先日購入した天文ガイド5年分のうち、1991年の1年分12冊を読んでみました。

このころはある意味雑誌の最盛期ですね。まだバブルも弾ける手前、インターネットも無い時代で、全国的に天文ショップの数も今とは比べものにならなくらい多く、雑誌の広告も、雑誌の厚さも段違いです。広告も、読者の写真もカラーページの枚数も、昔の号と比べると格段に増えています。読むのに時間がかかります。

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その中でも、青紫色のアトムの広告のページの多さと、天文リフレクションで紹介されていた星ナビのBORG開発者の中川さんの話と絡めて読むと、現存する天文ショップの勢力図というか、アトム出身の天体ショップの関係者が今も活躍されていることがよくわかります。いつも寄らせてもらっているスターベースのI店長や、この間訪れたEYEBELLの店員さんも、名前は聞かなかったですが、アトム出身の方とのことです。いつもお世話になっているKYOEIのMさんもアトム出身だと聞きました。アトムは後に今のスターベースに代わるのですが、なぜかアトムがまだ残っているのに名古屋のスターベースの広告がすでに出ています。今でこそ両方ともスターベースなのですが、もともとは別の系列だったのかもしれません。1991年の12冊では答えが出ませんでした。12月号の広告の「新装11.15東京OPEN」というのがヒントなのでしょうか?

このころのアトムといえば、アストロカー「GINGA」が異彩を放っています。ミニバン型の車の後部に天体望遠鏡が設置されていてスライディングルーフを開けばすぐに観測ができるというものです。9月号にカラーページで特集があるのですが、望遠鏡は独立したターンテーブルの上に載っていて、極軸合わせも車の停車した方向とは関係なくできるみたいです。バブルのころの賜物なのでしょうか、さすがに現在こういったものが残っていないろことを見ると、あまり出回らなかったのかもしれません。というよりも、下手をすると望遠鏡よりも車の耐用年数の方が短い気がします。

広告でもう一つ面白いのがMEADEの赤道儀が2月号からでしょうか、ピリオディックエラー+/-1.8秒以内を謳っていることです。PEC(ピリオディックモーション補正システム)の記録が残るPPEC(programmable periodic error correction)という機能を使ってのことらしいのですが、同じ2月号の評価記事の「NEW FACE TEST REPORT」の中では初めての使用ということで+/-1.8秒は出なかったようです。実際ガイドなしだと相当厳しい値かと思います。それとは対照的に同じく6月号の「NEW FACE TEST REPORT-6」の中でCelestron C8と一緒に販売していた赤道儀C8 UltimaPECの実測で+/-1.8秒が出たというのが面白いです。Celestronは特にピリオディックエラーについてはどこまで出ると明言していないで、そのことが逆にメーカーの方針を垣間見ることができ、このころの精度の戦いがいかに熾烈だったのかが想像できます。ちなみにCelestronの方はPECの記録が残るものではなく、毎回消えてしまうために必ず再測定が必要になることは明記しておきます。

「NEW FACE TEST REPORT」は毎回充実していて、例えば10月号のST-4を見るとやっと冷却CCDが民生で実用化されてきて、2軸ガイドもできてしまうという触れ込みです。今から15年前くらい前の話になるのですが、CCDも計算機とあいまって相当進歩したことがわかります。

ニュースでいくつか気になったものがあります。「JNLT」という名前をご存知でしょうか?ハワイにある8mの国立天文台の「すばる」の計画段階の名前だったようです。私は今の「すばる」でしか知らなかったのですが、8月号で計画にゴーサインの特集記事がありが、10月号で名前が決まったとの報告記事がありました。その後補償光学での鮮明な画像で名を馳せ、ハッブルに迫る性能を出すすばるですが、すでにこのころから期待されていたことがわかります。


連載記事では「望遠鏡発達史」がけっこう勉強になりました。100均の虫眼鏡で望遠鏡を作ろうとしたことがあるのですが、5月号の記事を見てなぜ2枚のレンズだけだとダメなのかがやっとわかりました。関連して「テレオプト」というNECのPC98で動く天体望遠光学シミュレータソフトを使った、光学設計の連載が開始されていました。この記事も合わせていい勉強になります。望遠鏡の光学設計というのもそのうちやってみたいと思います。今ならもっといいソフトがあるはずですが、基本の理屈は変わらないはずです。


同じく連載なのですが、このころのコラムで気に入ったのが二つありあります。一つは2月号から始まったインド哲学・仏教を専攻し、声楽家という春日了氏のコラムです。言っていることにいちいち棘があり、それが逆に小気味いいです。葬式の時に宗教オタクの親類から仏教論争をふっかけられたのに、専門家として軽くあしらっているところなど読んでいて笑ってしまいます。この連載は8月号で何の前触れもなく突然終わってしまっているのですが、いろいろ問題発言があったのかもしれません。

もう一つがコラムというよりは短い星座紹介の記事なのですが、「おもちゃの星座箱」という記事で、毎回独自の視線で星座を紹介していきます。かんむり座の紹介では、いつか大酒飲みの旦那様が現れて私を幸せにしてくれないかとか、あまり子供向けの星座紹介にはなっていません。毎回考えさせられる星座紹介で大好きです。


「読者の天体写真」コーナーでは、なんと高校の同級生の名前を見つけることができました。以前の記事でも少し書いたのですが、同じ高校の天文部に所属していた女の子です。掲載されていた星景写真は大学1年の時のはずで、まだ星を続けているのか一度会ってみたいです。あと、天体写真家で有名な富山出身の大西さんの名前を随所に見ることができました。しかも大抵優秀賞とかで、扱いがすごく大きいです。やはりこのころからその才能が注目されていたのかと思います。昔ですから、当然銀塩写真なのですが、その時代の制限された技術を使って、他の人に差をつけることができるというのはやはり才能で、すごく羨ましいです。天体写真の評価記事にページを割いているのも今ではない試みです。今ではデジタルに変わってしまいましたが、それでも評価すべき基準はあまり変わっていないのかと思われます。


特集記事で一番面白かったのが、8月号の「望遠鏡だけ持ってキャンプに出かけよう」です。編集部員が家族を連れてキャンプに行く話なのですが、その中の現地でのプログラムが
  • 一番星探し競争
  • 北極星は動かないか!?肉眼で確かめる
  • 君は戦士になれるか!?北斗七星のアルコルとミザールで目の検査
  • 初夏の星座を探す
  • 自分の星座を作ってしまおう
  • 双眼鏡で天の川下り
  • 白昼の金星を見つけてみよう
など、アイデアいっぱいで、家族でキャンプに行っても、観望会などでもそのまま使えそうです。あいにく、実際のキャンプは曇りで、記事用の星の写真を撮るのも難しかったらしく残念な結果だったらしいのですが、それでもキャンプに行きたくなるような記事で秀逸です。

読者サロンのコーナーでは、一人一人のお便りの内容がすごく長くなっている傾向が見受けられます。それを毎回何人か載せるので、ページ数も結構割いています。相変わらず文通コーナーはすごいです。住所を公開しているなど、今では考えられないですが、そのことが原因のトラブルとそれに対する意見など、お便りコーナーにまではみ出している号もたくさんあります。もう間も無くするとNiftyなどのメールサービスが始まる頃のはずで、文通コーナーも衰退するちょっと前の最盛期なのかと思います。


このころは部数が出ているせいか、メジャー路線に偏っていっているような気もします。式が出てくるようなマニアックな記事は以前読んだ80年代に比べると少なくなった気がします。それでも厚さのせいもあり情報量がたくさんあり、読み応えがあります。引き続き1992年を読んでみます。