CANPの帰り道、太陽で活躍されているS氏と話すことができ、その縁で以前飛騨天文台で数多くの民生用の太陽用のHαフィルターを測定し、性能評価をしたまとめのプレゼンファイルを送っていただきました。そのファイルの簡易バージョンは出回っていて、ここで見ることができます。送っていただいたのは、この簡易版とともにもう一つ140ページもあるもっと細かい測定データまで載っているものです。

元々持っていた疑問は、ファブリーペローエタロン(Hαフィルターのこと、以下エタロンとか呼びます)の精度はどれくらいのものが出回っているかということ。ここのアホな記事のコメントの一番最後にも書いてある通り、ずっと疑問に思っています。私が持っているPSTのエタロンはお世辞にも精度がいいとは言えるようなものではないと思います。今使っている1000mmの鏡筒でASI290MMを使って直焦点で見ると、撮影画面全体を太陽光球面で埋めることができて、その中でHαに中心周波数があっていると思われるところは面積で言って30-40%もあるかというところでしょうか。もちろんPST標準の400mmの鏡筒を使えば全体像を見ることができ、エタロンの一部のみを使っていることになるので、中心周波数があっていると思われるところも見かけ上増えます。でもやはり太陽像全体を一度に見て、光球面すべてで中心周波数があっているようなエタロンが欲しくなります。でもそもそもそんなものが民生品で存在するのかどうか、PST以外の他のメーカーのエタロンの性能はどれくらいなのかというのを知りたいとずっと思っていました。

資料をいただいて、ここから導き出せた結論はというと、確かに全面をHαで見渡せるくらいの精度のエタロンは存在するが、相当選別しなければならないのではということです。CANPの帰り道のS氏との会話の中で、製品にとてもバラツキがあり、例えば実際に見て一番いいのを選んだという話がありました。上で挙げた簡易版の資料のP10をみても少しわかりますが、今回いただいた資料の中(おそらく太陽を相当マニアックにやっている方たちが持っているエタロンなので)の各測定結果をみても、性能にいい悪いがあることがわかります。見えると思っているもの中にもそれぞれ性能にバラツキがあるようです。まず中心周波数の半値全幅ですが、同じ型番のものでもバラツキがあります。また、画面内での一様性もなかなか一定にならないようです。例えば撮像のある部分ではHαの構造がものすごく綺麗に見え、ある部分ではあまり見えないとかです。これを一様に見えるように調整すると全体が均等に見えるが、全部が中心周波数からずれてしまって結局見え味が劣るとかです。

太陽に使われるエタロンはフィネス15程度のものが多いようで(ここの下の方に説明してあります)、光の折り返し回数としては10回程度です。言い換えると普通の望遠鏡などの光学素子より単純に10倍程度精度を必要とします。それを民生用に購入できる範囲の値段で作るわけですから、どうしても精度のバラツキは出てしまうのはある意味仕方ないと理解しています。もし実際の製品を見て選ぶことができるのなら、それに越したことはないでしょう。でもそれをできるようなユーザーは、よほどメーカーやショップの方と仲がいいとかいう状況でなければ、実際にはあまりいないと思います。太陽フィルターは当たるも八卦、当たらぬも八卦などと言われる理由はここらへんにあります。さらに、必要精度が10倍と言うことは、扱いもおそらく10倍くらい丁寧にするようにしないとだめで、鏡間の平行度が命のエタロンは壊れやすいため、中古などではそもそもうまく見えていないものも出回っていると思われます。オークションなどで手に入れる場合はそれを覚悟の上で落札しなくてはなりません。なので、太陽フィルターを購入する場合は信頼のあるお店でという話になるのかと思います。

いつか性能のいいエタロンを欲しいとは思いますが、今のところは完璧なエタロンを求めることはしないだろうと思います。理由はいくつかあって、撮影の際にPC上の画面で見えて暗すぎたり白くサチっているように見えても、実は情報としては残っていて、画像処理をすると多少救い上げることもできること。また、中心周波数からずれていてもトリミングでいいところだけをとることもできることなどです。例えば下の写真、動画からスタックして詳細を出した後のものです。

Capture_09_09_59__09_09_59_lapl5_ap2548_IP

中心部分以外は暗くなったり、中心周波数から明らかにずれてしまっています。これにフラット補正をして画像処理を加えると、下のように見えていないと思った部分も多少見えてきます。ただし、Hαの中心周波数からずれているところはやはり救いようがないのもまた事実です。

Capture_09_09_59__09_09_59_lapl5_ap2548_IP_mono_flat

でも中心周波数がそこそこあっていると思われるところだけトリミングすると

Capture_09_09_59__09_09_59_lapl5_ap2548_IP_mono_cut_small

これくらいにはなります。個人的には今のところは十分満足です。

また、まだPSTしか試したことのない私が最高のものを求めても、手に入れることは予算的にも手段的にも現実的には難しいだろうということ。太陽はハマると相当高価なので、そこまで予算をかけることもできません。使うことのできる機材の性能を引き出して、頑張って高級機に迫る方向でいければと思います。そう言った過程自身を楽しむことが、苦になるどころが大好きです。NEAFとかではDaystarのダブルスタックが$695で販売されているとかいう情報を見ると、実際どれくらいの見え味なのか試してみたくなります。

でもいい見え味のものが安価に手に入るのなら、やっぱり節操なく飛びつくんだろうなあ(笑)。