ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2020年07月

ネオワイズ彗星の画像処理をしていて、検証できたことが一つありました。バイアスノイズの影響です。

4連休なのに天気がずっと悪くてどうしようもないです。少しでも見えれば電視観望くらいと思っているのですが、さすがに雨が降っているようでは手が出ません。仕方ないので画像処理時少し時間を費やしました。


なぜか縦縞ノイズが残る?

まずこちらを見てください。

integration1_ABE_DBE2_STR_stripenoise_cut


初日に撮影したうちの処理途中のネオワイズ彗星を少し見やすくしたものです。炙り出しを進めると縦方向に縞ノイズがあることが分かります。このノイズ全体にあるのですが、特にダストテイルの真ん中下部が分かりやすいかもしれません。分かりにくい方は今見ているモニターの明るさをできるだけ明るくしてみてください。

この時は速報性重視で時間が勝負だったので、撮影から帰ったその夜中に、しかも朝には仕事があるにもかかわらず、PixInsightでライトフレームだけ使い、バイアス補正、ダーク補正、フラット補正をしていない状態で出てきたものです。

このノイズがあるために画像処理を控えめにして縦縞ノイズを目立たないようにしたものをブログに載せています。コメントでRAINYさんから「屏風絵のようで和を感じる」などと評価いただいたのですが、私はそんなに心の綺麗な人間ではないので、本当はもっと炙り出したかったのです(笑)。その時のコメントでこっそり書いてますが、まだまだ彗星の画像処理も未熟で迷走状態だったわけです。


縦縞ノイズの原因

原因は比較的はっきりしています。マスターバイアスフレームを炙り出したものを見てみます。

20191109_bias-6D_ISO1600_s4000_x100

縦縞の様子が似通っています。最初は何もノイズ処理をしていなかったので、取り除いていなかったバイアスノイズが出てしまったと推測されます。


真面目にノイズ処理をしみた

1回目の撮影はあまり真面目にノイズ処理をやらずに縦縞ノイズが残ってしまったので、2回目の撮影ではきちんと各種補正をしようと思い、PixInsightで
  • バイアス補正あり、ダーク補正あり、フラット補正あり
で画像処理をしました。詳しく言うと、
  1. ライトフレームISO1600、30秒露光を20枚に対して
  2. バイアスフレームはカメラにキャップをして、暗所で撮影、ISO1600で最短露光の1/4000秒を100枚スタック、ただし半年以上前に撮影したもの
  3. ダーク フレームはカメラにキャップをして、暗所で撮影、ISO1600で30秒露光を50枚
  4. フラットフレームはライト撮影時の105mmレンズを開放のF2.4にして、ISO100で1/50秒露光で50枚、ここにあるように障子の漏れ光を利用して昼間に撮影
となります。結果を見ます。

masterLight_BINNING_1_FILTER_NoFilter_EXPTIME_30_integration_DBE

全ての補正をしたのでこれでOKと思っていました。でもまだ縦縞ノイズが残るんです。なぜでしょう?ここから迷走して少し時間がかかってしまいました。

でも、鋭い方ならここの時点でピンと来た人もいるのかと思います。この時点で全てのヒントは出ているので、もし理由を考えたい方がいたらここでじっくり考えてみてください。
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縦縞ノイズが残った原因

何が問題だったか、答えを言いますとフラットフレームだけISOを100として撮影していて、その他ライト、バイアス、ダークフレームのISO1600と違っていたことが原因です。

フラットフレームを撮影する際、昼間の障子紙越しの光を使ったのですが、十分明るいのでISO100、1/50秒で撮影しました。この際のISOがライトフレームの1600と大きく違ったことが問題だったというわけです。ISO100で撮影したフラットフレームに残っているバイアスノイズが、ISO1600で撮影したライトフレームのバイアスノイズを補正できなかったのです。

その証拠にライトフレームと合わせるためにフラットのISOを1600と上げ、その代わりに露光時間を1/2000秒と短くして撮影し直し、上記で試した
  • バイアス補正あり、ダーク補正あり、フラット補正あり
で、フラットファイルだけを新しいISO1600のものに変更して処理し直したものを示します。

masterLight_BINNING_1_FILTER_NoFilter_EXPTIME_30_integration_DBE

これまで出ていた縦縞ノイズが綺麗さっぱり消えています。分かりやすいように目立つ場所の比較をしてみます。左が間違ったISO100のフラットフレームで補正した画像、右が正しいISO1600のフラットフレームで補正した画像です。

comp_center

明らかにライトフレームと違うISO100の補正では縦縞が残っていて、ライトフレームと同じISO1600では補正がうまく行っているのがわかると思います。

ここで一つ結論が出ます。

以前紹介した短時間で撮影したフラットフレームは、ライトフレームとISOを合わせる必要がある。そうでないとバイアス補正がうまくいかない。

ということです。以下のページを見て参考にされた方がいましたら、是非とも今回の結論に合わせてISOを揃えるようにしてください。





このような淡い縦縞ノイズは、相当な炙り出しをしない限りは問題にならないかもしれませんが、今回のような彗星の淡いテイルなどは確実に影響を受けます。最初シンクロニックバンドに直交するように縞が出てしまって「なんじゃこりゃ?」となったわけです。

実はこの短時間フラットフレーム撮影のISOを合わせた方がいい件、確かどなたかがコメントかTwitterで指摘してくれていたと思ったのですが、その発言を見つけることができませんでした。今回はやっとここが検証できたことになります。

これでめでたしめでたしかと思いきや、でも実はそうでもなかったんですよね。これ以降詳しく書きますが、こちらの方の検証で相当時間を食ってしまったというのが実情です。


ここからがバイアス補正の謎

さて、これまでの議論が正しければ、フラット補正やダーク補正なしで、正しいISOのバイアス補正だけをした場合も綺麗に縞ノイズが消えるはずです。ところが、ところがですが、
  • バイアス補正あり、ダーク補正なし、フラット補正なし
という状態で処理した画像を示しますが

masterLight_BINNING_1_FILTER_NoFilter_EXPTIME_30_integration_DBE

上の画像が示す通り、なぜかバイアス補正だけでは縦縞ノイズは消えないんですよね。いろいろ検証しましたが、いまだに謎です。やったことは

縞ノイズが残った場合
  1. バイアス補正なし、ダーク補正なし、フラット補正なし
  2. バイアス補正あり、ダーク補正なし、フラット補正なし
  3. バイアス補正あり、ダーク補正あり、ISOの違うフラット補正あり

縞ノイズが消えた場合
  1. バイアス補正あり、ダーク補正あり、正しいISOでのフラット補正あり
  2. バイアス補正なし、ダーク補正なし、正しいISOでのフラット補正あり
  3. バイアス補正あり、ダーク補正なし、正しいISOでのフラット補正あり
です。ここからわかることは、とにかく正しいISOでのフラットで補正でないといずれも縦縞ノイズが出てしまうということです。

繰り返しになりますが、以下の2通り
  1. バイアス補正なし、ダーク補正なし、フラット補正なし
  2. バイアス補正あり、ダーク補正なし、フラット補正なし

でバイアス補正が共にされていないという事実から、バイアスファイルに問題があるのではとも思いました。半年以上前に撮影されたものなので、もしかしたら温度とかの条件が違うからかもしれないからです。念のため、今回さらに新たにバイアスフレームをISO1600、露光時間1/4000秒で100枚撮影しました。そのバイアスフレームを使って、
  • バイアス補正あり、ダーク補正なし、フラット補正なし
で、試しますが、

masterLight_BINNING_1_FILTER_NoFilter_EXPTIME_30_integration_DBE

上のようにやはり縞ノイズが残ってしまいます。バイアスフレーム自身は直近で撮影していて流石に問題ないと思うので、むしろバイアス補正が全く効いていないような状態です。確かにライトフレーム撮影直後にバイアスフレームを撮影したわけではないので数日の時間差はありますが、それでもその程度の時間差でバイアス補正が効かないとしたら、やはりこの補正方法自体が役には立たないでしょう。

結局この新しいバイアスフレームでもいろいろ試しましたが、結果は全て上と同等で、正しいISOでのフラット補正をした場合のみ縦縞ノイズが消え、バイアス補正は縦縞ノイズに何ら関係ないとなりました。

一方、ダーク補正につても考えます。単純に考えるとフラットフレームの中にバイアスノイズが含まれているので、正しいフラットフレームならバイアスノイズを消せるはずというので理解はできます。これが正しいならダークフレームの中にもバイアスノイズは含まれていて、ダーク補正だけでも縦縞ノイズは消えるはずです。
  • バイアス補正なし、ダーク補正あり、フラット補正なし
というのも試しましたが、縦縞ノイズは消えませんでした。少なくとも今回の検証ではダークフレームに含まれるはずのバイアスノイズは、ダーク補正において縦縞ノイズに何の影響も与えていないという結果です。


うーん、何がおかしいのか?

ちなみにこの結果は、一連の状況を経験してから、改めて一から全ての処理をし直し、再確認しています。それでもなにか勘違いなどで間違いを繰り返している可能性はあります。ただ、最後はバイアスの有無だけとかなり物事をシンプルにしたので、おかしいところは相当限定されていると思います。

これまでのことから、PixInsightにおいては、バイアス補正のみだとうまく補正できていない、もしくは補正し切れていなくて、正しいフラット補正(ISOを合わせたという意味)においてのみバイアスノイズの補正がうまく行われているようだということが言えます。

もしかしたらPixInsightのバグかもしれません。でもバイアス補正はPixInsightの相当基本的なところなので、かなり検証されているはずです。

私がとんでもない勘違いをしている可能性もあります。一つの可能性が、バイアスノイズと思い込んでいるものが実はフラットフレームのみに現れる全く別のノイズかもしれないことです。でもこれもあまり正しいとも思えません。

今回の検証が本当に正しいのかどうか、もしどなたか追試していただける方がいてくれると嬉しいです。


2回目の能登半島羽咋の撮影で、ある程度枚数を稼いだのと少し雲が出てきたので、一度やってみたかったテイルのある彗星の電視観望を試してみました。


電視観望でネオワイズ彗星を見てみる

今回は簡単な電視観望なのですぐに準備は整います。1回目の撮影の時に焦っていて見つからなかったカメラアダプターも、今回はきちんとどこにあるか確認しておいたので、すぐにカメラとレンズは説明できました。赤道儀も経緯台も使わずの普通の三脚にカメラを乗せるだけなので、こちらもトランクから出してすぐにセットできます。

思い立ってから5分後には画面上に彗星が写りました。機材は一番シンプルなASI294MCにNIKKORの50mm F1.4レンズで以前やった広域電視観望にあたります。QBPなどのフィルターは入れていません。実際に見てみた画面がこちら。

IMG_0347

ダストテイルはもちろん、うっすらですがイオンテイルもリアルタイムで写っています。思ったよりも見えます。さすが超高感度CMOSカメラでの電視観望です。

彗星周りと下のほうにも霞んで見えるのは雲です。22時近いですが撮影するにはすでに状況が厳しくなってきているのがわかります。


ネオワイズ彗星を中継できるかも

それでも高感度カメラのおかげか、うまく見えたことに気を良くした私は、突然Zoom中継できないか思い立ちました。遠征先ですが、iPhoneのテザリング機能を使えばなんとかなるかもしれません。

ところが、最初に繋いだSURFACE PCがなぜかiPhoneまでは繋がるのですが、インターネットに繋がりません。5分くらい格闘して時間もないので諦めて、予備というかメイン機に入っているBootCampのWindowsを立ち上げ、新たにカメラをつなぎ変えてドタバタしながらなぜかこちらはすんなりとインターネットにつながりました。

その後、Zoomの会議室を準備し、すぐにTwitterで「彗星が沈むまでの短時間ですが」と断って呼びかけました。この時点で22時くらいだったと思います。すぐに何人かの方が参加してくれて、まだかろうじて尾っぽが見える状態でした。全国的にはそこまで晴れたわけではなく、この日見えなくて諦めた方も多かったようで、「リアルタイムなので見えた気分になれた」と喜んでくれる方もいました。それでも時間と共に低空に下がってきて、さらに雲がどんどん濃くなってきます。結局途中から参加された方は見ることができなくて申し訳なかったです。

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彗星は見えなくなってしまいましたが、何人かの方が参加してくれました。
  • baibaiさんがかなりはじめから参加してくださって、無事に尾っぽも見てもらいました。電視観望も中継で見るのも初めてだったとのことです。
  • シベット さん、タカsiさん、nagahiroさんも入ってくれました。特に関西勢のみなさんが天気が悪くて見えないとぼやいていました。
  • ケニ屋さんが時間が合わずに入れなかったようで、中継が終了してから入ってくれていたようです。水星が見えている時間も短く、短時間での中継だったので申し訳ありませんでした。
彗星の中継は可能性がありそうです。日本全部で晴れているわけではないので、晴れていないところからその様子を見てもらうことで、楽しんでいただけるかもしれません。彗星の見頃もあと1週間くらいですが、できるならもう少し早い時間から始めてリベンジしたいと思いました。


2回目の電視観望

そんなことを考えていた次の日の日曜日、SCWの予測によると富山は曇りの予報。でも19時頃に外に出てみるとかなり晴れています。この時GPVを確認すると富山は晴れの予報。少し差があるようです。

IMG_0354
自宅から見た北西の空。

とにかく彗星方向も結構見えそうなので、夕食を急いでとって車で5分くらいの河川敷に向かいました。日食を撮影した場所です。到着してすぐに昨日と同じセットアップで設置。ものの5分とかかりません。SharpCapで見えることを確認し、Zoom会議を立ち上げて、すぐにTwitterで呼びかけます。

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  • starstyleさんが仕事中にも関わらず参加してくれました。さすがに仕事中はマイクでは話せなかったみたいです。
  • 昨日に続き、タカsiさんがお子さんと一緒に参加してくれました。
  • 以前大晦日の電視観望でご一緒した智さんが参加してくれました。智さん自身も次の日広角で電視観望をしてみて見事にネオワイズも見えたそうです。双眼鏡だと厳しかったかもとのこと。やはりCMOSカメラは高感度で、ざっくり探すだけでも有効かもしれません。
  • staruzさん、三河のほうで電視観望をやりたいということで、α7Sがいいのか、ASI294MCがいいのか迷っていました。あとで、違いが多少説明してあるこのページをお勧めしておきました。
  • 昨日間に合わなかったケニ屋さんが参加してくれました。
  • CANPでお会いしたMatsuokaさんも入ってくれていたようですが、マイクの調子が悪いのか会話はできず残念でした。
  • spicaさんがお子様と一緒に参加してくださいました。親子で宇宙のことが大好きとのことでした。テカポのライブ中継の後に参加してくれたようです。東京からだとなかなか見えないそうです。でも残念ながらちょっと参加するのが遅くて、彗星が雲に隠れてしまい見せることができず、申し訳なかったです。その代わり少しだけ天の川を見てもらいました。
  • 他にも結構な人数の方、入れ替わりで十数人は入ってくれたかと思います。フォローし切れていない方もいると思いますが、申し訳ありません。
参加してくれた皆さま、どうもありがとうございました。特に、子供が参加してくれるのは嬉しいです。でも後半のspicaさんのところの女の子には見せてあげられなかったこと、これが一番悔やまれます。

最初は彗星のテイルまで綺麗に見えていたのですが、途中からどんどん雲が厚くなり、最後は核さえも全く見えなくなってしまいました。それでも夏の大三角はある程度まで見えてましたし、南の天の川中心付近も見えていました。北西方向があまり良くなかったみたいです。下の写真はZoom中の様子ですが、もうかなり炙り出した状態で、かろうじてテイルまで見えています。

IMG_0358

ちなみにこの時点では、肉眼ではこの方向には星も何も全く見えません。双眼鏡で見ても彗星の核も他の星も全く見えませんでした。それでも炙り出してしまう電視観望はやはり強みがあると思います。


無事に終了

さて、高度的にはまだ見えているはずなのですが、結局雲に隠れてしまって、さすがの高感度CMOSカメラでもどう炙り出しても核さえも見えなくなってしまったので、ここで終了としました。22時前くらいだったでしょうか。次の日もが仕事なので、あまり遅くならずちょうど良かったです。

電視観望も、それを中継するのもとても面白かったです。まだ見えてない人が「見た気分になれた」と言ってくれるのを聞くととても嬉しいです。晴れてくれたらもう一度くらい挑戦したいです。

できれば子供に参加して欲しいです。もちろん本当は肉眼で見て欲しいのですが、spicaさんが会議中に話してくれましたが、東京とかの明るいところでは流石に肉眼で見るのは難しいようです。双眼鏡が一つあれば結構な市街地でも見えると思うのですが、低倍率の双眼鏡でないと初めての人はなかなか場所がわからないかもしれません。実は星座ビノが低倍率で視野が広くて良かったりするんですよね。

ネオワイズ彗星の見頃もあと1週間くらい。悔いのないように楽しみたいです。
 

2度目のネオワイズ彗星のチャンスがありました。天気を見ての判断で、再び能登半島の羽咋まで遠征することにしましたが、うまく撮影までできたでしょうか?


前回の撮影の反省点

7月16日に撮影したネオワイズ彗星ですが、画像処理まで終えてみると幾つか反省点が出てきました。主には2点で
  • テイルが思ったより長いので、もっと広角で撮影しても良かったのではないか?
  • 核が恒星に対してあまり動かないので、もっとトータル露光時間を伸ばしても良かったのではないか?
ということです。

ちょうど前回のブログの記事を書き終えた土曜日の午後、富山はダメそうですが、石川とか福井とかでまた天気がいいところがありそうな雰囲気になってきました。福井まで行ってしまえば暗くていいのですが、石川の南の方は金沢の市街地の明かりでちょっと厳しいかもしれません。19時ころは確かに石川の南とか福井がいいのですが、夜22時くらいまでの天気を考えると、もう一度能登の前回と同じ場所にするのも悪くはありません。ここはもう賭けになるので、とりあえず前回と同じ場所に向かい、その場でダメなら南下しようと決めました。


というわけで能登羽咋に向けて再び出発

前回のセットアップもほぼそのまま残っているので、ほとんど準備はできていいます。場所も道もわかっているので自宅を出たのは前回よりずいぶんのんびりで15時半過ぎ。17時半前には到着しましたが、まだ全面曇りなので途中で買ってきたお弁当で早めの夕食です。

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前回写真を撮り忘れたのですが、場所はこんなところです。コンクリート部分は斜めになっているので、三脚の足の長さを適当に変えて水平に設置するようにしなくてはいけません。。

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下は18時半頃の写真ですが、少し青空が見えるようになってきました。遠くに見えるのが漁港で、島になっているところを利用しているようです。

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天気ももしかしたらなんとかなるかもと思い、準備を開始しました。19時少し前の写真ですが、太陽が見えていて、北西の方向の雲が少し薄くなってきています。

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その後1時間で、北西方向がかなり開けてきました。これなら期待できそうです。

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この時iPhoneのカメラで彗星まで写らないか試したのですが、露光をあげるとボケボケになります。

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手持ちだったのでブレただけなのか、何か画像処理で解像度を落として感度を上げているのかわかりませんが、少なくとも露光を上げないと真っ暗にしか写らず、露光をあげるとこんなふうになってしまいます。三脚を使うとまた結果は変わるのかもしれません。ちなみにiPhone XRなので、たいしたカメラではないです。


ネオワイズ彗星の撮影

気を取り直して、きちんとしたカメラで撮影します。今回は焦点距離を短くして、PENTAXの6x7レンズで105mm F2.4です。もしかしたらこれでもまだ入りきらないかもしれないので、PENTAX 6x7の75mm F4.5を予備で用意しておきます。前者は明るいですが、星像は少し乱れるかもしれません。後者はかなり点像になりますが、F.4.5と少し暗いです。

そこそこ暗くなってきてシャッターを切ると、今日はさすがに場所の検討もついているのと広角なので、すぐにネオワイズ彗星が視野に入りました。相変わらずきれいなテイルです。

結局ISOは1600で共通、
  • 10秒を30枚
  • 20秒を20枚
  • 30秒を20枚
  • 位置を変えて30秒を16枚
  • レンズを75mmに変えて30秒を20枚
の計5セットを撮影しました。絞りは両方とも開放で105mmがF2.4と75mmがF4.5です。

その時の撮影時の様子ですが、すでにモニター画像上でイオンテイルがうっすらですが確認できます!

IMG_0345


画像処理

画像処理が思ったより時間がかかってしまいました。とにかく雲が処理の邪魔をします。たとえ薄い雲でも炙り出すとあからさまに雲と目立ってしまいます。

105mmで最初の方に撮ったものは核が右に寄りすぎていたので、結局後から位置を変えて30秒で16枚撮影したものを使いました。


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  • 石川県羽咋市, 2020年7月18日20時15分-21時23分
  • レンズ: Pentax 6x7 105mm F2.4
  • カメラ: Canon EOS 60D (ISO1600), 露出30秒 x 16 = 8分
  • PixInsightで核基準で位置合、StarNet++で構成と分離し合成、Photoshopで画像処理
前回より明るめに仕上げました。StarNet++で恒星と背景がうまく分離できたので処理はしやすかったですが、それでもトータル露光時間が長いわけではないので、淡い部分のノイズに悩まされました。

彗星の右側に見えているのはダストではなくて雲です。雲は思ったより影響が大きいです。雲がないときに撮影したいです。

PixInsightで彗星の核で位置合わせをしていますが、強拡大しないと恒星のズレがわからないくらい、核の移動スピードが遅いようです。恒星での位置合わせと核での位置合わせで、テイルの構造など比べましたが、もしかしたら若干核合わせの方がいいかもくらいで、ほとんど有意な差は見られませんでした。

前回木曜日のが255mmで、今回が105mmなので、縦横2.5倍くらい大きな視野となっています。より広角になり、ダストテイルもイオンテイルも広く捉えることができました。それでもイオンテイルはまだはみ出しているのかもしれません。もう少し広角の75mmで撮影したものは、さらに雲の影響が大きいのと、低空になってきて海が入ってしまったので、処理が難しくなってしまい、あきらめました。


まとめと反省点

同じ場所の2日分を処理して思うことは、海は意外に明るいということでしょうか。これまで海で撮影したことはなかったのですが、低空が霞むこともありますし、対岸の光や、漁火でしょうか意外なほど明るいです。でも日本海側で北が暗いところって、海側しかないんですよね。南に降ると基本的に北の街明かりがつらいです。それなら山の南側まで行く必要があるのですが、これだと低空は見えなくてまた辛いのです。

雲の影響が相当大きいです。快晴の方がもちろんいいのですが、広角で撮影して全面快晴というのは梅雨時にはなかなか厳しい条件なのかもしれません。(2020/7/23 追記: 天リフさんの画像で、スタック時に中央値で処理すると雲も消えるかもと言うのがありました。一度試してみます。)

StarNet++がうまく恒星を分離できるので、もっと長時間撮影して、核基準で位置合わせして淡い部分を出し、恒星基準で位置合わせしたものと合成してもいいかもしれません。

それでも梅雨時にもかかわらず2度も撮影できたのは幸せだったのかもしれません。もう一度くらいチャンスがあるか?あればもう少しだけチャレンジしたいです。

この日、撮影のあと電視観望もしたのですが、それは次の記事で書きます。


おまけの写真

いくつか、おまけです。1度目の木曜に撮影した分もまざってます。


「流れ星と彗星」
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「海と彗星」
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「蜃気楼と彗星」

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漁火が二重に、また対岸の陸地が浮かんで見えています。
 

ずーっと雨で何もできなくて、久しぶりのブログ更新です。今回は話題のネオワイズ彗星。いろんなことが人生初の経験でした。


ネオワイズ彗星!?

ネオワイズ彗星というのがなんかすごいことになっているらしいというのを、ぽちぽち目にするようになりました。最初はほとんど海外の情報です。と思っていたら梅雨時の日本でも、北海道とかで撮影できたとかいう報告が少しずつ上がってきました。なんでも夜中の3時頃、夜明け前です。

私もなんとか見てみたいと思い、夜中に起きたり、時には夜更かししてその時間まで起きたりしたのですが、とにかく富山はずーっと雨か曇り。富山晴れるか?という予報も数度ありましたが、結局自宅からは何も見えず。悶々とした日々を過ごしていました。

太陽への最接近を過ぎて、徐々に夕方にも見え始めたとの情報も出てきました。彗星は何故、朝ものすごく早くか、次は夕方からなのかと、眠い目を擦って思っていました。でもよく考えたら、太陽の近くに来てやっと尻尾が出るので、尻尾が長いうちは太陽のそばから離れず、それを見ようと思ったら朝と夕方なのは当たり前なんですよね。多分彗星を長年追っかけている人にとっては当たり前の事で、今回自分で見ようとして初めてこのことを意識しました。


彗星遠征決定、どこに行こう?

そんな折、どうやら7月16日の木曜日の夕方は少しだけ晴れそうだという予報。でも富山は少し怪しそうですが、少し足を伸ばせばなんとかなるかもしれません。この日は仕事もあまり忙しくなさそうなので、休暇をとって遠征することにしました。

北の能登半島の方と、南の岐阜の一部が晴れそうです。北に行くか、南に行くかかなり迷いました。SCWの局所予報で見ると21時頃までは同じでも、22時には能登半島に一部雲がかかるとの予報です。でも日本列島全体の大きなエリアで見ると南から雲が上がってくるような様子なので、外れることも多い局所予報にかかわらず、大局で見た方がいいという判断で能登方面に決めました。

同様に晴れた場合に北と南でどちらが得かも考えてみました。光害となる太陽との相対的な距離は変わらないので、南に行って早く太陽が沈もうが、北に行って太陽が沈む時間が遅くなろうが同等。ならば、北に見える彗星なので、沈む時間が遅く上ってくる時間が早い高緯度の北方向が得かもと思ったわけです。

いずれにせよ、天気も観測時間的にも北が得という判断です。ではどこまで行くか?天気予報だと半島の根本の方が晴れの確率が高そう。彗星が北西方向なので、能登半島の西側の方がいいということで、羽咋市らへんで探すことにしました。


とりあえず羽咋に向けて出発

とにかくここで出発。何日か前にも晴れそうな時に遠征しようとしていたので、準備はほぼできています。この時点で13時頃。現地まではゆっくり行っても3時間。まだ余裕はあります。

ところで皆さん、羽咋といえばコスモアイルはご存知でしょうか?宇宙をテーマにした大きな施設があります。

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2階より上の展示場やシアターは有料で、以前行ったことがあるので今回はパスですが、これもかなり凝っていて面白いです。1階部分には市の図書館があったりするので、多分これ市の施設だと思います。NASAから持ってきた宇宙船もあるとかですが、発起人が元市の職員だったとか書いてました。無料の一回だけ見ても面白くて所々に宇宙人がいます。

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コロナ禍では宇宙人も3蜜に気をつけているようです。

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北陸に来た際には2階展示スペースも含めて、ぜひ寄ってみてください。


撮影場所の決定

さて、夕方の彗星は北西方向に出るので、光害が南になるようにできるだけ羽咋の街から北に行ったほうがよさそうです。さらに羽咋の少し北に灯台があるようなので、少なくともそこよりは北に行ったほうがよさそうです。Google mapで見ると島のように出っ張っているところがあり、堤防などもあり漁港のような感じになっています。

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奥に漁港があります。

実際に行ってみると、漁業関係者以外の車は立ち入り禁止だったのと、航空写真ではわからなかった外灯があったので、そこから少し離れることにしました。漁港が南側になるように、数百メートルほど北に行った、コンクリートがあるところを陣取りました。

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左の海の向こうに見えるのが上の漁港です。

16時半ごろには場所が決まったのですが、雲が結構出ていて雨が降る可能性があったのと、日没までにまだ時間があったので、近くの、と言っても5kmくらい車で走ったコンビニに夕食を買いに行きました。簡単に食べられるようにおにぎりとおつまみだけです。でも結局忙しくて、食べるの忘れてしまうんです。


機材セットアップ

再び現場に戻り、まずは太陽が沈んでいくところをタイムラプスに収めようとセットしました。APS-CサイズのEOS 60DにPENTAX 6x7の75mm f4.5レンズをつけたものです。太陽が沈む瞬間、グリーンフラッシュが綺麗に見えました。ほんの1秒くらいだったでしょうか。ものの見事に緑色に輝いていました。残念ながらタイムラプスが20秒に一枚だったので、グリーンフラッシュの瞬間は撮影できませんでした。実はこのタイムラプス、後で書きますが画角的にネオワイズ彗星が全く入らずに完全に失敗だったので、動画クラスで撮影してグリーンフラッシュを納めておけばよかったと後で反省しました。

失敗なので公開してもしょうがないのですが、2時間もとっていたのでもったいないので動画にしてみました。雲がどれくらいあったかとか、星が出るまで気分を盛り上げる導入と思ってください。途中何度か露光を変えています。



もう一つ、こちらがメインなのですがFS-60CBと0.72倍のレデューサーで焦点距離255mmにして、天体改造済みのEOS 6Dでの撮影です。赤道儀は玄関に置いてあったCGEM IIをそのまま車に積み込んだものです。6cmの鏡筒にCGEM IIは大袈裟過ぎますが、自宅でも遠征でもそのまますぐに移動できるので、最近はこればかりです。これをコンクリート部分に設置します。

IMG_0309


撮影開始、でも導入が全然うまくいかない!

十分余裕を持ってセットして、日が沈むまで待っていました。だんだん暗くなってきて彗星を探しつつ導入しようとしましたが、全くうまく導入できません。導入なんかどうにかなるやとなめていて、完全に想定外でした。まだ結構明るいので、そもそもこの明るさで見えるかどうかもわかっていません。自動導入しようにもCGEM IIだけでは彗星のデータは入っていません。

仕方ないので、AZ-GTiを出して自動導入してみようと思いました。新機能で彗星導入が最近追加されたとのことです。SynScan Proをあらかじめアップデートしておいたたまではよかったのですが、何故かNEOWISEの2020年が出てこないのです。2018年まではきちんと出てきます。この時点でAZ-GTiも諦めます。(ちなみに、自宅に帰って試したらきちんと2020年のものまで出ました。もしかしたらデータのダウンロードにネットワーク接続が必要だったのかもしれません。)

次に感度が十分な電視観望で見てやればいいと思い、ASI294MC Proに50mmくらいのカメラレンズをつけようと思ったのですが、カメラ接続アダプターが何故か全然見つかりません。CMOSカメラと一緒に入っているはずで、絶対持ってきてるはずなのですが、どこを探してもないのです。結局見つからずに電視観望も諦めました。(実は最後の最後、撤収の時にアダプターが見つかって、取り付ける予定だった50mmレンズの袋にわざわざわかりやすいように一緒に入れてあって、奥まで見ていれば見つかったはずなのです。焦っていると全くダメだということが今回よくわかりました。)

今考えたら、光学ファインダーでもよかったはずなのです。でもその時は焦っていたのと、そもそも光学ファインダーで見えるかどうかもわかっていなかったので、思いつきもしませんでした。もう経験のなさがもろに出てきてしまっています。

いよいよ暗くなってきてだんだん肉眼でも普通に星が見え始めてきたので、ここで一旦落ち着いて赤道儀CGEM IIの極軸をきちんと取ることにしました。いつものSharpCapでの電子極望ですが、この時点でも多分まだ焦っていたんですね。全然星が認識されないのです。結局単にレンズとして使っていたガイド鏡のピントがずれていただけなのですが、これに気づくだけでも5分くらいかかってしまいました。でもここで極軸を正確に出しておけたのでよかったです。精度が1分角以下とかなり正確に合わせられるので、一旦撮影が始まったら恒星追尾がずれていくことはまずありません。後で画像処理してもわかりましたが、10秒露光9枚を位置合わせなしでスタックしても、恒星が全くずれてませんでした。

こうやって考えると、一番の敗因は実際の彗星の位置が思っていたよりかなり北向きだったことです。日没の太陽の位置から15度くらい北と思っていたら、もっとずっと北で、現場でStellariumで確認して、北斗七星の柄杓が見えて、やっとその下あたりだとわかりました。水平線に沈む位置だけ比べたら、太陽とネオワイズ彗星で40度くらいのズレがありました。


とうとう彗星が!!

最初からきちんと場所を確認しておけばよかったのです。でもとりあえずやっと場所が大体わかったので、その方向に鏡筒を向けてシャッターを切ると、一発目で簡単に彗星が入ってきました!下の写真が初めて入った彗星です。モニターで見ても尻尾が見事に写っていてとにかくうれしかったです。

IMG_6213

この後彗星の位置を合わせたりして、まずは保険に何枚か撮影しておきました。


肉眼でも尾っぽまで見える!

この日のもう一つの敗因は、双眼鏡忘れたことです。仕方ないので常備している星座ビノを使ってその方向を見てみると、なんとハッキリくっきりネオワイズ彗星が見えるではありませんか。そして肉眼でも見てみようと思い、まずはそらし目で。淡いですが、位置がわかりました。位置さえ分かれば、余分な光を手をかざして遮断して注意して見てみると、なんと目で見てもはっきりと彗星の形が分かります。この日のなかで一番感動しました。肉眼でもわかるくらいの彗星にこんなに早く会うことができるとは!

これまで彗星を撮影したのがウィルタネン彗星だけ。それでもテイルを見ることはできませんでした。いつかテイルが出ている彗星をと思っていましたが、今回のものはその期待に十分以上に答えてくれた体験でした。でもこれでもヘールボップ彗星の方が全然凄かったとのこと。今度はいつか大彗星と言われるクラスのものを見てみたくなりました。


とりあえずの簡易画像処理

とりあえずここまでの画像処理の結果を一枚載せておきます。

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  • 石川県羽咋市, 2020年7月16日20時49分
  • FS-60CB + x0.72reducer
  • Canon EOS 60D(ISO1600), 露出10秒 x 8 = 80秒
  • PixInsightとPhotoshopで画像処理、トリミング済み
上が北になります。ダストテイルは十分に見えていますし、青いイオンテイルも見えています。テイル中に見える筋のようなシンクロニックバンドも見えています。シンクロニックバンドというのは今回初めて知りました。よく見ると、イオンテイルの中にも筋が見えます。これもシンクロニックバンドというのでしょうか?ただ、快晴ではなかったようで雲少しかかっていました。


タイムラプス映像

21時すぎ、ここにきて60Dでずっと撮影しているタイムラプスに彗星が全く写っていないことに気づきました。もともと太陽が沈んだ様子と彗星を同じ画角に収めようと思っていました。でも調べてみると、太陽が沈んだ時の彗星は確かに北西の方向にあったのですが、彗星が「沈む」のはかなり北によって、北西というより北北西。20度くらいずれます。思ったより北に彗星がいたのです。75mmレンズとAPS-Cでは画角的に全く治らないところを延々と写していたことになります。

気を取り直してカメラの向きを変えると簡単に彗星が見えました。その時のタイムラプスです。20秒ごとに25分間分の76枚を動画にしています。



この画像を見た妻の一言。

「なんで逆向きに進んでいくの?」

最初、何を言っているのかわからなかったのですが、よくよく聞くと

「尾が出てるのだから、尾と反対に進まないとおかしい」

という意味らしいです。頑張って日周運動だとか理由を説明しましたが、

「うーん、理屈は分かったけど普通の人はそうは思わない」

とピシャリ。私は「宙のまにまに」の「キャシー・レヴィー彗星」で「あ、彗星って尾っぽからのぼってくるんだ」と初めて意識しました。マンガなので時系列で進んでいて、彗星の動きを意識させてくれます。


続いて、彗星が沈むまでです。


最初のうちは中空に厚い雲が、そして徐々に低空にうすい雲がかかってくるのがわかります。彗星はちょうど雲を避けていてくれたような状態す。

実は天気は最初からあまり良くはなく、北西以外は結構曇っていました。特に東と南はどん曇りで、雨が降るのではと心配してたくらいです。ちょうど夕日すぎくらいから彗星が見えるところだけ雲が避けてくれているような状態で、とてもラッキーだっと思います。


大満足の結果

いろいろ落ち着いて、気付いたら21時30分、ここでやっと余裕ができて夕食を食べてないことに気づきました。彗星はだいぶん低空に来ていて、星座ビノを使っても見えにくくなってきています。車に戻り、食事をとり、その後少しずつ片付けを始めます。

22時半近く、どうやら彗星も水平線の下に沈み、気づくと雲も多くなってきたので、ここで撤収です。とにかく、帰りはまだ興奮気味で、自宅に到着してからも寝付けずにそのままいくつか簡易画像処理をして、Twitterに速報で流して、結局ベッドに入ったのは4時近くになってからでした。


反省点
  • 導入はボロボロだった。あらかじめ、機材、ソフトの準備を確認まで含めてきちんとしておく。
  • 使う可能性のあるものはどこに入れてあるかチェックしておく。
  • 赤道儀に載せているので、少なくとも恒星はほとんどずれていきない。なので、露光時間をもっと伸ばしてもよかった。
  • テイルの広がりが思ったより大きいので、天気が良ければもっと広角のレンズでもいいかも。
とにかく人生初だらけでした。尾っぽがある彗星も初めて、撮影できたのも初めて、さらに目で実際に彗星の形を見れたことも初めてです。もう大満足です。反省点にも書きましたが、画像処理をやっていて、もう少し攻めることができたのではと思うようになりました。初回でいろいろわからないこともあったので、晴れてくれればですが、できればもう一度くらい挑戦したいと思います。-> 二日後、また同じ場所で撮影しました。



 



前回のZEROの振動減衰特性の続きになります。さらにマニアックなものになっているかもしれません。でもこの揺れに隠れいている物理をきちんと考えてみると、今後役に立つこともあるのかと思います。数式もあるので少し読みにくい記事になっているかもしれませんが、興味のある方は是非最後まで読んでいただけるとありがたいです。

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今回の記事の目的

とりあえず前回の記事では定量的な評価は控え、定性的にこんな傾向だというところを示しました。揺れの影響を比べるとポルタIIとZEROでは思ったより違うという印象を持たれた方も多いかと思います。

感覚的にでいいので、映像を見比べてポルタIIとZEROで揺れがどれくらい違うと思いましたか?2〜3倍くらい?10倍くらい?30倍くらい?100倍?数値的には答えが最後に出ますので、

みなさん動画を見比べたときの自分の印象を、
是非ここで一度考えてみてください

今回の記事のタイトルにはあえて解析とつけてしまいましたが、もう少し突っ込んで数値で比較できれば思っています。実際には、前回の使った動画から色々数値的なパラメータを引き出して定量的に評価します。これらをできるだけ一般化して、他の機器と比較した場合にも応用ができるようになればと思っています。具体的には共振周波数と半減期とQ値の関係を示し、それが実際の揺れ具合に感覚的にあっているかまで議論できれば上出来と言えますでしょうか。


共振周波数と半減期

今回の解析は前回撮影した映像をさらに突っ込んで解析します。特に新しいデータを取ったというわけではありません。まず、引き出したいパラメータは「共振周波数」と「半減期」です。

160倍相当に拡大し、できるだけフレームレートを上げて撮影した4本(ポルタIIとZEROのそれぞれ縦と横)の動画を解析します。鏡筒をピンと弾いて揺らしたので、インパルス的(「瞬間的な」という意味)な力を与えて、それが主としてそのモード(縦とか横とかいう意味)における最低次(一番低い周波数という意味)の振動を励起し、その振動が減衰していく様子が動画に記録されています。

できるだけ力が同じになるようにピンと弾いたのですが、衝撃の力積(力と、力をかけた時間の積)は必ずしも一定ではありません。それでもその衝撃で励起された「共振周波数」と、その振幅がある時から半分になる時間「半減期」は、最初に与えた衝撃によらずに、そのモードに固有で一定値となります。なのでそれらを測定してやれば、励起された振幅の大きさにかかわらずなんらかの特性が評価できるはずです。



実際の基本モードの測定



ポルタII 横の動き

一番揺れていてわかりやすい、ポルタIIの鏡筒を横向きに弾いた時の動画を例に「共振周波数」と「半減期」を測定してみましょう。ポルタIIの鏡筒を弾いたときの動きはこんな感じでした。

倍率160倍相当の横の動き: ポルタの場合

Youtubeに上げた動画では、細かい時間情報が消えてしまっているので、実際の解析にはSharpCapで録画した生の.serファイルを使いました。ser形式の場合、各フレームが測定された時間もそれぞれ記録されています。


実際に動画を見ながら測定すると、
  • 弾いてから2周期ほど揺れて最大振幅になったところの時間が、(UTCの14時29分)51.70秒
  • 10周期揺れた時の最大振幅の時間が、53.20秒
ということがわかったので、
  • 10回揺れるのに1.50秒かかっています。
ということは
  • 周期 P = 0.150秒
  • 最低次の共振周波数 \( f_0 = 1/P = \) 6.7Hz
ということがわかります。

また、先の弾いてから2周期ほど揺れてから最大振幅になった時(51.70秒)と比べて、
  • 振幅が半分になった時の時間は 52.75秒なので、
  • 半減期 \(t_{1/2} = \) 1.05秒
となります。


ZERO 横の動き

次はZEROの場合の揺れを確認します。

同様に横の基本モードの共振周波数と半減期を測定すると、
  • 弾いてからある最大振幅になったところの時間が、43.24秒
  • 10周期揺れた時の最大振幅の時間が、43.95秒
なので、
  • 10回揺れるのに0.71秒
かかっていることから、
  • 周期 P = 0.071秒
  • 最低次の共振周波数 \( f_0 = 1/P = \) 14.1Hz
また、先の弾いてから2周期ほど揺れてから最大振幅になった時(43.24秒)と比べて、
  • 振幅が半分になった時の時間は 43.66秒なので、
  • 半減期  \(t_{1/2} = \) 0.42秒
となります。

さて、これらのことから何が言えるでしょうか?まず、共振周波数から見ていきましょう。

ところで、ポルタIIとZEROでどれくらい違うか、印象を今一度確認してみてください。何倍くらい違うと思ったでしょうか?ここまでで共振周波数の違いは7Hzくらいと14Hzくらいなので、2倍くらいと既にわかりましたね。

でも揺れの印象だけ見るともっと違いが大きいような気がします。
皆さんはどう思いますでしょうか?


共振周波数について

ある系(この場合鏡筒と経緯台と三脚を含んだ望遠鏡全体)のある揺れやすいところ(方向)に衝撃を与えてやると、一番揺れやすい(軟らかい)ところで大きく揺れます。この揺れを基本モードと呼び、その揺れをその基本モードの共振、その共振の1秒あたりの揺れの回数を共振周波数と呼ぶことにします。

経緯台の骨格を太くしたりしてものを頑丈に固く作るほど、載せている鏡筒を軽くコンパクトに作るほど、基本モードの共振周波数は上がります。逆に、骨格が細く柔らかい系であるほど、また長く(レンズ部など)重さが端部に寄ったダンベル型に近い鏡筒なほど、基本モードの共振周波数が低くなります。

共振周波数が高いということは固いバネに相当し、共振周波数が低いということは軟らかいバネに相当します。中学の理科とか高校の物理の最初の方で習うフックの法則\(F=-kx\)という式を覚えていますでしょうか?ある力Fを加えると、固い(kが大きい)バネほど、伸びxが小さく、軟らかい(kが小さい)バネほど、伸びxが大きいという関係式です。

バネ定数は共振周波数と次のような関係で表されて、\[f_0=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{M}}\]などと書くことができます。ここでMは質量に相当します。これをFの式に入れてやると\[F= -4\pi^2 f_0^2 M x\]と書くことができます。同じ質量で同じ力だとすると、共振周波数の2乗で揺れにくくなることがわかります。実際今回扱っているのは回転なので、質量Mは慣性モーメントで考える必要がありますし、係数も変わってきますが、物理的にはバネのイメージで本質的には間違っていないはずです。すなわち、同じ力で鏡筒を揺らすと揺れの振幅が共振周波数の2乗に反比例して小さくなる、言い換えると固い構造(バネ)ほど急激に揺れにくくなるということです。このことは実際の観測時にも同様で、鏡筒に手が当たったとかの場合、弱い(軟らかい)とよく揺れ、強い(固い)と揺れないというのは感覚的にも理解できるかと思います。


半減期について

では次に半減期です。これは一旦起きた振動がどれだけ早く収まっていくかを表すパラメータの一つと考えることができます。どれだけ「発生したエネルギー」をいかに「失わせるか」という損失の大きさに依存します。素材にもよりますし、構造の組み方などにもよります。

例えば金属でできている部分をゴムにすれば、その損失は大きくなり減衰は速くなります。ですが素材をゴムにすると当然やらかくもなるので、共振周波数も下がるので損をします。面白いのは、同じような素材、同じような構造で組むとこのロスというのは大体同じような値になるということです。

ここで、共振周波数と半減期の積を考えて見ましょう。
  • ポルタIIの場合6.7Hz x 1.05秒 = 7.04
  • ZEROの場合14.1Hz x 0.424 = 5.98
と、両者あまり違いがありません。若干ZEROの方が小さいくらいですが高々2割程度です。


Q値について考えてみる

ここで、以前検討したQ値というものを導入してみましょう。Q値は今回測定した共振周波数と半減期を使って、\[Q=4.53 f_0 t_{1/2}\]という式で表されます。共振周波数と半減期の積にある数値をかけたものになります。なぜ4.53なのかは以前の解説記事を参照してください。

ポルタIIの場合は\[Q=4.53 \times 6.7 \times 1.05 = 31.9\] ZEROの場合は\[Q=4.53 \times 14.1 \times 0.421 = 26.9\]という値になります。

ではこのQ値が何を意味するかです。Q値は元々あった揺れが共振によって何倍に拡大されるかということを知ることができるとても便利な値です。では何倍になるかというと、ずばりQ倍になります。その証明はこのページの伝達関数の式のf=f0の場合になります。

例えば地面が揺れていてそれが鏡筒を揺らすとすると、その揺れはQ倍に拡大されるというわけです。地面の揺れは\(10^{-7}/f^2 \rm{[m/\sqrt{Hz}]}\)という振幅になります。fはその揺れの周波数、単位が\( \rm{m/\sqrt{Hz}} \)となっていて少しややこしですが、\(\rm{ / \sqrt{Hz}}\)のところはちょっと無視してください(詳しいことが知りたい場合はこのページの最後を読んでみてください。)。ここでは簡単にm(メートル)で考えてしまいましょう。

ポルタIIの場合、共振周波数が6.7Hz、Qが31.9なので、地面振動からくる揺れは
  • \(Q \times 10^{-7}/f^2  = 31.9 \times 10^{-7} / 6.7^2 = 7.1 \times 10^{-7} \rm{[m/\sqrt{Hz}]}\)
ZEROの場合、共振周波数が14.1Hz、Qが26.9なので、地面振動からくる揺れは
  • \(Q \times 10^{-7}/f^2  = 26.9 \times 10^{-7} / 14.1^2 = 1.3 \times 10^{-7} \rm{[m/\sqrt{Hz}]}\)
程度となります。これは風などの外部の衝撃がない、揺れが落ち着いている時の揺れ幅に相当し、両方とも1マイクロメートル以下なので、実際に視野をのぞいていてもそれほど揺れているとは感じない程度でしょう。鏡筒を叩いて揺らした場合の揺れが減衰していくと、最終的に上記揺れ程度になるということです。それでもZEROのほうが揺れが5分の1程度に落ち着くというのは意識しておいたほうがいいでしょう。たいした大きさの揺れではないので、とりあえず地面の常微振動からくる揺れはあまり考えなくてよく、それよりも視野を移動した時の揺れを議論したようが有益だということが言えるのかと思います。

この実測値からも推定できるように、ポルタIIとZEROでは素材は金属(アルミ合金?)で、使える金属の種類もある程度限られるので、ロス(Q値)に関してはそこまで大きく変えることはできないと言えるのかと思います。逆にQ値が同じなら、Qの定義式から同じ力を加えたときは共振周波数が高いほうが減衰するまでの時間は小さくなるということが言えるわけです。


まとめ

上記検討のまとめをしてみましょう。

構造体に同じような金属を使うのでロス(Q値)が同程度だとして、共振周波数が高いとどれくらい得をするか考えてみましょう。同じ力で鏡筒を揺らした場合、
  • まず振幅が共振周波数の2乗分の1で小さくなります
  • 次にQの定義から、減衰するまでの時間は共振周波数分の1になるので
ざっくり考えて、振幅で2乗、減衰で1乗と、あわせて共振周波数の3乗くらいで揺れの影響が小さくなると言ってしまっていいのかと思います。ポルタIIとZEROでは共振周波数が2倍ちょっと違うので、3乗するとざっくり10倍くらい違うわけです。

皆さんの印象はどれくらいだったでしょうか?

10倍くらいだと思った方はいましたでしょうか?

ポルタIIに比べると、ZEROの共振周波数の違いが高々2倍くらいしか違わないのに、揺れの印象が感覚的にも10分の1くらいだかと思うのは、それほど間違っていないのではないかと思います。経緯台のような微動ハンドルを回して天体を追尾していく場合には、構造を固くして共振周波数を上げることがいかに重要かということが分かる結果です。


今後の展開

ZEROは非常に優秀で、口径100mm程度までなら載せても揺れが気にならないと聞いています。ただし、口径120mmのTSA-120をZEROに載せると、さすがに積載限界を超えているのか揺れてしまうとう報告がZEROの販売ページにあります。また非公式ですが、某天文ショップの店員さんから、同様のことを試して揺れが出てしまうという報告をTwitter経由で聞いています。

なので次はTSA-120をZEROに載せて、実際にどれくらい揺れるのかを、共振周波数を測定することで、比較してみたいと思います。これは自分自身でもかなり興味があって、うまくTSA-120をZEROで快適に使用する方法があるのかどうかを探ってみたいのです。鏡筒だけでなく、全体の系で共振周波数が決まるので三脚の影響も大きいかと思います。

気の向いた時にパッとTSA-120を出してZEROに載せて、振動なく見えるというのはかなり魅力的です。


今回、振動減衰特性が素晴らしいと評判の、スコープテック社の新型経緯台ZEROを手に入れました。梅雨ですが、晴れ間を狙って色々と評価してみました。


目的

この記事では、スコープテックの新型経緯台「ZERO」の振動減衰特性を評価をすることを目的とします。わかりやすいように、今回は入門機の標準と言ってもいい、Vixen製の天体望遠鏡「ポルタII A80Mf」と比較してみます。


ポルタII

ポルタIIに関しては言わずと知れたVixen社の看板製品の一つで、とりあえず望遠鏡が欲しくなったときに最初におすすめされる、おそらく日本で最も売れている望遠鏡かと思われます。

屈折型のA80Mf鏡筒とセットになっているものが一番有名で、鏡筒、ファインダー、経緯台、三脚、2種のアイピース、正立プリズムなど、基本的に必要なものは最初から付属しています。初心者でもすぐに天体観察を始めることができ、天文専門ショップのみでなく、全国カメラ店などでも購入でき、その販売網はさすがVixenと言えます。

機能的にもフリーストップを実現した経緯台方式で初心者にも扱いやすく、鏡筒はアクロマートながら口径80mmと惑星などを見るにも十分。全て込みでこの値段ならば、十分適正な価格であると思います。

私は2018年の小海の星と自然のフェスタのフリーマーケットで手に入れました。中古ですが付属品はアイピースなども含めて全て付いていて、おまけに別売のフレキシブルハンドルも付いてきました。また鏡筒キャップの中に乾燥剤が貼り付けてあったり、夜に機材が見えやすいように反射板を鏡筒や三脚にマーカーとして貼ってあったりと、前オーナーはかなり丁寧に使ってくれていたことが推測できます。

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ZEROの特徴

一方、ZEROは経緯台のみに特化した単体の製品です。鏡筒や三脚は基本的に付いていないので、別途用意する必要があります。発売開始は2020年3月なので、すでに解説記事などもたくさん書かれています。ZERO自身の機能的な解説はメーカーのZERO本体のページ天リフさんの特集記事が詳しいです。購入もスコープテックのページから直接できます。




スコープテックはもちろんですが、ZEROはサイトロンなどいくつかの販売店からも販売されています。シールをのぞいて同じものとのことです。違ったバージョンのシールにしたい場合はこちらから頼む手もありです。





本記事では、機能に関しては上記ページに任せて簡単な解説にとどめ、振動特性を中心に評価したい思います。

実際のZEROを見てみます。

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ZERO自身は実際に手に取って見ると思ったよりコンパクトです。初めて使う場合は「お使いになる前に必ずお読みください!」と書いてある紙が入っていますが、これだけでなくマニュアルも必ず読んだ方がいいでしょう。一旦組まれたものを外して、経緯台として動くように組み直す必要があります。また、手持ちの三脚に合わせて(注文時に選択した)アダプタープレートを合わせて組み込んで三脚とセットする必要があります。


なぜ片持ちなのか?

基本的に片持ち構造は、強度や振動特性に関しては不利なはずです。それでもフリーストップにするためには片持ちが適しています。なぜなら鏡筒を縦方向に動かしたときにバランスが崩れないため、どこで止めてもつりあいがとれるからです。これがフリーストップを安定に実現させている理由です。

この片持ちという不利な構造にあえて選んで振動減衰特性に挑戦しているのが、ZEROの真骨頂と言えるでしょう。しかも軽量でコンパクトに折りたたむことができま、気軽に持ち運無ことができます。

フリーストップで、しかも揺れなくて、コンパクトとのこと。これは実は初心者に向いた設計と言ってしまってもいいのかと思うくらいです。スコープテッックが初心者向けの機材を相当丁寧に作ってくれていることは、私も実際に望遠鏡セット使って知っているので、おそらく本当に初心者のことを考えて今回のZEROも設計、製作しているのかと思われます。

でもこのZERO、初心者だけに使うのはもったいなさそうです。ベテランのアマチュア天文家が気楽にパッと出して星を見たいというときには、軽くて、且つ揺れないというのはベストのコンセプトです。観望会を開いて、お客さんに見てもらう場合とかでも十分に活躍してくれそうです。また、コンパクトなので遠征に気楽に持っていけそうです。遠征先の撮影の合間に気楽に観望とかでも使い勝手が良さそうです。


ポルタIIとは違い、ZEROは基本的に経緯台のみの単体販売で、三脚も鏡筒も付いてはきません。全部込み込みのポルタの実売価格はZERO単体よりも数千円高い程度ですので、価格的にはポルタIIに比べたら割高と感じるかもしれません。経緯台に特化した分だけの性能に対する価値を、どこまで見い出せるかがポイントになるのかと思います。


測定条件

まずは振動特性を見るための条件です。

共通項目
  • 鏡筒はポルタII付属のA80Mfを使う。
  • 微動ハンドルはVixen製のポルタ用のフレキシブルハンドルを使う。
  • 眼視を想定し、三脚の足を半分程度伸ばした状態で、2台の三脚を同じ高さにする。

IMG_0237
2台のセットアップです。三脚はほぼ同じ高さにしています。
鏡筒とフレキシブルハンドルを載せ替えて比較しています。
写真でZEROについているハンドルは無視してください。

2つの測定の違う点
  1. ポルタIIの経緯台をポルタIIの三脚に載せたものに鏡筒を載せる(以下このセットアップをポルタIIと呼びます)
  2. ZEROをCelestron社のAdvanced VX用の三脚に載せたものに1と同一の鏡筒を載せる(以下このセットアップをZEROと呼びます)

ただし、後から分かったことですが、三脚の強度に無視できないくらいの大きな違いがあることが判明しました。なので今回はZEROにAdvanced VX用三脚でここまで振動を抑えることができるという目安と考えていただければと思います。


観測方法

ポルタIIとZEROの2種で鏡筒部分を揺らし、その揺れがどのように減衰していく様子を、視野を撮影しながら見ていきます。


2種の倍率

それぞれ観測、測定のたびに鏡筒をフレキシブルハンドをポルタ経緯台とZEROに載せ換えます。光学的に2種類の設定をそれぞれの経緯台で試します。
  1. 40倍相当: 天体導入時を想定し、焦点距離800mmの鏡筒と焦点距離20mmのアイピースで40倍程度の視野を仮定し、フォーサーズ相当のCMOSカメラ(ASI294MC Pro)ので撮影
  2. 160倍相当: 天体導入後、拡大して観察する場合を想定し、焦点距離800mmの鏡筒と焦点距離5mmのアイピースで160倍程度の視野を仮定し、同一CMOSカメラの(ASI294MC Pro)一辺4分の1、面積にして16分の1を切り取って撮影
1.、2.ともにフレームレートを上げるために4倍のビニングをして画素をそもそも4分の1に落としています。また、2.ではさらに速い動きを見るために、画面を切り取って小さくしてフレームレートをできるだけ上げています。


昼間の景色で比べてみる

まずは大まかな動きを掴むために、昼間の明るい景色で40倍相当で比較してみました。最初に望遠鏡を買って、昼間に練習するのに相当すると思えば良いでしょうか。具体的には山の上に立っている鉄塔を端から真ん中ら辺に持ってきています。

まずは横方向(yaw, ヨー方向)です。フレキシブルハンドルをまわして動かします。動かした後にどれくらい揺れるかを見ます。

ポルタの場合です。
倍率40倍相当の横の動き: ポルタの場合



ZEROの場合です。
倍率40倍相当の横の動き: ZEROの場合

これを見るだけで相当インパクトのある比較になっています。とにかくZEROの振動減衰が見事です。

続いて縦方向(pithc, ピッチ方向)です。まずはポルタIIの場合

倍率40倍相当の縦の動き: ポルタの場合

次にZEROです。
倍率40倍相当の縦の動き: ZEROの場合

ポルタIIもZEROも、横よりは縦の方が揺れにくいのは同じのようです。これは構造的に縦は縦のみの機構を担っていますが、横は横の機構と縦の機構を合わせて担当しています。当然重くなるので、その分横が揺れやすいのは不思議ではありません。

ポルタIIの方は多少揺れますが、やはりここはZEROの揺れの少なさを褒めるべきでしょう。揺れの振幅も、揺れが小さくなる時間もZEROは素晴らしいです。ただしこの結果はかなり大きく揺らした場合なので、実際に初心者がポルタIIで昼間に最初に練習する時でも、そこまで困ることはないのかと思います。


実際の観測を想定して木星で比べてみる:  導入時相当

初心者が望遠鏡を買って見てみる醍醐味の一つが木星や土星などの惑星です。そのため、今度は実際の観察を想定して、夜に木星を見て揺れの具合を比較してみましょう。

まずは木星で40倍相当で判定します。これは低い倍率で天体を導入するときの動作に相当します。木星を端から真ん中ら辺に持ってくるときの揺れで比較します。

横方向の揺れです。まずはポルタIIから。

23_16_31_F001-193s
倍率40倍相当の横の動き: ポルタの場合

次は同じく横方向で、ZEROの場合です。
23_40_29_F001-193s
倍率40倍相当の横の動き: ZEROの場合


次に縦方向で、まずはポルタの場合。

23_18_10_F001-192s
倍率40倍相当の縦の動き: ポルタの場合

縦に振っているのですが、横の揺れの方が出やすいので多少横揺れがカップルしてしまっています。

次にZEROの場合です。
23_40_54_F001-192s
倍率40倍相当の縦の動き: ZEROの場合


惑星の動きで見てもZEROの振動の減衰具合は特筆すべきで、特に縦方向の操作はもう十分すぎるほど減衰してしまって、インパルス的に動きを与えることが困難になっているくらいです。

実際操作していて思ったのですが、どのようにハンドルを回してどういったインパルス応答を与えるかで揺れの具合は違ってきます。ポルタIIの場合でも熟練してくると、最終的な揺れを少なくするように、最初は大きく動かして、見たい所の近くでゆっくり動かすなどのテクニックを、自然に習得できるのかと思います。なので、倍率が低い天体導入の際には、慣れてくれば上記動画の差ほどは気にならなくなるかと思います。



実際の観測を想定して木星で比べてみる:  拡大時相当

次に、木星で160倍相当で見てみます。これは定倍率で導入された惑星を、倍率を上げて拡大して見るときに相当します。視野が狭いので、先ほどのようにフレキシブルハンドルを回すとうまく揺れてくれないので、鏡筒をピンと弾くことでインパルス応答に相当する揺れを与えました。

まずは揺れやすい横方向です。最初はポルタIIから。 
倍率160倍相当の横の動き: ポルタの場合

ZEROです。
倍率160倍相当の横の動き: ZEROの場合


次は縦。まずはポルタII。
倍率160倍相当の縦の動き: ポルタの場合


最後にZEROの縦方向です。

倍率160倍相当の縦の動き: ZEROの場合



この試験は、フレキシブルハンドルを回したわけではないので、例えば観望会などでお客さんが鏡筒に触れてしまったことなどに相当するのかと思われます。これくらいの倍率で惑星を拡大して見る場合、特に望遠鏡の扱いに慣れていない初心者には、揺れの違いは実際の快適さの差として出てくると思います。ZEROの揺れくらいで収まってくれると、木星の細かい模様をじっくり見るときにも見やすいでしょう。


実際の使い心地

使って見て思ったことです。確実にZEROの方が揺れが少ないのは上記映像を見てもわかるのですが、その一方ポルタ経緯台に比べてZEROの方がハンドルが固いです。これはフリーストップの調整ネジとかの問題ではなくて、ある程度強度を保つためにこれくらいの固さが必要だったのではという印象です。また、微動調整つまみをフレキシブルハンドルで回すとき、遊びが少し多いなと思いました。これらは好みかもしれませんが、ポルタとZEROを比べると硬さと遊びに関しては個人的にはポルタに一日の長があると思いました。

おそらく微動の固さに関連すると思うのですが、揺れに対しての感想は反対になります。ポルタだけを使っていた時は、揺れは多少は気になっていましたが比較したわけでないのでそこまでは気づかず、今回ZEROと比べて、初めてはっきりと不満と感じました。

繰り返しになりますが、私が持っているポルタ2は中古で手に入れたものなので、新品の時の性能が出ている保証がありません。ですが、初心者がこの揺れだけを見てメーカーに修理を出す判断をする、もしくは実際に修理を出す気になるとも到底思えず、仮に使っていてヘタったのだとしたら、耐久性という意味で少し考えた方がいいのかもしれません。いずれにせよ、私が持っているポルタ2は一例に過ぎず、当然全てのポルタ2を代表しているわけではありません。その上でのことですが、少なくとも手持ちのものは(ZEROと比べると改めて気づきますが)揺れは結構大きくで、フレキシブルハンドルから手を離して揺れてしまうと、フレキシブルハンドル自身の揺れで視野が揺れてしまうくらいです。


三脚に関して

今回ZEROと比較することにより、これまであまり気にしなかったポルタIIの弱点が見えてきました。なぜポルタがZEROに比べて揺れが出るのか明るいうちに見てみました。2つの原因があるのかと思います。
  • 経緯台の可動部が柔らかく、ハンドルを回すのも軽くて操作しやすい反面、ここでぐらついてしまっている可能性が高い。
  • 根本的に三脚が弱い。
特に三脚に関しては目で見て揺れやすいのがわかるくらいです。動画でその様子を撮影してみました。


わかりますでしょうか?鏡筒を揺らすと、三脚(真ん中手前がわかりやすいです)もつられて揺れてしまっています。わかりにくい場合は、全画面表示などにして見てみてください。一見小さな揺れに思えるかもしれませんが、本来三脚は載っているものを揺らさないような役割をするものです。鏡筒を揺らすだけでこれだけ三脚が揺れてしまうのは、無視できる範囲とは言い難いでしょう。触らなければ揺れないかと思いがちですが、風が吹いた時は致命的ですし、導入時はどうしても触れてしまうので揺れてしまう可能性が高いです。

ちなみに、ZEROをAVX三脚に乗せたときに、同様に鏡筒を揺らしたときの映像も載せておきます。


こちらは拡大しても揺れている様子が全く見えません。揺らしていないように思われるかもしれませんが、音を大きくして聞いてみると途中から鏡筒を叩いているのがわかるかと思います。人間の力なので必ずも同じ状況にはならないですが、基本的に同程度の力で叩いたつもりです。音が小さいと思われるかもしれませんが、やはり揺れていないので記録された音も小さくなっているのかと思われます。

本来三脚は積載物を安定に支えるのが役割なので、揺れないものの方がいいのは当然です。それでもやはりこれも程度問題で、頑丈すぎるものは逆に重くなったりして取り回しに苦労することもあります。ただ、Advanced VX用の三脚程度の重量とZEROの組み合わせでここまで振動が減るのなら、特に惑星などを拡大して見たときには十分に検討する価値があるのではないかと思います。ZEROの販売ページを見ると強化版の三脚を選べるようです。これだと今回使ったAdvanced VX三脚と同等クラスかと思いますので、より揺れを少なくしたい場合はこちらを選ぶのもいいかと思います。

これらのことから、まずポルタIIは少なくとも三脚を改善もしくは丈夫なものに交換するだけでも揺れは相当改善すると思われます。別の言い方をするなら、経緯台として考えるとZERO自身の揺れは相当小さいため、もしZEROの性能を引き出したい場合は、ある程度強度のある三脚を使わないともったいないとも言えます。でもこのことは三脚の重量増加にもつながるので、手軽さという利点を損なう可能性もあるので、ケースバイケースで強度と重量のバランスを考えて選択すればいいのかと思います。

今回はZERO用には相当強度の高い三脚を選択してしまいました。結局のところ、今回の比較は「入門機の標準と言ってもいいポルタIIとの振動に比べて、振動減衰特性を特徴として開発したZEROを使うと、どのくらいまで揺れを改善できるか」という例を示したことになるのかと思います。ポルタIIを改善していって、揺れないものにアップグレードしていくような楽しみ方を見出すこともできるのかと思います。


まとめ

星まつりで何度かプロトタイプには触れたことはあり、ある程度すごいことは知っていましたが、実際に使って見ると、ZEROの振動減衰に関しては驚くほどの結果でした。ポルタIIだけを使っていた時は揺れはここまで意識できていなかったので、例えば初心者がポルタIIを最初に買って普通に使う分には、特に気になるようなことはないでしょう。ただ、もし今使っている経緯台に不満がある場合は、ZEROを検討してみる価値は十分にあるのかと思います。

経緯台単体にそこまでかける価値があるのかというのは、人それぞれかと思います。個人的にはZEROは素晴らしい製品に仕上がっていて、スコープテックさんの努力や熱意を十分に伺うことができるのかと思います。満足です。


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