前回の記事のM104撮影に際し、少し検討したことがあるので、メモがてら書いておきます。大したことではなく、ホントに補足程度です。



恒星の飽和

今回のM104の撮影では、2023年5月と2024年4月で、機材や設定はほぼ同じで、露光時間だけ5分から1分に縮めました。5分露光では多くの星が飽和していて、1分間にしてもそこそこの数の恒星が飽和していることを前回示しました。

いい機会なので恒星の飽和について少し考えてみました。これは恒星周りを3次元でプロットしてみるとよくわかります。1分露光のL画像のストレッチ前のリニアの時のものを一部を拡大しています。

Image28_Preview05_3dplot
全角画像の左下の端にかかっている3つの明るい星。

3つ並んだ星はどれも豪快にてっぺんが平らになっていて飽和していますが、階調がどれくらい足りていないのかはこれだけだと良くわかりません。そこで、画面の中でちょうどギリギリ飽和するくらいのある星をStellariumで調べてみると12.5等級とのことでした。次に、画面の中で最も明るい星の等級を同じくStellariumで調べてみると「HD109875」で7.65等級とのことでした。12.5 - 7.65 = 4.75等級 = 87.1倍となりました。ということは、今回の画像ではまだ明るさを100分の1近くにしなければ、全ての星の飽和を無くすことができないのがわかります。ここではASI294MM Proのbin1設定で見積もっているのでダイナミックレンジは12bitと狭いですが、たとえ16bitのカメラを持ってきても4bit = 16倍稼げるだけで、100分の1という差は賄いきれません。

露光時間で考えてみます。今回は1分露光なので、同じカメラで同じgainだとすると60s / 90 = 0.67秒程度の短い露光時間にする必要があります。今回の撮影時のカメラのgainが120なので、たとえgainを0にしたとしても-12dB = 0.25倍程度です。この場合は露光時間を2.7秒程度まで伸ばせますが、それでも全く現実的でないほど短い露光時間です。これだと淡いところは読み出しノイズに埋もれてしまう可能性が高いです。

画像に写る星の明るさは、星がどれだけ鋭く写るかにも依るので、鏡筒の口径、スポットダイアグラム、シンチレーション、風や地面振動による鏡筒の揺れ具合、それらを積分する露光時間にも依ります。もちろん性能が良くなればより星像は鋭くなるので条件は厳しくなり、要求されるダイナミックレンジは大きく、露光時間はより短くなります。

より一般的には、飽和しないための露光時間は画角に写った星のうち「一番明るい星」に依ります。Stellariumで調べてみましたが、今回撮影したものと同じ画角だと10等星は撮影位置を選べば避けることができそうですが、11等星を画角の中に一つも含まないというのはかなり難しそうです。さらに対象天体は中心に持ってくることが多いので、任意の場所を選べるわけでもありません。10等星は画角内に入ってくる確率がそこそこあるとすると、計算すると6.9秒程度まで露光時間を短くしなければならなくなり、やはり現実的でなくなってきます。

ものすごいラフな見積もりですが、恒星の飽和を完全に避け、かつ淡い天体を写すというのはかなり難しいということがわかるかと思います。こうなってくると、どうしても飽和を避けたい場合は、明るい恒星のみを写す超短時間露光を別撮りして、画像処理時にHDR合成することでしょうか。

というわけで、今後も恒星の飽和はあまり気にすることをせずに、撮影を続けたいと思います。


シンチレーションについて

今回L画像は2024年の4月1日と4月10日の夜に撮影しています。1枚撮りのRAW画像を切り取って、オートストレッチしたものを両日比べてみます。高度が同じ(31度)になるように時間を選んでいます。

1: 202/4/2 00:05:
01_good_1min_2024-04-02_00-05-46_M 104_L_-10.00C_60.00s_0059

2: 202/4/11 01:25 00:05:
02_bad_1min_2024-04-11_01-25-11_M 104_L_-10.50C_60.00s_0000

パッと見で、明らかに4/2の方がシンチレーションがいいことがわかります。

3: もう一つ、2023年5月11日に5分露光で撮影したものです。露光時間が長いので微恒星まで写り込んでいて、一見こちらの方が良さそうに見えますが、星像の大きさだけをよく見比べると今年の4/2の方が小さくてよく見えます。
03_middle_5min__2023_05_11_23_35_26_LIGHT_L_10_00C_300s_G120

実際にPIのFWHMEccentrisityツール(gausiaan, 0.5)で径を測定すると
  1. 12.51px
  2. 23.22px
  3. 13.64px
となり、画像を見た印象とほぼ一致しているのかと思います。

でも、いくらbin1での撮影といえ、そもそも12.5pxでもかなり大きい気がします。SCA260のスポットダイアグラムを見てみます。

sca260_2

いくつか数字があるのでわかりにくいのですが、図はどれも一辺200μmです。右下の一番大きなスポットの長辺が30umくらいでしょうか?これに相当する数値はField 4のGEO radius 15.53umのようです。radiusで半径なので2倍して31.06umでほぼ一致しています。

ではRMS radiusとは何かというと、光の強度分布をガウシアンだと仮定すると、標準偏差σがRMS radiusと一致します。σとFWHMの関係は、計算するとFWHM = 2.36σとなるので、例えばField 1のFWHMは1.916 x 2.36 = 4.50umとなります。

今回はASI294MM Proでセンサーの長辺が19.2mm、短辺が13.1mmなので、四隅までの距離は中心からsqrt(19.2^2+13.1^2) / 2 = 11.6mmとなり、Field 1と2の真ん中くらいでしょうか。2.51umと1.92umの真ん中を取り、RMS radiusを2.25umとしましょう。FWHMは2.25 x 2.36= 5.23umです。

今回のセンサーはASI294MM Proをbin1で使っているので、1pxあたり2.31umです。

ここまでの見積もりが正しいとすると、FWHMをピクセルで表すと、SCA260の中心付近では5.23[um] / 2.31[um/px] = 2.26[px]となりかなり小さい値が見込まれます。これとシンチレーションが良かった4月2日の12.51pxと比べると、実測は5倍以上大きいことになります。スポットダイアグラムなんて全然意味がないくらいに大きな星像になっているというわけです。

では今回撮影したM104の星像が、他のよく撮れている方の画像と比べて大きすぎるかというと、そんなことはなくて、ある意味一般的な恒星の大きさと言えるかと思います。そもそも他と比べてそこまで星像が肥大するようなら、M104本体の分解能もそこまで出ないはずです。

では、何がおかしいのでしょうか?

これまでこんなことはあまり定量的に見積もってこなかったので、冷静に考えてみました。まず気づいたのは、焦点距離に関わらず高性能な鏡筒のスポットダイアグラムも中心像ってそこまで大きく変わらないことです。例えば焦点距離300mmのFRA300 Proのスポットダイアグラムの数値を見ると、RMS radiusで中心では1.961umとSCAとほとんど同じ大きさです。これだけを信じると写る恒星の大きさは同じになるはずです。じゃあ焦点距離が長い鏡筒で写した恒星がそこまで小さくなるかというと、小さい系外銀河の画像などを見てもすぐにわかりますが、現実にはそんなことはなく、一つ一つの恒星の大きさは大きくなってしまい、星の密度も全然小さくなります。スポットダイアグラムでは同じ径なのに、焦点距離が違うと、なぜ撮影した画像ではこんなに違うのかという疑問に置き換えられたということです。

ここまで考えると答えはすぐに出てきて、焦点距離が長いので、同じ大きさの素子のカメラだとするとより拡大して見ていることになり、揺れなどの影響がより効いてくるということです。

揺れを見積もってみます。PHD2の出力を見てみると、角度揺れはRMSで概ね2秒角以内には収まっているようです。焦点距離1300mmとセンサーサイズ19.2mm x 13.1mmから、このサイトで計算すると画角は0.85x0.578度とわかるので、ピクセル数(1binであることに注意して)8288x5644でそれぞれの辺で割ると、1ピクセルあたり0.36秒角とわかります。そのため、PHD2から見積もった角度揺れで5ピクセルくらいは揺れていることになるので、スポットダイアグラムから見積もった2.26ピクセルの倍くらいにはなっています。実際にはこの2倍の揺れの周りに、元のスポットダイアグラムで表されるガウス分布が散らばるとすると、周りに片側0.5倍、両側で1倍程度の広がりを持ってもおかしくはないでしょう。これで3.3倍程度で、実像の5倍までまだ少し足りませんが、ある程度の説明はできそうで、少なくとも角度揺れだけでスポットダイアグラムで期待される径は、全然出るわけがないことがわかります。

ここで、オートフォーカス時の短時間のHFRを見てみます。2023年5月11日のL画像の撮影途中で合わせた時の画像が残っていました。
キャプチャ

この時のフォーカス位置でのHFRは7を少し切るくらいです。HFRはHalf Flux Radiusの略で半径、HFD(Half Flux Diameter)と呼ばれるものもあって、こちらは直径です。FWHMはFull Widthで直径なので、HFDと比較すべきなので、HFRの2倍と比較するとしましょう。でもFWHMとHFDは定義が違っていて、FWHMは最大値の「ある一点」を元に半分の値を径とするもの、FHDは定義によると「統計的に」中心を求めていることが大きな違いです。HFDの方が実測のような崩れた星像にも強いことがわかります。でも理想的なガウシアン分布に対してはいずれも2.36σになることがわかっているので、ここでは簡単のため同じものとして扱います。

2023年5月11日のL画像の撮影ではほぼFWHM =~ 2倍の HFR = 14を切るくらいになるので、測定自身はFWHMもHFRも、共にうまくできているようです。でもここでAF時のグラフを見てみると、フォーカスポイントの真ん中あたりにおいては、フィッティング曲線が実測値よりもかなり下に来ていることがわかります。そうです、なんらかの理由で径が一定値以下に下がることはないということを示しているのです。

この「なんらかの理由」が何なのかは、今のところ不明です。鏡筒の光学性能そのものの可能性もありますし、シーイングの可能性もありますし、シーイングや筒内対流を含むシンチレーションの可能性もありますし、地面の揺れ、風の影響などもあるかと思います。でも確実に2つのことが言えます。まず一つは、日によってFWHMが違っているので、シンチレーションに制限されている可能性が高いということ。もう一つは、短時間測定のHFRでもほぼ同様の結果なので、長時間積分の影響やガイドの影響はほとんど効いていないことです。

いずれにせよ、AF測定でここまではっきり制限が見えているので、逆に言い換えると、ここを見ながら底がフィッティング曲線に近づくような改善を目指していけばいいことになります。

ちなみに、ε130DのAF時の結果が以下になります。実測とフィッティング曲線がほとんど一致しています。でもこれは必ずしもε130Dの性能がいいというわけではなくて、単純に焦点距離が短いから、シンチレーションなどの揺れが効きにくいというだけだと思われます。
AF_good

SCA260でもこれくらい一致が見られるようなら、もっと星像は改善するはずです。日によって変わるシンチレーションや風の影響が小さい日を選んで撮影すること、赤道儀に弱いところがないか見直す、赤道儀をさらに強固なものにするなどでしょうか。性能のいいレデューサやバローを使って焦点距離を変えることで、鏡筒の性能か周りの環境かを切り分けることができるかもしれません。


まとめ

M104の撮影で気づいたことをまとめました。細かいことでしたが、自分的にはこれまであまり考えてこなかったことなので、面白かったです。

実は入院中で結構時間はあって、多少細かいことまで考える余裕がありました。このようにじっくり考えるのは結構楽しいのですが、実際にはなかなか時間が取れてこれませんでした。今後も焦って進めるのではなく、少し余裕を持って考える時間を確保するのが大事かなと今回改めて思いました。