先日の記事で、メーカーが出しているASI294MCの性能のグラフの読み方を考えてみました。実際の性能を確かめるため、SharpCapを使い手持ちのASI294MCの実測もしたのですが、記事自体はかなり一般論になっていて、じゃあ具体的にどのような設定で使えばいいのかという話まではまだ繋がっていません。今回はそこら辺のところを考えてみたいと思います。難しい理屈は嫌だという方は、今回の記事だけ読んでも実用的には役に立つのかもしれません。

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さて今回は
  1. 電視観望
  2. 空が暗く、非常にいい環境での撮影
  3. 光害地での撮影
という3パターンに分けて考えてみましょう。



1. 電視観望

まずは電視観望から始めます。普通の天体撮影をされる方にとっては電視観望というのはあまり一般的ではないかもしれませんが、電視観望はかなり極端な設定を必要としますので、性能の限界を考える時にはなかなか面白いのです。

電視観望では、短時間でのリアルタイムビューを重要視するために、内部ゲインを相当上げて、露光時間をできるだけ短くして臨場感を出します。その代わりにノイズは大きいですし、そのノイズを緩和するためにライブスタックと呼ばれる、いわゆるコンポジットをリアルタイムで行なっていきます。

かなり基本的なところから考えます。まず、内部ゲインを上げるとは一体どういうことなのでしょうか?物理的にはセンサーの後に増幅回路があって、その増幅回路のゲインを上げるということなのですが、これがメーカのグラフの上でどのようなことを意味するのかを考えてみます。

電視観望ではZWOの言うGainを400とか500とか600近くまで上げます。Gainは200で20dB、すなわち10倍、400で40dB、すなわち100倍、600で60dB、すなわち1000倍ということです。簡単のため電視で仮に400まで上げたとしましょう。ZWOが出しているページのグラフの横軸で400のところを見ると、Read noiseは1.4 [e-] 程度とかなり小さい値を示しています。でも画面ではなぜかノイズが目立ちます。Read noiseは小さいはずなのになぜ?という疑問が湧くかもしれません。そこにコンバージョンファクター(ZWOのグラフではGAIN(e-/ADU)となっている2つ目のグラフ)がキーとなります。この値はGain400ではかなり低く、0近くになっていてグラフから読み取ることも困難です。昨日実測した値を見て見ると0.036 [e-/ADU]と記録されています。この値でADCのカウントでどれだけノイズが目立つのか計算してみると、

1.4 [e-]  / 0.036 [e-/ADU] = 39 [ADU]

となり、何とADCの読みで39カウントもノイズが出ていることになります。じゃあ39カウントのノイズって何だと言う話になりますが、分散とかの話をすると難しくなるので、まあざっくり39カウントくらいの間で明るくなったり暗くなったりしているピクセルが画面中にバラついていると考えてください。それよりも意識しておきたいことがあって、このGain400の時のfull wellの値です。full wellとは内部ゲインが高すぎる時にセンサーの出力が限られてしまい、これ以上ADCの値が上がらない上限値のことを指します。これも昨日の実測値を見てみると、何とわずか585です。ADCの値にすると、585が最大値でそのうちの39がノイズだとしたら、1割とは行かないまでもレンジの約7%がノイズになってしまっていることを示します。これじゃあ画面がノイズだらけなのは致し方ないと言うことです。

(追記1: すみません、上の記述勘違いしていました。[e-] が単位のfull wellと、[ADU]が単位の画面のサチレーションを勘違いしていました。ADCのサチレーションカウント16384の中で39カウントノイズになっているだけです。ちなみにゲインを600まで上げると400カウントくらいがノイズになります。これだと4%くらいになるので、これくらいでさすがに目に見えるくらいですね。)

(追記2: 改めてSharpCapのfull wellの値を見ているのですが、どうもこれは真面目に全てのゲインで飽和カウントを測定したわけではなく、単にADCのフルレンジ16384をコンバージョンファクターで割っているだけのようです。これはSharpCapだけでなくZWOの測定結果も同様の方法で簡易的に出しているだけのようです。そう言った意味ではセンサーが出せる最大出力という意味での真のfull wellとは言えないので注意が必要です。あくまで、ADCの最大カウントからくるfull wellがZWO及びSharpCapで示されているに過ぎないということでしょう。)



ライブビューを謳うので露光時間もあまり上げることができません。残る手はSharpCapの秘技、LiveStackです。これは単に画面を重ね合わせるのではなく、恒星の位置を数十個自動認識して、それらが重なるように画面をリアルタイムでコンポジットしていきます。上の読み出しノイズは枚数に正比例(注: 枚数のルートに比例してではありません、ノイズに関しての詳しい議論は後日します。)して減っていきますので、見ている間に劇的にノイズが軽減されていくというわけです。

(追記: 2017/12/212017/12/23実際にASI294MCで電視を試してみました。)


2. 空が暗く、非常にいい環境での撮影

次に、かなり空が暗いすごく環境の良い状態で、撮影をすることを考えて見ましょう。まず、空が暗いということは、長時間露光してもサチルことがないので、一枚一枚の露光時間を長くとることができます。 内部ゲインx 露光時間でヒストグラムのピーク位置が決まります。ピークの位置が左から3分の1程度になればいいとか言われている(これもまた議論の余地があると思いますが、いつか検証します。)ので、適当にゲインと露光時間を調節するのですが、じゃあゲインは具体的にはどれくらいにすればいいのでしょうか?

こんな時に指標になるのが、3つ目のグラフDR、すなわちダイナミックレンジです。ダイナミックレンジはFull wellをRead noiseで割ったものをbit換算したものになります。グラフを見ると一番いいところで13[stops]くらいでしょうか、これは2の13乗を意味し、2^13=8192となるので、信号部分である天体を最大8192階調で表すことができると言うことを示しています。ここで面白いのが、Read noiseが横軸のGain120あたりのところで、いきなりジャンプして劇的に良くなっていることです。このためダイナミックレンジも最初Gainとともに落ちていくのが、Gain120のあたりで再び良くなっています。これはGain120より多少大きいあたりで撮影するのが一番得だということを示しています。このGainでヒストグラムのピークが3分の1くらいになるような露光時間で撮るのが、最も効率のいいセッティングになります。これで時間が許す限り取れるだけの枚数を撮ってしまい、あとはコンポジットしてノイズを減らしていきます。


3. 光害地での撮影

最後に光害地での撮影です。基本的には上の最も効率のいいGain120で、露光時間を短くすることでヒストグラムのピーク位置を3分の1程度のところに持って来ればいいのですが、それでも明るすぎる場合には、Gainを0近くに持ってくる手もあるのかと思います。ダイナミックレンジが一番得をするところを探すという考え方は同じです。ただ、同じクオリティーの画質を出すのにより長い時間かかってしまうので、結局は損をしてしまうと思います。



3パターンで考えましたが、センサーの性能を理解していると、効率のいい設定をあらかじめ予測することができます。もちろんこの設定が完璧というわけではなく、例えば雲が多くて時間が限られている日には多少恒星が飽和するのを覚悟して、Gainを上げて短時間で撮影するなどの戦略をとることもできます。実はこのカメラが欲しかった理由の一つが、センサー感度がいいことを利用しての短時間露光のシンチレーション回避を試してみたいと思っていることなのですが、これはまた上の原則には当てはまらずに、いろいろ戦略を練ることになりそうです。ここら辺は追い追い試していきます。

(追記: 実は上のことだけ考えていると、一般的なカメラ撮影でもダイナミックレンジが一番広い低感度で撮る、すなわちiso100とか極端なのがいいという変な結論に陥ってしまいますが、もちろんそんなわけはないです。これをきちんと考えるためには、撮りたい天体の極限等級、露光にかけたい時間などの要求値をあらかじめ決めておかなければならず、それらの条件のものでノイズを考え、その時のS/Nから要求が満たせるかどうかの判断をして、その要求が充たせる範囲の中でゲインや露光時間を調整すべきです。S/Nの話は、定性的なお話や、定式化までは簡単なのですが、定量的に考えようとすると、読み出しノイズやダークノイズなどのカメラの性能だけでなく、ターゲット天体の明るさを信号として、空の明るさなどをノイズとして数値的にきちんと評価してやらなくてはいけません。具体的にこのブログのレベルで示せるものなのか、ちょっと今試行錯誤中です。)




さて、外を見ると今日は一日中雪が降り続いています。晴れるのはいつになることやら。

もう少し、次はノイズについてちょっとだけ議論したいと思います。


( 追記: ノイズについていろいろ検討してみました。定式化までですが、参考になればというくらいです。定量化はもう少し。)