算される読み出しノイズとの戦いになります。高いISOもしくは高いゲインでは入力換算で考えたときの読み出しノイズは小さくなることは一般的にわかっていて、今回のようにISOで4倍の差だと、特にISOが低いところではノイズが4分の1になります。ISOが大きいところだと、読み出しノイズは一定値に漸近していくため、その効果は小さくなります。EOS 6Dで測定された読み出しノイズを調べてみると、ISOが800から3200の場合は4.45e-から2.30e-に下がるそうなので、約2倍程度よくなるようです。

このように、見たい対象が暗くて読み出しノイズと同程度の場合にはISOを上げることが効果がある場合があります。逆に言えば、ISOを上げようが下げようが、明るい星雲とかでは差はほとんど分からなくて、差が顕著になるはずの相当暗い部分にいったっても、高々これくらいの差しか出ないわけです。

と、一応理屈通りに見える結果は出ました。というか、最初にISO800で見えるはずの暗黒体がなんか見えているような、見えていないような状態だったので、同じ露光時間で飽和しない限界のISO3200で何か効果が見えるのではないかと思ってやってみたわけです。でも、先にも書きましたが、天気の差の可能性も捨てきれないので、もう少し検証が必要かと思います。


最後まで仕上げてみる

さて、今回撮った画像を仕上げてみます。

Image66._ASx2_HT2

  • 撮影日: 2021年3月3日20時23分-22時15分
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 鏡筒: Takahashi FS-60CB + マルチフラットナー
  • フィルター: SIGHTRON CBP
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  Canon EOS 6D(HKIR改造, ISO3200, RAW)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: BackYard EOS、露光時間180秒x33枚 = 1時間39分、ダーク39枚(ISO3200、露光90秒、最適化あり)、フラット128枚(ISO3200、露光1/800秒)、フラットダーク128枚(ISO3200、露光1/800秒)  
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC、DeNoise AI

恒星に関しては明らかに今回の方が変なにじみもなくまともです。また暗黒体も上で見た途中経過だけでなく、仕上げた時でもやはり前回よりはっきり出ました。それと同様の効果でしょうか、星雲部の淡い部分もやはり前回よりも明らかに自然に出ています。前回はノイズに埋れているところを無理やり出した感満載でしたが、今回は少しはましになっています。

逆に唯一前回よりもダメだったことは、恒星の中心部の飽和が増えたことでしょうか。前回はほとんど気にならなかったのですが、今回は途中ピンクスターを除去する処理を加える必要がありました。


まとめ

前回、今回と、ISOを変えて他はできるだけ同条件で撮影してみました。

結果としては、やはり淡い部分を出したい場合には、読み出しノイズが効くようなレベルであれば、理論通りISOを上げた方が得するようです。今回は自分が思っていたたよりも違いが大きく出ました。

もちろんこの結果が全てと言うわけではなく、条件によって有利不利はあるかと思います。特に読み出しノイズに制限されていないような状況や、一枚の画像の中でも明るい部分などは、差はほとんど出ないでしょう。

また、今回の結果も天候に依存する可能性もあり得るので、ISOがどこまで効くのかというテーマについては、もう少し結論は先延ばしにしたいと思います。


このページのトップヘ