P.S.Tファーストライトで色々疑問も出たので、早速P.S.T.の分解です。とりあえずは光学系を除いた簡単な分解のみ。

当然ですが、こんなことをするとメーカー保証は効かなくなると思いますので、もし試される場合は自己責任でお願いします。この通りにやって壊れたとしても私はなんの保証もできません。

今回手に入れたものは格安のジャンク品です。なので気がなねく色々試すことができます。まず外せるところまで外して中を見ます。

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右上から下に向かって、
  1. BF(Blocking Filter): etalonで透過してきた光からH alpha付近を抜き出す働き
  2. Energy Rejection Filter
  3. プリズムとフォーカサーボックス
  4. etalon+鏡筒
  5. 対物レンズ
となります。 残念ながら固すぎて鏡筒からエタロン部分を外すことができませんでした。普通に外れるはずなんですが。

次にプリズムが入っているボックス部分の蓋を開けてみます。あ、ここのネジ外す時恐ろしく硬かったです。下手な道具を使うと舐めることがあるので、ある程度きちんとした六角レンチを使ったほうがいいと思います。

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五角形のプリズムが入っているのが見えると思います。上に乗っかっている黒いのはスペーサーで、その上にマジックテープみたいなのが貼ってあって、それがプリズムが動くときにうまく上の蓋と滑るようになっているみたいです。光は左側の鏡筒から入って、左右対称に見た五角形の左上の(写真では垂直に見える左側の)辺からプリズム内に導入され、五角形の右下の辺で一度反射し、次に左下の辺で反射、最後に右上の辺から、上側のアイピースに向かって抜けていきます。

お尻のつまみを回すことで、このプリズムがつまみの軸方向に動くことで焦点からの距離が変わります。五角形の対象軸に平行に動くことで、像の位置を変えることなく焦点からの距離を変えることができます。よく考えてあるのは、偶数回の反射(この場合は2回)なので、多少軸の角度に誤差があってもうまく打ち消すようになっています。左下についている小さなプリズムはファインダーに光を持っていくものなのすが、このプリズムへの入射光がどうやって入っているのか最初よくわかりませんでしたが、プリズムボックの太陽側の前面に小さな穴が空いていてここから光を取り込んでいることがわかりました。

さて、つまみを右に回すとプリズムが下側に移動し焦点からの距離が長くなり、左に回すとプリズムが上側に移動して焦点までの距離が短くなることがわかりました。つまみと箱の間に隙間が空くともう左に回しすぎで、この状態ではプリズムが大きくカクンとシフトしてしまっているので、ここまで回してはダメです。つまみが箱にくっついた状態で右に回していくと、そのうち止まってこれ以上回せなくなります。これがプリズムが一番下まで来た状態です。プリズムの移動距離は1cm程度でしょうか。2回反射しているので、光学的な距離としては2cm程度の範囲があると思っていいと思います。

仕組みはわかったのですが、でもこの右に回し切った状態って焦点からの距離が一番長い状態なんですよね。CMOSカメラを入れた時はもっと焦点までの距離を短くしたいんです。一番左まで回してつまみが浮くくらいまで試してまだ合焦しなかったので、やはりCMOSカメラを使う場合はもう少し内側に入れるようななんらかの手が必要です。

あと、BF、ERF、etalonの透過光をじかに見てみました。BFとERFは赤い光のみ見えます。アイピースに近いBFは直径5mmと小さく、厚みがあり、透過率もかなり低いです。ERFは直径15mm程度でしょうか。薄くて透過率も高いです。裏から見た写真を撮りましたが、左のERFは写真ではわかりにくいですが、中心の方が少し色が変わっているので、ダメージを受けているのかもしれません。

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面白いのはetalonです。赤い光が来るかと思ったら、むしろ薄い青に見えます。etalon自身は問題ないとのことなので、この色が正しいのでしょうか?これはFabry-Perot etalonの仕組みを考えればすぐにわかります。

Fabry-Perto etalonの2枚の鏡間の距離のみで決まるような、FSR(Free Spectral Range): という量が定義できます。一般的には周波数の単位の[Hz]で書くことも多いのですが、わかりやすくするために単位を波長と同じ[m(メートル)]で表すと

Δλ=λ22nlcosθ
  • λ: 中心波長、今回の場合6563Å=656.3nm。
  • n: キャビティー中の媒質の屈折率、今回の場合空気なので1でいいでしょう。
  • l: 2枚の間の鏡の距離、今回の場合0.1mm以下程度とのこと。
  • θ: 光の入射角、PSTの場合ここを回転つまみで調整している。動かせる幅はPSTでは0.5度程度とのこと。面倒なのでとりあえず0と置きます。

と書くことができます。エタロンはこの(波長の)周期で光が通っていくようなコームフィルター(櫛形フィルター)となります。

とりあえず計算してみるとFSRは20Å = 2nmか、もう少し長い程度になります。400nmから800nmまでの紫外から赤外の間だけでも数百本の波長の光が通っていきます。

その中で、エタロンが通す櫛の一本だけを考えます。その櫛の一本がどれだけの波長幅を通すかを表すような量としてFWHM(Full Width Half Maximum、半値全幅)という値があります。ある波長の透過率の、最大値の半分の値が、波長で見てどれだけの幅を持っているかという意味です。PSTでは典型的には0.7Å = 0.07nmだとか、1Å = 0.1nmだとか言われています。

FSRとFWHMで決まるような比をFinesse = FSR / FWHMといい、共振器の鋭さを表します。これは鏡の反射率のみで決まる量です。PSTの場合はたかだか15程度だそうです。上の値から計算すると2nm / 0.1nm = 20程度なので、値としてはだいたい一致します。空気中ということでオーダー的にはこんなもんなんでしょう。世の中にはFinesseが10万とかいう光共振器もあります。こういった高いFinesseは当然真空内で実現されます。

ちなみにFinesseと光の共振器内での折り返し回数Nには一意の関係があって、N=Finesse / Pi * 2という式で表すことができます。Finesseが15だとすると、光の折り返し回数はPiで割って2をかけるので10回程度エタロン内を往復していることになります。

さて、エタロンはコームフィルターと言いましたが、そのためにある波長のみが通り抜けていくのではなく、FSRおきの波長の光が数百本通り抜けていくので、欲しい赤い光だけでなく他の色の光も通り抜けるために、今回は青っぽくなったのかと思われます。こう考えると、BF(Blocking Filter)が必要な理由が自ずと見えてきます。BFの波長選択性はエタロンに比べてそれほど良くはありません。ある程度の広がりを持った波長しか選択することができないというわけです。今回の場合H alpha=656.3nm周りを中心に2nm以下くらいの波長幅で選択できるフィルターが必要となります。PSTのものではないですが、ここに同じCORONADOのBF15の透過率のグラフがあります。縦軸はODなので、1で10分の1、2で100分の1、3で1000分の1になります。このグラフによるとFWHMは縦軸最大の66%の半分の値の33%くらいのところの横軸の幅を見て、まあだいたい0.75nm程度ですね。思ったより優秀です。これならきちんと一本の櫛のみ抜き取ることができますね。

まとめると、エタロンが1Å 程度の幅の波長を「数十Å程度の周期的に」通すために、欲しい波長のみ選択することは不可能になる。そこで欲しい波長以外のいらない波長を省くためにBFが20Åくらい(データではしたのは7.5Åくらい)の幅でH aphaを通す。この2つを併用することで1Åという非常に狭い波長幅でH alphaのみ通すことが実現できるというわけです。


最後に、それぞれのフィルターの透過光をiPhone5で簡単に写真を撮りました。フィルター面での反射が激しいので、あまりわかりやすくはないですが、参考になればと思います。


  • 元画像:
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白熱電球が傘に当たって光っている写真です。

  • BF
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視野も狭く、透過率も悪いです。2nm幅だけ通しているのでこんなもんなんでしょうか。
iPhoneで適当に撮っているので、明るさはあまりあてになりません。


  • ERF
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赤くなります。視野も広く、透過率も高いので、そこそこ見えます。
透過する波長幅もかなり大きいように見えます。


  • etalon
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ほとんど普通のガラスみたいに見えます。ちょっと青みがかっています。
白い枠はiPhoneのカメラの縁です。反射が多いのでどうしても写り込んでしまいます。

etalonはわかりにくいので、障子のところも撮りました。青みがかっているのがわかりますでしょうか。

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さて、ジャンクで買ったPST、この中のどれが悪い部分なのか、それとも大して問題なく普通に使えるのか、これから色々検証していきます。

あ、あと触れてなかったですが、同じCORONADOのSOLARMAX SME40も同時に格安で買いました。こちらもジャンク品です。PSTと合わせてダブルスタックで使えるものですが、どうも像が甘いとか。こちらはまずはPSTを片付けてから試したいと思います。


続き: カメラで合焦できるような改造を試します。