P.S.T.でFabry-Perot etalonを扱い始めたので、そこらへんの理屈を少しまとめておきたいと思います。今回はまず、前回示したFSR(Free Spectral Range)が、なぜこのような式になるのか簡単に考えたいと思います。

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 写真はゴムの滑り止めのリングを外して中のネジを取って、金属のリングを外したところ。本来このネジのところにシールが貼ってあって、はがさないような指示があるらしいのですが、購入したものにはそのようなシールはありませんでした。既に誰かが剥がしたのでしょうか?

このリングを外すと中にいくつも穴が見えます。この位置を調節することにより、エタロンの入射光への角度をより大きく変えることができるそうですが、これは次回晴れの日に実際の像を見ながら調整したいと思います。


概念
  1. 簡単のために波長1μm(マイクロメートル、10^-6m, 1e-6m)の赤外光を考えます。
  2. これまた簡単のために、まずはエタロンを構成する2枚の鏡の間の距離を上の光の波長と同じ1μmとします。
  3. このエタロンに上の光を入れると、ちょうど波長の長さとエタロン間のギャップの長さが同じなので定在波がたち*(もう少し詳し話は最後にします。)光が共振します。すなわち対物レンズ側から入った光がアイピース側に十分透過していきます。
  4. 次にエタロンを構成する2枚の鏡の間の距離を光の波長の10倍のと同じ10μmとして考えます。この場合、ギャップ感には10個の波がちょうど入ることになります。定在波が立つので、光は透過していきます。
  5. さてここで、ギャップの長さを10μmに保ったまま、波長の長さを少し長くしてみましょう。どれくらい長くするかというと、ギャップに9個波が入るくらいの長さの波長にします。10μm/9=1.11...μmくらいの長さの波長ということです。この場合も定在波が立つので光が共振し、光はそのままエタロンを透過していきます。
  6. 逆に波長の長さを短くして11個入れてみましょう。10μm/11=0.9090..μmの波長の光です。これも共振し透過します。
  7. 同じように、8個の波、12この波...も全て透過していきます。これが櫛のように光の波長を周期的に通すという理屈です。
  8. ギャップの長さをさらに10倍して100μmのものを考えましょう。100個の波も101個の波も99個の波も...透過していきます。P.S.T.では使われているエタロンは0.1mmくらいのギャップだというので、これくらいの数の波が実際にエタロンの中に入っていることになります。あ、ターゲットはH alphaの0.6536μmの長さの波長なのでもう少し入っている波の数は多いですね。

定式化

さて、理屈がわかったのでこれを式にしてみます。前回書いた式を考えてみましょう。

Δλ=λ22nlcosθ

  • λ: 中心波長、今回の場合6563Å=656.3nm。
  • n: キャビティー中の媒質の屈折率、今回の場合空気なので1でいいでしょう。
  • l: 2枚の間の鏡の距離、今回の場合0.1mm以下程度とのこと。
  • θ: 光の入射角、PSTの場合ここを回転つまみで調整している。動かせる幅はPSTでは0.5度程度とのこと。

1. まず、エタロンのギャップの中に含まれる波の数は

m=lλ [個]

と書くことができます。

2. エタロンのギャップの長さをキープしたまま、入射する波長の長さを変えていった時に、波長がどれくらいおきにエタロンを通過するかは大まかに言って、エタロンのギャップの長さを、含まれる波の個数で割った長さごとに起きるので、

Δλ=λm=λ2l

と書くことができます。だんだん近くなってきました。

3. ここで波はエタロンを往復しているこいうことを忘れてはいけません。そのためにエタロンのギャップの長さlの効きが2倍になります。そのためにlのところに2をかけます。

Δλ=λ22l

4. エタロンの中の媒質の屈折率が上がるとそのぶん波は進みにくくなるので密度が増します。周期的には短くなるセンスです。これは1次で効いてくるので分母にnと置いてやって割ります。

Δλ=λ22nl

5. 最後に、エタロンを光の入射方向に対して傾けると入射光から見るとエタロン間のギャップの距離が1/cosθで長くなったように見えます。これはFSRが長くなるセンスです。その項を考えると

Δλ=λ22nlcosθ

となります。やっと先日書いた式と同じになりました。

実際にはP.S.T.では入射角を0.5度程度を変えられるらしいです。近似でcosθ = 1 - θ^2 / 2と考えると、cos(0.5deg) = cos(0.5/180 * pi) = cos(0.0087) = 1- 0.0087^2/2 = 0.999962とほとんど1に近くなりますが、FSRが変わるということは、個々の透過光のピークトピークの間隔がこれくらい変わるということなので、全体の長さはこれのλ / FSR倍くらい変わるはずです。波長が600nm程度でFSRが2nmとすると300倍くらい効くはずで、1- 0.0087^2/2 * 300 = 0.978となり、透過光のピーク位置でFSRの2%くらいは変更できるはずです。うーん、でもまだ変化が小さすぎるような気がします。何か計算間違ってますでしょうか?



補足: 光の共振

上で「定在波が立つ」という書き方をしましたが、あまり正確な表現ではありません。もう少し正確に記述します。

エタロンの対物レンズ側の1枚目の鏡を(ある透過率で)透過した光が、アイピース側の2枚目の鏡で反射して、1枚目の鏡に戻り再び1枚目の鏡で反射します。その時対物レンズ側から入ってきた光と先ほどの反射光の光の位相が一致すると光は強めあって共振します。それらの光はまた2枚目の鏡で反射し、さらに1枚目の鏡で外から入射してきた光と(今度は自動的に)位相が合うので、さらに共振して強め合います。このような折り返し反射を何度か繰り返すのですが、何回くらい折り返すかはエタロンで使っている鏡の反射率と透過率で決まります。

例えば、反射率90%、透過率10%の鏡を両端に持っていると、最初に1枚目の鏡を10%光が透過して入ってきます。その光は2枚目の鏡で10%抜けるけれども9割は戻ってきます。戻ってきて9割は1割は入射側に抜けていきますが、9割は反射するので、約8割はまたエタロンの中に戻されます。大まかに言って1割抜けていくのを10回繰り返すと光は全て共振器の中からなくなるでしょう。この場合、10回片道旅行できるので5往復します。

これが反射率99%、透過率1%の鏡を使うと、100回片道旅行ができるので50往復できるでしょう。ただし、鏡のロスとかを無視しているので、ロスがあるとこの回数は当然減っていきます。P.S.TはFinesseが15程度といっているので、折り返し回数は15 / Pi * 2 = 10回程度とすると、反射率95%、透過率5%程度の鏡を使っていると考えられます。

とりあえず訂正的な説明と、少し数値を入れてみましたが、イメージは多少しやすくなったかなと思います。式をきちんと書いた方がスッキリするかもしれませんが、また時間とやる気のある時に書いてみるかもしれません。

 続き その6へ: 実際に太陽での撮影をしてみました。