先日のVAISCでの月の撮影時の分解能について、天文リフレクションズのピックアップで少し取り上げてもらえました。



まず、
  • VISACのエアリーディスク径が12μmでASI294MC Proのピクセルピッチが4.65μmでもアンダーサンプリングで、最小星像径の1/2.5の大きさのピクセルでは光学系の性能はフル発揮できないことは衝撃的
との指摘で、その後の投稿で
  • 星が1ピクセルでは全く足りなくて、2x2ピクセルでもまだ不足。星像径12μでASI178MCのピクセルピッチ2.4uが充分効果的というのは納得 
という意見でした。実際の場合でも納得というのは心強い意見です。

さらにHIROPONさんから
  • 鏡筒の「遮断空間周波数」(Spatial cutoff frequency)とセンサーのナイキスト周波数から考えて、2.25μmがフルに鏡筒の性能を生かせる
 という説明がありました。2.25umは実際に試した2.4umに近いピッチだったので、それほど間違ったことをやっているわけでもないと思います。標本化定理を考えると、情報を落とさないという意味では理論的にはほぼこれで決定なのですが、今回はもう少し実感が湧くように実際の画像で考えてみたいと思います。


エアリーディスクの可視化

エアリーディスクについては、以前ラッキーイメージングのところで議論しましたが、



1次のベッセル関数を使って

2J1(x)/x

のように書くことができます。ただしこれは1次元の場合なので、平面で表すためにxをr=sqrt(x^2+y^2)と書いてやり、2次元で表します。それを例えばMathematicaなどで等高図(密度分布)で書いてやると

airydisk


のようにエアリーディスクの形になり、ディフラクションリングも(グラフではちょと薄く見えてしまいますが)実際のイメージに近く見えるようになります。さて、今回はこれを元にCMOSカメラで分解能がどれくらい出るかを検証します、


レイリー限界

今回、カメラの分解能をわかりやすく見るために何が一番いい指標になるか、色々考えてみました。エアリーディスクそのままよりも、レイリー限界に相当する2つのエアリーディスクを2次元等高線で書いてから、それをカメラのピクセルピッチの粗い画素で見たときにどうなるかを表すのがわかりやすいのではと考えました。

まずはレイリー限界で離れている2つのエアリーディスクを等高図で出してみます。レイリー限界は、エアリーディスクの最初に一番暗くなった部分が、隣のエアリーディスクの最大のところにかかるというのが定義です。

VISACの場合、F9なので、標準の550nmの波長を考えた時に、エアリーディスク径は

Da = 2.44 F λ = 2.44 x 9 x 0.55 [um] = 12.1 [um]

となります。一方レイリー限界は一般的な式では口径のみで決まり、


DR=127.5D[mm][arcsec] = 0.6375 [arcsec] 

となりなります。単位が秒角なので、これをわかりやすいようにumに変換します。焦点距離1800mmの場合のarcsecからumへの変換係数

Cumarcsec=tan(12×60×60π180)×2× 1800×1000       = 8.73 [um/arcsec]

をかけてやると、レイリー限界は0.6375 [arcsec] x 0.73 [um/arcsec] = 5.56umということになります。このように、レイリー限界がエアリーディスク径の約半分になるということはラッキーイメージングの時に議論しました。

これをMathematicaでグラフで表してやると

DensityPlot[(2 BesselJ[1, Sqrt[(x - 3.831705970207512`/2)^2 + y^2]]/
      Sqrt[(x - 3.831705970207512`/2)^2 + y^2])^2 + (2 BesselJ[1, 
       Sqrt[(x + 3.831705970207512`/2)^2 + y^2]]/
      Sqrt[(x + 3.831705970207512`/2)^2 + y^2])^2, {x, -10, 
  10}, {y, -10, 10}, PlotPoints -> 100, PlotRange -> All, 
 PlotLegends -> Automatic, ColorFunction -> ColorData["GrayTones"]
 ]

rayleigh

エアリーディスクの暗くなった部分の中心が、隣のエアリーディスクの一番明るい部分を通っていることがわかると思います。式の中の、3.8317...とかいう数字は、一番最初のエアリーディスク径の式で強度が0になるxの値です。これがVISACの場合、5.56umに一致するというわけです。

ちなみに、ASI294MC Proのピクセルピッチが4.63umなので、だいたいレイリー限界くらい、もしくはエアリーディスクの半分か、3分の1くらいになります。


カメラセンサーで見た場合1: レイリー限界ピッチ

さて、面白いのはここからです。Mathematica上でセンサーアレイを再現するために、Table関数を使いました。あ、本当はカラーセンサーにしたいのですが、とりあえずモノクロで考えます。まずは、センサーのピクセルピッチがレイリー限界と同じ5.56umだった場合です。ASI294MC Proでもざっくりこれくらいと同じと考えていいでしょう。

array = Table[(2 BesselJ[1, Sqrt[(x - 3.831705970207512`/2)^2 + y^2]]/
        Sqrt[(x - 3.831705970207512`/2)^2 + y^2])^2 + (2 BesselJ[1, 
         Sqrt[(x + 3.831705970207512`/2)^2 + y^2]]/
        Sqrt[(x + 3.831705970207512`/2)^2 + 
          y^2])^2, {y, -3.831705970207512` 3, 3.831705970207512` 3, 
    3.831705970207512`/1}, {x, -3.831705970207512` 3, 
    3.831705970207512` 3, 3.831705970207512`/1}];

plot = ArrayPlot[array, Frame -> True, FrameTicks -> Automatic, 
  ImageSize -> 1.95/2 -> {50, 50}, PlotRangePadding -> 0.12, 
  PlotLegends -> Automatic,  ColorFunction -> ColorData["GrayTones"], 
  PlotRange -> All]

rayleigh_CMOS

まあ予想通りというか、全く分離できていません。横に広がっているだけに見えます。この場合はたまたまピクセルの中央がちょうど二つのエアリーディスクの中心と一致した場合です。ピクセルの境がエアリーディスクの中心と一致した場合はどうなるかというと、

rayleigh_CMOS_border
と、こちらも2ピクセルが同じような明るさになりますが、横長に見えるだけなのは変わりません。


カメラセンサーで見た場合2: レイリー限界の半分のピッチ

では次に、ピクセルピッチをレイリー限界の半分の2.78 [um] にしてみましょう。

rayleigh_CMOS_half
これは劇的な変化です。完全に二つのエアリーディスク光源が分離できます。

この時点で言えることは、レイリー限界よりピクセルピッチを小さくすることで、まだまだ鏡筒が持っている分解能のポテンシャルを引き出すことができる可能性があることを示しています。


さて、調子に乗ってもう少し試します。ピクセルピッチをレイリー限界の3分の1にした場合です。

rayleigh_CMOS_one_3rd
当然ですが、まだ分解能は上がります。さて、どこまで分解能が上がるかと言うと、理想的には一番上の図のようなところまで見えるのですが、実際にはそんなことはなく必ずいろんな制限があります。

まず、オーバーサンプリングの時に出てくるエイリアスの効果は入っていないので、実際にはゴーストのような像が出てくる可能性があります。また、シンチレーションが悪い、地面の揺れや風などで鏡筒が揺らされている場合は、このような改善は全く得られない可能性があることは言うまでもありません。特に長時間露光が必要なDSOなどの撮影では、揺れの効果が積分されるので、ピクセルピッチをあげても鏡筒の性能を引き出すことは難しい場合もあることを忘れないでおきたいです。

逆に、惑星や月のように明る天体を短時間露光で動画などで多数枚画像をスタックすると、シンチレーションの影響などを小さくすることができ、今回検証したようなピクセルピッチを小さくすることで分解能の改善が期待できるような理想的な状態に近づくのかと思います。


実際のカメラのピクセルサイズで

最後に、前回試したASI294MC ProとASI178MCのピクセルピッチで計算してみます。ただし、これらのカメラはカラーセンサーで、4ピクセルを使って3つのカラーの画素を出すので、分解能は上のモノクロのものよりも更に悪くなるはずです。本当はカラーセンサーをシミュレートしたかったのですが、ちょっと力尽きました。なので、以下の結果は参考程度で、実際にはこれの倍くらい分解能が悪くなると思ってください。


ASI294MC Proでピクセルピッチが4.63umの場合:

rayleigh_CMOS_294
ピクセルピッチがレイリー限界の時とほとんど変わらない結果ですね。

次にASI178MCの場合で、ピクセルピッチが2.4umのときです。

rayleigh_CMOS_178
これもピクセルピッチをレイリー限界の半分にした時の結果とほとんど変わらないです。。

繰り返しになりますが、これはモノクロセンサーと仮定し計算した時のものなので、カラーセンサーにした時には分解能が更に倍悪くなります。そのためピッチを小さくする効果はもっと大きくなるのかと思います。


まとめ

簡単な検証でしたが、ピクセルピッチを小さくするのは分解能を上げるのまだまだ有効で、特にシンチレーションの影響を避けることができる惑星や月の撮影では効果が高いと思われます。ただし、ピクセルサイズを小さくすると一般的に感度が悪くなるので、特にDSOなどの暗い天体をラッキーイメージングなどで撮影する場合には、実質損をしないかどうかきちんと検討する必要があります。

また、センサーのピクセルサイズを小さくする代わりに、バローレンズで像を拡大して相対的にピクセルピッチを改善する方法もありますが、これも拡大することで明るさを失っていきます。天体の明るさ、鏡筒の口径とF値、カメラのピクセルピッチ、カメラの感度、露光時間、シンチレーションなどが複雑に絡んで実際の分解能に結びつきます。今回検証したのはその中のごくごくほんの一部です。

いつも思うことは、何が問題になっているのか、何が性能を制限しているのかを考え、そこを叩くことが重要なのかと思います。