どうもMEADEの25cmのシュミカセ、LX200-25の星像がボテっとしていて満足できません。


FWHM測定がどうも信用できない

前回のラッキーメージングの記事から随分間が空きましたが、実は連休中も含めて色々やっていて、例えばいろんな状況下で星像のFWHM(半値全幅)の測定もしてみたのですが、これもなかなか微妙です。本来FWHMはゲインに依存しないはずですが、ゲインを上げるとFWHMもなぜか少し大きくなったりします。これは何らかのセンサーでの信号の大きさに依存性がありそうだということを示しています。本来、露光時間を伸ばすとシーイングの影響がより大きく出るためにFWHMが大きくなるのですが、ゲイン依存性があるということは信号が増えたことでFWHMが大きくなったのか、本当にシンチレーションで像が大きくなっているのか、いまいち切り分けができません。

それでもそんなことを差っ引いても、あくまで見た目ですが、MEADE LX-200-25を使ってDSOを撮影しようと長焦点で撮影すると、星像がどうしてもボテっとしてしまいます。


困った時の昼間の試験

どうも埒が明かないので、連休中の昼間に色々試してみました。ターゲットは100mくらい離れたところにあるBSアンテナ。

test
このアンテナの文字や、4つのビスを見ながら検証します。
なお、画像は動画から一枚取り出して、ブログ表示用に上下逆にしています。

SharpCapで映す画像を見ながら、まずは光軸調整です。ここではBSアンテナの文字がどれくらい読めるようになるかと、アンテナの真ん中についている4つのビスが綺麗に見える様に、副鏡の3つのネジを調整します。実際にはいじるのは2本のみ。3本目をいじると副鏡のオフセットをいじる自由度になるので、pitchとyawの2自由度に相当する2本のみというわけです。動画で見るとすごい速さでピョコピョコ揺れている様に見えるのですが、フォーカスを合わせることによりそのピョコピョコが収束していきます。光軸がうまく調整できていないと収束しないので、ネジをいじるのとフォーカスを合わせるのを繰り返しながら、出来るだけ収束する様にしてきます。これは通常の光軸調整に相当するので、まあ問題ないです。



昼間で星でなくてもなぜか揺れる?

ところがです、光軸調整を十分にしてもまだ揺れているように見えるのです。星を見ているのと違って、昼間にたかだか100m先を見ているので、シンチレーションの影響はほとんどないはずです。それでも空気が揺らいで揺れることはありますが、時間はかなり経っているので温度順応は十分できているはずですし、見た目は少なくとも陽炎の様なゆらゆらとした揺れではありません。どうも何らかの外乱が入って揺れていると考えた方が良さそうです。揺れ方としては、上で書いた高速のピョコピョコよりももっとゆっくりした、1秒を切るくらいの間隔で、ピョコン、ピョコンとジャンプする様な感じです。

何でこんなことに気づいたかというと、このテストの間にFC-76も同じ様に見ていたのですが、(FC-76のほうが焦点距離が短いので)同じくらいの画角に拡大しても明らかにFC-76の方が揺れが少ないのです。高速のピョコピョコに関してもそうですし、低速のピョコン、ピョコンに関してもです。高速の方はLX200の方がまだ光軸調整を合わせきれていない、もしくはコマ収差のために全面で合わせきれていないのが原因かと思います。問題は低速。この時点で「あーそうか、地面の揺れが関係しているな」と推測しました。自分が座っている椅子とか動かした時に、像が大きくジャンプすることに気づいたのもここら辺です。


地面の揺れがどう効くのか

軽い鏡筒を赤道儀で支持している場合、共振周波数は高周波側にいきます。逆に重い鏡筒の場合、共振周波数は低くなります。正確には軽い重いというよりは、慣性モーメント(離れたところにどれだけ重いものがあるか)の違いになるのですが、まあここでは軽い重いとしておきましょう。共振で元の揺れが何倍くらい大きくなるか(Quality factor、日本語だと略してQ値とかいいます)は、それぞれのモードのロスに依るのですが、簡単のために全て同じと仮定しましょう。そうすると、一般的に地面振動は周波数の-2乗で落ちていくので、低い周波数に共振があった方がRMS振幅(高周波から低周波まで積分した振幅、要するに全体の揺れ幅のこと)としてはより大きく揺れます。もっと単純にいうと、地面振動起因の揺れに関しては重い鏡筒の方がよく揺れる。言い換えると、この赤道儀では実測13kgの鏡筒を支えるにはまだ剛性が不足しているというわけです。


じゃあ解決策は?

赤道儀を簡単に代えるわけにはいかないのですが、原因がわかれば解決策は色々あります。一番手っ取り早いのは防振でしょう。試しに三脚の下にゴムのシートを挟み込みました。たかだかゴムシートなので、共振周波数もそれほど低くなく、低周波の防振には役に立たないでしょう。それでもピョコンピョコンといったインパルス的な振動は高周波成分も含むので、かなり抑えられるはずです。

画面で見ると、明らかに動きは小さくなっている様に見えます。ただ、動画を見てもどの周波数に注目すればいいかなかなかわかりにくいので、わかりやすい結果として、10秒間の動画をゴムシート無しと有りで撮影し、アンテナのビスの部分を拡大し、それぞれの動画を静止画に落として、黒丸のところを見るために比較「暗」合成したものを載せます。

まずはゴムシートなしの、露光時間2.5msの一コマ分だけを示します。
test1_001
ゴムシートなし、1コマ2.5ms。

これを13FPSで撮った約10秒分、139コマを比較暗合成するとかなり像が肥大します。
no_rubber
ゴムシートなし、10秒比較暗合成


次に、ゴムシートをつけた場合の1コマ分。短時間なのでゴムシートなしと比べてそれほど差はありません。
test2_001
ゴムシートあり、1コマ2.5ms。


これを10秒分比較暗合成すると、像は肥大しますがゴムシートなしと比べるとかなりマシです。
with_rubber
ゴムシートあり、10秒比較暗合成。

これだけ見ても、もう明らかにゴムシート有りの方が揺れが少ないのがよくわかります。ビスの円形で考えてしまいがちなので、それほど大きな違いに見えないかもしれせんが、実際の星像は微恒星になるほど点になっていくので、示した画像のビスの黒線の「太さ」がどれくらい地面の揺れで成長するかを比べるべき、というところに注目すると、その効果の違いが実感できるかと思います。


定量的な評価

もう少し定量的に評価しましょう。いま、画像の揺れから計算すると揺れ幅は十秒間で15秒角くらい。一般的に地面振動は周波数密度で書くと1e-7/f^2 [sqrt(Hz)] 程度、街中なので一桁くらい大きいかも。ざっくり、1秒間で1μm、10秒間で3μm揺れるくらいの大きさです。地面振動の回転成分はよくわからないので、とりあえず赤道儀が地面震度で上記程度に揺らされて、中心で支えられている長さ50cm程度の鏡筒の前端と後端が同程度にランダムに揺れる様な回転成分になると仮定します。そうすると地面振動のみの揺れでも10秒間で

3e-6/0.5[rad]

くらい揺れることになって、角度に直すのに180/πをかけて、秒各に直すのに3600をかけてやると、

3e-6/0.5 x 180/pi x 3600 = 1.2[秒角]

共振でQ値が10程度と仮定すると12秒角となってしまい、もうすぐに画像で見たものと同じオーダーになってしまいます。普通、よく共振がダンプ(ロスに依る減衰)されたものでQ値が3-4程度なので、Q値が10というのはそれほどおかしい値でもないと思います。

結論としてはフルサイズ換算で焦点距離数千mmとかなってしまうようなDSOの撮影では地面振動が星像に影響してくると思っていいということでしょう。



驚くべきFC-76の結果

参考に、FC-76のものも載せます。MEADEの後に試したので、ゴムシートはすでに敷いてある状態です。ただし、焦点距離が短い分、画像が小さく画像が荒くなるので、上の画像と横幅が同じになるように拡大しています。なので3倍ほど荒いですが、同じ様な画角を見ていることになります。露光時間は(夕方で暗くなってきたので)長くなっていて5msです。

test_001L
ゴムシートあり、1コマ5ms。

output_compL
ゴムシートあり、10秒比較暗合成。

MEADEに比べて10秒たっても像の肥大が少ないことがわかります。これはやはり鏡筒の重さの影響だと考えられます。ちなにみ、10秒の方に見えている黒いポツポツは虫です。MEADEでは写らなかったのですが、FC-76の方がきちんと写っていたみたいです。


まとめ

これらの結果を見るとちょっと嫌になってきます。

鏡筒の揺れの影響で星像が制限されるので、、口径76mmが口径254mmに分解能で勝ってしまうという逆転現象が起きます。FC-76で撮影したときにカメラ上での解像度が荒く出るのは、焦点距離だけの問題なので、FC-76にバローを入れて焦点距離をMEADEに合わせてしまうと、より分解能よく撮影できてしまうという結果になってしまいます。まあ、光量では口径が大きい方がまだいいのは当たり前なのですが。

残念ですが、今の現状では事実なのでしょう。