ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ: イベント

昨年の12月、「星なかまの集い」という研究会の実行委員の方から「講演をしてほしい」との依頼がありました。研究会の開催は3月初めで、当時は予定も詰まっていなかったので快諾しました。その方と少しやりとりして、テーマは電視観望ということになりました。そもそも私は関西の集まりはあまり経験がなく、どんなものかわからなかったのですが、コロナ明けということもあるのでしょうか、実際に顔を合わせての研究会は、夜に行われた交流会も含めて、とても楽しいものでした。


兵庫の「西はりま天文台」にむけて出発

3月2日、この日は兵庫の西はりま天文台までの移動です。前日が飲み会だったので、朝は眠い目をこすりながら5時半頃に起き、準備をして午前6時20分頃の朝イチのバスで富山駅に向かいます。みどりの窓口が開く直前の午前7時前に富山駅に到着。7時16分の金沢行きの新幹線にのりたいので、すぐに並んでみどりの窓口が開くのを待ちます。窓口が開くまでに、途中で駅員さんがどこまで行きたいかとか聞きにくるのですが、天文台最寄りの兵庫県の「佐用」駅といって、iPhoneに表示させた乗換案内の乗換回数2回の最速、最楽ルートを見せると、ちょっと怪訝そうな雰囲気に。色々確認してくれた後に聞いてみると、どうやら京都からでる特急が、途中JRと相互乗り換えで「智頭急行」という別の鉄道会社の線に入ってしまうので、途中の駅から佐用駅までの乗車券が出ないというのです。特急券は佐用まで出せるというので、とりあえず途中までの乗車券と、佐用までの特急券だけ購入し、あとは現地で聞いてみることにしました。

そんなこんなで少し時間を食ってしまい、いそいでお弁当などを買い込み、走って新幹線に乗り込みます。全線自由席で買ったのですが、新幹線も朝はガラガラ。時間ぎりぎりでも十分に座れます。

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やばかったのがサンダーバードです。実は新幹線はもう一本遅らせてもギリギリサンダーバードには乗れたのですが、無理してでも一本早めでよかったです。なんと指定席は満席、自由席も通路が人で溢れていて、グリーン以外の指定席車両の通路まで座れない人のために解放していました。3月16日には新幹線が敦賀まで開通するので、その影響もあって混んでいるのかもしれません。

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とにかく席に座ることはできたので、電車が出発してからすぐに朝ごはんです。富山-金沢間の新幹線は20分くらいなので落ち着かないんですよね。午前8時過ぎくらいでしょうか、ここでやっと富山駅で買った弁当を開けます。この日は「海鮮美食」。

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前週にCP+で東京方面に行った時は「ぶりとたいのこばこ」で、SNSで海鮮美食も美味しいと聞いていたので、今回はそちらに挑戦です。両方とも同じ会社の製品ですが、どちらもとても美味しくて、今回の海鮮美食もいろんな味が楽しめて、大満足でした。言うなれば寿司のコースが弁当箱に凝縮されたような印象です。他より100円か200円高いのですが、その価値は十分にあります。

京都駅に着くと、次の特急スーパーはくとに乗ります。京都駅での乗り換え時間は40分くらいあるのですが、先にホームの確認に行きます。まだ出発まで30分以上あったのですが、すでに車両は到着していました。
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自由席が1、2号車であることを確認して、まだ時間があるので弁当などを買いに行きます。それでもまだ出発まで十分時間はあるのですが、もう席に座ってしまいました。なんでかというと、一番前が空いていたからです。
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この見晴らしはいいですね。運転席は全体が見えるし、運転席越しに前方の景色が全部見えます。

電車内は結構時間があるので、その日の講演の最終チェックなどをします。姫路を越えると、相生と上郡という駅に泊まりますが、この上郡でJRから智頭急行にはいるようです。あ、ここからの乗車券が富山駅で買えなかった件ですが、電車が発車してすぐに車掌さんの切符の点検が来て、その時に話したらその場で発券してくれました。

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ここからは単線です。単線を特急で飛ばしていくのを見るのはかなりの迫力です。このスーパーはくとは振り子型の電車らしくて、酔いに気をつけてというXでのコメントがありました。私は酔いにあまり強くないのですが、今回は全然大丈夫でとても快適した。
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6分遅れの13時過ぎに、目的地の佐用駅に到着。ここでやっと乗る時に撮り忘れていた先頭からの写真を撮ることができました。
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駅を出ると、天教でもお世話になったMさんが待合室にいました。早めに着いたそうです。相乗りのタクシーが13時30分にくるので、しばらく待ちます。その間に以前お会いしたことがある方、初めての方含めて、全部で6人が集まりタクシーに乗り込み、西はりま天文台に向かいます。タクシーで15分かからないくらいでしょうか、歩くと90分らしいのですがずっと上り坂なので、タクシーの方が無難かと思います。


到着

西はりま天文台に到着。実はここにくるのは2回目で、別件で以前昼間のうちに来たことがあります。その時は仕事関係で短時間案内されただけなので、じっくり夜まで滞在して望遠鏡を覗いたりするのは今回が初めてです。

かなり広い敷地で、遠くに望遠鏡のある建物が見えます。左の白い建物に口径2mの「なゆた」が入っています。

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下の写真が、今回お世話になる宿泊施設(焦茶色の屋根の長い棟)と、研究会が行われる建物(左手前の赤茶色の棟)です。
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研究会の会場です。
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すぐに電視観望の講演

到着して、今回お誘いいただいた実行委員のFさんにご挨拶して、荷物などを置いたり、機材を準備していたらすぐに会の始まりです。簡単な説明の後、すぐに講演会が始まります。トップバッターが私なので、そのまま話すことに。内容は電視観望と普及についてです。持ち時間は25分と言われていましたが、少しオーバーして30分くらいになってしまいました。質問もいくつかあり、もともとメンバーは眼視の方が多い印象でしたが、電視観望をすでにやられている方、興味を持ってくれた方もいたので、少し安心しました。最近はSeestarの普及率がすごくて、メンバーの中に持っていらっしゃる方も結構いましたし、この研究会に実際に持ってこられた方もいました。また、公共天文台などの関係者の方もいらしていたので、ぜひCMOSカメラをつけて試してみてくださいと、宣伝しておきました。質問に答えた際にもいったのですが、電視観望は突き詰めた撮影とは違いますし、1人で見るというよりはむしろイベント向きだと思います。大人数で一度に楽しむことができ、暗い空をそこまで必要しないので安全面からも適しています。そういった楽しみ方の可能性が増えるということが伝わっていればと思います。

その後さらに二人の講演があり、掛け合い漫才みたいなのもあったので、関西っぽくて楽しかったです。

この日は3人の講演だけで終わりで、その後は少し早めの夕食です。目の前に座っていた小学5年生の女の子が次の日に発表するという話を聞いていたら、左隣の方もその女の子の次に発表とのこと。明日の日曜もかなり楽しめそうです。

夕食後、18時を過ぎていたのですが、まだ外はかなり明るいです。そうか、西日本に来てたのだと実感した瞬間でした。調べたら富山と兵庫では日の入りの時刻は10分ほどの違いでしかありませんでしたが、ずいぶん遅くまで明るいなと思いました。というか、富山は最近全然晴れてくれないので、早くに暗くなってしまう印象だったのかもしれません。到着した時はまだ曇りだったのですが、夕方くらいになってくると、この日はすごい快晴で、全面星が見渡せるほどでした。暗くなりかけだったので、私も電視観望機材を用意して少しだけデモをしたのですが、外に出てくる人があまり多くなかったので、何人かの方に見せることができた程度です。


「なゆた」の見学

というのも、19時半から口径2mの望遠鏡「なゆた」の見学会があります。一般の見学会に合わせた形になっていて、なゆたの建物の説明会場に行くと、かなりの人がいました。

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なゆたが入っている建物です。
食後すぐに、明るいうちに立ち寄った時に撮った写真です。

今回の研究会のメンバーが75人と聞いていたので、一般の人と合わせて確実に100人を越えて参加者がいたと思います。

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なゆたでは木星、カノープス、M37、M42のトラペジウムを見せてもらいました。M42は色がつかないか、並んでいる間に右目だけスマホで明順応しておいたのですが、残念ながら色がついているようには見えずに、普通に暗順応している左目と変わりませんでした。何度もなゆたを巡回するのですが、ちょうどその時刻にカノープスが南天するらしく、同じフロアの外の屋上エリアからカノープスを見ることができました。少なくとも地元の富山よりは南なのと、山の結構高いところからのしかも建物の屋上からなので、視界が開けていて、地平線からはそこそこの高さのカノープスを見ることができました。地元から一般の方も見学に来ているので、それらの方たちとの会話も楽しかったです。冬の天の川もやはりなかなか気づかないので「オリオン座の左からずっとカシオペア座の方に...」とか説明していました。

なゆたの制御室の前にあるモニターを見ると、SharpCapが使われているのが印象的でした。ただ、バージョンが3.2台なので、ちょっと昔のものです。

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夜の部の高校生の発表

なゆたに十分満足して宿泊棟の方に帰ると、高校生たちがMITAKAでの発表の準備をしていました。偏光グラスをかけて、画面が立体的に見えるもので、解説もよく練習しているようで、とてもわかりやすかったです。
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この高校生たちは、次の日発表もするということです。若い人たちがこういった研究会で発表するのは素晴らしいです。ぜひとも自分たちで色々考えて、こういった研究会で成果を発表して、楽しんで活動していただければと思います。そしていつまでも天文を好きでい続けて欲しいです。


色んな参加者

この研究会には、年配の方も子供も、ベテランの方も初心者も、こういった会では珍しいくらいに女性もたくさん、本当に色んな層からの参加者がいます。夕食が終わった次の交流会までの時間に、例えばある一人の方と少しお話ししました。講演の後に質問されてきた方で、赤道儀の極軸が全然取れないというのです。時間があったので、ちょっとじっくり聞いてみます。

その方はかなり勉強熱心で、極軸を合わせる説明のファイルを印刷してバインダーに閉じ、自分で理解できるようにかなり書き込みをしています。でもよくよく聞いてみると「極軸が数十度とかズレる」というのです。でも数十度?普通に考えたらちょっと信じられないような数字です。いろいろ話を聞いていて、やっとなぜか理解できました。「鏡筒はRedCatを使っている」と聞いていたので、最初結構経験のある方かと思ったら、どうやら「ほぼ完全な初心者」と言います。「いまだに一度も極軸をきちんと合わせられたことはない」というのです。極軸をどう合わせているかというと「ASIAirの極軸調整機能で、しかもそれを北極星の見えない南側に向いたベランダでやっている」というのです。私が「そもそも赤道儀を方位磁石とかで北にむけていますか?」と聞いたら、その意味自身が伝わっていない様子でした。

そこでアドバイスしたのは「まずは近くの公園でもどこでもいいので、北の空が見えるところで、まずは赤道儀を北に向けてください。方位磁石でもいいですし、今ならスマホでコンパスアプリもあります。極軸望遠鏡もあるということなので、ASIAirとかの高度な機能はまずは忘れて、基本に忠実に、手で合わせるところから初めてください。北極星が見えるところでさえ極軸が合わせられないのなら、北極星が見えないところで極軸を合わせるなんて到底できません。高度な機能に頼るのは基本ができてからがいいです。」というようなことです。

今の世の中、高度すぎる機能のものが溢れかえっています。基本を疎かに便利なところだけ使おうと思っても逆に難しくなってしまいます。なので数十度ずれても、なぜそんな不思議なことが起こるか、根本的な疑問にさえ辿り着かないのかと思います。

実際、初心者にとっては天文機器を扱うのは難しい場合があります。「地元に天文クラブとかないでしょうか?もし一緒にやってくれる人がいるなら、一緒に夕食でもとりながら、その後、機材と一緒に付き合ってもらうのもいいですよ。」と、どなたかがアドバイスしていました。本当はこの場に機材を持ってきてくれていれば、教えてくれるような人はたくさんいると思うのですが、車を持っていなくて機材を持ってくるのは大変とのことです。

一度だけ上手く撮れたというアンドロメダ銀河の写真を見せてもらいました。奇跡的に極軸が取れた時で、それ以降やはり全然ダメだとのことです。基本を疎かにせず、コツさえ掴めば、必ず上手く行くはずです。せっかく揃えた素晴らしい機材です。今のままだと苦行になってしまいかねないので、一刻も早く楽しんでいろいろできるよう、成長されることを願って病みません。私が近くに住んでいるなら、押しかけてでも一緒に作業してあげたいくらいです。


夜の交流会

さて、夜はお待ちかねの交流会。なんでも「ダメな人間の会」とかいう別名がついているとのことで、延々と夜中まで続くそうです。たくさんの方がいるので、それでも話せたのは一部の方ですが、とても楽しかったです。私も漏れずにダメ人間になっていて、飲んだくれてずっと話し込んでいたら、電視観望の機材を外に出しっぱなしにしていたのを完全に忘れてしまっていました。午前0時頃に気づいて外に出てみたら、かろうじて2等星くらいまでの星は見えるのですが、全面がガスっていて、その時点で機材は片付けることにしました。後から聞いたら、高校生たちはダメ人間にはならずにずっと外で撮影をしていたとのことです。見習わなければいけません。

その後も交流会という名の飲み会は続きました。気づいたのは、女性が結構な割合でいることです。少し会話の中に入れてもらったのですが、みなさん以前からの知り合いのようで、とても仲が良さそうに見えました。こういった会にはよく参加されるそうで、居心地がいいのでしょうか、とても楽しそうに話していました。というのも、コロナ禍でこの会もなかなか集まることができず、観望会形式のようなものは続けてきたけれども、こうやって顔を突き合わせて交流(飲み食いする)するのは2019年以来4年ぶりとのことです。そんな会に呼んでいただき、とても光栄でした。

午前2時半頃でしょうか、やっと「そろそろお開きにしましょう」とかいう宣言がかかり、解散となりそれぞれの大部屋に戻って行きました。もちろん途中で布団に入った方や、宴会場の椅子に座って眠りこけてしまった人もいますが、3-4割の人は最後まで残っていたのではないでしょうか?眠るのは少し惜しかったのですが、明日の朝食は7時45分からです。あまり寝坊もできないのでそのまま布団に入ったら、すぐに眠ってしまいました。ちょっと疲れていたようです。


2日目の研究会

朝7時15分、部屋の電気がついて起床です。着替えや部屋の掃除をなどして、朝食に向かいます。朝食後になゆたの建物の上に見た白い月が印象的でした。

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午前9時から研究発表会が始まります。月の石を探す旅や、各地の観望会などの活動の様子が発表されます。小学5年生の女の子の発表や、高校生の発表もありました。少し緊張しているように見える人もいましたが、皆さん頑張って発表していました。

最後に発表された研究奨励賞には、一つは月の石の話と、もう一つは子供達がいろいろな体験をして自分たちで発表するという活動の、2つが選ばれました。特に後者の活動発表は、子供たちに自分で考えてもらい、考えたことが「腑に落ちる」というところを重要視しているとのことでした。私も観望会で似たようにできる限り参加者自身に考えてもらうようにしているので、この方針には大いに賛同できました。

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研究発表会のあとは、恒例のビンゴ大会です。私も星柄のフェイスタオルをいただきました。その後の奨励賞の表彰式も無事に終わり、15時少し前に会は終了しました。電車の時間に余り余裕がなかったので、当初からお世話になった実行委員のFさんに挨拶して、他の方とのお別れの挨拶も余りできずにその場を去って、呼んであったタクシーに乗り込み駅に向かいました。タクシーではお一人、岡山から参加している方と相乗りしました。この方、来る時も一緒のタクシーに乗った方です。駅までのタクシーの中と、駅のホームでも少しお話ししたのですが、今回初めての参加とのことで、いろんな方とお話しできたと言っていました。どうも他の方も聞いてみると、4年ぶりということもあったのか、今回が初めての参加の方も多かったようで、それぞれ楽しむことができるのが、この会の特徴と言えるのではないでしょうか。この方ともまたいつか会えるのを楽しみに、ホームでお別れしました。

さて、帰りも同じ電車でスーパーはくとになります。自由席は今度は後部にあたるので、来たときのような運転席を見ることは当然できません。というか、来た時と変わって結構混んでいます。それでも2つ並んであている席はあったのでそこに座り、昨日の寝不足のせいもあるのでしょうか、ぐっすり眠ってしまいました。

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帰りの乗り換えは、大阪駅です。混むことを心配して指定席を取っておいたサンダーバードに乗り込み、金沢まで向かいます。

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金沢駅について走って新幹線に乗ったら、予定より一本早く乗ることができました。富山駅では妻に迎えに来てもらい、最後は車で帰宅です。21時過ぎでした。かなりうまく乗り継いで片道6時間なので、やはりちょっと遠いですね。


まとめ

今回の講演を引き受けた時はまだ予定がガラガラだったのですが、実はそのあとどんどん詰まってきて、ブログでも書いたCP+も含めてここ2週間ちょいでセミナーや講演などが7つあり、相当タイトなスケジュールでした。このブログを書いている今はやっと全て終わり、自分の時間を取ることができています。それでもこの研究会は得るものも多くて、とにかく夜が楽しかったです。ちょっと遠かったですが十分に行く価値のあるもでした。もし興味がある方は、ぜひとも来年参加してみてはいかがでしょうか。


CP+2024の前回の続きで、今回は主に24日の土曜日のことを書きます。


桜木町駅から会場まで

この日の空は打って変わって快晴です。いつもはみなとみらい駅からですが、天気もいいので桜木町駅から歩いていくことに。徒歩で12分くらいとのことです。
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といっても、このエスカレーター以降は基本的に屋根のある道で、しかも最初のうちはうごく歩道なので、全然大した距離に思えないです。昨晩止まったJR川崎駅からだと、みなとみらい線を使うより百円くらい安くなるので、最初からこちらを使えばよかったかもです。


ブース廻りその2

サイトロンブースが元気すぎて、前回のレポートでは全然新商品を紹介しきれていません。でもやはり単に紹介するだけだとつまらないので、その場で色々試したことを書いておきたいと思います。

まず、大型鏡筒のための低頭の経緯台兼赤道儀です。シンプルな構造でこれだけの重量を支えることができ、コンセプトが素晴らしいです。重心を低くしているのもいいです。実際に色々触ってみました。すると、鏡筒部分を手で押して揺らすしてみると結構下のほうで揺れるみたいで、どうやら緯度が高くなると緯度を調節して固定する2つのネジの間の距離が短くなってくるので、構造的に弱くなるようです。フタッフの方に聞いてみたら、この部分はまだ確定していない仕様のようです。なんとか発売するまでに改良されるといいなと思います。この揺れがあるかないかで評価は大きく変わるはずです。

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そんな観点から行くと、今回発表された経緯台タイプのマウントは、揺らしてもピクリともしなくて、サイトロンの全マウントの中で異彩を放っていました。
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理由は三脚の下に三角の板があり、それを押し上げて三脚をガッチリ固定しているからです。

その一方、改良で問題を解決するのは、通常はなかなか大変です。例えば、昨年のCP+でサイトロンのスタッフさんに、どんな三脚がいいのか聞かれました。私は迷うことなく上のような構造の「三脚の下側から3角の板で押し上げるタイプが良くて、カーボンタイプでさえもそうして欲しい。逆に撮影レベルのサンキャ腕そうでないものは信頼するのが難しい。」とまで言い切っていました。あれから1年経ちましたが、なんとサイトロンの開発部隊のお一人であられるマチナカリモートさんが、CP+後に以下のようなポストをXに投げてくれました。


カーボン三脚の場合、金属の板だと表面が削れないかとか心配だったのですが、上のような厚みがあるプラスチック系なら傷つけることもありません。しかもその前の投稿でマチナカリモートさん自ら「もう、別物。強度抜群で補強入れるとこんなに変わるんだ。」などと述べてくれています。これは期待大です。三脚側に改造なしで取り付けることができるとのことなので、できるなら汎用的に三脚に取り付けられるように一般化して、ぜひとも製品化まで持っていって欲しいくらいのアイデアです。

というように、一言に改良とか改造とか言っても、1年とかかかることも全然珍しくありません。なので、こういった展示会で触ってみて思ったことは、スタッフさんに伝えておこうと思い、実際に今回もスタッフさんに伝えています。でもこれサイトロンさんだから言えたのかも。実際に去年も今年も思ったことを伝えたスタッフさんは、セミナーでお世話になった仲のいいスタッフさんだからです。

あと、もう一つの期待大は太陽望遠鏡です。ちょっと珍しい、エタロンが鏡筒中央部に入っている形になっています。エタロン部では普通は平行光になっていなければならないのですが、どうせ平行光にしたならばここにもう一つエタロンを追加できるとかで、ダブルスタックタイプにもオプションで対応するとかだともっと面白いかもしれません。
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でも普通は太陽望遠鏡は改造非推奨のはずなので、やはり難しいでしょう。エタロンだけオプションで売ってくれるなら、大口径改造とかもしたいですが、まあこれも当然非推奨です。いずれにせよ、太陽望遠鏡の久し振りの新規参入メーカーとなるはずです。とても楽しみです。

もう一つ、どうしても紹介しておきたいブースがあります。「Metal Print」さんです。


一応リンクを張っておきましたが、これは展示場などでサンプルをぜひ見て頂きたいです。
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金属の板に印刷をしていて、額とかなしで平面が保たれています。印刷の綺麗さは紙とは違い、やはり金属で細かいところで平面が出ているのでしょうか、かなりシャープです。印刷は3種類あって、光沢ありのグロス、光沢なしのマット、金属の色が出るクリヤタイプだそうです。金属色が出ないのか出るのかは、下地が白か透明かということらしいです。
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星景写真もありましたが、かなりのコントラストで印刷されています。
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データはJPEGかTIFFとのことで、TIFFが16ビット以上を受け付けるかどうかは、スタッフの方もわかっていなかったので、注文時によく確認すべきかと思います。値段はそこそこですが、仕上がり具合を見たら決して高いとは思わなかったです。天体写真を印刷する場合は、印刷時に画像処理が入ってしまうと大抵うまくいかないのですが、まだそこら辺はわからないとのこと。小さなサイズで一度印刷して欲しいと言っていました。会場で40%割引のチラシが置いてあったのでもらってきました。いや、本当に一度印刷されたメタルを見て欲しいです。すごかったです。

よく考えたら、今回大手のブースはほとんど行っていません。カメラにはそこまで興味がないのがバレバレですね。カメラというよりはCMOSセンサーの方に興味があります。

というわけで、最後の私的な注目ブースは「日本写真学会」です。CMOSセンサー自身についても、この学会の柱のテーマの一つに入っていました。究極的な状況でCMOSセンサーがどういった信号を出すのか、これは基本暗いところを写す天体写真にも通じるところがあるはずです。他にあまりお客さんがいなかったので、ブースの方と少しお話しさせていただきました。学会員を募集していたのですが、会員になるためには年会費がそこそこするので、学会貧乏になってしまいこれ以上あまり入れません。いつか仕事などと別に、趣味で学会に入るのもいいのかもしれません。


いよいよセミナー本番

さて、そんなブース周りをしている間に、間も無く自分のセミナーの時間です。

少しネタバレすると、この日の朝は9時過ぎくらいに会場に到着して、10時の開場までに発表のための接続テストをしていました。すでにこの時点から結構なトラブルがあり、事前にテストしないとホントにまずい状況でした。出力は会場モニターと動画配信用の2系統あるのですが、Windowsと繋ぐとうまくいくのにMacだとどうやっても2系統のうち1系統しか信号がいかないのです。色々やって、最後は会場側の配線ミスということが判明したのですが、このテストをしていなかったら本番直前で配信ができずにアウトだったと思います。

さらに今回はMacとWindowsを手持ちの簡易Wi-Fiルーターで接続して、MacからWindowsのリモートデスクトップに繋ぎ、本番でさもSharpCapを含めてMacとWindowsを2台扱っているように見せようとしていました。この朝の時点で2台を繋ぐテストもできたのですが、このリモートデスクトップも、会場モニターの解像度と、Macから見るWindowsの解像度が別認識らしくて、最初画面の端が切れて表示されるとかのトラブルもあったので、こちらもテストしてないと本番でトラブルようなレベルでした。これも朝のテストでなんとか解決することができました。

それでも本番の一番の問題は手持ちのWi-Fiルーターだったのです。前のトークが15分ほど伸びてしまって、準備時間が少なくなったので焦っていたのもありますが、MacとWindowsが全然つながりません。お客さんが多い時間帯では、WiFiの電波が飛びまくっている状態だったのが原因かと思われます。それでもなんとか繋ぐことができて最低限の準備が終わったのがセミナー開始1分前くらいでした。もう心の準備をすることもなく、セミナーがスタートしてしまいました。

始まったのはいいのですが、やはりWindowsに繋いでもネットワークの速度が全然出なくて、リモートデスクトップどころではないのです。結局、本番のその場でもうWindowsを使うことを諦め、SharpCapでの再ライブスタックと、Windowsの「フォト」アプリを使っての画像処理は諦めたのは、その場にいた方や配信でご覧になった方はすでにご存知かと思います。もしいつか同様のことをするなら、有線の簡易ハブを持っていくか、もしくは5GHzでの接続でも良かったかもしれません。自宅外なので2.4GHzしかダメだと思い込んでいたのですが、よく考えたら会場は屋根の下なので、屋内扱いでよかったのかもしれません。

Windowsがうまくいかなくて焦っていたせいもあり、直後のMacのプレビューでのスタート画像を間違えたミスもありましたが、それでもその後の解説はなんとか体制を立て直し、無事に最後まで辿り着きました。無事に終わった時は本当にホッとしていました。

セミナーはかなり多くの方に来ていただけたようです。
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U-Chanさんが撮ってくれた写真です。

結局今回は、Wi-Fi接続の大トラブルが1件、Macでの画像処理の選択を間違えるという致命的なミスが1件と、大いに反省すべきです。それでも、画像処理をやってみたいという人にとってできる限りわかりやすく説明したつもりです。後で見直してみたら、焦っていたにもかかわらず一応頑張って説明しているように見えました。少し駆け足のところもあったので、解説ブログ記事と合わせて、配信動画も興味が湧いた時でいいので、長期的に見ていただければと思っています。

後日、配信の際に投稿されたコメントを見ました。直接の質問のようなものはありませんでしたが、多くのコメントがありました。特に雑兵Aさんは、コメントの時点で今回私が伝えたかったことに対してかなり反応してくれていて、その後のXでの投稿でも自分が試した結果を見せてくれていました。画像処理に足を突っ込み出したくらいの方が大きく進歩してくれるなら、今回のセミナーを引き受けた甲斐があったというものです。

XではあんとんしゅがーさんからNINAとPixInsightについても同じようなことをやってほしいというリクエストがありましたが、ベテラン向けはなかなか難しいです。それぞれみなさん自分の道を持っていますし、選択肢もたくさんありますし、過程も格段に複雑になってしまいます。もし何かやるとしても、全然別の方法でになるかと思います。

あと技術的な追加情報ですが、光害防止フィルターに最初CBPで撮影したのですが、青ハロが出てしまいました。その後QBP IIIを使って青ハロが消えたのですが、おそらくこれはあぷらなーとさんが説明されたことと一致しているのかと思います。私が使ったのはアクロマート鏡筒ではないですが、EDの入門的な鏡筒なので、同じような効果が得られるのかもしれません。あと、私もあぷらなーとさんと同じように、0.75倍のサイトロンのレデューサを使えばよかったと思いました。少し画角が広くなり、 より分子雲の領域を広げられたのかと思いましす。オリオン大星雲は少し画角を広げると背景を楽しむことができるかと思います。


セミナー後

セミナーが終わった後は疲れ果てていて、あぷらなーとさんのセミナーを聞いた後はもうグダーっとして、セミナー会場にある椅子に座ってのんびり話しているくらいでした。

そうそう、今回のCP+でだいこもんさんとniwaさんに初めて直接お会いできました。お二人はオンライン会議などで何度も話しているので、むしろホントに今まで顔を合わせてなかったのか?という感じでした。M&Mさんと蒼月城さんは初めてお顔を拝見しましたが、想像と全然違っていました。お二人とも想像よりかなり若かったです。多分、M&Mさんは天文歴が長いから、蒼月城さんは知識があまりにも深いから、勝手に私よりも年配の方と想像していたのだと思います。でも蒼月城さんの声は、いつものあの渋みのある、魅力的な声と同じでした。今回の画像処理セミナーの対象として(勝手に)想定していた、めだかと暮らすひとさんや、Imarin0321さんとも顔を合わせることができました。

会場を出る少し前くらいだったでしょうか、サイトロンのスタッフさんに紹介されて、中3のAPS君に会うことができました。中学生で都心でナローバンド撮影をしていて、私も結構最近「え?中3」とびっくりしてフォローさせてもらいました。なんとハーフの方で、来年はお母様の出身のイギリスの高校に行くとのことです。将来は天文学者を目指しているとのことです。帰り際、わざわざお父様と一緒に再度挨拶に来ていただきました。「APS君、イギリスでもがんばれ!」


飲み会

この後は、編集長とあぷらなーとさん、星沼会のメンバーなど、10人くらいでの飲み会でした。Aramisさんの案内で少し歩いて中華料理店へ。その途中でM&Mさんとあぷらなーとさん話していて、昔のことを聞くことができました。私はこの界隈では新参者に近いので、昔の話を聞くのはとても楽しいです。この時の会話が元で、M&Mさんがブログにまとめ記事を書いてくれています。

飲み会ではMACHOさんから面白い提案をいただきました。星ナビの今年の2月号に紹介されているのですが、MACHOさんが高校生と一緒にチリのリモートを利用して電視観望を実践しているとのことです。聞いてみるとかなり理にかなっていて、最近は学校関係だと夜に観望会を開くことも安全上難しくなってきたりしています。チリはちょうど12時間の時差があるということで、なんと授業がある昼間にリアルタイムで電視観望ができるということです。来週実際に、テストで参加させてもらう予定です。実際に高校生を交えて試すのはまだ先になりそうですが、今から楽しみでなりません。

その後、何人かのメンバーは横浜駅で帰られたのですが、他にまた別メンバーとも合流して2次会にまで行くことになりました。そこでも色々話し、店を出たのは23時15分くらい頃だったでしょうか。それでも電車も無くなることはなく、川崎のホテルまでたどりつきました。富山と違い、さすがに都会です。


帰宅とまとめ

次の日はかなり疲れていたこともあり、早めに富山に帰ることにしました。だいこもんさんがNiwaさんの個展に立ち寄ったみたいですが、私はまだ行けてないので、私も思いついて立ち寄れば良かったです。

星まつりはたいてい山の中とかの比較的遠いところで行われますが、CP+は関東中心で行われるので、集まりやすくていいですね。CP+の魅力の一つは、ものを買うことをしなくていいところだと思います。掘り出し物を探すなどせずに、新製品とかに集中できるところでしょうか。さらに天文関連のブースが限られているので、去年も今年もそうだったのですが、サイトロンブースがある意味天文民溜まり場のようになっていて、ここにいれば誰かに会えるというところですかね。やはり星まつりとは色んな意味でちょっと違う、別の価値のあるイベントなのかと思います。

今回の記事をもって、私にとっての今年のCP+も本当に終わりです。昨年のCP+はまだコロナの影響が少しあったのかと思いすが、明らかに今年はパワーアップしていたと思います。連動企画もかなり充実したものになったかと思います。画像処理を始めるきっかけになってもらえるとありがたいです。


CP+2024参加記です。機材についてはすでに多くの方のレポートがあるので、今回は「私のCP+」として私的なことを中心に書きたいと思います。機材レポートもしますが数はあまり多くはなく、そこで何か経験したこととか、そこでどう思ったかを中心に書きます。


CP+前の準備

CP+までにセミナーの準備をしておく必要があったのですが、CP+が始まる2月19日の週は月曜から仕事がものすごく忙しくて、ほとんど時間が取れませんでした。セミナーのための撮影は以前のブログ記事にあるように、前週までにほとんど終わっていて、ある程度の画像処理の方針までは立てていました。火曜日にこれも既にほとんど書いてあった最後のブログ記事はアップしましたが、肝心の画像処理に費やす時間が全然取れませんでした。

やっとまともな準備に入ったのが出発前日の木曜の夜のことです。パワーポイントでスライドの最後の仕上げと、あとははとにかく画像処理の練習です。スライドの方は方針は決まっていたのと、ある程度は事前に書いておいたので、ほとんど問題ありませんでした。問題は画像処理の方です。本番当日は持ち時間40分、その中に4通りか5通りの画像処理を詰め込もうと画策していたので、相当スムーズに進める必要があります。繰り返しの練習が必要です。


CP+会場へ向けて出発

移動日の金曜朝、富山からの新幹線がかなり席が埋まっていたので、朝早くの移動は諦め、ちょっとのんびりで午後の途中で会場に到着するくらいにしました。朝自宅で少し時間があったのと、新幹線の中でも時間があったので、練習を繰り返していました。

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去年も同じことを書いてますが、北陸新幹線の東京方面行きはほとんど「ますとぶりのこばこ」を買って車内で食べています。ちょうど一人分で美味しいです。どちらかというとます(サケ)の方が好きなのですが、ますだけだと飽きてしまうので、2種類入っているのがちょうどいいです。
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移動はスムーズで、13時半頃にはみなとみらい駅に到着。駅は今年もサイトロンの広告で溢れていました。
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14時前にはパシフィコ横浜に到着。去年は快晴だった覚えがありますが、今年はあいにくの小雨です。でもほとんど屋根のあるところを通ってくるので、土砂降りでなければ傘がなくても特に問題ないです。
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飯田ともき先生と会えた!

会場内に入るとすごい人です。去年より格段に人が多い印象でした。
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会場に到着して早速、昨年お会いすることができなかった漫画家の飯田ともき先生のブースへ。スタッフの方に聞いてみると「15時頃にはいらっしゃる」とのこと。3年前のコロナ禍のCP+の電視観望のオンラインセミナーの様子を「カメラバカにつける薬」に載せていただいた経緯を説明し、ぜひお礼を言いたい旨をスタッフの方にお伝えしたところ「15時少し前に来てもらえれば時間を取れるかもしれない」とのことです。とりあえず、その場にあった「カメラバカにつける薬」の1巻と2巻を買って、特典の2冊セットで買った人用のシールと患者さんシールをもらって、15時までは別のところを回ることに。あ、実は1巻持っていることを忘れていて2冊とも買ってしまいました。なので今1巻は自宅に2冊あります(笑)。

その後、しばらく会場を回って15時ちょっと前に再びブースを訪れると、スタッフの方が案内してくれて、念願の飯田ともき先生にお会いすることができました。掲載された当時の「カメラバカにつける薬」をiPhoneに出しておいてお見せすると、ちょうどCP+でのことなので、「あー、あの時の」という感じですぐに思い出してくれたようです。私はカメラはあまり詳しくはないのですが、カメラバカにつける薬が連載開始した当時からのファンで、そんなマンガのコマの中に自分の電視観望機器が描かれていて、しかも掲載されたものを見て初めて知ったので、それはもう大喜びだったのです。今回、やっとそのことのお礼を、直接お伝えすることができました。サインの整理券を持っていなかったのですが、なんと「サインしましょうか?」と言ってくださり、単行本の第2巻にサインまでしていただきました。

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しかもこの一連の出来事をXに投稿したら、先生からいいねをいただき、しかもフォローまでしていただきました。

今回のCP+でやっと3年越しの夢と、先生にお礼を言うという課題が達成できました。


サイロトンブース

天文関連ブースで一番元気なのは、やはりサイトロンブースでしょうか。新製品や試作品など、見るものが目白押しです。また、CP+の天文民の居場所にもなっていた感があります。ここにいれば、誰かに会えるというやつです。実際知り合いにも、初めての方にも、何人も会うことができ、機材をネタにいろいろ盛り上がりました。

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本当に点のスポットダイアグラム。

今回のサイトロンブースでの一番の注目は、胎内工場で作るという国内生産の屈折鏡筒でしょうか。(次の日の土曜日に)開発者の方と少しお話しさせていただきましたが、元々物理出身で太陽関連の研究をされていたとか。P社、V社と研鑽を積まれ、ある意味集大作のような鏡筒と言えるのかもしれません。とにかくスポットダイアグラムがすごいです。MTF曲線と合わせて、もうやりすぎかと思うくらいです。土曜日に新製品紹介で開発者の方のセミナーがあったのですが、
後に出てきたAskarの185mm APO屈折のスポットダイアグラムが、本来これ自身は決して悪くはないのに、比べてしまうと実際よりも大きい印象で見えてしまいます(笑)。

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天文でないと思われるカメラ女子がこれをみながら
「これで星とか撮るんだよね!?」とかキャーキャー言ってました。

もちろん今の試作のスポットダイアグラムなどは全て設計値のはずです。実測でどれくらいになるのか期待していますとお伝えしました。あと、セミナーの中で「暗すぎず、明るすぎず」としてf5としたとのことですが、少し突っ込んでお聞きしてみました。S/Nの観点から、明るい方が有利なのはいうまでもなく、個人的には手持ちのε130とかの明るい鏡筒が好きなのですが、やはり明るくする方向は技術的に途端に難しくなるとのことです。いずれにせよ期待大で、あとは値段でしょうか。やはり試作品のVixenの70mmの小型VSDと性能、値段でどう住み分けができるのか、興味深いです。

と、こんな話を開発者の方としていると、(再びすみません、土曜のことです)たまたま大西さんがやってきて、今回のもう一つの目玉のステラグラスの話になりました。

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天リフさんの投稿でSNS上ですごい注目を集めているようですが、一部少し誤解をされているような記事も見られます。これはコーティングで光をどうこうするとかの、既存のクリアグラスの類のものとは全くコンセプトが違い、軽い補正レンズを、それもメガネの上からかけられるようにしたものです。暗い夜に星を見る場合、少しピントがずれるそうです。そのずれたピントを補正するのが目的で、結果星が見えやすくやすくなるというものです。メガネの上からかけることができるのもポイントで、観測中に付け替えの手間がないのがいいです。詳しいメカニズムは、日曜に行われた大西さんのセミナーを見るといいかと思います。


私は試作品を小海の星フェスで手に入れたのですが、コンセプトを聞いた時天才かと思いました。私の場合、そもそも今使っているメガネの度がだいぶ合わなくなってきているので、普段空を見上げてもあまり星が見えていないのですが、かといって度の強いレンズにすると普段の生活で目が疲れてしまいます。星を見るときだけ度を上げたいのですが、メガネを付け替えるのも結構面倒です。なので観望会の時などだけ、最初からメガネの上にかけられるこのグラスは、ものすごく便利なのです。実際に小海で見た時に、あからさまに星が見えるようになったのに驚き即買いでした。その後星を見る時は必ず使うようにしています。

さらに、実は車の座席のところにいつも置いてあり、運転中もこれを使っています。ちょっと遠くの見えにくかった看板などの文字も読めるようになるので、もう普段使いで役に立っています。
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値段はまだわかりませんが、眼鏡業界関連の方の情報によるとかなりいいレンズを使っているとのことで、眼鏡屋さんが作るよりも廉価な値段設定になりそうと言う話をCP+会場で聞きました。実際に商品化されるとのことで、星を見る人の必須アイテムになりそうです。

ここで、最初の方の大西さんが入ってきた時の議論に戻るのですが、大西さんによると「このグラスでは星は見えるようになるが、天の川が見えにくくなる」と言うのです。理由は「そもそも人間の目は暗いものに対しては分解能が落ち、その落ちた分解能で度のオーダーの粗い面積を積分することで天の川として見える」と言うのです。確かにこれは、星座ビノでもよく似たことがあると思っていました。星座ビノを使うと星の数はあからさまに増えるのに、天の川は実はそれほど良く見えるようにならないのです。そんなことを大西さんと話しながら、なぜ人間の目は暗いところでは分解のが落ちるか、なぜ暗いところではピントがズレるか、色々話を聞くことができました。セミナーでも同様の話がされているので、興味のある方はぜひ配信動画を見てみるといいでしょう。

なのでこのステラグラス、星が見えるようになるのにはきちんとした根拠があり、どこかの意見であったような紛い物の類ではないかという根拠のない推測は、全く間違っています。


Vixenブース

Vixenさんは今回とても元気です。定番の90mmのVSDに加えて、70mm版のVSDの試作品や、ガイド用カメラをVixenブランドで出しています。
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Vixenブースでいろいろ説明してくれたのは、2020年の福島のスターライトフェスティバルでわざわざ私を探して会いにきてくれたIさんです。当時はVixenに入ったばかりの新入社員さんに近くて、ずいぶん若い印象でした。もちろん今でも十分に若いのですが、今回お会いしたら、なんか自信に溢れているというか、貫禄が出てきていた気がしました。試作品を含めて、ここ最近の新製品にほとんど関わっているそうです。VSDの70mm版の説明に加えて、VSDよりもう少し安価な65mmの撮影用鏡筒も紹介してくれました。これが面白いのは、焦点合わせに2種類の鏡筒を作っていて、一つは普通の接岸側のフォーカサー、もう一つは鏡筒の中の対物レンズが前後するタイプです。
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対物部分の写真を撮るのを忘れてしまいました。
本当に筒の中の対物レンズ部分が前後します。

他にも、以前60mmでクラウドファンディングで60mmの鏡筒を販売していましたが、それの後継にあたる72mmのものも紹介してくれました。
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どうやらIさん、60mmの方のプロジェクトの成果で、新規開発の方にいろいろ関わるようになったとのことです。こうやって若い人をピックアップしてどんどん新製品に関わらせるというのは、Vixenなかなかやりますねという感じです。今年Vixenが元気な理由は、どうやらIさんが頑張っているからなのかもしれません。応援しいてるので、ぜひ今後もIさんには頑張ってもらって、Vixenを盛り上げていってほしいです。


電視観望

電視観望という観点からいくと、例えば同じVixenブースでCelestronのRASA6に相当する電視観望機器が展示されていました。本家RASAは8インチまでしかないのですが、6インチはこの電視観望セットのみにあります。まだ数日前にやっと日本に届いたということで早速の展示品でしたが。Celestronと、Celestronブランドを扱うVixenが電視観望に対してどういった方向性を見せていくのか、注目です。
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そういった意味ではBORGは今年はあからさまに電視観望と謳ってきていました。
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去年までは「この鏡筒で電視観望もできますよ」という、口頭での説明くらいでした。実は今回説明してくれた女性のスタッフさんは去年と同じ方で、昨年は「これから私の電視観望のセミナーがあるので、もし興味があったらぜひ」と声をかけた方でした。私のことも覚えていてくれて、昨年のセミナーも聞いてくれて、さらには過去のCP+の動画も全部見てくれたとのこと。「今回もまたセミナーやりますよ。画像処理についてですよ。よかったらぜひ!」とお伝えし、セミナーの時間を知らせておきました。BORGが電視観望を推すようになっているのも、もしかしたら私のセミナーの影響が少しはあるのかもしれません。そうだとしたらとても嬉しいです。あ、せっかくのBORGブースなので、去年も「いまだに中川さんと会ったことないんです」という話をしたのですが、昨年一年間もまだ会えていなくて、今年もまた「まだ中川さんと会えてないんです」という話をしました。今回はちょうど前日に来ていらしたらしいのですが、またすれ違ってしまいました。いつかお会いしたいです。

電視観望といえば、ZWOはSeeStarが盛況で、2台展示してありました。社長のSam氏とも少しだけ話すことができました。
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でもここで注目したのは中判サイズのCMOSカメラです。すでに以前から販売はされていますが、実物を見たのは初めてです。やはりかなり大きいセンサーです。値段もまあそれなりにというか、なかなか個人では買えないような値段なのですが、いつか使ってみたいです。でも性能を引き出すためには鏡筒を選ぶはずなので、カメラだけではダメでトータルで考えなければダメですね。 
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David Shen氏のセミナー

土曜日のメインイベントは、サイトロンブースでのSkyWatcherのオーナーのDavid Shen氏のセミナーでしょうか。氏が若い頃から苦労して光学機器を作り続け、現在は観望会や教育などにも力を入れているという内容でした。光学機器製作の技術を積み上げ、SkyWatcherという自社ブランドを立ち上げ、高価だった天文機器を廉価に販売し、天文という文化を世界中に広めたいという思いを、実際に実現しているというのは並大抵の努力ではないはずです。もし自分が天文機材を作る立場になったらと想像すると、とてつもなく大変で、到底できないことだと思ってしまいます。

SkyWatcherは廉価な機器が中心と言いながらも、AZ-GTiや今回の重量級積載重量を誇るシンプルな構造の赤道儀、太陽望遠鏡など、非常に面白い機器を提案してくれる会社です。今後も我々天文マニアが泣いて喜ぶような面白いアイデアと機器をどんどん出してほしいと期待します。
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以前2年前のCP+で紹介したNEWTONYが今回金ピカになって展示されていました。
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NEWTONYは元々教育用鏡筒で、筒の中を見ることができます。残念ながら金ピカモデルは中を見ることはできないようでしたが、DIYモデルがあるように、Shen氏の教育にも力を入れたいという思いが実現したのかと思います。


明日はどうなる?

他にもいくつかのブースは回りましたし、上の記事には次の日の土曜日に回ったブースの話も一部入っています。残りのいくつかのブースの話は次の記事で、そして土曜日のセミナー本番の様子も次の記事で書きたいと思います。

この日のCP+は18時で終了です。帰り道で横浜の夜景を撮りました。富山の田舎から見ると横浜の都会っぷりが目に沁みます。この日は素直にホテルに帰って、もう少し次の日のセミナーの練習です。

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CP+のセミナー、いかがでしたでしょうか?細かい操作も多かったので、その場では少し見にくいところなどもあったかもしれません。すでに動画配信が用意されているので、わかりにくかったところは繰り返しチェックしてみてください。

 

今回の記事は、動画配信を元に、わかりにくかったところの補足をしようと思います。


処理画像の準備

セミナーの中で話した、撮影までの状況と、SharpCapでの再ライブスタックは、これまでの記事で書かれています。







今回の記事は、セミナーで示した中でも、特に画像処理の部分について補足していきたいと思います。「なぜ」この操作をするべきなのかという意味を伝えることができればと思います。

セミナーは
  1. (23:50) 入門用にMacの「プレビュー」を使って、その場で処理
  2. (27:05) 初心者用にPhotoshopを使って、その場で処理
  3. (32:40) 中級者用に「GraXpert」とPhotoshopを使って、その場で処理
  4. (41:50) 上級者用に「PixInsight」をあらかじめ使った処理の結果を流れだけ
という内容 (括弧内の時間は配信動画での位置) でした。

使用した画像は、SharpCapで1分露光で撮影したオリオン大星雲を60枚したものです。これを、上の1と2はオートストレッチしたものをPNGフォーマットで8ビットで保存されてもの、3と4はRAW画像のfitsフォーマットで16ビットで保存されたものです。

オートストレッチで保存できるのは2種類あって
  1. 「Save with Adjustments」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチのみかかったもの
  2. 「Save exactlly as seen」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチに、さらに右パネルのオートストレッチが重ねてかけられてもの
です。今回は後者の2の保存画像を元に画像処理を始めます。いかが、SharpCapで保存されたライブスタック済み、オートストレッチ済みの初期画像です。

ここでオートストレッチについては少し注意が必要で、何度か試したのですが、ホワイトバランスや輝度が必ずしも一定にならないことがわかりました。全く同じRAWファイルをスタックした場合は同じ結果になるのですが、スタック枚数が変わったり、別のファイルをスタックしたりすると、見た目に色や明るさが変わることがあります。どうも比較的暗いファイルでこれが起こるようで、ノイズの入り具合で左右されるようです。明るさはまだ自分でヒストグラムの黄色の点線を移動することで調整できるのですが、RGBのバランスは大まかにはできますが、極端に暗い画像をストレッチするときの微妙な調整はSharpCap上ではできないようです。Photoshopでは背景と星雲本体を個別に色合わせできるのでいいのですが、WindowsのフォトやMacのプレビューでは背景も星雲本体も同じように色バランスを変えてしまいます。このことを念頭においてください。


Windowsのフォトでの簡易画像処理

まず、入門用のOSに付いている簡易なアプリを使っての画像処理です。

セミナー当日はMacとWindowsの接続が不調で、SharpCapのライブスタックとWindowsのフォトでの加工をお見せすることができませんでした。手持ちの携帯Wi-FiルーターでMacからWindowsにリモートデスクトップで接続しようとしたのですが、2.4GHzの信号が飛び交い過ぎていたようで、遅すぎで使い物になりませんでした。あらかじめテストはしていたのですが、本番でこんなに変わるとは思ってませんでした。

お詫びではないですが、Windowsのフォトについては、配信動画の代わりに、ここでパラメータと結果画面を追加しておきます。画像処理前の、SharpCapのオートストレッチで保存された画像は以下のものとします。

Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

これをWindowsのフォトで処理します。
  1. WindowsではPNGファイルをダブルクリックすると、フォトが立ち上がります。画像処理をするには、上部真ん中にあるアイコン群のうち、左端の「画像の編集」アイコンをクリックします。
  2. 上部に出てくるメニューの「調整」を押します。
  3. フォトの弱点は、背景を暗くするのがしにくいことでしょうか。今回は「コントラスト」を右に寄せることで背景を暗くします。
  4. 星雲中心部が明るくなりすぎてます。トラペジウムを残したいので「強調表示」を左にして明るい部分を暗くします。
  5. 色バランスは「暖かさ」と「濃淡」で整えます。「暖かさ」左に寄せて青を出し。「濃淡」を右に移動しバランスを整えます。
  6. 「彩度」をあげて、鮮やかにします。
setting

画面が暗い場合は「露出」を少し上げるといいかもしれません。「明るさ」は変化が大きすぎるので使いにくいです。

上のパラメータを適用すると、結果は以下のようになります。
photo

たったこれだけの画像処理でも、見栄えは大きく変わることがわかると思います。


Macのプレビューでの簡易画像処理

Macのプレビューでの画像処理過程はセミナー中に見せることができました。でも今動画を見直していたら、どうも本来処理すべき初期画像を間違えていたようです。

Windowsとの接続がうまくいかなくて、内心かなり焦っていたようで、本来は上のフォトで示した初期画像にすべきだったのですが、間違えて出してしまったのがすでに加工済みの下の画像で、これを元に画像処理を進めてしまいました。焦っていたとはいえ、これは完全に私のミスです。本当に申し訳ありませんでした。
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ここでは、改めて本来加工するはずの下の画像で進めようと思います。フォトで使ったものと同じものです。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

最終的なパラメータはこれくらいでしょうか。一つづつ説明してきます。
setting
  1. オートストレッチで星雲本体を炙り出た状態だと、星雲中心部が明るくなりすぎます。トラペジウムを残したいので「ハイライト」を下げます。
  2. 背景が明るすぎるので、上のヒストグラムの左のマークを右に動かします。星雲本体を炙り出すために、真ん中のマークを左に少し寄せます。これは後のPhotoshopの「レベル補正」に相当します。
  3. 色バランスは「色温度」と「色合い」で揃えるしかないようです。「色濃度」は左に動かすと青っぽくなります。「色合い」は右に動かすとバランスが整います。最後は画面を見ながら微調整します。
  4. 「シャープネス」を右に寄せると、細部を少し出すことができますが、今回はノイズがより目立ってしまうので、ほとんどいじっていません。

結果は以下のようになりました。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch
これをみると、セミナー本番中にプレビューで処理を開始したものとよく似ているかと思います。要するに、練習でプレビューで処理をしたものを間違えて開いてしまったと言うわけです。こんなことも気づかないとは、やはりその時はかなり焦っていたんですね。それでも次のPhotoshopの処理はそれに気づいて、SharpCapから直接保存されたものを処理に使っています。


Windowsのフォトも、Macのプレビューも、いじることができるパラメータはそう多くはないので、解はある程度一意に決まります。むしろパラメータは画像処理を始めるときの初期のホワイトバランスと、初期の背景の明るさに依りますでしょうか?これはSharpCapの保存時に決まるのですが、保存時に細かい調整ができないのが問題です。それでも、方針さえしっかりしていれば、パラメータに関してはここら辺しかありえないというのがわかるかと思います。繰り返して試してみるといいかと思います。


Photoshopを使った画像処理

次はPhotoshopです。こちらはできることが一気に増えるので、パラメータ決定の際に迷うかもしれません。それでも方針をしっかり立てることで、かなり絞り込むことができるはずです。

初期画像は上と同じもので、SharpCapでストレッチされたPNGファイルです。
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  1. (27:10) まず、背景の色バランスの調整です。これはPhotoshopのメニューから「イメージ」「色調補正」「レベル補正」を使うと楽でしょう。RGBの各色をそれぞれ個別に調整して、まずは各色の山のピーク位置と、各色の山の幅を調整します。調整の様子は動画で確認してみてください。山の位置が揃うと、背景の色バランスがとれたことになります。
  2. (27:40) 次に動画では、同じ「レベル補正」を使って背景を暗くしています。左の三角を少し右に移動します。暗くしすぎると、後から分子雲が出にくくなるので、これはもしかしたら必要無かったかもしれません。
  3. (27:55) 次に、青を少し強調します。一般的に星雲本体の青は出にくかったりします。特に今回は光害防止フィルターでQBP IIIを使っているので、そのまま処理すると、赤でのっぺりした星雲になりがちです。「イメージ」「色調補正」「トーンカーブ」と行って、「ブルー」を選び、ここは慎重に真ん中ら辺を少しだけ上げます。トーンカーブは左の方が暗い背景に相当し、真ん中ら辺が星雲の淡いところ、右が星雲の明るいところや、恒星に相当します。
  4. ただし真ん中を上げると、せっかくバランスをとった背景も青くなってしまうので、トーンカーブの線上の左の方をクリックしてアンカーを打ち、暗い背景部分があまり変わらないようにします。アンカーの部分だけが動かなくなるので、アンカーの右の方の線を動かすと、アンカーの左側も変わってしまって背景のバランスが崩れることがあります。そんな時は、左の方にアンカーを複数打って、背景バランスが崩れないようにしてください。
  5. (28:20) 少し地味なので、彩度を上げて各色の諧調が豊かな、見栄えがする画像にします。「イメージ」「色調補正」「自然な彩度」と選びます。その中に2つ触れるパラメータがありますが、「彩度」の方はかなり大きく変わってしまうので、私は「自然な彩度」の方を触ることが多いです。
  6. 補足ですが、色を出そうとしてよくあることなのですが、彩度を単体であげるとくすんだような俗にいう「眠い」画像になります。そんな時はまずは輝度を上げるようにしてください。輝度に関しては、画面に集中してしまうと、暗い状態でもいいと思ってしまうことがよくあります。一度ネットなどで自分が一番いいと思う画像をブラウザ上で見て、そのすぐ横に今編集している画像を並べてみてください。思ったより明るさも色も出ていないことに気づくかもしれません。客観的になるのは難しいですよね。並べて比べながら、まずは一番いいと思う画像くらいになるように明るさや彩度を出してみるのがいいのかと思います。
  7. (28:40) Photoshopで便利な機能が、「フィルター」の中の「CameraRawフィルター」です。まずは「ライト」の中の「ハイライト」を下げることでトラペジウムを守ってやります。
  8. (29:10) 次に、背景に含まれる分子雲を引き出すために「ブラック」を右に振り、「シャドウ」を左に振ります。ブラックとシャドウはよく似ていますが、逆にブラックを左にシャドウを右に振ってやると、似て非なるものだとわかるでしょう。この分子雲の炙り出しは、「効果」の「明瞭度」も効き目があります。セミナーでは説明しませんでしたが、「コントラスト」も同じような効果がありますが、こちらは強すぎる感があるので、使うとしても微妙に調整します。
  9. セミナーでは説明しませんでしたが、細部は「効果」の「テクスチャ」である程度出すことができます。同時に背景のノイズや不自然な大きな構造も出すことになるので、かけすぎには注意が必要です。
  10. (29:35) ここまで分子雲をかなりあぶり出してきたことになるので、かなりノイズが目立っていると思います。Photoshopでも簡単なノイズ処理ができます。その一つが「CameraRawフィルター」の「ディテール」の「ノイズ軽減」です。ノイズの具合に応じて、50とか、最大の100とかに振ってやります。同時に「カラーノイズ」も除去してしまいましょう。カラーノイズは画像を拡大すると、RGBの細かい色違いのノイズがあるのがわかると思います。拡大しながらカラーノイズが除去されるのを確認してみるといいかと思います。
  11. (30:45) ノイズを除去すると、どうしても細部が鈍ってしまいます。これは同じところの「シャープ」を上げてある程度回避できますが、完全に戻すことはPhotoshop単体ではできないかと思います。ノイズ処理に関してはここら辺がPhotoshopの限界でしょうか。
  12. (31:15) 最後に仕上げで再びトーンカーブをいじっています。ここら辺は好みでいいと思いますが、今回はまだ青が足りないのでBのを少し上げました。派手さは赤色で決まるので、Rも少し上げます。緑は自然さを調整します。赤とか青が強くて、全体に紫っぽくて人工的な気がする場合は、Gをトーンカーブで気持ち上げると自然に見えたりします。セミナーでは説明しませんでしたが、必要ならばトーンカーブの右側にも適時アンカーを打って、明るい部分が明るすぎにならないようにします。特にせっかく撮影時に残ったトラペジウムを、明るくしすぎて消さないようにします。
Photoshop

こんなところで完成としましたが、いずれにせよここでは、背景と星雲本体を個別に色バランスをとりつつ、背景を炙り出し、コントラストを上げることが重要です。背景はそもそも暗いためにノイズが多く、分子雲を炙り出すとどうしてもノイズが目立つようになるので、何らかのノイズ処理が必要になってきます。

WindowsのフォトやMacのプレビューだけで処理したものと比べると、背景と本体のバランスがとれていて、それらしい画像になってきたのかと思います。


GraXpert

ただし、Photoshopでの処理だけだと、背景の分子雲はまだあまり見えていないですね。この淡いところを出すにはどうしたらいいでしょうか?基本は、星雲本体と背景の輝度差をなくすことです。特に、画面全体に広がるような大きな構造(「空間周波数が低い」などと言います)での輝度差をなくすことが重要です。ここでは「GraXpert」という無料のアプリを使います。WindowsにもMacにも対応しています。

GraXpertは操作がそれほど多くないので複雑ではないのですが、少しクセがあります。

1. (32:35) GraXpertにストレッチ機能があるので、今回はすでにストレッチされたPNGではなく、暗いままのRAWフォーマットのFITSファイルを使いましょう。ストレッチされてない画像なので。最初にGraXpertの「1」の「Load Image」で開くとこんなふうに真っ暗に見えるかと思います。
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2. (33:05) GraXpertの「2」の「Stretch Options」で何か選ぶと、明るい画像になるかと思います。ここでは見やすくするために「30% Bg」を選びます。

3. (33:15) 画像の周りに黒いスジなどある場合はフラット化がうまくいきません。ライブスタックの時にディザリングなどで少しづつ画像がずれていくと、黒い筋になったりするので、まずはそれを左メニュー一番上の「Crop」の横の「+」を押して、出てきた「Crop mode on/off」を押します。黒い筋を省くように選択して、クロップして取り除きます。クロップ機能がGraXpertにあるのは、画像周辺の情報の欠落に敏感だからなのでしょうね。実際の取り除きの様子は配信動画を参考にしてください。

4. 「Saturation」は彩度のことなので、少し上げておくと後から彩度を出すのが楽になるかもしれません。今回は1.5を選びました。

5. (33:48) 「3」の「Points per row」と「Grid Tolerance」は画像によって適時調整してください。「Create Grid」を押します。目安は星雲本体が黄色の枠で選択されないくらいです。ここであまり神経質にならなくてもいいのがGraXpertのいいところでしょうか。

6. (34:00) 「Interporation Method」ですが、これは4種類ありますが、各自試してみてください。場合によって適不適があります。私はKriging>RBF>AI>Splineくらいの印象でしょうか?セミナーでは時間のかからないRBFを選びました。Methodによっては差が出る場合もありますが、ほとんど差が出ない場合もあります。

7. (34:25) しばらく待って結果が出たら、画面真ん中上の「Processed」と「Original」で比較してみるといいでしょう。その差が「Background」で見ることができます。
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こうやってみると、左が緑に寄っていて、右が赤に寄っていたことがわかります。

8. (35:28)できた画像をこのまま保存すると、ストレッチがかかりすぎているので、「Stretch Options」で「10% Bg」程度を再度選びます。その後「5」の「Saving」で「16bit TIFF」を選択し、「Save Stretched & Processed」を押して、ファイルを保存します。

TIFFファイルはサイズが大きくなるので、ここではTIFFファイルをjpgに変換したものを表示しておきます。
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9. (36:14) 保存されたTIFFファイルをPhotoshopで開き、あとは上でPhotoshopで処理したものとほぼ同様に進めます。

10. (36:20) 今回の場合、ヒストグラムで全ての山がそろっています。GraXpertで背景のホワイトバランスも合わせてくれています。

11. (36:28) 背景が暗いのですが、中心部は明るいので、Camera RAWフィルターで、ハイライトを下げ、黒レベルを上げ、さらに露光を少し上げると、背景の分子雲がPhotoshop単体で出したものよりも、すでに黙々しているのがわかります。これがGraXpertのフラット化の効果です。

12. (37:17) あとは同様にトーンカーブで青を少し出します。

13. (37:35) GraXpertのフラット化の弊害として、色が出にくいというのがあります。彩度を少し強調するといいでしょう。

14. (38:15) Camera RAWフィルターの「ディテール」の「ノイズ軽減」でノイズが目立ちにくくなります。ここまでの完成画像を示します。

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明らかにPhotoshop単体より、GraXpertでフラット化することにより、背景の分子雲が出たのかと思います。

よりあぶり出せたのはいいのですが、その分ノイズが目立つと思います。そのため、動画では (40:13)あたりで DeNoise AIを紹介しています。これはAIを利用したノイズ除去ツールで、非常に強力なのですが、恒星の処理が苦手で、星が崩れたりしてしまいます。今回は中心が抜けたような星になってしまいました。

これは次に話すように、星と背景を分離するなどして、背景のみに実行することでうまく使うことができますが、ここまで来ると今回の範囲を超えてくるので、参考までにノイズツールはこのようなものもあるということだけ認識しておいてください。


PixInsight

セミナーでは最後にPixInsightでの処理を紹介しましたが、これは今回の目的の範囲を超えていると思いますので、参考程度に処理したものを順に示すだけにしました。なのでここでも詳細な解説は控えておきます。というか、これを解説し出すとこの一記事では到底収まりきりません。

ポイントは
  1. (42:40) BlurXTerminatorで収差を改善し星を小さくシャープにすること
  2. (44:47) 星と背景を分離すること
でしょうか。これらはPhotoshopでの処理とは全く異なり、天体画像処理専用ソフトの強いところです。最初からここまで手を出す必要は全くないと思いますが、いつか自分の処理が不満になった時に、こんな手法もあるということくらいを頭の片隅に入れておけばいいでしょう。


比較

最後に、今回それぞれで画像処理をした
  1. Macのプレビュー
  2. Photoshotp
  3. Graxpert
  4. PixInsight
の4枚を並べて比べてみます。左上からZの字を書くように、上の1、2、3、4と配置しています。

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Macのプレビューだと、背景と星雲本体を別々に色合わせできなかったことがよくわかります。Photoshopになると、色がある程度バランスよくなっています。分子雲のモクモクはGraXpertが一番出ているでしょうか?

セミナー当日見せるのを忘れてしまいましたが、同じ4枚を拡大したものも比較してみます。
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Macのプレビューはノイズ処理がないので、やはりノイジーです。拡大すると、PhotoshopのみとGraXpertが入った時の違いもよくわかります。モクモクのあぶり出しと同時に、細部もでています。それでも細部はPixInsightがBXTのおかげで圧倒的でしょうか。

セミナーの最後でも言いましたが、4枚目でも情報を引き出し切ったかというと、かなりいいところまで入っていると思いますが、まだ少し余地が残っていると思います。マスクを使ったりすることで、ノイズ処理やあぶり出しをもう少し改善することはできるかと思います。


まとめ

さて、今回のセミナーと合わせての一連のブログ記事いかがだったでしょうか?電視観望から始まり、撮影に発展し、画像処理までを解説してきました。セミナー本番は少し詰め込みすぎたかもしれませんが、後の配信を前提に動作を示すことを中心としたので、よろしければ動画を繰り返し見ながら確認して頂ければと思います。皆さんの画像処理の何かのヒントになるのなら、今回のセミナーを引き受けた甲斐が十分にあるというものです。

画像処理はとても奥深いところがあり、今回示したBlurXterminatorもそうですが、まだまだ今後ソフトや技術も進化していくはずです。大切なことは、ここまで説明したことの繰り返しになるかもしれませんが、闇雲に処理を進めるのではなく、何が問題で、どうすれば解決するかの方針を立てて、手持ちの技術で実際に進めていくことかと思います。画像処理といっても、いわゆる普通の問題解決プロセスと同じですね。

今回色々な手法を示しましたが、これが唯一の方法だなんてことは口が裂けても言えませんし、正しい方法かどうかもわかりません。あくまで一例で、他の方法もそれぞれ皆さんで、試行錯誤もあるかと思いますが、いろいろ編み出して頂ければと思います。











CP+連動企画、「電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう」ですが、前回は撮影方法についていくつか検討しました。


結論としては、
  • 電視観望利用で画像処理が楽になるとしても、やはり撮影時に解決できることは、撮影時にやってしまおう
ということです。
  • 経緯台でも赤道儀でもディザーはあった方がいい、
  • 露光時間を伸ばしたいならオートガイドも必須
といったところでしょうか。

今回は、実際に長時間撮影撮影した画像について議論します。具体的な処理方法はCP+で説明するとして、その直前くらいのところまでです。


その前に一つ、SharpCapのちょっと便利な、多分あまり知られていない機能の説明をします。


「フォルダーモニターカメラ」で撮影した画像の救いだし

これまで撮影中に突然車のヘッドライトが当たるとか、ものすごい明るい人工衛星が通ってせっかく貯めたライブスタック画像がダメになり、最初からライブスタックをやり直したとかいうことはないでしょうか?

そんなときに、もし下部のライブスタック画面の「Controls」の「Raw Frames」で「SAVE all」を選んであると、保存されたRAWファイルから、ライブスタック画像を復元させることができます。
  1. まず、メニューの「カメラ」から「フォルダーモニターカメラ」を選びます。
  2. 次にフォルダを選択しますが、これは復活させたいRAWファイルが保存された場所を選んでください。以前すでにフォルダを選択しているときは、撮影画像が表示された状態になっているかもしれませんが、右パネルの「カメラコントロール」からフォルダを選択し直すことなどもできます。
  3. フォルダの中にあるファイルをどれか1枚選びます。例えば1枚「.fits」ファイルを選びます。
  4. fits形式を選んだ場合は、次に下部に出てくる「All .fits Files」ボタンを選ぶと、フォルダが選択できます。
  5. フォルダにある最初のファイルが画像としてSharpCap上で表示されます。ストレッチなども後掛けすることができます。
  6. 右パネルの「カメラコントロール」をさわることで、ファイルの連続表示を進めたり、途中でスタックが進んでいくのを止めたいとか、進行をコントロールすることができます。
  7. この状態でライブスタックをオンにして、カメラコントロールの三角マークの再生ボタンを押すと、自動的にフォルダ内のファイルを連続して読み込み、ライブ(?)スタックされていきます。ディザー時に保存された短時間露光のファイルは条件が違うせいか、(ラッキーなことに)うまくスタックできないことが多く、たいていはまともに露光したものだけがスタックされていきます。
  8. ここでこれまでほとんど役に立たなかった「フレームレート」が役に立ちます。適当に1秒とか、2秒とかすると、その時間間隔でファイルを更新してくれます。
  9. この時のライブ(?)スタック結果などは、通常のライブスタックのように、実行した時の日付や時間ごとのフォルダが改めて作成され、設定してある形式でファイルが改めて保存されます。

これを応用することで、
  • これまで溜め込んだファイルを全部あるフォルダにコピーして、超長時間で再スタックするなども可能になります。
  • 途中で車のライトや人工衛星の軌跡など、失敗したファイルを除いて再スタックすることも可能です。
  • SharpCapで撮影した画像に限らず読み込めるので、PI、SI、Siril、DSSなどに代わって、簡易スタックアプリとして使うのもいいかもしれません。
いろんな応用方法を考えることができると思うので、各自いろいろ試してみるといいでしょう。


ライブスタックでの長時間撮影

今回のCP+のセミナーに使うために、何度か長時間撮影を試しました。まとめがてら、少し検討してみます。

撮影時の共通項目としては
  • 赤道儀がSA-GTi
  • 三脚はSA-GTiに付属のもの、但しハーフピラーは外しました
  • 鏡筒はEVOLUX 62EDに専用レデューサーをつけて、焦点距離360mm
  • カメラがUranus-C Pro
  • 撮影はSharpCapでライブスタックを使用。
くらいでしょうか。

いくつか変えた撮影条件ですが、
  1. 1分露光、ゲイン220+CBP
  2. 1分露光、ゲイン220+CBP+UV/IRカットフィルター
  3. 1分露光、ゲイン0+QBP III
となります。順に見ていきます。


撮影1日目

まず最初にテストしたのは、ここまでの記事で示していた
  • 1分露光、ゲイン220+CBP
です。下はスタックなしの1枚のみの画像です。

frame_00001_60s

トータルで1分露光の短時間画像となりますが、この時点で構成周りの青ハロが見えています。CBPは青の波長域をかなり通すのですが、
  • 鏡筒が持つ青ハロをCBPではカットしきれない
ということになります。そこで、少し青側をカットしてやる目的で、UV/IRカットフィルターを入れることにしました。UV/IRフィルターは1.25インチのものを使い、下の写真のようにカメラのT2ねじのところに、薄型のT2->Cマウントのアダプターで固定しました。
IMG_8994

固定といっても、ネジをはめ込みすぎるとセンサー側に落ちてしまうので、教頭に固定するまではカタカタ揺れています。またネジの途中で止めるので、教頭にはめるときのねじ込みが浅くなり、落下の危険性も出るので、あくまで自己責任でお願いします。

注) : 「電視撮影 (その1): 機材の準備」編の時に初出で紹介したフィルター取り付け方法ですが、おそらくこのレデューサーと鏡筒の間に48mmのものを取り付ける方が正式だと思います。ただ、訂正記事で書いたように、ネジが緩んで鏡筒側から外れて、その際にレデューサ側にはまりこんでしまうと、取り外すのにかなりの苦労をします。なので、今回の上の写真のように1.25インチサイズを使用する方法を取りましたが、これはきちんとした固定法ではないはずです。48mmで外せなくなった時の大変さと、1.25インチで落下などの危険性を認識した上で、どちらか取り付け方法を選ぶ必要があると思います。もしくは、私が勘違いをしていて、もっと正しい方法がある可能性もあるので、他にいい方法があればコメントなどで教えていただけるとありがたいです。


さて、1日目の撮影は雲が出てきてしまったので、短時間撮影でおしまいです。


撮影2日目

とうわけで、撮影2日目、長時間露光は
  • 1分露光、ゲイン220+CBP+UV/IRフィルター
という構成で開始しました。この状態で60フレーム、合計1時間ライブスタックで撮影したものが以下になります。強目のストレッチにしています。

Stack_60frames_3600s_19_43_27_WithDisplayStretch

撮影は一通り終えて、その後に画像を仕上げる過程で、5つ問題点が見つかりました。
  1. 青ハロが全然改善していないこと
  2. UV/IRカットフィルターによる、緑色の大きなハロが右の明るい恒星周りに、新たに出てしまっている
  3. 明るすぎることによる極度に飽和した恒星周りに白いハロが出ている
  4. 明るすぎることによる一部の恒星中心部の飽和
  5. 明るすぎることによる星雲中心部の飽和

背景の淡いところはそこそこ出ているのですが、恒星部が明るすぎます。恒星の多少の飽和は許容しても、画像処理である程度はなんとかなるのですが、これは許容範囲を超えていました。

Uranus-CでHCGがオンになるの220としたのですが、これだと感度が高すぎるようです。かといって、中途半端にゲインを下げると、ダイナミックレンジで損をします。露光時間を短くしてもいいのですが、読み出しノイズの観点からは、トータル撮影時間が同じならば、1枚あたりの露光時間を伸ばした方が得をしますし、あまり撮影枚数が多くなっても、ディスク容量を食いますし、再処理の時とかに負担になるかもしれません。

これらのことから、次の撮影は以下のようすることにしました。
  • 露光時間は60秒のまま、アナログゲインを220から0とする
  • CBPでは一部青ハロが残ったので、青領域をもう少し制限したQBP IIIとする
  • 余分なハロを防ぐために、UV/IRフィルターも外す

QBP IIIフィルターは1.25インチのものを、上で示したようにカメラ側に取り付けます。

実はこの撮影2日目は珍しく晴れたと思って結構焦っていて、上記のような検討がまだ十分にできていない状態で長時間撮影に臨みました。この設定で実際2時間以上の撮影をしたのですが、上記問題により結局お蔵入りです。2時間は結構長いので、今後は画像処理においては1時間撮影画像をデフォルトとします。


撮影3日目

撮影3日目は、前回の記事に使った、色々な設定での撮影方法を試しました。ブログに載せたのは6+1で7通りですが、実際には17通りの設定を試して、記事として意味のある7通りを選んでいます。

記述しなかったことの一つはシグマクリッピング機能についてですが、先に説明した「フォルダーモニターカメラ」で再ライブスタックすることができるなら、撮影時にオンにしてもオフにしても後からどうとでもなります。実際には長時間撮影で枚数を重ねるので、1枚のみに載った人工衛星の軌跡などは、シグマクリッピング機能がオフでもほとんど目立たなくなります。それでもオンとオフで少し差は出るので、オンにしておいた方が無難でしょう。

もう一つは「Hot and Cold Pixel Remove」機能のオンオフでどう違うかです。このカメラでは結局「Hot and Cold Pixel Remove」も「Hot Pixel Remove」も「なし」もほとんど違いがわかりませんでした。ただしカメラによっては、特にホットピクセルを多く持つカメラを使う場合にはこの機能が効くと思われます。別途RAWファイルを一からスタックするなど、その際にダーク補正をする場合はこの機能はオフの方がいいのですが、ライブスタックで簡単にスタックする場合はこの機能はオンにしておいた方が楽な場合が多いかと思われます。


撮影4日目

天気が悪くて少し間を置いたのですが、運よく晴れた撮影4日目、前述の通り
  • 1分露光、ゲイン0+QBP III
という設定で、60枚ぶん1時間の撮影をします。撮影後のSharpCapのオートストレッチした画像です。ここでのオートストレッチは具体的には以下のようになります。
  1. ライブスタック画面の「Histgram」タブの右下にある「Stretch Mode」を「6」にして
  2. ライブスタック画面のカラーバー下の雷マークのホワイトバランスアイコンを押し
  3. さらに右側パネルのヒストグラムでオートストレッチをして
  4. ライブスタック画面の左側の「Action」の「Save」ボタンで、4つ目の「Save exactly as seen」で画面で見たままの状態を保存しています。
Stack_60frames_3600s_21_00_44_WithDisplayStretch

2日目の撮影時に比べて、1枚当たりの露光時間は同じですが、ゲインが220から0になっているので、220[0.1dB] = 22 [dB] = 20 +2 [dB] = 10x1.26 = 12.6倍と、明るさが1/12.6 ~ 0.08で約8%程と、2日目の画像に比べて結構暗くなっています。

2日目のところで挙げた5つの問題点がどうなったかを見てみます。
  1. 青ハロはほとんど目立たなくなりました。CBPからQBPへの変更が効いているようです。
  2. 緑色の大きなハロも無くなりました。UV/IRカットフィルターを外したことが効いていると思われます。
  3. 恒星の飽和による白ハロはなくなりました。
  4. 恒星の飽和は一見なくなっているかに見えますが、実は明るい星の極中心はまだ飽和しています。ゲインは0なのでもう下げられないです。露光時間を下げることはできますが、後述するように、読み出しノイズが見えてきてしまっているので、これ以上露光時間を短くするのは危険です。
  5. 見た目をかなり明るくしているのでわかりにくいですが、ストレッチした状態でも星雲中心のトラペジウムも十分生き残っています。
trapegium

と、恒星の中心部のわずかな飽和以外はほとんど改善されていることがわかります。


淡い分子雲部分の検討

心配なのは、ゲインを0にして暗くしたことで背景の分子雲がどこまで読み出しノイズに埋もれるかです。最淡の部分を見るために、別途RAWファイルから別ソフト(PixInsight)でさらに強あぶり出しをした画像です。
more_Stack_16bits_60frames_3600s_21_00_44
3日目撮影のアナログゲイン0の画像。

この画像と、2日目に撮ったアナログゲインが220の場合の画像(下)と比べます。
more_Stack_16bits_60frames_3600s_19_43_27
2日目撮影のアナログゲイン220の画像。

2枚の淡い部分を注意して比べてみると、アナログゲインが0の時は読み出しノイズの横縞っぽい模様が見えているのがわかります。最淡の部分は、明らかにアナログゲイン220の時の方がよく出ていることがわかります。画像処理の最後の最後の淡いところのあぶり出しの時に、この差2枚のは効いてくるかもしれません。

ただし、飽和に関してはゲイン220の時だと(実際に画像処理をしてみた後の感想ですが)画像処理に困るくらいのレベルなので、やはり明るすぎです。こう考えると、アナログゲインを220にして、30秒とか、20秒という露光時間が最適解なのかもしれません。もしくは、今回撮影したアナログゲインが220と0の場合で、HDR合成というのが一つの解なのかもしれません。いずれにせよ、オリオン大星雲は明るい中心部からから暗い分子雲まで、広いダイナミックレンジが必要な対象で、初心者からベテランまで広範囲にわたって楽しめる、天体写真撮影にとって冬の代表的な「大」星雲といえるでしょう。


まとめとセミナー当日に向けて

ブログ記事としての今回のCP+のためのテスト撮影はこんなところです。撮影に際して露光時間とゲインの十分な吟味が必要なことが伝わってくれたのなら、私としてはとても嬉しいです。

実際の画像処理まで進めると、撮影時のパラメータ次第で困難な状況にぶち当たり、次回はこんなパラメータで撮影してみようなどと実感するはずです。最初から最適パラメータを選ぶことができればいいのですが、やってみないとわからないことも多いのでなかなか難しい現実もあり、このような試行錯誤は仕上がり具合にかなり効いてくるはずです。

もう新月期もすぎてしまい、これ以上の撮影も難しくなってきました。今日までにすでになん度も試していますが、あとは画像処理を繰り返し試すのみです。40分という時間内にいかにうまく実演ができるか、まだかなり練習が必要そうです。その結果はセミナー当日の2月24日(土)の13時20分から、実際の画像処理の様子でお見せできればと思います。



後日オンラインでも配信される予定ですので、後から拝見されてもいいのですが、お近くの方はよろしければ当日横浜アリーナまでお越しいただければと思います。その際は、CP+2024の事前登録(無料)をお忘れなく。

会場ではぜひ直接お話などできればと思います。私は金曜午後くらいには会場入りし、土曜は夕方くらいまでいる予定です。サイトロンブース周りでうろうろしていると思います。一応「Sam」と書いたネームプレートを首から下げるようにしますので、もし顔を見たらお気軽にお声かけしていただければと思います。


CP+セミナー事前打ち合わせ

最後にですが、なんでこんなことをしようと思ったのかについて書いておこうと思います。

今回CP+のセミナーを引き受けるにあたって、内容を決める際にサイトロンのスタッフさんとまず話したことは「入門者や初心者で画像処理に困っている人は思った以上に多いのではないか」ということです。

以前小海で開催された「星と自然のフェスタ」サイトロンさんブースでお手伝いしたときの経験が元なのですが、電視観望で撮影して、その場でできるくらいの画像処理をした時のことです。一番最初の本当に簡単な炙り出し(オートストレッチ)の段階で「オォー!」という声があがりました。これは私にとって結構意外なことでした。だって、まだ最初の最初のあぶり出し段階です。もっと後から細かいところが見えてきたりするのが待っているのに、最初からこんなに声が上がったら、あとはどうなるのか??? でもその後は、もっと複雑な画像処理プロセスでも、最初のときほど声が上がることはなかったのです...。

星まつりなので、天体画像の処理なんてことを見たこともない一般の方もいらっしゃったと思います。電視観望に興味がある入門者が多かったこともあるでしょう。ブワッと星雲が出てくる様子は、かなりインパクトがあったのかと思います。それで考えたのが、
  • もしかしたら初心者で画像処理のことを知りたい人はかなり多いのではないか?
  • 電視観望から初めて撮影に手を伸ばしたとしても、撮影した画像処理の敷居もまた高いのではないか?
  • 例としてある程度の画像処理の一連の方向性を示すのは、初心者にとっては指標になるのではないか?
などです。

望遠鏡で星を見始めると、誰もが見たものを記録しておきたいと思うはずです。リストを作るのも、手でスケッチするのもいいでしょうし、本格的に写真撮影でもいいでしょう。せっかく記録するのなら、後から綺麗に見えたほうがいいと思うのも、ごく自然な流れでしょう。これは眼視でも、電視観望でも、本格撮影でも、ごく自然な欲求なのかと思います。それならば、天体写真の敷居を下げるべく、電視観望の技術をうまく使い、天体写真を残す方向を探ってみようと思ったのが、今回のセミナーを引き受ける際に考えたことです。

でもセミナー時間は高々40分です。撮影技術を全部話すことは難しいので、今回は画像処理をメインにしてみようと思います。画像処理は実際のやり取りを動きで見てもらったほうがいいと思ったからです。その代わり、撮影の細かい技術は事前に試して、ブログに書いておこうと。

ブログには今回を含めて5回の記事で、天体写真に興味を持った人が始めるところから、実際に撮影が終わるくらいまでをまとめることができました。あとはセミナー本番、うまくいくといいのですが...。

セミナー終了後、画像処理についてまとめました。










CP+連動企画、「電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう」ですが、前回でやっとオリオン大星雲の撮影を開始することができました。


機材の設置からソフトの設定まで、やはり工程が多いですよね。天体写真撮影が敷居が高いと言われるはずです。それでも電視観望でオートストレッチまで済んでいるので、画像処理は楽になるはずです。そこら辺をCP+でお見せできたらと思っています。


オートストレッチ

前回の記事で重要なことを一つ書き忘れていました。画像保存時におけるホワイトバランスの重要性です。

ライブスタック中に普段画面を見る時からでいいので、3つのことをしておくといいです。
  • ライブスタック画面の「Histogram」タブを開き、左のカラーバーの下にある雷マークアイコンを押し、ホワイトバランスを整えます。
ホワイトバランスはすごく重要で、これができてないとオートストレッチがうまくいかないことがあります。オートストレッチに関しては前回も説明していますが、
  • 次に同じくライブスタック画面の「Histogram」の左の上のもう一つの雷マークアイコンを押し、オートストレッチします。
  • 新たに右パネル「ヒストグラムストレッチ」の方の雷マークを押し、さらに炙り出します。もし画像が明るすぎる場合は、右側パネルのヒストグラムの、山を挟んでいる左と真ん中の2本の線を少し動かしてみるといいでしょう。

今回の記事もこのような状態で画像を保存したものを使っています。


検証項目

撮影までに赤道儀の設置や、オートガイドを使った長時間撮影など、それなりに準備だけでも大変でした。電視観望の技術を使い、ここからの画像処理は楽になるとしても、ここまでの準備をもう少し簡単にできないものなのでしょうか?今回はいろいろ設定を変えてみることで、簡単になるのかどうか議論してみます。

今回比較したいものを準備が簡単な順に並べてみます。矢印の右側は、予想される問題点です。
  1. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 → 露光時間に制限がある(10秒程度)、視野回転、縞ノイズが問題になる
  2. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光+ディザー → 露光時間に制限がある(10秒程度)、視野回転
  3. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光 → ピリオディックモーションのために縞ノイズが問題になる
  4. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光+ディザー → 露光時間に制限がある(20秒程度)
  5. 赤道儀SA-GTiでの60秒露光+ディザー+ガイド 
  6. 赤道儀SA-GTiでの3秒露光でゲインを0に下げる+ディザー+ガイド → 読み出しノイズが顕著になる
順に詳しく見ていきます。


1. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)

まず対極で、できる限り簡単な撮影というものをしてみましょう。

ここでは赤道儀の代わりに、自動導入機能がある経緯台AZ-GTiを使ってみます。鏡筒を軽いもの、例えばFMA135やFMA180とかなら、もっと手軽にトラバースでも構いません。特にトラバースは超小型で自動導入も自動追尾もできるので、対極という意味ではこちらの方がいいのかもしれません。トラバースについては以前撮影例を記事にしているので、よかったらご覧ください。

これらの経緯台は赤道儀と違って、極軸調整などを省くことができます。最初はオートガイドやディザー撮影も無しとします。経緯台なのですが、自動追尾はできます。それでも経緯台は縦と横とでしか動かせないので、長時間で回転していく星を追尾しようとすると、視野の回転が問題となるはずです。視野の回転はそこそこ激しいので、星像が天になるためには露光時間に制限ができます。鏡筒やカメラにもよりますが、今回の機材だと現実的には10秒程度でしょう。また視野が流れてしまうことによる「縞ノイズ」が問題になってきます。

今回使うAZ-GTiの写真です。SA-GTiの元になった機器だと思いますが、経緯台だけあってAZ-GTiもかなり小さいです。

D81DD62F-BDC9-42B4-8948-B36F477D5BA9
左がトラバース、右がAZ-GTiです。どちらもコンパクトです。

実際に撮影した結果を示します。問題を見やすくするために、かなり明るくしています。1枚当たり10秒露光で、30フレームなので高々5分程度の撮影ですが、

Stack_30frames_300s_22_40_26_WithDisplayStretch_HT

まず視野回転しているのがわかります。右下の方にずれていっている様子がわかります。ずれが三角型になっているのが、視野が回転している証拠です。多少ならば最終的にトリミングすればいいのですが、長時間撮影ではカットする部分が大きくなってしまいます。

PlayerOneのCMOSカメラにはDPS (Dead Pixel Supression)という機能があり、輝度が飽和してしまうようなホットピクセルは、輝度が0近くになってしまうコールドピクセルという、センサーにどうしても存在してしまうわずかの欠損を目立たなくしています。さらに今回、SharpCapの設定でホットピクセル/コールドピクセルの簡易除去をしていしてます。それでもホットピ/コールドピクセルのようなものが存在しているようで、高々5分の撮影でもスクラッチ状のノイズを残してしまいます。拡大するとよくわかります。

Stack_30frames_300s_22_40_26_WithDisplayStretch_HT_HT_cut

このように経緯台での簡単撮影では、回転とスクラッチ上のノイズが問題になってしまいます。でも逆に言うと、対極的に簡単な撮影でも問題点は高々これくらいです。セットアップが簡単になるなら、十分ペイするくらいのささいな問題点かもしれません。

この後に画像処理をすることで、たった5分の撮影でも、大迫力のオリオン大星雲の魅力は十分に出てきます。撮影時間が長くなるほど、縞ノイズの問題が深刻になってくることが予測されるでしょうか。許容範囲は人にも求める仕上がり具合にもよると思いますが、後の画像処理次第で十分天体写真として通用するものになるかと思います。


2. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 + ディザー (ガイドなし)ここに文章を入力

経緯台での簡単撮影ですが、どうせ撮影するなら一手間だけかけてみましょう。ここではオートガイドなしのディザーを提案してみます。天体写真に経験のある方だと、ガイドなしでディザーなんかできるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、SharpCapのLiveStack撮影ではそれが可能になります。

設定方法です。
  1. SharpCapメニューの「ファイル」の「SharpCapの設定」の中の「ガイディング」タブを開きます。
  2. 下の画面のように「ガイディングアプリケーション」を3つ目の「ASCOMマウントパルス...」を選びます。
  3. 「ディザリング」の「最大ディザステップ」は、AZ-GTi単体で上の「1. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)」で見たホットピクセルやクールピクセルをできるだけ散らしたいため、かなり大きな値にします。ここでは40としました。
  4. その代わり、AZ-GTiが十分に落ち着くように、「ディザリング」の「最大整定時間」を大きくとります。ここでは60秒としました。
  5. 最後に下の「OK」を押します。
07_guide_setting

上記設定でディザー有り、ガイドなしで撮影した結果です。先の1と同じく、10秒露光で5分間の撮影です。
Stack_30frames_300s_22_47_52_WithDisplayStretch_brighter

ホットピクセルやクールピクセルが散らされて、かなり目立たなくなっています。拡大してみます。これくらいなら十分許容範囲ではないでしょうか?
Stack_30frames_300s_22_47_52_WithDisplayStretch_brighter_cut

このように、自動導入経緯台にディザーをかけての撮影というのは、一つのシンプル撮影の到達点かと思います。それでももちろん問題はあって、
  • 視野回転は避けられないこと
  • 露光時間を長く取れない
ということです。今回は10秒程度の撮影なので星像がまともでしたが、AZ-GTiでの経緯台撮影だと20秒程度で星が流れ始めてしまいます。

この星像のずれは、視野回転影響も大きいです。経緯台でオートガイドをすることも不可能ではありませんが、思ったより大変なのと、オートガイドをしたとしても原理的に視野回転は防ぐことはできません。これ以上露光時間を伸ばしたいとすると、赤道儀に移行した方が無難と思われます。


3. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)

というわけで、ここから再び赤道儀のSA-GTiに戻ります。

下の画像はSA-GTiで、オートガイドもディざーも無しで、露光時間を20秒として「1枚だけ」撮影した画像です。
01_single_frame_00001_20_0s_RGB_VNG

中心部付近を拡大してみますが、赤道儀ということもあり視野回転もないし、20秒程度の露光なら星像も全然流れていないことがわかります。
01_single_frame_00001_20_0s_RGB_VNG_cut

「1枚だけ」の撮影なら問題ないのですが、その一方これを例えば20秒露光で「30枚、合計10分」撮影すると何が起こるかというと、以下のようになります。
Stack_30frames_600s_20_28_37_WithDisplayStretch

気づきにくいかもしれないので、拡大します。
Stack_30frames_600s_20_28_37_WithDisplayStretch_cut
星はライブスタックで位置を確認して重ねあわているので、依然流れていません。問題はホットピクセルやクールピクセルが流れて、背景にいくつか縦方向の紫色に見えるスクラッチができているのです。

これは赤道儀のギヤの精度に起因して起こる、「ピリオディックモーション」などと呼ばれる現象が原因です。赤道儀にもよりますが8分程度の周期で、赤経方向にsin波的に揺れてしまう動きが存在します。どれくらい揺れるかは、ギヤの精度に依存します。

ライブスタック技術で、星を位置合わせして重ねるために、星自身は流れなくなっています。その代わりに、1枚1枚に存在する固定位置のホットピクセルやクールピクセルは逆に重なることはなくて、30枚の撮影で軌跡として流れるように残ってしまうというわけです。

ちなみに、今回のこの軌跡は測定してみると22ピクセル程度の長さです。鏡筒の焦点距離360mmとカメラセンサーの大きさ11.2mm x 6.3mm から、このサイトなどで画角を計算すると1.78度 x 1.00度と出ます。センサーの画素数が3856×2180なので、1.78度 x 60 x 60 = 6408秒角、これを3856で割ると、1ピクセルあたり1.79秒角となります。これが22ピクセルあるので、39.3秒角、プラスマイナスで考えると、+/-19.7秒角のピリオディックエラーということになります。この値はオリオン大星雲で測定しましたが、天の赤道付近なので、この値から大きく変わることはないでしょう(実際には赤緯-5度付近にあるので、5%程度小さく測定されています。それを補正しても+/-21秒角程度でしょう。)。以前測定したAZ-GTiを赤道儀モードで測定した値が+/-75秒角程度でした(今思うとかなり大きな値なので、再計算しましたが間違ってませんでした)から、随分と改善されていることになります。

少し脱線しましたが、このように赤道儀を使ってもピリオディックモーションからくる制限があります。これを解決するために、次はディザーを考えます。


4. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光+ディザー  (ガイドなし)

3で見た、ピリオディックモーションでのホット/クールピクセルの軌跡をなくすために、赤道儀でディザーをしたら、どうなるでしょうか?ただし、オートガイドはなしです。露光時間20秒、総露光時間5分間です。
Stack_15frames_300s_20_57_18_WithDisplayStretch

拡大します。
Stack_15frames_300s_20_57_18_WithDisplayStretch_cut

3の時よりかなりマシになっていますが、まだ少し軌跡が残っています。これは少し設定ミスがあって、記録を見たらディザー設定の「最大ディザステップ」が10と少し小さく設定し過ぎたようです。AZ-GTiの時は40だったので、もう少し散らせばもっとまともになるかもしれません。

さて、ディザーで軌跡が少しマシになることは分かりましたが、まだ根本的な問題があります。1枚当たりの最大露光時間がピリオディックモーションで制限されているということです。例えば下の画像は、これまで通りオートガイドなしで60秒露光したものです。
Stack_1frames_60s_20_24_55_WithDisplayStretch

中心付近を拡大するとわかりますが、既に星が流れてしまっています。これは1枚撮影する間にピリオディックモーションによって星が動いてしまい、1枚の画像の中にその動きが記録されてしまうことが原因です。
Stack_1frames_60s_20_24_55_WithDisplayStretch_cut

これを避けるためには、1枚撮影している間に、星の位置を保つようにオートガイドをする必要が出てきます。


5. 赤道儀SA-GTiでの60秒露光+ディザー+ガイド

まず、20秒露光でトータル5分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えます。ディザーはPHD2の支配下に置かれるので、PHD2でのディザー幅の設定となり、4の時より大きな幅で動かしています。
Stack_15frames_300s_21_09_53_WithDisplayStretch

変な軌跡も完全に消えていますし、星像も流れていません

さらに条件を厳しくして、露光時間を60秒露光と伸ばして、トータルで少し長く16分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えたものです。
Stack_8frames_480s_21_00_44_WithDisplayStretch

このようにガイドのおかげで、長時間露光してもピリオディックモーションが出てこなくて、星流れていないのがわかります。

赤道儀を使って1枚当たりの露光時間を伸ばそうとすると、やはりガイドとディザーを使った方がいいという結果になります。


一旦まとめ

ここまでをまとめます。
  • 経緯台だろうと、赤道儀だろうと、ディザーはあった方がいい。
  • 経緯台でディザーをするならば、かなりシンプルな撮影体制を構築することができる。ただし、画角回転は避けられない。同時に、1枚当たりの露光時間も10秒程度とかなり制限される。
  • 赤道儀を使うことで画角回転は避けられるが、オートガイドを使わない場合は、ピリオディックモーションのために1枚当たりの露光時間を伸ばすことはできない。
  • 赤道儀でも露光時間を伸ばしたい場合は、オートガイドは必須。
といったところでしょうか。

ここまでで大体の検証は終わりですが、露光時間を伸ばすための努力だったと言ってもいいかもしれません。その反証として最後にもう一つ、1枚当たりの露光時間が短い場合の弊害を見てみましょう。


6. 赤道儀SA-GTiでの3秒露光でゲインを0に下げる+ディザー+ガイド

ここではこれまでのSA-GTiの赤道儀で、露光時間を3秒に下げ、さらにカメラのアナログゲインも220から0にするという、極端な場合を示します。上の5が60秒露光だったので20分の1、さらにアナログゲインが220変わっているので、220 [0.1dB] = 22 [dB] = 20 + 2 [dB] = 10 x 1.26 [倍] = 12.6 [倍]小さくなります。露光時間と合わせると、1/(20 x 12.6) = 1/252  ~ 0.004と0.4%ほどの明るさになったということです。これで100フレーム、合計300秒=5分撮影した結果です。
Stack_100frames_300s_21_28_38_WithDisplayStretch_enhanced

たくさんの縦線と、淡いですが横線も見えています。これは俗に言う「読み出しノイズ (リードノイズ)」が見えてきてしまっているということです。露光時間が短かったり、ゲインが低かったりした場合にこのような状態になります。要するに暗すぎるということです。

同じ露光時間3秒でも、アナログゲインが220の場合はかなりマシになります。1枚当たりの露光時間は上と同じ3秒、100フレームで5分間の撮影は同じです。オートガイドをしていないので、ホット/クールピクセルの軌跡は残ってしまっています。かなり炙り出しているので、縦縞はまだ見えますが、横縞に関してはほとんど無視できます。
Stack_100frames_300s_21_17_26_enhanced

背景はまだひどいですが、面白いのはオリオン大星雲の中心のトラペジウムはよく見えているということです。どうも前回までに撮影したゲイン220で1分露光は少し明るすぎるのかもしれません。中心を取るか背景を取るか、ここら辺が難しくまた面白いところです。

いずれにせよ、露光時間が短いとか、ゲインが小さいとかで、写している天体からの信号が小さい場合、読み出しノイズが支配的になって、縦横の縞ノイズが現れてきます。ホットピクセルやクールピクセルが流れる縞ノイズは斜めに流れることが多いので、このように垂直、水平にノイズが出るようならば、自分の撮影時の設定が暗すぎはしないか、一度疑ってみるといいと思います。


まとめ

いろいろ検証しましたが、結局のところ、電視観望を利用した撮影と言っても、撮影の段階で解決できることはできる限り解決しておいた方がいいということです。

今回の結果から、電視観望技術を利用した撮影方法は、主に下の2つの方法に収束すると思います。
  • 経緯台で、短時間で、ガイドなしで、ディザーを使って縞ノイズを散らす方法は、シンプルという観点から十分使う価値がある。
  • 赤道儀で長時間露光を目指すならば、オートガイドとディザーを使う方がいい。ガイドなしだとピリオディックモーションで1枚当たりの撮影時間が制限される。
といったところでしょうか。

次回は、長時間露光のパラメータを探ってみます。










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