先日の記事で、電視観望の入門記事を書きましたが、今回は実践編です。

CMOSカメラを使った電視観望の技術自身は2016年末くらいにはほぼできていましたが、実際に観望会で使ってみると、技術だけではない、いろいろ準備不足な点があることがわかってきました。この記事ではそこらへんのところをまとめたいと思います。

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2016年末、電視観望を試していた時に見た馬頭星雲と燃える木。
PCの画面をiPhoneで撮っただけで、見た目の印象もほぼこのくらいです。



機材はできるだけシンプルに

CMOSカメラを使った電視では基本的にPCを必要とするので、ただでさえ機器が増えます。PCを落ち着いて操作するために机や椅子などもあったほうがいいでしょう。そんな中、ケーブルの数はできるだけ少ないほうがいいでしょうし、赤道儀などの設置もできるだけ楽なほうがいいでしょう。特に、電源系統は寒くなってくると電圧が出ないなどトラブルの元になりやすいので、できるだけ安定なものが絶対にいいです。私の場合は最近は乾電池駆動のCelestronのNexstarの架台を電視観望会用に主に使っています。電源の配線もいらなければ、赤道儀みたいに組み立てることもほとんど必要ないです。経緯台タイプですが、自動導入も可能で、電視くらいならば十分な精度と安定性があります。おまけに軽いのですぐに設置できてすぐに片付けられます。軽いというのは実はすごく重要で、車で機材を運べなくても、折り畳み机と折りたたみ椅子と一緒に、全ての電視の機器を全部持って、歩いて一度に運ぶことができます。


天体機器の凝った接続方法はトラブルの元

以前からStickPCでつないで、iPadで操作したりとか、電視ファインダーを使うなど、結構凝った操作方法を試行錯誤していました。一人の時はそれでもいいのですが、観望会などの時は例えばネットワークのトラブルなどは致命的になってお客さんを待たせるだけになってしまいます。何度かのトラブルの後、観望会では最低限の操作として、赤道儀もしくは経緯台単体でできることにとどめることにしました。例えばAdvanced VXならば、一番基本の赤道儀付属のコントローラーのみによる初期アランメントと、赤道儀付属のコントローラーによる自動導入のみです。Platesolvingを使っての視野の自動位置補正など凝ったことも技術的にはできて、見た目もかっこいいのですが、観望会では大抵トラブルの元です。


水平出し、初期アラインメントは時間を十分に取ること

お客さんに早く見せてあげたいと焦って、水平出しを忘れたり、もしくはサボったりして時間を短縮しようとしても、結局ほとんどやり直しになってトータルでは余計に時間がかかってしまうことが何度かありました。初期アラインメントも同じです。時間がないと思って極軸をきちんと取らずに始めてしまったとか、きちんとアイピースの中心に星を入れなかったとかで、やり直しをする羽目になることが何度かありました。電視観望会では次々に天体を行き来できる自動導入が圧倒的に能率がよくて重要な技術になるので、その精度が悪いと天体を導入するたびに余分な時間がかかってしまいます。基本的な準備のプロセスをおろそかにせず、時間がない時はなおさら焦らずに、丁寧に十分な時間をかけてこなしていくことが必要です。


極軸合わせも電子極軸が楽かも

せっかく電視用に高感度なCMOSカメラを使うのなら、電子極軸合わせが便利で楽かもしれません。あらかじめ多少の練習は必要ですが、慣れてしまえばほとんど時間を取ることなく、しかもはるかに精度良くできてしまいます。電子極軸合わせは、電視観望で使う同じSharpCapを使うことでできてしまいます。ただしバージョン2.9以前か、ShaprCap Proにしかついていない機能なのでご注意ください。フリーバージョンのSharpCapの現行バージョンにはこの機能は付いていません。SharpCapでの電子極軸合わせの詳しい方法は「SharpCapによる極軸合わせ」に書いていますので、興味のある方はお読みください。


極軸調整、初期アラインメントができない!

夏の観望会では明るいうちから人が集まってくるので、一番星になる明るい木星や土星惑星などを見始めると極軸を合わせている暇がなくなって、自動導入までたどり着かないことがよくあります。そんな時はもう自動導入は諦めてマニュアル導入で見てもらいます。電視の場合、センサーサイズが小さくて見ている範囲がかなり狭いので、マニュアル導入で星雲を入れるのは(少なくとも私の腕では)至難の技です。こんな時は電視を諦めていました。

また、天気が良ければいいのですが、雲などで北極星が見えないと極軸が取れなくて自動導入ができないこともあります。そんな時はiPhoneの方位磁石のみで適当に方向だけ合わせて、あとはうまくいけば自動導入、うまくいかないと諦めてマニュアル導入です。この場合も自動導入の精度が出ないので、電視は諦めがちでした。

逃げの一つとして、月が出て入れば月を見ます。例えば現在使っているNexstarの経緯台は月だけで初期アラインメントを取ることができます。一番の利点はアラインメントにほとんど時間がかからないことです。精度はそれほどないですが、それでも月を見るだけならば十分に追い続けることができます。


街中の観望会で明るい場合や、満月に近いなど、暗い天体が見えにくい時。

街中観望会では比較的明るい場所で行われることも多いので、メインターゲットはたいてい月と惑星になります。なので、そんな時は電視で月を見ます。私は高解像度のASI178MCをよく利用します。月は十分すぎるほど明るいので、感度はそれほど必要ありません。それよりも高解像度カメラで見ると、例えばASI178MCの場合カメラの解像度がPCのモニターの解像度をはるかに上回っているので、拡大しても画面が破綻しません。お客さんの要望に従って拡大していくと、まるで月を探検しているような気分になります。また、露出時間がを短くできるので、拡大していくと空気の揺らぎが見えるようになり、それがさらに臨場感を増します。

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ASI178MCで月をSharpCap上に表示した場合。
カメラの解像度がモニターの解像度より高いのため、ここからかなり拡大できます。


自動導入がうまくいくなら、街中や月が相当明るい場合でも感度のいいCMOSカメラを使えば、輝度の高いM57やM27などは電視で十分に見ることがきます。ASI224MCの高感度が効いてきます。今年のスターラートフェスティバルでは、満月2日後でもかなり淡い三日月星雲を電視で見ることができました。

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満月2日後の電視でみた三日月星雲。


天気が悪いが、一部には星が見えている時。

こんな日は月が出て入れば月に逃げます。この場合難しいのが、薄雲に月が隠れた場合と、雲から月が出た場合の明るさが違いすぎて、カメラのゲインもしくは露出時間を随時変え続けなければならなくなります。こんな時はSharpCap上で露出時間か、ゲインをオート設定にしておくと、かなりの明るさの変動にも対応してくれます。


雲が多くてほとんど星が見えない時

観望会でも望遠鏡は開店休業状態になるような時です。こんな時でもCMOSカメラを使えば星が見えるかもしれません。アマゾンなどで、安くてf値の小さい、明るくて短焦点のCSマウントレンズなどを買っておけば、広角で空を見ることができ、雲が薄いところなど星を見ることができます。肉眼で見えなくても諦めないでください。多少の薄雲ならその後ろにある星を炙り出してくれます。うまくいくと、薄雲の向こうの天の川を見ることもできます。ASI224MCの場合、8mmや16mmくらいまでの焦点距離がいいと思います。

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CSマウントレンズ。数千円で購入可能。
一番右はASIシリーズにCANONレンズをつけることができるZWO社製のアダプター。




これまで経験してきたトラブルなどをまとめましたが、大事なことは焦らずに準備に十分な時間を取ることだと思います。観望会本番前に、観望会を想定して機器の練習しておくことも大事かと思います。自動導入の準備まできちんとできていれば、あとはターゲットを見ることだけに集中すればいいので楽です。星雲とかは淡いので、自動導入で一発で入らないと、結局ウロウロ探したりすることになり、炙り出しに集中できません。

ここで書いたことはまだまだ一例にすぎません。他にもこんなトラブルがあったなどコメントしていただけると、ありがたいです。今回は実践編でしたが、観望会などで試された方が、うまくいくことを願っています。


最後はその3: 電視観望の楽しさについて書いています。