ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2020年02月

今回の記事は、ここ何回かの過去記事の裏話的なことから始まります。前回の記事を見て、「あれ?SkyWatcherの鏡筒がなぜあるの?」と思った方もいらっしゃることでしょう。

AZ-GTiのレビュー依頼

実は今回、QBPを送って頂いた際に、普段から使っているAZ-GTiのレビューをお願いできないかをサイトロンさんに頼まれました。AZ-GTiは稼働率断然No.1。本当によく動いてくれるのですぐに快諾しました。

最初のやりとりで「電視観望によく使っているので、そのことを書きましょうか?」と提案すると、「それは面白い!」と。電視観望の時の様子や、画面に出ている様子の写真もあるといいとのこと。

ところがその際に「AZ-GTiで何か作例がないのでしょうか?」との相談を受けたのです。電視観望はあくまでリアルタイムで見ることを目的としているので、普段PCの画面を撮っていますが、あれはむしろ記録として撮っているに近くて、作品として人様に見せるようなものではありません。

それでパッと思いついたのが、以前AZ-GTiを赤道儀化して2軸ガイドでテスト撮影したものです。「それでもいい」と言ってくれたのですが、よくよく考えるとAZ-GTiの赤道儀化って、メーカの正式の使い方ではないんですよね。それなら「新たに経緯台モードで撮影してみようかと思っている」と相談したら、「せっかくなので同じSkyWatcherのEVOSTAR 72EDを使ってみてくれないか?」とトントン拍子に話が進みました。その時の結果が前回の記事の「AZ-GTi経緯台モードを使っての簡単星雲撮影」につながっています。




SkyWatcher EVOSTAR 72ED

EVOSTAR 72EDが到着したのがTSA-120が到着した週の木曜日。TSA-120が到着したばかりで、1週間も空けずにさらに大きな箱が届くので、怖いことにならないように妻にはあらかじめ「評価用のサンプルだからね!買ったんじゃないからね!」と強く念を押しておきました。

EVOSTAR 72EDはコンパクトなEDレンズを使った2枚玉アポクロマート鏡筒です。焦点距離が420mmと短いので、電視観望にもってこいです。電視観望で使えるなら、今回の目的の簡単撮影でも十分に使えるのではとの考えです。

実売で税込5万円を切っているので、手の出しやすい価格だと思います。この値段で、まずアルミ専用ケースがついてきます。専用ケースは持ち運びや保管にはやはり便利なので、素直にいいと思いました。

IMG_9164

蓋を開けてみると、鏡筒バンド、アリガタまでついているのでもう至れり尽くせりです。

IMG_9163

さらにフォーカサーには減速器もついていて、そのまま撮影にも使えそうです。

その一方、アイピースは付属していません。アポクロマートクラスを選択肢にするような人だと、アイピースは好みがあるので付属されていなくても問題ないと思います。一方、ファインダーも標準ではついていないとのことです。オプションで純正のファインダーが用意されているので困ることはないのですが、初心者にはわかりにくいので、購入時はショップなどでサポートが必要かもしれません。

シュミットのEVOSTAR 72EDの販売ページからオプションを選ぶことができます。惜しむらくは専用ファインダーが載っていないことでしょうか。

私の場合は電子ファインダーを使ってしまうか、420mmと焦点距離が短いのでそのまま鏡筒を使って、強引に自動導入の初期アラインメントに持っていってしまうと思います。このようにファインダーが必要のない人もいるので、その分オプションにして値段を下げるというのは、選択肢が増えるという意味で正しい方向なのかと思います。


実際にEVOSTAR ED72を使ってみて

2月1日、本当に久しぶりの晴れの週末の土曜日、もうこの日しかないと思い、TSA-120のファーストライト、広角リアルタイム電視観望、さらに今回のEVOSTAR ED72を使ったAZ-GTiの経緯台モードでの簡単星雲撮影の、3つを同時並行で進めることになってしまいました。

IMG_9317

簡単星雲撮影の話は前回の記事を読んでもらうとして、ここではEVOSTAR ED72の使い勝手について書きます。
  • サイズ的にはAZ-GTiにも余裕で載るくらいの軽量でセッティングも楽です。
  • 焦点距離420mmと短いので、比較的広角で見ることができます。
  • 口径72mmなので、F5.8。実際に使ってみてもそこそこの明るさがあります。
  • CMOSカメラを鏡筒にそのままつけると、フォーカサーの稼働範囲内では短すぎて焦点が出ないので、予めアイピース口にはめる延長筒を用意しておくといいでしょう。
  • 光学性能は少なくとも電視観望にはもったいないくらい十分。撮影レベルでも前回の結果を見ていたければ分かる通り、星像はほぼ点像。組み立て精度も悪くなく、十分な性能を持っていることが分かります。
integration2_cut2

  • ただ一点、撮影時にSharpCapのPCの画面を見て気付いたのですが、恒星周りに少しだけ青ハロが出るようです。
スタックしただけの未処理に近い写真を見てもらうとわかりますが、恒星の周りが少し青くなっているのが分かると思います。
integration

と言ってもひどいものではなく、電視観望では逆にこれが画面にカラフルな印象を与えてくれて悪くないのですが、やはり画像として仕上げるときには気になる人もいるかと思います。

シュミットの店長さんにも電話でこの件を話しましたが「いえ、正直に書いていただいて結構です。」とのこと。欠点を隠したりしない姿勢はとても好感が持てます。やはりアポクロマートと言っても、ここらへんは2枚玉の限界のようです。

SkyWatcherの屈折鏡筒を調べてみると、アポクロマートだけでも3クラスあるようです。
  • 一番上のクラスはEspirit apoシリーズ。3枚玉の高級機です。日本では正式には未発売のようで、アマゾンで一部取り扱っているだけです。
  • 真ん中がBK EDシリーズ。値段的にはEVOSTARの倍くらいでしょうか。
  • そして今回の72EDを含むEVOSTARシリーズ。アポクロマートの入門機の位置づけで、値段的にも手頃です。
  • さらにEVOLUXというシリーズもできるそうです。これもEDレンズを使っているようなので、これを合わせるとアポクロマートは4クラスになるのでしょうか。

青ハロの簡単な改善方法

さて、わずかの青ハロですが、せっかくなので簡単に改善する方法を考えてみましょう。

きちんと処理しようとすると、RGBの各チャンネルに分けて、B画像の星像を縮小するような加工をかけたりするので、結構な手間となります。でもここで提案するのは、Photoshopの「色相・彩度」をいじる簡単な方法です。

Photoshopの「イメージ」メニューの「色調補正」「色相・彩度」と進みます。出てきたダイアログで「マスター」と出ている選択肢を「ブルー系」に変えます。その後、「彩度」もしくは「明度」を弄ります。通常は明度を下げるだけで十分でしょう。今回は-30ほどにまで下げてみましたが、それだけで以下のようになります。

integration_bluecut

これだけの操作ですが、青ハロがほとんど目立たなくなっていることが分かると思います。このテクニックは画面の中に青い部分がそれほどない画像に使えます。プレアデス星団など、青い部分が多い画像では一番出したい部分を目立たなくしてしまうので、先に挙げたRGBに分離するなどして丁寧に処理流必要がありますが、今回のようなHαがメインの画像には簡単に使える有効なテクニックです。


まとめ

今回、ひょんなことからEVOSTAR ED72を使うことになりました。最初に書いた通り元々はAZ-GTiのレビューの依頼でした。でもAZ-GTiに関してはこれまでこのブログでも散々書いているので、今回は頼まれてもいないEVOSTAR 72EDの方を、勝手にレビューしてしまいました。あ、一応ブログに書くと言うことは伝えてあります。「正直に書いてください」と言うことなので、忌憚なく書かせていただきました。

2枚玉のアポクロマートということで、星像に関しては思っていたより全然鋭く、形もきれいに点像になります。青ハロが少しでますが、人によっては気になる方もいるかもしれません。それでも画像処理で簡単にどうこうなるレベルです。それよりも、最初からアルミケースがついている、減速機付きのフォーカサーもついていると、遠征や撮影まで考えて、この値段でこれだけ付属品をつけてくるのはすごいです。特にケースは、後から適したサイズのケースを探す苦労を考えると、純正品でついてくるのは大きな利点です。

個人的には「電視観望に最適なのではないでしょうか」と、お勧めしたいです。値段的にも手頃で、かつ星像もしっかりしているので、前回の簡単星雲撮影なんかを試すのにも十分適した鏡筒だと思います。電視観望に気軽に使えるアポクロマートという位置づけで考えたら、現実的に周りを見渡しても、値段と性能のバランスから、多分ベストの選択肢に近いのではないかと思えました。これでもし不満が出てきたなら、撮影用に次にステップアップするのもいいのかと思います。

さてこの鏡筒、まだしばらく使っててもいいということなので、もう少し楽しんでみます。また何か面白いことがあったら報告します。

2020/3/15 追記: その後、フルサイズ域での星像を、素のままの鏡筒とレデューサーをつけた場合で撮影比較してみました。

今回の目的は、AZ-GTiの経緯台モードを使って、できるだけ簡単に星雲を撮影しようというものです。


もっと簡単に星雲とか撮影できないか? 

ここしばらく、できるだけ簡単に星を楽しむことができないかを考えています。明るい広角レンズとただの三脚を使った電視観望もその過程のひとつです。これはQBPという武器があって初めて実現することでした。

同様に、撮影に関しても高すぎる敷居をもっと下げることができないか、ずっと考えていました。もちろん、究極的な画像を求めよういう場合は別ですが、もっと手軽に、画質は自分で満足できればいいくらいの撮影というのも、あっていいと思うのです。ここではAZ-GTiを武器として試しています。

眼視から少し手を伸ばしてみたい、電視観望よりもう少し綺麗な天体を自分で撮ってみたいとかいう人たちがきっといるはずです。天体写真の敷居を下げることで、天文人口を増やすことにつながればと思います。


経緯台撮影の問題点

赤道儀は極軸合わせなど、若干敷居が高いので、より簡単な経緯台を想定します。今回は自動導入と自動追尾がついているAZ-GTiを使うことにします。

しかしながら経緯台は撮影にはあまり向いているとはいえません。問題点は二つあります。
  • 経緯台なので撮影していると写野が回転していくのですが、それをどうするか?
  • ガイドも当然なしなので、星像がふらついたり流れたりして長時間露光ができない点。

でもこれらは、もしかしたら電視観望で培った技術が解決するのではと考えるようになってきました。カメラは一眼レフカメラは使わずに、その代わりに電視観望のようにCMOSカメラを使います。


撮影手順

簡単星雲撮影のセットアップは基本的に電視観望とよく似ています。今回はテスト記事なので全くの初心者が必要な細かい手順の説明は省きます。電視観望をやったことがある人くらいが対象です。本当の初心者向けの記事は、もっと細かい位置からの手順を踏まえて後日まとめるつもりです。

IMG_9267

経緯台にはAZ-GTi、鏡筒には評価用に手元にあったSkyWatcerのEVOSTAR 72EDを使います。比較的安価なアポクロマート鏡筒なので、初心者にも手頃かと思います。CMOSカメラはASI178MCを使います。ASI224MCでも良かったのですが、安価で少しでもセンサーの大きさを稼ぎたかったのでこれにしました。
  1. 今回のターゲットは初心者向けに、かなり明るいオリオン大星雲M42とします。
  2. AZ-GTiは経緯台モードで自動追尾します。精度はそこまでないのと、原理的に写野が回転していくので露光時間は長すぎると星が流れていきます。長くても30秒くらい、できれば10秒くらいまでが無難。今回は短めの3秒としました。
  3. ソフトは定番のSharpCapを使います。
  4. ゲインは高すぎるとノイズが多くなってしまいます。逆に低すぎると何も映りません。露光時間は短めなので、少し高めでもよくて、最大のゲインから1段か数段下げるといいかと思います。今回は310としました。
  5. 目的の天体がそこそこ見えていたらSharpCap上でライブスタックをしてみます。
  6. ライブスタックパネル左下の何分かおきに画像を保存するにチェックを入れます。今回は3分にしておきました。
  7. AZ-GTiの精度だと、長時間撮影していると画面がずれていくかもしれません。例えば10分くらい経ってから画面を見てみて、もし天体がずれているような時は再びSysScanのコントローラーを使って天体を真ん中に入れます。その際、ライブスタックのリセットボタンを押すのを忘れないようにしてください。
ポイントは、星像が流れないようにするために、短時間露光に抑えることです。その一方露光時間が短いと読み出しノイズが支配的になりがちですが、そこは枚数を稼ぐことで緩和します。ゲインが高いのでダイナミックレンジが不足しがちですが、淡い部分を映し出す方を優先します。また、ライブスタックを活用することで、撮影枚数を減らします。

と、ここまで読んで分かる通り、やっていることは電視観望とほとんど大差ありません。それでも、赤道儀やガイドなどの、通常の撮影に比べて遥かに手軽なことがわかると思います。

今回はライブスタック3秒x60スタックで、一枚あたり3分露光した画像を、合計1時間程度撮影し、その中の画面からずれていない10枚、30分ぶんの画像を取得しました。画像のズレはAZ-GTiのものもありますが、1時間も撮影するとそもそも15度程度写野が回転してしまいます。

写野の回転は原理的にどうしようもありません。多少の回転はトリミングで見えないようにします。なので超長時間露光は難しいですが、それとて時間が経ったらカメラ自身をマニュアルで回転させてしまえば対応できないこともありません。


撮影画像のスタック

初心者にとって厄介なのは、撮影よりもむしろ画像処理です。

写野の回転と同時に、周辺の歪みによるスタック時のずれが問題になってくる可能性があります。今回はPixInsightで星を認識して星像を合わせるような重ね方をしています。でも初心者にPIを求めるのは酷と言うものです。

ステライメージは回転は補正してくれますが、画面を歪めて星を重ねるような機能はないので、こういった場合は難しいです。あとはDSSでしょうか。DSSは一番最初に星を始めた頃に触っただけなので、ほとんど理解していないのですが、調べた限りでは画面を歪ませて合わせるような機能はないみたいです。

そういった意味でも、小さめのセンサーを使って星像がブレにくい中心像だけ使うと言うのは理にかなっているとおもいます。DSSは無料で使えることもあり、最初からあまりお金をかけることができない初心者にとってはほとんど唯一の選択肢になるので、検討する余地は十分にあると思います。


追尾時のズレの様子

撮影した10枚をスタックして画像処理をしてみました。まず、どれくらいずれている10枚でやったのか、スタック直後でストレッチだけかけた画像です。

integration

初期アラインメントがワンスターアラインメントしかやっていないので、AZ-GTiの設置時の水平度不足による並行ずれと、長時間の撮影による回転のズレが生じているのがわかると思います。

水平精度をさぼったので、並行ズレは結構酷くて、10分に一回くらい構図を合わせ直していました。ちなみに、20枚撮影して落とした10枚は、様子を見ていなくて平行移動し過ぎてはみ出していたもので、10枚全部がそれです。さすがにこれはひどいので、水平をきちんと取ることにより、もう少し抑えることができるはずです。逆に言うと、星像のズレとかで落としたものは一枚もないです。SharpCapのアラインメントは相当優秀です。

回転ずれは時間とともに出てきます。もっと短時間で終わらせてしまうのも一つの手です。


撮影した画像の仕上げ

画像処理をして、そこからトリミングしてまともなところを切り出します。画像処理にそれほど時間をかけていないのでイマイチなところも多々ありますが、経緯台で簡易で撮ったにしては、そこそこ写るのかと思います。

integration2_cut
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 撮影時間: 2020年2月1日22時25分
  • 鏡筒: SkyWatcher EVOSTAR 72ED
  • 経緯台: SkyWatcher AZ-GTi
  • カメラ: ZWO ASI178MC
  • 露光: ゲイン310、3秒x60枚のライブスタック x10枚 = 総露光時間30分
  • フィルターなし、SharpCapでのリアルタイムダーク補正 (3秒x16枚)あり、フラット補正なし
  • PixInsigjt、Photoshopで画像処理
トラベジウムとか少し多段でマスクをかけましたが、そもそも短時間のラッキーイメージングの手法に近くて露光不足気味で、元々ほとんど飛んでいないところが効いてきています。


いっそ、一枚撮りで


もう一つの方法が、ライブスタックの画像保存までの時間を10分とか20分とか長くしてしまって、SharpCapのライブスタック結果の一枚画像のみにして、後からスタックをしないことです。

SharpCapでは、ライブスタックの最中は恒星を多数認識して、その星がずれないようにスタックするたびに画像を歪ませて重ね合わせるので、この機能を使う利点は相当大きいです。その代わりに、長時間撮影のために天体全体が徐々にずれていくのが問題になります。これは撮影の間に画面を見ていると回転していってずれていく様子が積算されていくのがわかるので、適当なところで止めてしまえばいいのかと思います。

さらに画像の保存方式も初心者にはいくつか選択肢があって、RAWのfits形式で保存することももちろんできるのですが、もっと一般なtiff形式、もしくはPNG形式でもいいのかもしれません。特に、PCで見えている画像そのものをファイルに保存してしまう機能もあるので、これを使うと後の画像処理でストレッチをする必要もなくなります。

これと似たようなことは実はかなり昔に試していて、どの形式で保存するのが綺麗かと言う比較をしたことがあります。意外なことに、SharpCapのライブスタックに任せてしまったPNGでも十分に見るに耐える画像になっています。

少し前ですが、名古屋での大晦日年越し電視観望中に1時間ほどほったらかしておいてた3秒露光の画像を、そのままライブスタックし続けた画像が残っていました。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch
1時間くらい放っておいたライブスタック画像。撮って出し。

カメラはASI294MC Pro、鏡筒はFS-60CBに旧フラットナーですが、AZ-GTiでの自動追尾なので、そういった意味では今回の撮影方法そのものの、一枚撮りバージョンになります。ダーク補正とフラット補正をリアルタイムでしてあります。

撮って出しと言っていいのかよくわかりませんが、画面に見えているのをそのままPNGで落として、それをアップロード用にJPGにしたものです。撮影時間は1時間ほどと書きましたが、時間はあまりよく覚えていません。15度くらいいという画面の回転角から、それ位の長さだったんだろうと推測しているだけです。重要なのは、AZ-GTiでのほったらかしでも、水平の設置さえ良ければこれくらいの時間は位置を合わせ直すことなく撮影できることです。

上の画像をある程度仕上げてみます。回転で切れてしまっている部分をトリミング。ASI294MCはセンサー面積が広いので、中心部だけでも十分な面積が生き残っています。

まずはWindowsの「フォト」の「編集と作成」から「調整」のみを使った場合。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_win_photo
Windwos「フォト」での加工例。

簡単な調整だけでも多少は出てきます。

次はMacの「プレビュー」の「ツール」「カラーを調整」のみを使ったものです。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_mac
Mac「プレビュー」での加工例。

うーん、どうでしょうか、Windowsの方が、ディテール、ノイズともにまさっている気がします。ここら辺は腕にも大きく依存するので、容易に逆転するかもしれません。

いずれのケースでも、さすがにトラペジウム周りのサチってしまっているところは救い出すことはできませんでした。でも、一枚PNGからここら辺まで出れば、撮影を試してみるというのならある程度十分で、これに不満が出るならスタックや赤道儀を用いるなど、次のステップに進むことになるのかと思います。

重要なのは、このようなOS付属の簡易的なツールでも、多少は画像処理ができてしまうと言うことです。これは初心者にとっては大きなメリットでしょう。逆に、改めてみてわかったのは、さすがに1時間スタックは星像が多少肥大するとするということ。これは課題の一つかもしれません。

最後は、このPNG1枚画像をツールの制限なしに画像処理した場合です。と言ってもPhotoshopです。あと、最後の仕上げに今話題のTopazのDenoiseを試してみました。これは結構強力です。しかも簡単なので初心者向けです。有料なのが初心者にとって唯一のネックかもしれません。でもそれだけの金額を出す価値のあるソフトかと思います。Denoiseに関してはまた別記事で書こうと思います。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_DN_cut
Photoshop CC+Topaz Denoiseでの画像処理。


まとめ

AZ-GTiを使った経緯台での撮影は一言で言うと「やはり楽」です。似たようなことを既にやっている方も、もしかしたら初心者でも同様のことをごく自然な流れとしてやってしまっている方もいるのではないかと思います。

ポンと北に向けて適当に置くだけ、極軸を取る必要なし、ワンスターアラインメント、ガイドもなし、大きくずれたら直す、というので大幅に大変さを軽減できます。30分露光でここら辺まで出れば、最初に挑戦する撮影としてはかなり満足できるのではないかと思います。

その一方、画像処理の敷居は依然高いかもしれません。後でスタックするのが敷居が高いのも事実なので、一枚どりで画面の見たままで保存してしまうのでもいいのかと思います。あとはGIMPなどの無料の画像処理ソフトや、今回試したWindowsの「フォト」やMacのプレビューでの簡易画像処理だけでも最初はいいのかもしれません。 


後日、今回使ったEVOSTAR 72Dについて、試用記を書いています。よかったら合わせてご覧ください。



3.5nm HαフィルターをBFに代えて使おうとした試みの、最終回です。前回までで、撮影レベルではうまくいかなかったことまで報告しました。 今回は起死回生の利用方法についてです。

そもそも、BFに代えて3.5nm Hαフィルターを使ってみた撮影自身は11月には、それも2度も終えていました。でも結果はイマイチで、太陽の活動にも比例してか結構意気消沈していて自分の中で全く盛り上がっていませんでした。

ところが最近、シベットさんに触発されて電視観望でフィルターを入れるのが楽しそうなことを知りました。シベットさんも(こちらはもちろん普通に星雲にですが)3.5nmのHαフィルターを使っていました。あ、これも楽しそうだというのと、そろそろ国際光器さんに結果を報告しなくてはと思っていたのが先々週くらいです。


前回記事でクイズの答え

ジャンジャカジャーン!それでは前回の記事のクイズの正解発表です。答えは

「3.5nm HαフィルターをCMOSカメラに取り付けて写すだけ」

です。ブロッキングフィルターもつけたままです。

ズバリの正解はいませんでしたが、むしろ面白いアイデアがいくつかありました。確かに、シベットさんの言う『ERFを取り除く』はありかもしれません。でもERFは代替のものを安価で手に入れることができるのも分かっているので、いまいち動機が盛り上がりません。でも今回の記事を読むとわかりますが、シベットさんの『「Hα+エタロン+BF」で無茶苦茶コントラストが上がった』というのがほぼ正解ですかね。

Lambdaさんの『フィルターを傾けて中心周波数を移動させる』と言うのは全然考えつきませんでした。あぷらなーとさんの『ブロッキングフィルターを星雲に使う』は一度本当にやってみたい気もします。Twitterではいのさんが『QBPとかの他のフィルターと組み合わせる』も何か応用がありそうです。フィルターはまだまだ柔軟に考えるといろいろ発展しそうです。

え、正解が単純過ぎる?多分そう思いますよね。私も最初はそう思っていたんです。でもあからさまな違いがありあました。というわけで、今回の記事を始めます。


3.5nm Hαフィルターを多段に入れてしまおう!

前回の記事のとおり、なかなかBFの代わりにするアイデアは上手くいかなくて、その後いろいろ考えていたのですが、突然閃きました。「BFの代わりと思っていたが、よく考えたらいっそのこと多段にしてもいいのではないか」と。

理由はいろいろあります。まず第一にフィルターに対していろいろ柔軟に考えるようになってきたこと。もともと、あまりフィルターは好きではなかったのですが、旧型のQBPの性能が良かったことと、NV(ナイトビジョン)ではフィルターが必須で、フィルターによって見え具合を変えていると言うのを知ったこと。特に最近31.7mmのQBPが手に入ったのが大きかったです。カメラレンズでもフィルター使えるようになるんだと妙に納得しました。直接のきっかけは31.7mmのQBPにUV/IRカットフィルターを実際に重ねたことでしょう。あ、そうかフィルターって多段でもいいんだ!もちろん知識では知っていましたが、この時の経験がBFとさらにHαを重ねてもいいのではと思うに至ったのです。

さて、思い立ったが吉日。なんとか少しだけ晴れている週末の日曜、15時頃からはじめました。

IMG_9357
今回はBFもついているので、マスキングテープの必要もありません。

今回は3.5nm HαフィルターをASI290MMに取り付けるのみ。ブロッキングフィルターはそのままです。撮影は3.5nm Hαフィルター有り/無しが違いだけです。画像処理とかもほぼ同様のプロセスです。


実際の撮影結果

結果をまず言うと、今回は大成功。まずPCの画面上ですでにはっきりと違いがわかりました。

3.5nm Hαフィルターをつけた方がもちろん暗いのですが、暗さの違いはわずか4dB、SharpCapのゲインのところで40だけです。それよりもフィルターありの時の明るさが相当均一になったのにまず驚きました。PSTのエタロンは決して性能が良いとは言えないので、明るいところと暗いところの差が結構出ます。エタロンの明暗自身は変わらないと思うのですが、このときにエタロンとは関係ない不自然な明暗がなくなり、かなり均一になって、言ってみれば至る所で周辺減光が減ったようなイメージです。

おそらくですが、、強烈な太陽光に対して鏡筒内にジャンク光がまだまだたくさん存在しているのかと思います。理想的にはHαだけが通り抜けてきているはずですが、実際には他の波長の光も明らかにカメラ側まできているのでしょう。PCの画面を見ながら鏡筒の位置を少し動かしたりしてみると、3.5nmフィルターがない時にこれまで見えていた明るくなったり暗くなったりが、あからさまに消えています。

同時に、ここからは画像を実際に見てもらったほうがいいのですが、フィルターありの方がコントラストが高く、明らかに像がキリッとしているのです。ImPPGまでの処理を終えたところでの比較です。

3.5nm Hαフィルターありと、
15_45_23_lapl4_ap1555_IP2

3.5nm Hαフィルターなし。
15_46_48_lapl4_ap1574_IP2

ほぼ同時刻、同条件、画像処理も同じです。フィルター分焦点がずれる可能性はあるので、ピントだけはそれぞれで調整しています。光彩面もそうですが、特に境のスピキュールのところのツンツン具合があからさまに違います。プロミネンスも明らかに出方が違いますが、これもPC上での撮影時もフィルターありほうが明らかに見易かったです。

別カットです。フィルターありと、
15_44_19_lapl4_ap1496_IP

フィルターなし。
15_48_02_lapl4_ap1972_IP

公平を記すために、先ほどと撮影順序を先後と後先と変えてあります。こちらも明らかにフィルターありの方が細部まで出ています。まるで分解能が完全に一皮むけた感じです。


仕上げと考察

せっかく上手く撮れる方法が見つかったので、少し仕上げまで持っていってみました。トリミングしています。

15_45_23_lapl4_ap1555_IP2_color_cut

Photoshopで更にあぶりだすと、明らかに細かいスピキュールがよく見えて、もうツンツンしています。スピキュールだけで言えばこれまで撮った中で一番きれいに出ています。同時に、これも当然かもしれませんが、プロミネンスの解像度もこれまでよりかなり楽に出るようになっています。撮影した日は夕方の西日で、決してシンチレーションがいいとは言えなかったので、これは3.5nm Hαフィルターを加えることによるジャンク光を取り除く改善効果と言ってしまっていいかと思います。

これくらいスピキュールやプロミネンスが出てくると、次に試したくなることが出てきます。プロミネンスの形の変化のアニメ化です。以前一度試していますが、位置がずれていくことによる、画質クオリティーのブレを補正するのが大変で、画像処理合わせと位置合わせでえらい苦労をしました。今回ジャンク光を軽減したことで、多少位置がずれても明るさが大きく変わらないので、この苦労が多少軽減されると思いますし、解像度も上がるのではと期待しています。あとは、いかに太陽撮影時のガイド方法を編み出して位置を固定することでしょうか。


まとめ

PSTではエタロン部を外から回転させることで、波長域を調整できるのですが、見えている全面に波長域が合っているかと言うと、ここは悲しいかな、安価なエタロンのためせいぜいきれいに見えるのは3-4割と言ったところです。このとき見えていないところは、今回の3.5nm Hαフィルターを入れても大きな改善はありません。逆にエタロンできちんと見えているところは、これまで入っていたジャンク光と思われるものがかなり減少したと考えられ、相当の改善が見られました。

今回の撮影は夕方の西日でした。これまで分解能が出たのはいずれも朝か、南中。西日ではたいていボケボケでした。その状態でもかなり分解能が出ているので、もっとましなシンチレーションや時間帯になれば、さらなる改善が期待できそうです。

元々の動機の「全体像をもう少し広い範囲で見る」というのはのは今回は諦めざるを得ませんでした。さすがにBFが高価なわけが少しわかった気がしました。今回の試みはある意味BFをサポートして能力を向上させるようなものかと考えられます。

今回のアイデアは、3.5nm HαフィルターをCMOSカメラに取り付けるだけという、極めて簡単にでき、誰でも試すことができる太陽撮影時の分解能向上です。また、アイピースに取り付けることもできるはずなので、安全性を守れば眼視にも適用でき、コントラストの増加につながるかもしれません。

もし3.5nm Hαフィルターを手に入れるチャンスがある方は、一度試してみることをお勧めします。その一方、私のは改造機なので、そもそもの性能が悪いだけで、たまたまそれが改善されただけなのかもしれません。実際に他の方でも効果があるのかどうか、結構興味があります。

最後に、私の突拍子もないアイデアに付き合って頂き、3.5nm Hαフィルターをご提供いただいた国際光器様、当初あまりよくない結果でお知らせするのをためらってしまっていましたが、別の効果は十分にあったのかなと思います。結果が遅くなってしまって申し訳ありませんでした。さらに、本来の使い方の星雲でも試してみたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

それにしても、太陽早く活動期にならないかな?たくさんの黒点とか、大きなプロミネンスとかフレアも今回のセットアップで撮ってみたいです。


前回の、3.5nm Hαフィルターがブロッキングフィルターとして使えるかの理論編の続きで、実際に撮影してみた実践編の結果です。


注  意

今回の使用法はPST、そして3.5nm Hαフィルターも含めて、本来想定される使用方法とは大きく異なります。この記事の目的は、決してこの使用方法を推奨するわけではなく、あくまで可能性を探る目的として、テスト的に試すものです。もし、この記事を見て追試や似たような方式を試される方がいたとして、何かトラブルになったとしても、本ブログは何の責任も負うことはできません。また、試験中に使用されるフィルターを提供して頂いた国際光器さんにも、一切の責任はありません。もし試される場合は、くれぐれも自己責任の範囲内でお願いいたします。

また、安全にはくれぐれも気をつけてください。一般的に太陽観察は危険を伴います。太陽はその強力な光源のために、直接、またはレンズを通して見ると、最悪失明の恐れがあります。少なくとも私はPSTの改造後、今回のテストも含めて一切眼視では見ていません。太陽像を確認する場合は、必ずカメラで撮影するようにしています。万が一、フィルターが割れていたなどの事故もあり得ます。カメラだけならば物の事故で終わりますが、目の場合は取り返しがつかないことがあります。

繰り返しますが、安全には最新の注意を払い、くれぐれも気をつけて、あくまで自己責任の範囲内でお願いします。


それではここからが今回の記事になります。

実際に3.5nm HαフィルターをBFの代わりで使って撮影してみる

そもそも、なんで10月の小海で3.5nm Hαフィルターを受け取って、11月には撮影していて、それでこんな時期の記事になったかというと、実はあまりいい結果がでなくて記事自体がお蔵入りになりかけていたからです。

昨年11月のある日、晴れていたので早速のテスト。とりあえず、これまで使っていたPSTを久しぶりに取り出してきて動作確認をします。そもそもずーっと太陽は停滞期。昨年4月の黒点以降、イマイチ盛り上がりに欠けます。なのでこの日も黒点はもちろん、プロミネンスもほとんど何もない状況。

撮影してみて、特に10cmPST自身動作に問題はなく、光彩面の模様は普通に見えます。この像を基準とします。下はBFはオリジナルのままで実際に撮影した画像で、撮影後画像処理をしたものです。

2019-11-04-0535_5-Capture_lapl5_ap2568_IP
BF換装前のオリジナルの状態。これを基準にします。

基本的にはSharpCapで撮影して、Registaxでスタック、ImPPGで模様を出します。本来はここからPhotoshopでフラット補正やカラー化、トリミングなどしますが、今回は比較だけのためImPPGで止めておきます。

さて、肝心のBFを3.5nm Hαフィルターで置き換えた場合です。まず、そもそもBFがアイピース止め口と一体になっているので、BFをを外してしまうとアイピースやカメラをきちんと固定することができません。今回の場合は仕方ないので、マスキングテープを利用して仮止めします。

IMG_8581

固定方法は雑ですが、とりあえず撮像を見ることはできます。ピントも普通に出すことができました。

まず、撮影していてPCの画面を見て思ったのが「明るい」でした。これは当然で、元々のBFよりも波長透過域が広いので明るくなるのは正しいです。でも模様が明らかに少ない気が。Registax直後の画像がこれです。

2019-11-04-0659_0-Capture_lapl5_ap1306

というか、ほぼのっぺらぼうです。この時点では「あー、これはダメかな」と思っていました。その後、ImPPGで模様だし。その際ガンマを相当下げたらやっと少し見えてきました。

2019-11-04-0659_0-Capture_lapl5_ap1306_IP

なんとか光彩面の模様も見えたか?と言ったレベルでしょうか。明るさで隠れていた情報は画像処理で多少引き出せたのかと思います。それでも元のオリジナルのBFに遥かに劣るように見えます。

少し詳しく見ると、分解能に関してはそれほど悪いとも思えない一方、コントラストは明らかに悪いです。エタロン自身は同じなので分解能はそこである程度決まってしまい、その後出てくる余分な光があるかどうかでコントラストが決まってしまうような気がします。

それでもさすがにこのレベルだと撮影としては使い物になりません。ただ、元のBFでの画像も意外なほどボケボケなので、たまたまその日がシンチレーションが悪かったということもあるかと思います。一応その週末に確認のために、再度撮影をしてみました。

1週間後に撮ったオリジナルBFでの太陽と

2019-11-09-0239_2-Capture_lapl5_ap1950_IP

BFを3.5nm Hαフィルターで取り替えた場合の画像です。

2019-11-09-0235_6-Capture_lapl5_ap2085_IP

残念ながらこの日はさらに差が広がってしまいました。と、ここら辺で今回の取り組みは諦めとなりました。


結論とまとめ、そして今後の展開

まあ、結論としては「3.5nm Hαフィルターをブロッキングフィルターとして使うと、かろうじて像をあぶり出すが、実際の撮影レベルで使うには厳しい」と言ったところでしょうか。うーん、せっかく面白いアイデアだと思ったのに、非常に残念です。とりあえずBFの「代わりとして」使うことは諦めることにします。もしこれがいい成果を出せたなら、BFを安価に大口径化できたはずなのですが。

もし興味があって追試される方がいるかもしれませんが、BFを抜いた状態になりますので、安全にはくれぐれも気をつけてください。今回の散々な結果を見て試したいと思われる方はほとんどいらっしゃらないとは思いますが。

ところで、そもそもなんで11月にお蔵入り状態だった記事が、2月のこの時期に突然復活したのか?それはつい最近3.5nm Hαフィルターを使って進展があったからです。ここでクイズです。

Baader製3.5nm Hαフィルターを使って確認できた
進展とはいったいどんなものだったでしょうか?

何か思いついた方はコメント欄に書いてみてください。全然難しいことではありません、むしろ単純です。ヒントは、近頃凝っている電視観望でのフィルター使用の経験が生きているということです。


起死回生の案の実際は、次の最終回の記事で。乞うご期待。



10cm PSTでの太陽撮影時の問題点

太陽のHα撮影はPSTを使っています。PSTは太陽望遠鏡の中でも入門用ということもあり、口径4cm程度です。分解能の観点からいくと口径で制限されていることはわかっているので、PSTに10cmアクロマートを無理やり取り付けた魔改造機で観測を続けてきました。

PSTの中に入っている波長選別器の働きをする2枚合わせ鏡のエタロンは、入射光に平行光を要求するために、直前においたレンズ系で平行光を作り出しています。このレンズ系はF10の光学系を要求するために、元々の口径4cmの鏡筒は焦点距離400mmでの設計。口径10cmのアクロマートも焦点距離はF10を保つために1000mmのものを選んでいます。焦点距離が長くなると、より拡大して見えるわけですが、焦点距離1000mmは太陽の全体像を見るのにもうギリギリです。ASI294MCを使っていてもセンサーいっぱいに太陽像が広がります。

根本的な問題は、センサーに来るまでにすでにサイズがギリギリいっぱいになっていて、少し光軸がずれるだけで太陽像が欠けてしまうところです。このサイズを制限しているのが、BF(ブロッキングフィルター)になります。安価なPSTには一辺わずか5mm程度のBFが使われています。実際にはこんな感じです。

IMG_3657

このBFのサイズを大きくすればいろいろ解決するのですが、このBFがとにかく高いのです。単体で購入するとざっくり1cm10万円が相場で、ちょっとサイズを大きくするだけで平気で数十万円とかいったりします。太陽は本気でやるとものすごい金食い虫で、私のような低予算組にはなかなか手が出ないのが現実です。

何かいい方法はないかと考えていた時に、半年くらい前、国際光器さんからバーダープラネタリウム製のの3.5nmのHαフィルターが販売されるとの情報がありました。「3.5nm? 結構線幅狭いな!」と思い、その時にパッと浮かんだアイデアが「もしかして3.5nmのHαフィルター、安価なBFの代わりにならないかな?」というものでした。


太陽Hα望遠鏡の仕組み

ここでまず、太陽Hα望遠鏡の仕組みを理解しなくてはいけません。PSTの場合、太陽側からアイピースに行くに向かって
  1. 対物レンズ
  2. 平行光を作るレンズ
  3. ファブリペローエタロン
  4. BF(ブロッキングフィルター)
  5. ERF (Energy Rejection Filter)
などで構成されています。PSTを以前分解したことがあるので、この記事を見ると中身がよくわかるかと思います。



この中で一番重要なのはファブリペローエタロン(太陽でHαフィルターと言ったら普通これを指す、以下エタロンとか呼びます)です。光彩面の模様やプロミネンスなどHα線をできるだけ単一波長で鋭くみるために必要です。PSTに入っているエタロンは1Å (オングストローム、0.1nm) の超狭帯域幅の波長を通すためのフィルターとのことです。このエタロンがあるから、一般的に太陽望遠鏡はおそろしく高価になります。エタロンの原理に関しては過去記事をご参照ください。

でもこのフィルターには決定的な欠点があります。Hαの656.3nmだけ0.1nm幅で通してくれればいいのですが、その波長幅を周期的に他の波長に対していくつも通してしまうのです。なのでコーム(櫛形)フィルターなどと呼ばれたりもしています。実際、エタロンに光を通してみても暗いわけではなく、様々な周期的な波長の光が通ってきているために、意外に明るかったりします。

でも太陽観測のためにはHα線だけを見たいので、Hα以外の波長をブロックする必要があります。そこで登場するのがBF(ブロッキングフィルター)になります。Hα周りに、エタロンよりももう少し広い波長幅で透過するようなフィルターで、余分な波長をカットしてくれます。

さらにさらに、実はBFもHαのみを通すのではなく、もっと短い波長、もっと長い波長を素通ししてしまいます。なので、その素通しを防ぐためにもっと広い範囲でHαのみを通し、さらに短い波長と長い波長は全てカットするフルターを入れる必要があります。その役割を果たすのが最後のERFです。

このように太陽望遠鏡は3段階のフィルターで構成されているというわけです。エタロンと、BFと、ERFの3つですが、順序はそれほど重要ではありません。例えば初期のころのPSTは、対物レンズにERF用のコーティングをしていました。これはコーティングの劣化で対物レンズごとダメになるので、そのうちにアイピース側に置く小さなERFに置き換えられました。


エタロンの透過波長の間隔

さて、エタロンが周期的に波長を透過すると言いましたが、その周期はどれくらいでしょうか?これはFabry-Perto etalonの2枚の鏡間の距離のみで決まるような、FSR(Free Spectral Range)という量で表され、以前計算しています。繰り返しになりますが式で表すと、以下のようになります。

Δλ=λ22nlcosθ

  • λ: 中心波長、今回の場合6563Å=656.3nm。
  • n: キャビティー中の媒質の屈折率、今回の場合空気なので1でいいでしょう。
  • l: 2枚の間の鏡の距離、PSTの場合0.1mm以下程度とのこと。
  • θ: 光の入射角、PSTの場合ここを回転つまみで調整している。動かせる幅はPSTでは0.5度程度とのこと。今回は初期状態として0としておきます。
これらの値を入れていくと、FSRは鏡の距離だけで決まるような量になり、

Δλ=λ22×1×l×cos0=λ22l

=656.3[nm]22×0.1[mm]=2.15[nm]

のように、PSTの場合 Δλ = 2nm ( = 20Å) か、(鏡間の距離が0.1mmより狭いということなので)2nmよりもう少し長い程度になります。

要するに、Hα線の656.3nm左右に2nm空けて、654.3nmと658.3nmも、さらに外側の波長も2nmおきに通してしまうということです。


ブロッキングフィルターの波長透過幅

では、BFの透過波長幅はどれくらいでしょうか?PSTのものではないですが、ここに同じCORONADOのBF15の透過率のグラフがあります。このグラフによるとFWHM(Full width Half Maximu: 半値全幅、最大値の半分の値になるところの両側の幅という意味) は縦軸最大の66%の半分の値の33%くらいのところの横軸の幅を見て、まあだいたい0.75nm程度ですね。エタロンの線幅の7倍くらいでHα線をとおし、左右2nm離れた波長は十分にカットできる性能を持っていると言うことが分かります。

ちなみに2nm離れたところでどれくらい光を通すかと言うと、左右ともにグラフの範囲外なのではっきりとした値はわかりませんが、上の658.3nmは無視できるくらい小さく、一方下の654.3nmは数%は透過してしまうことが推測できます。


3.5nm HαフィルターはBFとして使えるか? 

さて、これで求めたい条件が揃いました。これでやっと本題の3.5nmのHαフィルターはBFとして使えるかどうか?に答えが出せます。

単純に言えば2nmかそれより長い長さおきに、0.1nmのピークがあるわけです。今回のHαフィルターの中心周波数が656.3nmで、そこを中心に3.5nmだけの広がりを持っていたら、左右の2nm離れたところの0.1nmの広がりを持つ波長はカットされるはずです。

おお、やった!これなら安価にBFの代わりに使うことができる!と思ったわけです。


補足:
ただし、現実的には3.5nmの幅の定義があまりはっきりしてなくて、Baaderのページを見るとどうもFWHMらしいことがわかります。仮に3.5nmの幅がFWHMで定義されていて、かつその透過曲線をガウス分布と仮定すると、左右2nmのところではまだ40.5%程度の光を透過してしまいます。左右3nmのところまで広がっていれば13%透過まで絞れます。

やはりまだ隣の波長の光が多少漏れそうなので、もう少し透過幅の小さいフィルターがあるといいのかもしれません。現在では3.5nmが一般的に手に入れられる最狭(さいきょう、最強?)のものなので、まずはこれを考えることにします。

ちなみに、透過幅がこれまで販売されていた7nmのものだと、2nmのところでは計算上80%もの光を通してしまいます。これだとほとんど効果がないので、やはり3.5nmがでたことで可能性が出てきたと言ってもいいかと思います。



なんと国際光器さんの協力が!

と、こんな話を確か胎内の星まつりの時に、3.5nmのHαフィルターの輸入元の国際光器さんと話していました。その場で在庫があれば購入することも考えていたのですが、その時はまだ輸入するかしないかの頃で、天リフさんでやっとレポートが出たくらい。その場には当然在庫は無し。でも国際光器さんが、これは面白そうだということで、テスト用に無償で提供してくれることになり、なんと小海の星まつりで本当に持ってきてもらえたのです。これでとうとうテストすることができます。国際光器さん、本当にありがとうございました。

というわけで、小海から帰ってしばらくしての11月の晴れた日の昼間、早速テストです。まずは3.5nmのHαフィルターをASI290MMに取り付けます。

IMG_9361

うーん、なんかスペシャル感が漂います。でも写真の赤い色と実際の金色のような色が違うのが気になりますが、写真はまあイメージなのでしょう。

さて今回の記事、理論編はここまで。
実際撮影してみてのテスト結果は、また次の実践編で。


週末に試した50mm、F1.4レンズと31.7mmの新型QBPを使った電視観望の続報です。



平日なので、時間も限られていることもあり、限られた事しかできていませんので、速報のようなものと思っていただけると助かります。


UV/IRフィルターの影響

まず試したのが、UV/IRフィルターを入れた場合です。とりあえずは前回の猫目ハロの再現。

センサーには前回同様T2-1.25''変換フィルター



がついていて、そこに31.7mmのQBPがついています。QBPの先に、2017年の胎内星まつりで買ったZWO社製の31.7mm径のUV/IRカットフィルターをつけています。その状態で撮った写真が

IMG_9383a


になります。前回と違い、月がすぐ近くにあるためにさらなる炙り出しが必要で、周辺減光が目立っていますが、取りえず無視してください。前回UV/IRがない時にQBPだけでとったもの

IMG_9322a

と比べても、若干カラフルさは無くなったような気はしますが、猫目はほとんど改善されていないことがわかります。また、今回の方が若干星の周りの青ハロが改善されているようにも見えますが、ピント位置にもよりまだ時間をかけて検証できていません。とりあえず誤差の範囲だと思ってください。



猫目ハロとピントの関係

いろいろ試している間に一つ気づいたことがありました。ピントによって猫目の大きさが大きく変わるのです。例えば、ピントを少しずらすと猫目が消えます。その代わりに他の星がぼやけます。

IMG_9381a


ちなみに猫目とピントを共に妥協したくらいだと以下の写真くらいでしょうか?

IMG_9384a


ここら辺で、ハハァー、と何となくかわかってきました。

猫目ハロはQBPのせいではなく
レンズから来ている可能性が高い

と。


絞りを変えてみる

ここで、絞りを一つだけ絞ってみました。F1.4からF2になります。

撮れた写真がちょっと雲が出てきた時のものしか残っていなくて(実は別ショットをSharpCapでsnapshotをPNGで取っておいたですが、設定不足でなぜか白黒)写真では完全に直接比較とはいきませんが、見ている限りジャスピンでも劇的に改善しています。

IMG_9389a

もちろん一段階暗くなるので、その分ゲインを上げるとか、ヒストグラムでより攻めるなどの対策が必要となります。それでも同じ露光時間でリアルタイム製を損なうことなくバラ星雲は見えるので、まあノイズ的には許容範囲かもしれません。

一応白黒も出しておきます。F1.4の時のシリウスと

Capture_00001

F2の時のシリウスです。明らかにこちらの方が改善されています。

Capture_00002


NIKKOR 50mm F1.4レンズについて

改めて「NIKKOR オールドレンズ 50mm」で調べてみると「F1.4ではボケを楽しめる」だとか、「F1.4だとイマイチだがF2にすると結構いい」というような評価が散見していました。今回はそれを裏付けるような結果になっているかと思います。F1.8レンズの方が安くて性能が良いという評価も見られました。

やはり安いだけのレンズでは問題もあるということがわかってきました。もちろんどこまで妥協するかという問題で、明るい星を見なければF1.4のままでもいいのかもしれません。でも50mmレンズとASI294の組み合わせの場合だと比較的広い範囲を見るので、明るい星が入る可能性が高く、やはりF2が実用的なラインかと言えると思います。

結論とまとめ

今回の結果から、前回出した猫目ハロはQBPのせいではないことがわかりました。31.7mmの新型QBPでひどいハロが出るような印象を与えてしまい、申し訳ありませんでした。少なくとも猫目ハロに関してはレンズのせいであったことは明白で、QBPのせいでは全くありません

ただ、シベットさんが報告しているような赤ハロの方は、今回検証する時間もなく雲が出てきてしまいました。こちらは次回以降にまた試してみます。(追記: 今回のアメリカンサイズQBPで、後日バラ星雲を撮影画像処理までしてみました。QBPでハロが問題になるようなことはありませんでした。)

せっかく作って頂いたQBPなので、実際に確かめてみて、使えるという確証を早く得たいと思っています。新型QBPがきちんとした撮影レベルで使えるかどうかも、次回以降、晴れて天気が安定している時にきちんと検証するつもりです。今しばらくお待ちください。


このページのトップヘ