近頃、KYOEIさんにおいてZWO社のASI294MC Proを手に入れました。これまでもASI294MCを使ってきていましたが、今回はこの冷却タイプにあたります。私にとっては初の冷却カメラの使用になります。

でもずっと天気が悪くていまだにファーストライトが実現できていないので、その分時間は余っています。せっかくなので、冷却タイプの性能評価を、ノーマルタイプと比較してみたいと思います。

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評価方法

さて、同じようなカメラが2台あるので、興味があるのはその性能の比較です。ノーマルタイプについては以前も性能評価をしています。SharpCapを利用することで、センサーの性能を簡単に実測することができます。測定できる項目は
  • コンバージョンファクター
  • リード(読みだし)ノイズ
  • フルウェル(飽和容量)
  • 実効ゲイン
などです。

SharpCapのSensor Analysis測定は3段階に分かれています。
  1. 最初はGain 0でe/ADU(コンバージョンファクター)を測定。
  2. 次が蓋をしての、ダーク、最短露光時間状態での、リードアウトノイズの測定。
  3. 最後に、再び蓋を外してゲインを変えての実ゲインの測定です。

詳しい説明はリンク先を参照するとして、興味があるのはセンサーが同じで、冷却した時にどこにどれくらい違いがでるのかを実際に確かめてみたいと思います。


 

測定時の注意点

測定は久しぶりだったので多少戸惑いました。今回気になった、測定するときの注意点です
  • 最初はRAW8に設定されていることが多いです。RAW16モードで測定すること。
  • 光源はiPadを使ったのですが、明るすぎるのと、フリッカーのような瞬きがあるので、紙を何重にかして光を通しています。
  • 光の量の調整が結構シビアです。暗いよりは明るいほうが測定の失敗が少ないです。測定開始時の最初の自動露光時間調整で、適度な露光時間に落ち着いたときの値が20msとかより短くなると、測定を開始することができますが、光量がまだ少なくて失敗する確率が増えます。露光時間が2msから5msくらいまでの間になるようにすると成功率が上がります。
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  • うまくいかない場合の典型なケースでも、最初のe/ADU(コンバージョンファクター)の測定と、ダークの測定まではすんなりいくはずです。
  • 次の「ゲインを変えての測定」がうまくいかないことがあるかもしれません。ここで失敗すると最初からすべてやり直しです。そのほとんどが光量が少なすぎて、露光時間が長くなりすぎるケースです。一つは、ものすごく光量が少ないとゲイン0の時に10秒以上の露光になって止まってしまうこと。たとえもう少し光量があっても、多分これはSharpCapのバグだと思うのですが、露光時間が1.5sとか1.7sくらいの時に、測定完了の判定がうまくできなくて、露光時間を長くしたり短くしたりを繰り返すことで、タイムアウトで終わってしまうことです。回避方法としては、光量を増やして、すべての測定の露光時間を1s以下に抑えることです。
  • できる限りホワイトバランスが取れている光を入れたほうがいいのかと思います。測定時の写真が以下のように紫に寄ったような光になりますが、センサーで見るとバランスが取れていたりします。
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  • 今回はiPadのColor Screenというソフトを使い、センサー側で見たホワイトバランスをある程度合わせてから測定しました。でもホワイトバランスがある程度ずれていてもうまく測定してくれるようで、何度か測定してもあまり結果は変わりませんでした。あまり気にしなくてもいいのかもしれません。
  • 結構重要なのが、SharpCapの一番下のPreviewingとかdroppedとか出ているところです。接続状態が悪いとdroppedの値が増えていきます。droppedが0でなかったらおかしいと思って、ケーブルをさしなおす、ケーブルを変えるなどしてください。0でなくても測定はできますが、すごく時間がかかります。通常の測定は全部終了するまでに5分もかかることはありません。dropしていると10分以上かかったりしてしまいます。


ASI294MC ノーマルタイプ

まずは測定がうまくできているかを検証するために、以前と同じASI294MCのノーマルタイプで測定しました。この時のセンサーの温度は冬の暖かい部屋の中での測定ということで、37度程度でした。センサーが動いている場合は外気温よりは高くなるので、特に問題ない温度だと思います。

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測定結果ですが、約一年前に測ったものと比べても、誤差の範囲内で特に変化はなく、経年劣化なども確認されなかったと言えます。相当ハードに、約1年間使い込んでもほとんど性能劣化が見られないというのは特筆すべきことだと思います。

ただ、読みとっている横軸のゲインの設定値がだいぶん違っています。これはSharpCapの方の選択の問題なのですが、以前は低ゲインを細かくとっていたり、最大ゲインの570をとっていたりしましたが、それらがなくなりました。その代わりに59と61をとるとか、119と121をとるとか、性能が大きく変わるところをあらかじめ知っていて、測定しているみたいです。今回の場合もゲインが119と121で特に読み出しノイズの値が大きく変わっていて、メーカーが出しているグラフの結果をよく再現しています。

ちなみに、RAW8で測定した結果は以下のようになり、8bitのダイナミックレンジで制限されてしまうことがよくわかります。SharpCapのマニュアルにはできるだけ大きなビット数で測定しましょうと書いてあるので、16ビットで測っておくのがいいのでしょう。

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ASI294MC Pro 冷却タイプ


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箱の中身。オフアキとかのことも考えて、各種厚みのリングが入っています。
CD-ROMの中に日本語のマニュアルが入っています。わかりやすいです。 

次にASI293MC Proですが、まずはUSB接続のみで、外部電源(12V/3Aと表示されています)も繋げずに常温で比べてみます。ただ、同じ部屋の中で測定してもなぜかセンサーの温度がそこまで上がりません。しばらく待って温度をならして、しかも測定をしながらでも25度程度でした。これは冷却コントロールをしなくても外気温をうまく取り入れる機構ができているのかもしれません。

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測定結果は、ASI294MCのノーマルタイプとほぼ同じです。正確に言うと、ノーマルが37度、Proが25度と温度が低いにもかかわらず、Proのほうが少し結果が悪いのですが、これは個体差の範囲内でしょう。


実際に冷却しての測定

さて、ここからの冷却過程は初めての経験になります。12V, 3A以上出せる外部電源を用意します。今回はいつも使っているACも出すことのできる40000mAhのリチウムイオンバッテリーの12V出力端子を使いました。SharpCapのThermal Controlsのところをオンにします。ターゲット温度を下げていくと、使用電力が上がり、センサー温度が下がっていく様子がわかります。何度が試しましたが、一番下がった時で-20度に設定して、-15.8度まで行きました。ものの5分もたたないくらいにターゲット温度まで行くので、ずいぶん簡単です。最低到達温度は外気温に結構依存しそうです。

測定時は-15度がターゲットで、到達温度が-11.7度でした。その状態での結果です。

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一見常温の時と変わりないように見えますが、リードノイズは明らかに下がっています。温度を変えて測定したのでグラフを示しておきます。

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上のグラフだとかなり重なっていてわかりにくいので、Gain = 500のところだけを別のグラフにしてみました。

G500


これを見ると、温度とともにリードノイズが増えていることがわかります。理屈の上では回路系の抵抗の熱雑音が多少貢献していると考えられるので、温度が下がることによってリードノイズも下がることが期待されます。測定でもリードノイズが温度によって下がることは確かめられましたが、その一方、結果だけ見ると大した効果でなく、せいぜい40℃温度が上がると1割増えるとか、たかだかそれくらいということもよくわかると思います。


ダークノイズとリードノイズの関係


ここで今一度リードノイズとダークノイズの関係を確認しておきます。カメラに蓋をしてセンサーに光が入らないような暗い状態で測定した場合、測定されるノイズはダークノイズσdark [e-/sec] と読み出しノイズσread [e-]が合わさったノイズが出てきて、実際に測定されるノイズをσとすると、

σ=σ2darkt+σ2read

という関係式で書くことができます。ダークノイズとはセンサーに光が入っていない時にも暗電流が流れることにより存在してしまうノイズで、時間 t のルートに比例して増大していくノイズです。

SharpCapの場合は、測定時間 を設定できる最短の時間0.032msとして、上式の前項を無視できる形にして読み出しノイズσreadを直接測定しているようです。ただ測定過程をじっとみていると、測定中に"Brightness"を変化させてバイアス(ヒストグラムで見ると、ピークの中心値のこと)を何度か変えてテスト測定をし、最後は"Brightness"を20に固定して最終的な読み出しノイズを測っているようでした。この過程の理由がよくわからないのですが、ばらつきの結果出てくる負の値を防ぐためのように思われます。

ちなみに読み出しノイズは、画像処理で行われるバイアスノイズと同義と言ってしまってもいいのかと思います(これちょっと自信がありません)。


ダークノイズの温度依存性

読み出しノイズは温度の依存性はあまりないことは上の実測でわかりましたが、ダークノイズは盛大に温度に依存します。簡単にですが、その結果だけ示しておきます。

測定時の条件は
  • モード: RAW16 (16bit)
  • 露光時間: 30s 、バイアスノイズの時だけ0.0032ms
  • Gain: 120
  • Brightness(オフセット): 20
  • ホワイトバランス: Red 50, Blue 50
  • 画像はfitsファイルをPixInsightで開き、DebayerはせずにそのままJPEGに変換
です。Gainが120の理由ですが、ここでノイズが小さくなるからです。

まず露光時間を最短にしたリード(バイアス)ノイズに相当するもの。ただし測定時の温度は17.6℃です。
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次に、露光時間を撮影時を想定して30秒とした場合でリードノイズとダークノイズが合わさった場合で、温度が低温時の-16.2℃の場合です。明るさは上のバイアスノイズと比較できるように同じ値でストレッチしました。
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右上にアンプノイズが見えます。左側に明るいカブリが見えますが、これは漏れ光とかではないと思うので、何か余分なノイズが出ているようです。

最後に同じく露光時間30秒で、常温時の温度が25℃です。
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低温時と比べて背景も相当明るくなります。さらに拡大してみるとわかるのですが、輝点がはるかに大量に発生しています。


まとめ

疲れたので、今日はとりあえずここら辺までとします。今回わかったことは、
  • ASI294MCは一年ほど使い込んでも経年劣化のようなものは見られない。
  • ASI294MCとASI294MC Proにおいては常温時では性能に差が見られない。
  • Proの方がクーラーを使わなくてもセンサー温度が低い状態を保つことができる。
  • 読み出しノイズは、温度の増加で大きくなるが、大した影響ではなく、40℃温度が上がって1割程度の増加である。
  • 一方、ダークノイズは温度増加で、背景、輝点ともに盛大に増える。
などです。温度によるダークノイズの差は見えましたが、これが実際の撮影にどれくらい効くのか、次回以降、気合が残っていればもう少し定量的に評価してみたいと思います。

今回の記事は結構一般的なことだけ書きましたが、まだまだ他にもまとめきれていないことがたくさんあります。例えば、
  • リードノイズとBrightnessによるバイアス設定の関係
  • バイアスはゲインを合わせなくてはいけないのか?
  • Gain120の振る舞いがあまりに面白くて、これだけでひとつ記事が書けそう
とかです。特にGain120はちょっと変っぽいです。なんか、サチらないピクセルが存在するためにノイズが少なく見えているだけのような印象です。

いやあ、CMOSカメラも奥が深いです。温度というパラメータが一つ増えたのでちょっと溢れ気味ですが、焦らずゆっくり進めていきたいと思います。